照明の落ちた真っ暗な寝室で、私たちは寝転んで肩を寄せ合っていた。
同居を始めた当初は桃のために来客用の布団を取り出そうとしたのだけれど、桃が一緒に寝ると言って聞かないので、このセミダブルベッドでずっと添い寝している。
ここへ越して来た時にのびのび快適に眠りたくて大きめのものを買ったのだけれど、今となっては二人並んでいるので適度な広さとなっている。
「――もし、私たちが同じクラスだったら、どんな感じだったんでしょうね」
不意に桃がぽつりと呟く。消灯後の雑談は大抵、こうして桃の何気ない呟きから始まるのだ。
私は目を瞑ったまま、ぼんやりと架空の教室を想像する。
明るく快活で、喜怒哀楽の表現が大げさで、元気一杯の女子生徒が、同じ教室で誰かと楽しそうに笑っている情景が浮かんだ。
「同じクラスだとしても、関わりは薄かったでしょうね」
「なっ、なんでですか!?」
唐突な大声に思わず仰け反りながら、私は「だって」と続ける。
「貴女は活発なグループに属してそうじゃない。私は比較的おとなしいグループにいたもの。あまり接点がなさそうじゃない?」
「え〜、そうですかぁ?」
「それに貴女そそっかしいし、色々と巻き込まれたりして大変そう」
そう忌憚なき意見を述べると、隣から小さく唸り声が聞こえてくる。暗くて見えないけれど、
桃がこちらへ身を寄せたのか、ぐいと肩に寄りかかる重みが増す。
「でもでも、そんな私の面倒を見るお姉さんポジだったかもしれませんよ?」
「それ今と変わらないじゃない」
「どういう意味ですか!?」
現在進行形でそそっかしいのだから、学生時代もそうだろうと想像したのだけれど、どうやら本人にその自覚はないらしい。まぁそんなところも桃らしくて、愛おしいのだけれど。
心の内の慈しみは口から出さずに、私の方からも桃へと身を寄せる。たったそれだけなのに、桃の口からは「えへへ」と嬉しそうな声が漏れ出た。
「苺さんはお姉さんだし、私より大人で、尊敬してるんですけど」
「けど?」
私は桃の言葉の続きを促す。
「同い年で対等な関係だったら、きっと苺さんのことを呼び捨てしてたし、タメ口なんかも使ってたんでしょうね」
そう、楽しそうに桃は呟いた。
同級生だったら、確かにそんな過去もあり得たかもしれない。同じクラスで多少なりとも関わりがあれば、敬語など使わずフランクに会話していたことだろう。
けれど、同級生でなくとも。
「私は、今だって対等だと思ってるけど」
その言葉に、もぞりと桃が動いた気配がした。こちらを向いたのだろうか。
「あの、それって……」
「タメ口、使ってみれば?」
きっと暗がりで見えないだろうけれど、私は桃に向けて悪戯っぽく笑って見せた。
「……い、いちご」
小さく、おどおどしながらも、はっきりと私の名を呼ぶ声。
「ん。なあに?」
「……えへへ、苺」
「ふふ、なによ」
戸惑いを含んでいたそれは、すぐさま明るく、弾んだ声に変わった。
見えないけれど、きっと、私の大好きな可愛い笑顔を浮かべているのだろう。
「……好き。苺、大好きだよ。ずっと一緒にいようね」
「勿論。私も大好きよ、桃」
どちらからともなく、布団の中で互いの指が絡まる。指先で、手のひらで感じるその愛おしい体温に、瞼が重たくなってくる。
そのまま私たちは手を繋いで、身を寄せ合って眠りに落ちていった。
◆
「あ、苺さんおはようございます!」
アラームで目を覚まして寝室を出ると、先に起きていた桃が快活に挨拶をしてくる。「……おはよう」とぎこちない挨拶を返して、私はソファに腰を下ろす。
……タメ口、普段使いするわけじゃないのね。
残念に感じたのがなんだか悔しくて、私は窓の外を眺めて小さく溜息を吐いた。
次回は3/7(土)13:00投稿です。