星空凛は、空き教室で椅子に座っていた。
机は全て片付けられ、がらんどうの教室。そのほぼ中心に設置された一つだけの椅子に、“座らされて”いた。
そんな凛の前には、腕組みをした先輩二人。作詞担当な二年生と、スピリチュアルな三年生。無言で見下ろしてくるので、圧力が凄い。
「…………」
凛自身、こうなった原因は分からない。記憶を遡ってみるが、それなりに怒られているので何が逆鱗に触れたのか分からなかった。
ここに連れてこられるまでは二人の雰囲気に違和感は無かったのだが、教室内を見た瞬間、凛にも異常事態は認識できた。時すでに遅し、ではあったのだが。
「うぅ……凛、何しちゃったんだろう……」
重苦しく感じる空気に耐えられず先に謝ってしまおうかと凛が息を吸い込んだ時、
「──凛」
海未が先に口を開いた。
「は、はいっ!」
突然だった事もあり、思わず強張った声が出た。
「何をそんなに緊張してるんですか?」
対して、海未の口からはそんな言葉。
「え?」
「まあまあ海未ちゃん、理由も知らずこんな状況になったら、誰だって混乱するやん?」
言葉に詰まった凛だったが、希が全てを代弁してくれてコクコクと頷く。
「ウチは、内心慌てまくりの可愛い凛ちゃんが見られて満足やけどね〜」
「うう……意地悪にゃ……」
希の言葉に、『流石希ちゃん』の言葉が消えてしまった凛。
「──あの、それで、凛は何でここに呼ばれたの……? 他のみんなは……?」
「他の六人はいませんよ。私達だけです」
「ユニットだけでのお楽しみってヤツやな〜」
希の悪戯っぽい笑みに、凛はまた不安が増す。
「な、何か知られたくないような事をするつもり……なの……?」
「……まあ、それはあながち間違いではありません」
「ど、どんな……?」
「ほらほら海未ちゃん、煮え切らない返事するから凛ちゃんが不安そうにしとるよ?」
楽しそうに口元を押さえる希を見て、ひとまず怒られるような事態ではないと判断する凛。
「──凛」
「う、うん」
改まって向き合った海未は、
「──今日は、凛の誕生日ですね?」
「へ? うん、そうだよ?」
この後、部室でパーティーを開いてくれる予定になっている。
「凛、お誕生日おめでとうございます」
「えっと、ありがとう海未ちゃん」
もしやその為だけにここに連れて来たのだろうか。海未ちゃん真面目だにゃ、と思った凛だったが、
「そ、それでですね……」
どうやらそういう訳ではないらしい。何やら言葉を濁す海未。凛には理由が分からない。
「海未ちゃん? どうかしたにゃ?」
「も〜海未ちゃん、今さら恥ずかしがるのはナシやろ? 二人で決めた事なんやし」
「わ、分かってます!」
「???」
凛は首を傾げる一方である。海未は何を躊躇っているのだろうか。
「──あのですね、凛」
「うん」
「私と希は、一人っ子です」
「それは知ってるけど……。ん……?」
未だに意図が理解できない。
「凛にも、お姉さんはいません」
「うん……? そうだけど……」
やはり、海未の発言の意図が凛には汲み取れない。
「海未ちゃん、話が回りくどすぎるって」
すると見かねた希が、肩をすくめて苦笑した。
「いやしかし、物事には順序が……」
「往生際が悪いで〜」
希は一歩進み出ると、言い放った。
「──凛ちゃん、ウチらの妹になってや!」
「え………………えええええ⁉︎」
「──う、海未お姉ちゃん?」
「何でしょう?」
「の、希お姉ちゃん?」
「どうしたんや〜?」
「な、何か慣れないにゃ……」
「ふふっ、それはそうでしょうね」
「凛ちゃんの言い方のせいで、ウチらもむず痒くなりそうやんな」
「でもビックリしたにゃ。お誕生日プレゼントが、一日お姉さんだなんて」
「そうでしょう。私も驚きましたから。発案は、希ですよ」
「んふふ〜、リリホワの最年少凛ちゃんは、元気でしっかりしてるようで甘えん坊やからね〜。ピッタリだと思ったん」
「ちょっと恥ずかしいにゃ……」
凛は椅子から勢いよく立ち上がると、
「──やあ!」
海未に抱きついた。
「どうしたんですか、凛」
「えっへへ〜! 海未お姉ちゃん、やっぱりカッコよくて憧れるにゃ〜!」
やれやれと微笑んだ海未は、目線やや下の頭を撫でる。
「凛のその快活さは、私が見習うべき所ですよ」
「えへへ〜」
「ですが、羽目を外しすぎる所は改善点です」
「うっ……気をつけるにゃ……」
海未から離れた凛は、
「のーぞみお姉ちゃん!」
次に希に抱きつく。
「希お姉ちゃんは優しくて頼りになるにゃ〜!」
希も微笑みながら、その頭を撫でる。
「凛ちゃんみたいに元気いっぱいな子見てると、ついつい甘やかしたくなっちゃうんよな〜」
「凛は幸せにゃ〜」
「でも、もうちょっとワシワシしやすいように成長してくれると嬉しいんやけどな?」
「そ、それは遠慮しておくにゃ……」
希から離れた凛は、脚で軽やかにステップを踏む。
「う〜! 何だかウズウズして踊りたくなってきたにゃ〜! ほら、お姉ちゃん達も一緒に踊るにゃ!」
海未と希は一瞬顔を見合わせて、
「仕方ないですね。少しだけですよ?」
「片付いた空き教室で良かったな〜」
苦笑して、しかし楽しそうに隣に並んで振り付けを踊る。
「にゃにゃにゃ〜ん♪」
夢中で踊る凛を横目に、
「──姉妹になってみても、凛は変わらずでしたね」
「それだけ、普段からウチらが凛ちゃんを妹みたいに大切に思ってるって事やん?」
「それもそうですね。絵里やにこの気持ちが、少し分かった気がします」
「穂乃果ちゃんは?」
「……穂乃果はまた別な気がします」
「まあ確かにな〜」
二人は小声で会話する。
「お姉ちゃん達、凛に内緒話なんてズルいにゃ〜!」
「何だかんだ、凛もノリノリですね」
「まー、誰だって一度はお姉ちゃん欲しいって思うものなんやない?」
騒がしい妹にゃんこを眺めながら、海未と希は笑って、揃って、“妹”の頭を撫でる。
「さあ、盛大にお祝いしましょう。なんと言っても、私達の妹の誕生日なんですから」
「凛ちゃんが妹なんて、ウチ幸せやな〜」
「にゃは〜ん♪ 凛も二人みたいなお姉ちゃんがいて、とっても嬉しいにゃ〜っ!」