私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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前回の続きです


君に出会えたことが

「やめとけ、林檎」

 

 隣から冷静なミカンの制止がかかる。しかし、私はそれを聞いてもなお構えを辞めなかった。私なら出来る、そう信じている。

 

「大丈夫、ミカン。私、運がいいから」

 

 ちらりと振り返り、心配そうな顔を浮かべるミカンに、私は笑みを向けた。

 

 

 ソファに身を預けてぼうっとしている私は、著しく体力を消耗していた。

 

「……へくちゅっ! んあぁ……」

 

 止まらないくしゃみと鼻水に唸り声をあげる。完全に風邪をひいてしまった。原因は確実に昨日通り雨に降られたせいだろう。鼻風邪で辛いが、高熱が出ていないだけまだマシかもしれない。

 ティッシュを手繰り寄せ、鼻をかむ。今日何回これを繰り返せばいいんだろう。

 

「鼻、止まらないな……。ほら、お粥出来たぞ」

 

 心配そうに眉を下げたミカンが、お盆にお粥を乗せてリビングへやってきた。今日は風邪でしんどいので特別にソファでお昼を食べることを許されている。私はお礼を言ってその場でお粥を受け取った。

 

「んー、美味しい……」

 

 鼻が詰まってて正直味はよく分からないけれど、その温かさが胸に染みる。ミカンに見守られながら、私はもぐもぐとお粥を食べ進めた。

 

 お粥でお腹がいっぱいになった私は、隣のミカンにもたれかかって一息ついていた。食事中も幾度となく鼻水が垂れてきては鼻をかんでを繰り返して、やたら時間がかかってしまった。もうすっかり鼻の下が荒れていて、ヒリヒリする。

 そのうちまた鼻水が垂れてきたので鼻をかみ、ティッシュを丸めて捨てようとして、私は気がついた。

 

「……あ、いっぱいになっちゃった」

 

 動かないで済むように、とソファの隣に置いた私用のゴミ箱がもう満杯になっている。次に近いのは、数歩歩かないと届かない場所に置いてあるゴミ箱だ。

 

「ん、一回中捨ててくるよ」

 

 気を利かせて立ち上がってくれたミカンを、私は片手で制止した。そして、離れたゴミ箱目掛けてティッシュを投げるポーズを構えると、狙いを定めて集中する。

 

「やめとけ、林檎。どうせ入らないぞ」

「大丈夫、ミカン。私、運がいいから」

 

 そう言って、私は勢いよくティッシュを放り投げた。

 

 綺麗な弧を描いたティッシュは、ゴミ箱に届くことなく、無惨にもぽとりと床に落ちた。

 

 ミカンが颯爽と立ち上がり、満杯のゴミ箱と落ちたティッシュを回収する。そしてゴミ袋に中身を捨ててゴミ箱を空にして戻ってくると、にこりと生温かな笑みを浮かべて私の肩に手を置いた。

 

「運……なかったな」

「うううう〜〜」

 

 私は悔しくて唸り声を上げながらミカンに抱きついた。胸にぐりぐりと頭を擦り付けて、鼻声で負け惜しみを唱える。

 

「ミカンとの出会いで運を使い果たしたんだ……」

「り、林檎……」

 

 嬉しそうに声を振るわせるミカン。

 

「だからゴミも外すし風邪も引くし、仕事も家事も上手くいかないんだ……」

「いやネガティブだな。心も疲れてるんだろ、やっぱベッドで昼寝しな」

 

 そう言って優しく背中をさすってくれる。そんなミカンに、私はつい甘えてしまう。

 

「……抱っこで連れてって」

 

 そのおねだりに、ミカンは愛おしそうに目を細めて「勿論」と答えてくれた。ひょいとお姫様抱っこで抱き上げられ、ベッドに優しく寝かせられる。

 掛け布団を肩までかけて、ぽんぽんと優しくお腹を叩くミカンは、なんだかお母さんみたいだ。

 

「ゆっくり休んで、早く良くなろうな」

「うん……ありがとう、ミカン」

 

 ミカンが傍にいてくれる安心感と心地のいい振動で、すぐに瞼が重くなる。風邪が治ったら、ミカンとまた出かけたり楽しく過ごそう。

 薄れゆく意識の中で、ミカンの幸せそうな声が聞こえた。

 

「私も、林檎に拾ってもらえたのが最大の幸運だったよ」

 

 嬉しいその言葉に私は微笑みを返して、「おやすみ」と目を閉じた。




次回は12/27(土) 13:00投稿です
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