暴力系ヒロインLV99「オレより強い奴に逢いに行く」   作:トマトルテ
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襲撃イベント

 

 敵のアジト。封鎖された空間。1人で向かうヒロイン。

 この3つのキーワードはフラグだ。

 そう。単独先行したヒロインが捕まり、主人公に助けられるイベントの。

 

 これに関しては、主人公に迷惑をかけたとして、ヒロインが嫌われることもある諸刃のイベントだ。逆に言えば、それを違和感なく料理できるかどうかが、シナリオライターの腕の見せ所と言ってもいいだろう。

 

 しかしだ。今回ばかりはシナリオライターの皆々様方には安心していただきたい。

 上手く料理する必要などない。ただ、フラグをフラグとして成立させなければ良いだけだ。

 つまり、何が言いたいかというと。

 

「どうした、もう終わりか? 悪の組織というのも存外あっけないものだ」

「ば、バケモノめ……」

「酷いな。自分達の軟弱さを棚上げして、こんな美少女に対して化け物呼ばわりとはね」

 

 主人公が気づく前に、ヒロインがアジトを壊滅させてやればいい。

 それが最も簡単な解決方法だ。

 

「それで? 君達のボスの情報については教えてくれないのかい?」

「教えろと言われて教えると思うか? そもそも、俺達はボスの顔も見たことのない下っ端だ。聞くだけ無駄だ、バケモノめ」

 

 ボロボロになったアジトの中で、悪の構成員から情報を得ようとするが上手くいかない。

 まあ、このアジトに居たのは量産型っぽいコスチュームを着た奴らだけだったので、薄々感づいてはいたが。

 

「フフフ…まあ、仕方がないか。しかし、この状況で悪態を吐けるとはね。少し見直したよ」

 

 出来るだけ情報を知ってそうな、リーダーっぽい奴を選んで(はりつけ)にしたのだが中々に気骨のある奴だ。これが敵でなかったら友人になりたかったところだ。だが、これは戦い。相手が降参してくるのならば生かしてやる。だが、そうでないのならば相手の誇りを尊重して息の根を止める。それが戦いというものだ。

 

「せめてもの敬意だ。痛みも感じることなく逝け」

「ク……ハハ」

「む?」

 

 何故か笑い始めた悪の構成員の姿に眉をひそめる。

 手足を折られた状態から一体何があるというのだろうか。

 

「クハハハッ! それはこっちの台詞だッ! アジトと共に(・・)地獄まで行ってもらうぞ!!」

「まさか…!」

 

 大きく開いた口の中に、キラリと光るスイッチが見える。

 間違いない。これは悪の組織のロマンの1つ―――

 

「ザ・アーク万歳ィイイッ!!」

 

 ―――自爆だ!

 

 

 

「ふう……余りにもテンプレな展開に少し驚いたよ」

「バカ…な……」

「ん? 何故生きているって顔をしているね。それがオレに対してなのか、自分自身に対してなのかは分からないが……まあ、答えは簡単だよ」

 

 爆破して瓦礫の山と化したアジトの中で、オレは呆然とする構成員を見下ろす。

 そして、哀れみの感情を込めた言葉を告げる。

 

「そんなおもちゃじゃ、オレは殺せない」

 

 簡単な事実だ。爆発程度で死ぬのならば暴力系ヒロインLV99は名乗れない。

 理不尽に暴力を振るい、理不尽に自分だけは無事である。

 それこそが暴力系ヒロインの特徴なのだから。

 

 命を懸けた程度でオレに手が届くわけがない。

 

「おもちゃ…? アジト丸ごと吹き飛ばす爆発が…?」

「そうだ。現にオレは無傷で、あろうことかオレの近くに居た君まで助かってしまう滑稽さ。これをおもちゃと言わずになんと言うんだい?」

 

 意味が分からない。理解できない。いや、理解したくないとばかりに構成員が呟く。

 もはやオレを見る目は人間を見るものではない。冗談抜きで化け物と思っている目だ。

 ああ、だが、それでいい。

 

「……理不尽すぎる」

「当然」

 

 それこそが男に嫌われるヒロインなのだから。

 

「さあ、自爆したのに生きているというのも男の誇りが許さないだろう。

 君の最後の足掻きに敬意を示して―――真の暴力というものをお見せしよう」

 

 天高く腕を突き上げ、血管が浮き上がるほどに拳を強く握りしめる。

 そして、天より落ちる(いかずち)のごとく振り下ろす。

 

「奥義……」

 

 暴力系ヒロインが暴力を振るうのは、何も男に対してだけではない。

 そしてその対象に区別も差別もない。

 

 全ては平等。男も女も、生物も無生物も――

 

大地(だいち)割砕(かっさい)!!」

 

 ―――母なる大地さえも。

 

 

 

 

 

(なぎさ)さーん、今朝の地震はすごかったですわねー」

明音(あかね)さんもそう思います? ボクなんてベッドから飛び起きちゃいましたよ」

「私も思わず机の下に潜り込んでしまいましたわー」

 

 登校中に会った学園長の孫娘、西園寺(さいおんじ)明音(あかね)さんと今朝の地震について話をする。

 明音さんは金髪縦ロールにお嬢様言葉という、見た目は完全に高飛車お嬢様という見た目だ。

 でも、言葉が間延びしているのを聞けばわかるように、実際はのんびり癒し系だ。

 因みに、校内の守ってあげたい女性ランキングでは堂々の1位らしい。

 

「でも、被害は本当にほとんど出てないみたいでよかったですわー」

「ニュースでも、家や人への被害はほとんど出てないって言ってましたもんね」

「まあ、天罰が下ったところもありますけどねー」

「天罰…?」

 

 それはどういうことかという顔をするボクに、明音さんは内緒話をするように口を近づける。

 耳にかかる息がこそばゆくて、思わずドキドキしてしまう。

 

「ザ・アークのアジトの1つが、地震の影響で運悪く(・・・)壊滅したみたいですー」

「それは……何とも気の毒な」

「はいー。もう、敵対してるのに同情してしまう程の壊れっぷりでしたわー。嵐と地震と津波が一気に来た感じでしたー」

「ええ…他に被害はないのに……」

「人知を超えた災害。まさに天罰ですねー」

 

 気の毒に思っているのか、それとも本気で天罰を喜んでいるのか。

 明音さんは、そのどちらとも分からないような緩い笑みを浮かべる。

 優しい明音さんのことだから、きっと同情しているのだと思いたい。

 間違っても天罰だ、ザマァ! みたいなことは考えていないはず。

 

「あ。ザ・アークの話で思い出しましたがー、今度この街の案内をする約束をしてましたわねー」

「はい。やっぱり地理は知っておいて損はないですし。もしかしたら怪しいところが見つかるかもしれませんしね。案内してもらえるなら、それに越したことはないです」

「ですわねー。だったら、今度の日曜日は一緒にお出かけしましょう」

「はい。喜んで」

 

 ニコニコとした笑顔に釣られてボクも即答してしまう。

 しかし、答えた後に重要なことに気付く。

 休日にクラスの女の子とお出かけ。

 これって、ひょっとしなくてもデート――

 

「あーした天気になぁーれッ!!」

「なんか靴が飛んできた!?」

 

 やけにテンションの高い聞き覚えのある声。

 そして、最近慣れてきてしまった音速を超えて襲ってくる飛び道具。

 いつものように間一髪のところで躱すが、今日はやけに威力が高い。

 普段と違って2本まとめて折れた電柱がその証拠だ。

 

「ごきげんよう。今日も実に清々しい日だね、渚君に明音君」

「おはようございますー。本当にいい日ですわねー」

「あの、2人とも? 何事もなかったように爽やかに挨拶をしないでくださいよ」

「いけないな渚君。挨拶とは人間関係で最も大切なものだよ? 私の師匠もよく言っていた」

「挨拶より前に、致命傷を狙ってくるあなたにだけは言われたくない」

 

 そして、最近見慣れてきた女の子、破道満さん。

 理不尽が制服を着て歩いているような人だ。

 

「いやいやいや、先程のは久しぶりに童心に帰って遊んでいただけさ。君の方に飛んで行ったのは偶然。そう、偶然足が滑って君の顔面に靴が飛ぶコースが上手いこと設定されただけさ。そう、偶然ね」

「凄いですね。こんなにも意思を感じる偶然を、ボクは聞いたことがないです」

 

 同じ言葉を繰り返す程、信用性とは失われるものなのだと今日ボクは学んだ。

 

「それにしても、今日の満さんは元気がいいですわねー」

「ハハハ。元気が良いというより、徹夜明けのテンションというやつかな?」

「徹夜? ダメですよー。夜更かしは集中力の低下を招くんですからー」

「耳が痛いな。先程寝ぼけてコンクリート塀に人型の穴を空けてきたばかりだからな」

「何やってんだ、あんた」

 

 女性2人の会話を遮って思わずツッコミを入れてしまう。

 というか、普通は100歩譲っても壁にぶつかっただろう。

 穴を空けてきたってなんだ。

 

「恥ずかしい限りだ。観光スポットにならなければ良いんだが……」

「安心してください。天地がひっくり返ってもあり得ませんから」

「つまり、可能性は低いということか。安心したよ」

「それはそうでしょうよ……ん?」

 

 ホッとしたように息をつく破道さんに、ボクも息を吐くが何となく違和感も覚える。

 ボクはあり得ないって意味で天地がひっくり返ると言った。

 でも、彼女はあり得ないではなく、可能性は低いという意味でとった。

 

 ……まさか、この人にとっては天地をひっくり返すことも不可能ではないのか。

 そんな不安が一瞬過るが、すぐに考えすぎだろうと頭を振る。

 そんなこと人間にできるわけがない。

 

 もしできるとしたら、都市伝説に近いザ・アークのボスぐらいなものだろう。

 

「ふわぁ……しかし、眠いな。オレは早めに行って仮眠でも取るとするよ」

「授業中に眠らないように気を付けてくださいませー」

「フフフ、明音君は真面目だな。じゃあ、オレは先に行かせてもらうよ」

 

 最後に軽く明音さんと会話を交わした後に、破道さんは地面に手を突きクラウチングスタートの姿勢をとる。一瞬、スカートの中が見えそうになって気を引かれてしまうが、明音さんから冷たい視線を感じとって直ぐに目を逸らす。

 

「おっと、最後に……2人とも日曜は楽しんで来ると良い」

 

 そう言い残して、破道さんは学校に向かって一直線に―――跳躍する。

 

「……明音さん」

「どうかされましたかー?」

 

 まるでロケットのように、学校へと向かう彼女を見ながら、ボクはポツリと問いかける。

 

「人間って何なんでしょうね」

「哲学的な問いですわねー」

 

 どうもここ最近、人間の定義があやふやになり始めているボクなのだった。

 

 

 

 

 

 待ちに待った日曜日。オレは渚君と明音君のデートを陰ながら監視していた。

 誤解のないように言っておくが、オレは2人の邪魔をしに来たわけではない。

 むしろその逆だ。2人にとっての邪魔者を排除しに来たのだ。

 

「初めてのデート…そして悪の組織…どう考えても襲撃イベントだろう、これは」

 

 そう。これはデート回にありがちな、突如として襲撃だ。

 平和な世界、幸せの絶頂。そうしたものから急激な落差をもって主人公を追い込むイベント。

 さらに言えば、こういうイベントの時は大抵強キャラが現れる。

 

 そして、それは主人公を追い詰め、もうダメかと思った瞬間にヒロインの声で覚醒する。

 うん。実に胸が熱くなる展開だ。

 きっと、ヒロインもメロメロになること間違いなしだ。

 オレとしても渚君が、他のヒロインと仲良くなってくれるのなら何も文句はない。

 しかし、オレはこうも思う。

 

「別に普通のデートでもヒロインの好感度は上げられるだろう」

 

 そう。襲撃イベントの必要性だ。

 正直な話、こういうのはいきなり入れられると戸惑ってしまう。

 ついでに言うと、主人公クラスの誑しならば、そんなイベントがなくとも口説く。

 遠目に見える明音君の頬が、赤く染まっていることからもそれは分かる。

 

 だったら、襲撃イベントなんて必要ない。

 純粋なデートイベントで十分だ。

 

「だから襲撃イベントは―――オレが利用させてもらう」

 

 オレが2人についてきた理由。

 それは単なる暴力系ヒロインとして、デートの邪魔をするためではない。

 暴力系ヒロインLV99として。

 

「出てきたらどうだい? 同じデバガメ同士仲良くしようじゃないか」

「……いつから私の正体に……ううん。それ以前に、あなた何者?」

「正義の味方……というのはガラじゃないな。そうだね…名乗るとしたら」

 

 襲撃イベントとして出てくる強敵と出会うため。

 そして、そこからザ・アークの情報を吐き出させ。

 

 

「破壊者」

 

 

 組織に関連する全てのフラグを破壊し尽くすためだ。

 

 

 

 

 

 突如として平和な街に響き渡る酷く歪な破壊音。

 その音を聞くと同時にボクは理解する。平和なデートの時間は終わったのだと。

 

「明音さん!」

「ええ! 行きましょうー!」

 

 ボクと明音さんは頷き合うとすぐに、破壊音が聞こえた方へと走り出す。

 音の方角からして、幸いというべきか人の多い大通りではなく路地裏と呼べる場所だ。

 狭く戦いやすいとは言えないが、それは敵も同じこと。

 町を守るというボク達の目的からすれば願ってもない場所と言える。

 

「渚さんー! きっとこの辺りのはずですわー!」

「一体こんなところで何が――ッ!?」

 

 曲がり角を曲がり、前に飛び出したところで何かが僕の足元に転がってくる。

 

 それは女の子だった。そして、ボクは彼女に見覚えがあった。

 

「お前は…ッ! アイス!?」

「…!? くッ…あの化け物に加えて海野渚まで…!」

「ザ・アークの幹部であるお前が、なんで……」

 

 アイス。ボクと同じぐらいの年齢の女の子でありながら、ザ・アークの幹部である少女だ。

 雪のように白い肌を黒づくめの服で身を包み、その髪は雪原を連想させる銀色のツインテール。

 何より、彼女の透き通るような青い瞳は名前のように冷たい。

 

 だが、氷のように冷たいはずの瞳は、今は怒りと焦燥で熱を帯びていた。

 

 普段ならば敵を凍り付かす冷笑は影もなく、自らの敵をひたすらに恐れている。

 この街に来る前から度々戦ってきたので、彼女の実力はよく理解している。

 何より、彼女の使う『氷帝剣ブリザード』は一筋縄では攻略できない。

 

「一体、誰がお前をそこまで――」

 

「失敗したな。久しぶりに骨のある相手と戦えて、少し(・・)はしゃぎ過ぎたようだ」

 

 聞き覚えのある声。

 いつもの調子と何ら変わらない声色。

 だというのに、その声を聞いた瞬間に全身から血が抜けていくような感覚に陥る。

 

「少し…? あの暴力の極致みたいな攻撃が…?」

「フフフ、褒めても何も出ないよ。ああ、それよりもだ。大切なことを忘れていた」

 

 まるで天気を尋ねるかのように、彼女は呑気に語りかけてくる。

 なんで…? どうして…あなたがここに…!?

 

 

「ごきげんよう。今日も実に清々しい日だね―――渚君に明音君」

 

 

 破道満!

 




皆さんがラオウとかマスターアジアとか範馬勇次郎とか言うので、
作者もそんな感じにしかイメージできなくなりました。訴訟。



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