暴力系ヒロインLV99「オレより強い奴に逢いに行く」   作:トマトルテ
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ヒロインムーブ

 

「転校初日から生徒手帳を無くすなんて、ついてないなぁ……」

 

 ボク、海野(うみの)(なぎさ)は、夕日に染まる通学路を歩きながら一人ぼやいていた。

 申請すれば新しいものが手に入るとはいえ、お金はかかる。

 何より、初日から物を無くすというのは何だか気が重い。

 だからボクは、落とし場所として一番確率の高い場所に来ていた。

 

「学校にないとすると、今朝あの人にぶつかったここしかないよなぁ」

 

 急いで走っている時に運悪くぶつかってしまった場所。

 そして、運悪く目をつけられてしまった人。

 時間は経ったが、あの人の拳は思い出すだけで寒気がしてしまう。

 

「ここら辺に落ちてるといいんだけど……」

 

 生徒手帳を探しながら、あの女性のことを考える。

 血のように鮮烈な赤髪。可愛いというより美人という印象を与える整った顔立ち。

 そして何より、全てを見下ろすかのような威圧的な眼光。

 

 間違いなく女性として魅力的だけど、第一印象は絶対王者のそれだ。

 出来ることならもう出会いたくない。

 と、そんなことを考えたのがフラグだったのか。

 

「探し物かい?」

「――ッ!?」

 

 聞き覚えのある声と一緒に飛来する高速の“物体”。

 反射的に顔を逸らすことで、紙一重のところでそれは躱すことに成功した。

 はずだった。

 

「目に見えるものだけが、真実だとは思わないことだよ」

「ソニックブーム!?」

 

 しかし、物体は避けられても、それが発する衝撃波からは逃れられなかった。

 焼けるような痛みが頬に走り、続いて生暖かいものが流れる感触が残る。

 うん。間違いなく頬が切られてる。

 

「今朝方ぶりだね。海野渚君」

「あ、あなたは…!」

「ああ、自己紹介がまだだったね。オレは2年C組の破道(はどう)(みちる)。よろしく頼むよ」

 

 そう言って今朝ぶつかった女の子。破道満さんはボクに微笑みかけた。

 彼女の笑みはまさに美少女と呼ぶに相応しいものだ。

 でも、状況が状況のためにボクの脳裏に浮かんだ言葉は1つ。

 

 やばい、殺される。

 

 自らの死だった。

 

「フフ…そんな人生の終わりのような顔をしないでくれ。今のオレは、ただ落とし物を届けに来ただけだよ」

「落とし物?」

 

 しかし、そんなボクの未来予想図に反して彼女はボクの背後を指さすだけ。

 それにつられてボクも後ろを振り返る。と、そこには。

 

「君の生徒手帳だ」

 

 ボクの生徒手帳があった。

 

 ブロック塀に突き刺さった状態で。

 

「え、ええぇ……」

「次からは気を付けるんだよ。でないと、次は君の心臓に突き刺さることになる」

「やっぱり、さっき投げたものは生徒手帳だったんですね……」

 

 もはやツッコむ気にもなれない。

 いや、あれだけの速度で投げたのに無傷の生徒手帳ってなんだ、とか。

 そもそも、どうやったら紙がコンクリートに突き刺さるのか、とか言いたくはあるんだけど。

 

「そんなの“気”でコーティングして、投げたに決まってるじゃないか」

「いや意味わからないんですけど!? 後、さりげなくボクの心を読まないでください!」

 

 気ってなんだ。もう、この人だけ生きる世界が違う気がする。

 そんな意味合いを込めて視線を送ってみるが、何故か顔を逸らされてしまう。

 なぜだろうか。

 

「やめてくれ。そんなに見つめられると君を殴りたくなる……」

「すでに投擲(とうてき)で殺そうとしてきたのは、ノーカウントですか?」

「はっはっはっ! 面白いことを言うね。あんなのデコピンみたいなものだろう?」

「デコピンで人は殺せません」

「……?」

「こいつの言ってることが理解できない。みたいな顔を向けないでください。むしろ、ボクが言いたい言葉なんですけど」

 

 まるでボクが外国語を話しているかのような顔をされるが、冷たくあしらう。

 というか、破道さんの感覚は絶対に理解しちゃいけないやつだ。

 人間をやめるどころじゃ、すまなそうだもん。

 

「ああ…なるほど。デコピン程度では自分は破壊できないということか。いや、すまない。どうやらオレは君を甘く見ていたようだ。やはり、男子に対して手加減など無用ということか」

 

 違うわ、ボケ!

 思わず、汚い言葉が飛び出しそうになるがグッと我慢する。

 いくら、人外染みた強さを持っていても相手は女性。

 紳士的に接するべきだ。

 

「おや? 頬がパックリ切れてるじゃないか。一体どうしたんだい?」

「記憶喪失にでもなりましたか? あなたの攻撃のせいですよね」

「大変だ。すぐに消毒してやろう」

「聞けよ」

 

 前言撤回。この人に対して紳士的に接する必要は多分ない。

 

「ほら、動かないでおくれ」

「ちょッ! ち、近いですって」

 

 そう思っていたのだが、いざ間近に寄られると女性だと意識してしまう。

 少し甘い匂いに、女性らしい突き出した部分。

 そして、ボクの傷口に近づいてくる細く長い指――

 

「痛だだだだだッ!? ちょっと! 何を塗り込んでいるんですか!?」

伯方(はかた)の塩」

「伯方の塩!?」

「あ、もしかして伯方の塩は嫌いだったかな?」

「嫌いなのは、傷口に塩を塗り込む行為ですよ!!」

 

 傷口から響いてくるズキズキとした感触に、思わず悲鳴を上げてしまう。

 というか、リアルに傷口に塩を塗るを実践する人とか初めて見た。

 いや、全くもって嬉しくないんだけど。

 

「そうか…伯方の塩は嫌いじゃないんだな……よかった」

「何でそんなに心安らかな笑みを浮かべてるんですか。というか、いい加減手を止めてください」

「敵に塩を送るという言葉は素敵だと思わないかい?」

「辞書で意味を調べなおしてこい、バカ」

 

 ハニかんだ笑顔で、そんなことを言ってくる破道さんに冷たく言い放つ。

 というか、無駄に素敵な笑みなのがムカつく。

 

「フフフ……君は本当に面白いよ」

「……それはどうも」

「君が相手ならオレも全力を出せるかもしれない」

 

 どうやら今までのはお遊びらしい。

 衝撃の事実だ。正直知りたくなかった。

 というか、今まで薄々思っていたんだけど。

 

「破道さんって本当に生身の(・・・)人間ですか?」

「…? 当たり前だろう」

「……ですよね。すいません、変なことを聞いて」

 

 キョトンとした可愛らしい顔で否定されてしまう。

 もしかしたらと思ったけど、どうやら本当に違うらしい。

 まあ、勘違いに越したことはないし、自分と同じような境遇の人間がそう多く居ても困る。

 

「おや、もうこんな時間か。オレは帰らせてもらうとするよ」

「あ、家まで送りましょうか?」

「おっと、手が滑ったぁッ!」

「なんで親切で言ったら、電柱を両断する手刀が返ってくるんですか!?」

「照れ隠しだよ。照れ隠し」

「照れ隠しでボクは死にかけてるんですけど!?」

 

 女の子に夜道は危ないと思い声をかけるが、何故か返事は手刀だった。

 しかも、間一髪で避けたボクの後ろにある電柱を切り飛ばすレベルの。

 おかしい。ボクの知ってる照れ隠しと生物学的レベルで違う。

 

「恋も勉強も全力を尽くすのが乙女というものだろう?」

「それ全力って書いて死力って読みますよね」

 

 ツッコミを入れるが、破道さんは笑うばかりである。

 そして、もう用はないとばかりに背を向ける。

 

「さて、名残惜しいが今日の所はお別れだ。夜道には気を付けるんだよ」

「それは夜襲をかけるという暗示か何かでしょうか?」

「失礼だね、君は。このオレが気を付ける程度で何とかなるような夜襲を行うと思っているのかい?」

「でしょうね」

 

 正直、この人に本気で奇襲をかけられたら生きて帰れる気がしない。

 

「だから、これはオレからの純粋な警告(・・)だよ」

「はぁ……普通は男の子が女の子に言う言葉だと思うんですけどね」

「フフフ……まあ、すぐに分かるさ」

 

 何やら意味深に笑い、破道さんは己を傷つけられる者など誰もいないとばかりに、堂々と背を向けて歩き去っていく。その後ろ姿が余りにも男らしく見えたのは内緒だ。

 

「……本当にあれで改造人間(・・・・)じゃないのか」

 

 最後に聞こえないように小さく呟き、ボクも家まで歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

「海野渚は改造人間である…ね」

 

 眼下で行われる戦闘を見ながら、オレはビルの屋上で小さく呟く。

 渚君と話していた時から気づいていたが、彼は付きまとわれていた複数の敵に囲まれている。

 何やら黒い服を着て変な奇声を出しているのが印象的だ。

 

「悪の組織『ザ・アーク』に改造されるものの、そこから逃げ出し今は正義の味方をやっている。転校してきたのはこの街に『ザ・アーク』の本拠地があると聞いたからか。目的は組織の完全壊滅かな」

 

 ついでに言うと、うちの学校『聖光ジャスティス学園』は『ザ・アーク』に対抗する機関がスポンサーになっているらしい。うん、何とも現実離れした設定だ。ただ、これで1つ確実になったこともある。

 

「2年B組の学園長の孫娘、西園寺(さいおんじ)明音(あかね)……絶対にヒロインの1人だな」

 

 そう、自分以外のヒロインの存在だ。

 学園長の孫娘で、容姿端麗・成績優秀とくれば確実にメインヒロインだ。

 この設定からすると、高飛車なお嬢様キャラかと思うかもしれないが意外に癒し系である。

 やはり主人公にきつく当たるヒロインは下火傾向なのだろうか。

 

「まあ、暴力系ヒロインにとっては願ってもないことだがな」

 

 このまま暴力を振るい続けていれば、男は誰も近づかないだろう。

 やはりこの作戦は完璧だ。

 しかし、万が一にもオレを攻略したいというもの好きが現れるかもしれない。

 こう、ドM方面で。

 

「オレも今のまま、胡坐をかいているわけにもいかないな」

 

 求めるのは圧倒的な暴力。

 痛みを快感に変換するのならば、痛みすら与えずに消し去ろう。

 オレを見ただけで、泣いて土下座をするレベルのトラウマを与えよう。

 

「オレと並び立つ者。オレを超える者が居てはならない」

 

 暴力とは危ういものだ。

 何故なら、自分よりも強い者が現れるだけで絶対性が薄れるからだ。

 故にこそ、暴力系ヒロインは常に頂点でなければならない。

 

「誰の手にも届かず、誰の声も届かず、誰の目にも届かない。それこそが真の頂点」

 

 ラッキースケベで胸を揉まれることもなければ。

 主人公の思わせぶりな口説き文句で惑わされることもない。

 そして、最終的にはヒロインとして見られなくなる。

 これこそが暴力系ヒロインの極致。

 

「そのためには……情報が必要だ。オレの敵となるかもしれない存在の」

 

 だからオレは海野渚を知るために―――彼の敵を生け捕りにしていた。

 因みに先程までの彼のプロフィールは、全て首根っこを掴んだ悪の構成員から聞いたものだ。

 

「さて、他に知っていることはもうないな」

「も、もう何もない。だから助けてくれ!」

「……ふむ、そうだな。もうオレに用事はないし、逃がしてやってもいいが」

 

 その言葉で、得意の暴力で口を割らせた悪の構成員の顔に笑顔が宿る。

 だが、しかし。

 

「ただし―――オレのことは忘れてもらわないと困る」

 

 ただで返すわけにいかない。

 オレは悪の構成員に向け、指を向け。

 

「すべて忘れろ」

 

 デコピンを放つ。

 

「―――ッ!?」

 

 敵は声を上げることすらできない。

 デコピンの威力で脳みそがシャッフルされているのだから、ある意味当然だろう。

 これはオレが編み出した技の中でも中々に有用な技で、記憶抹消の際にはよく使う。

 もちろん、奪う記憶の量は調整が可能で一時間から一生までの幅がある。

 

 今回は一時間コースでオレのことを全て忘れさせた。

 こうすることで、悪の組織はまだオレの存在を認知することができない。

 

「後の処理は……まあ、渚君が倒した奴らの中に適当に混ぜておけばバレないだろう」

 

 片手で構成員をお手玉しながら、悪の組織の屍の山を築いている渚君を見下ろす。

 うん。流石に雑魚相手に負けるなんてことはないようだ。

 

「しかし、油断は禁物だ」

 

 そう、これはフラグだ。

 

「敵の組織にヒロインが攫われて、それを助けるなんて定番も良いところじゃないか。しかも、作品によっては敵の幹部が新ヒロインになったりするしな。オレも拘束されている所をカッコよく助けられたら、キュンと来るかもしれない」

 

 定番なフラグだ。しかし、定番とは王道故に強い。

 王子様に助けられるお姫様ポジションなんて、普通の女性なら一度は夢を見るだろう。

 暴力系ヒロインとて、こういう場面では立派にヒロインを務める。

 

 しかし、オレを甘く見てもらっては困る。

 

「助けられるからフラグとなるのだ。いや、そもそも攫われるからフラグが建つ。

 なら対処法は実に簡単だ。オレが先に―――組織を壊滅させればいい」

 

 フラグなど成立させはしない。全てを暴力で解決してみせる。

 立ち塞がる者は皆、この拳の前に消えてなくなればいい。

 

「さて、そうと決まれば聞き出したアジトを壊滅しに行くとしよう。まあ、どうせ潰しの利くアジトだろうが、やらないよりはマシか」

 

 ビルから飛び降りるように踏み出し、そのまま()()()()()アジトへ向かう。

 

 順序が違う? 大人しくしていろ? 笑わせるな。

 この身は物語のストーリーなど一切無視する理不尽の化身。

 後のことなど知ったことではない。ただ己の利のためだけに暴力を振るう存在。

 

「このオレのフラグとなるものは全て―――へし折るだけだ」

 

 暴力系ヒロインLV99だ。

 





次から書くとしたら思いついた場面を書いていく形になるかと思います。
このヒロイン、ストーリーとか理不尽に踏み砕いていきそうですし……。


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