私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君と暖まりたい真冬日

 びゅうと強い風が吹き、私の髪の毛とマフラーをバサバサと靡かせる。寒さから逃げるように手を擦り合わせながらアパートの階段を駆け上がった。

 ガチャリと玄関扉を開け、屋内へと駆け込む。

 

「た、ただいまぁ。さっむーい!!」

 

 お椀型にした手を口に当てて息を吐き、少しでもと温める。こんな寒い日に限って手袋を忘れるとは、自分の間抜けさが恨めしい。

 家に上がり厚手のコートをもぞもぞと脱いでいると、ミカンが出迎えに来てくれる。床に置いていた鞄とコートを預かりながら、

 

「おかえり林檎、外寒かっただろ。リビング暖房で暖めてあるぞ」

 

 と、私の大好きな柔らかな微笑みを称えながら労ってくれた。ミカンの素晴らしいところは、帰宅する私のコンディションを想定してあれこれ準備しておいてくれるところだ。恐らく、お風呂も既に沸かしてくれているのだろう。

 お礼を言いながら、ミカンの顔をなんともなしに見上げると、ほんのり赤みを帯びているように見えた。しっかり暖まったリビングで家事をしていくれていたようだ。ミカンの身体も、さぞ暖まっているに違いない。

 私はすっかり冷え切った両手を持ち上げ、そして――

 

「えい」

「ひあぁっ!?」

 

 その頬にむぎゅっと挟むようにして押し当てた。

 思わぬ刺激に驚いたミカンが、その場で小さく飛び上がる。

 

「つっ、冷たいだろ! 何するんだ!」

「手が冷たくて暖めて欲しかったんだもん」

 

 ぷりぷりと怒るミカンに悪びれずそう言うと、不満げに踵を返して寝室へと歩き出してしまった。そして

 

「風呂沸いてるから、さっさと入って身体暖めろ!」

 

 と声だけで促されてしまう。やっぱりお風呂は沸いていた。本当によく出来たお嫁さん(ペット)だ。

 私は素直に言われた通りお風呂に入るためにミカンの後を追って寝室に向かい、スーツを脱いでハンガーにかける。そのまま脱衣所に向かって服を脱いでいると、ノックと共にミカンの声がした。

 

「入って大丈夫か?」

「ん、大丈夫だよ」

 

 二つ返事で許可すると、すぐにミカンが入ってくる。その手には私のバスタオルや下着類が抱えられている。そして私の姿格好を見ると、分かりやすく顔を真っ赤にした。

 

「半裸じゃないか! なんで大丈夫って言ったんだよ!」

 

 そう言って狼狽えるミカンに、思わず呆れて溜息を吐いてしまう。確かにシャツやブラは脱いだ状態なので上半身裸ではある。しかし、裸なんて今更見飽きているだろうに、どうしてこうも耐性がつかないのだろう。包み隠さずに尋ねると、曰く「心の準備が出来てないと心臓に悪い」らしい。全く、いつまで経っても初心(うぶ)な狼女だ。

 

 そんな照れ屋さんからタオルや着替えを受け取ると、残りの衣類を脱ごうと手をかける。しかし、ミカンは何故かその場に立ち止まっていた。

 半裸を見た時はあんな狼狽えていたのに、脱ごうとしてる私を前にして立ち去ろうとしないことに違和感を覚え、私は顔を覗き込んだ。

 

「ミカン、どうしたの?」

 

 その問いに、ミカンは両手をもじもじさせながら、ちらと私の目を見て呟いた。

 

「その、一緒に風呂、入らない、か」

 

 予期せぬ提案に、思わず押し黙ってしまう。数秒の沈黙が、二人きりの脱衣所を包み込む。先に耐えきれなくなったのは、ミカンの方だった。

 

「なんで何も言わないんだよ!」

「あ、ごめんごめん。なんかいじらしいなって」

 

 お風呂に一緒に入るのだって今に始まった事ではない。普段は別々だが、一緒に入浴したことは何度もある。ミカンから誘ってきたことだって少なくはないのに、毎度こんな感じなのだ。

 全くもって本当に――

 

「可愛いお嫁さん(ペット)だなぁ」

「うるさい! 半裸のまま撫でるな!」

 

 頭に伸ばした手を振り払われてしまう。こちらに背を向けて立ち去ろうとするミカンの背に抱きつき、それを引き留めた。胸を押し当てられて分かりやすく慌てるミカンがどうしようもなく愛おしい。

 

「駄目なんて一言も言ってないでしょ、一緒入ろ」

 

 脱衣所へ引き込みながらそう促すと、恥ずかしそうにこくりと頷くミカン。

 寒風でこんなに身体が冷えてしまったのだ。ミカンと一緒に暖まれるだなんて、願ってもない提案だ。

 私はそんな感謝を込めて短く頬にキスをしてから、「ほらほら」とミカンの服に手をかけた。

 

「早くミカンも脱いで、お湯冷めちゃうよ」

「自分で脱げる! というか林檎もさっさと脱げよ!」

 

 脱衣所できゃいきゃい騒いでいると、寒さや疲れもどこへやら忘れてしまった。

 私たちは乳繰り合いながら服を脱ぎ、湯気の立ち込めるお風呂場へと並んで足を踏み入れた。




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