のんべんだらりとソファで寛いでいたら、ミカンがやって来て私の目の前で仁王立ちになる。急にどうしたのだろうか。
呑気に構えている私に向かって、ミカンは毅然とした態度で言い放った。
「断捨離するぞ!」
「……えー」
しかし、せっかくの休みを謳歌していた私は臆面もなくブーイングを口にするのであった。
◆
曰く、部屋が散らかってきているから掃除しろとのことだ。確かに部屋を見渡せば各所がごちゃごちゃしており、以前よりずっと物が増えている……ように見える。
とはいえ捨てるようなものなど到底無い。なので断捨離ではなく整理整頓に留めようと提案するも、スイッチの入ったミカンは止まろうとしなかった。
「今から要るか要らないか聞いてくから、判別してくれ」
「要らないものなんて無いんだけどなぁ」
「ほら、始めるぞ!」
ダメだ、聞く耳を持たない。まぁ散らかした私にも勿論非があるわけで……諦めた私は、漸くソファから重い腰を持ち上げた。
だが、要らないものが無いというのは本心である。
「このぬいぐるみは?」
ミカンが戸棚の上にある個性的な笑顔を浮かべている紫の猫のぬいぐるみを抱き上げた。私はそれを見てすぐさま「要る」と答える。それは捨てる訳にはいかない、大切な思い出の品だ。
「その子はミカンと初めてゲーセン行った時に取ったやつだから捨てたくないなー」
あれはまだミカンが狼女になりたての頃、学生時代は無縁だったゲームセンターに連れ立って行ったことがある。そこで数千円掛けて取ったのが、このぬいぐるみだ。2人ともクレーンゲームが下手すぎて、やいのやいのと柄にもなくはしゃいだことを今でも鮮明に覚えている。
「むぅ……こんな不細工なぬいぐるみをそんなに大切にしてるとは」
「ぶさっ……可愛いでしょ!?」
ミカンに酷評された可哀想なぬいぐるみちゃんを奪い取り、腕の中にぎゅうと抱き抱える。可哀想に、私がこの子を沢山可愛がってあげなければ。
「まぁいい……次!」
今度は部屋の片隅に畳まれたボロボロのブランケットを持ち上げるミカン。薄水色で涼やかな見た目のそれはもうかなり年季が入って所々擦り切れてきている。
「それミカンが小さい頃から好きでよくくるまってたやつじゃん」
勿論、要るに決まっている。古いものから捨てようとしているようだが、古いものはその分思い入れがあるのだ。
そもそも、ミカンが未だに肌がけにしたり、畳んで枕にしたりとお昼寝の時にこっそり使っているのを私は知っている。自分も気に入ってるのに何故断捨離候補に入れるんだろう……意気込みすぎて軽く暴走してやいないだろうか。
「くっ、じゃあこの辺りのあまり着てない洋服は!?」
「元々私持ってる服そんな多くないし、たまにお出かけする時とかに着るからなぁ」
服なんて低頻度でしか買わないので、それぞれの季節に着れる服のレパートリーは実はそんなに多くない。夏用の服なんかはただでさえ身につけるアイテム数が少ないので、総数を減らしてしまうと何度も同じ組み合わせになってしまうので気をつけている。
ぐぬぬと唸るミカンに、「それに」と続ける。
「全部、着た時ミカンに『可愛い、似合ってる』って褒めてもらったから……」
そう上目遣いで微笑むと、ミカンはダメージを喰らったような呻き声を上げてよろめいた。可愛いと感じてくれた証と受け止め、私の表情は更ににこやかになる。
「ぐぅ……これは!?」
「それは――」
「あれは!?」
「それも――」
それでもめげずに続けるミカンだったが、その後も私が「要らない」と判断することはついぞなかった。
◆
数十分間の格闘の末、ミカンは頭を抱えて床に蹲っていた。
「……どれもこれも、全部私との思い出の品じゃないか!」
「当たり前じゃん」
昔からずっと一緒にいるのだから、その間使ったり手に入れた物には愛着が湧くに決まっている。どれもこれもミカンとの大切な思い出が染み付いているのだ。
というか散らかってるのはそうだけど、実際断捨離するほど物が沢山増えた訳ではない。ただ、私が整理整頓してないだけだ。
私はミカンの傍らにしゃがみこむと、慰めるように頭を撫でる。
「散らかした私が悪いから、普通に掃除と整理整頓しよ」
「……そうだな」
しょぼしょぼと耳を寝かせて落ち込むミカンを、私はぎゅっと抱き締めた。ちょっと暴走していようにも見えたけど、私たちが暮らす部屋を快適にするために頑張ろうとしてくれていたことは充分伝わっている。
「ありがとね、ミカン」
「……うん」
ぎゅうと甘えるように抱き締め返してくれるミカンを愛しく思いながら、今後はもう少し部屋を綺麗に使おうと心に決めるのであった。
次回は11/1(土) 13:00投稿です