「かんぱ〜い!」
「はい、乾杯。飲み過ぎには気をつけるのよ」
「はぁい!」
先日、有難いことに拙作が大きい賞を受賞した。
その賞は学生の頃から憧れていた先生が審査員を務めていて、ずっと目標として掲げていたのだ。担当さんから電話で受賞報告を聞いた時は、苺さんと買い物中だったにも関わらず、その場で泣き崩れてしまった。
「ふふ、あの時の桃、ほんとに感極まってたわね」
思い出し笑いをしている苺さんに、私は苺さんお手製のビーフシチューを口に運びながら、不満を込めて視線を送る。
「もう忘れてくださいってば……」
「こっちまで泣きそうになっちゃったわよ」
そうからかいながらも、「改めて本当におめでとう」と賛辞と暖かな眼差しを私にくれた。嬉し恥ずかしくなってしまい、私はもじもじとお礼を述べながらワインの注がれたグラスに口をつける。
「ペース早くない? 大丈夫?」
ぐいぐいと呷っていたら、今度は心配させてしまった。確かに、出会いたての頃私はワイン1杯で泥酔して苺さんに多大なる迷惑をかけたことがある。けれど、私もあれからちびちびお酒を飲んだりしてアルコール耐性は徐々に増しているはずだ。
「大丈夫です、ご心配なく!」
そう自信満々に答え、ぐいとワイングラスを傾けた。
◆
「お"ぇ……きもぢわるい……」
「ほらもう、言わんこっちゃない」
物の見事に泥酔した私は、苺さんに呆れた目線を向けられながらテーブルに突っ伏していた。
カチャカチャと苺さんが洗い物をしている音を聞きながら、情けなさと申し訳なさで口から呻き声が漏れ出てしまう。大丈夫だとあんなに啖呵をきった癖にこの有様だ……愛想をつかされてないと良いけど。
と、不意に吐き気が込み上げてきて私は咄嗟に口を抑えてトイレへ走った。後ろから「桃?」と声がかかるが、口を塞いでるので返事が出来ない。
トイレに着くや否や私はしゃがみこみ、便器の蓋を押し上げてそこに顔を
「うぇ、吐けない……」
必死に胃の中のものを吐き出そうと試みるが、嗚咽と唾液しか出てこない。先程までの吐き気はなんだったんだ。
私がトイレで唸っていると、背後から苺さんの声がした。
「もう、仕方ないわね。手伝ってあげる」
「んぇ……苺さ……」
涙目で振り返った私の傍らにしゃがみこむ苺さん。ひんやりとした手が、私の顎に優しく添えられた。不意打ちの顎クイにドキッとしたのも束の間――
「ん"ぇっ!?」
口の中に、指を突っ込まれた。
その指でぐっと舌の付け根を押し込まれた瞬間、強烈な吐き気が押し寄せてくる。慌てて便器に顔を埋めると、今度は胃の中のものが堰を切ったように逆流を起こした。
苺さんはすぐに指を引き抜いていたおかげで唾液に濡れただけで済んだようで、反対の手で背中を優しくさすってくれている。
私が吐き続けていると不意に耳元で、苺さんが甘く優しい声で囁いた。
「上手に吐けて、良い子ね」
「〜〜っ!?」
ただでさえ耳が弱い私はその不意打ちと、嘔吐している情けない姿を褒められるという羞恥心から、興奮がゾクゾクと背筋を伝った。恥ずかしい、のに。何故こんなに私は胸をときめかせてしまっているんだろう。
漸く全て吐き終えた私の頭を苺さんは軽く撫でると、よいしょと立ち上がってリビングへ戻ろうとする。そのシャツの裾を、私は半分無意識のうちに掴んでいた。
少し驚いたように私を見下ろす苺さんに、私は衝動のままに欲求をぶつける。
「あの、今日、シたい、です」
顔が熱くなるのが自分でも分かる。
「お祝い、なので……吐い、ちゃった、けど……」
しりすぼみになっていく私のおねだりを聞いて、苺さんはやや呆れたような、それでいて嬉しそうな笑顔を浮かべていた。私に向き合うように再びしゃがみこんだ苺さんが、私の耳元にそっと口を近づけて囁いた。
「口を良く
今度こそ腰が抜けるかと思った。真っ赤になっているであろう顔を覆いながら、指の隙間から苺さんのイタズラな笑顔を覗き見る。
掻き消えそうな声で「はい……」と返事をすると、わしゃわしゃ髪の毛を撫で回された。
「ふふ、良い子ね」
嬉しそうに呟きながら立ち去る苺さんの後ろ姿を、床に座り込んだまま見送る。
心臓の鼓動がうるさい。
酔いと吐き気は、もうとっくに消えていた。