私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君が私の同居人(ペット)?

 狼女の私には大切な家族がいる。

 

 朧げながらも覚えている出会いは、幼い狼だった私が道端で雨に打たれて危うく死にかけていた時だった。

 そんな私を、彼女が保護して家族にしてくれたのだ。

 

 今では恩人であり家族である彼女とアパートで二人暮らし。

 

 ひょんなことから狼女になった私は、人間の身体を活用して社会人である彼女のために頑張って家事などをして生活を支えている。

 

 ――否、支えようと奮闘している。

 

「ただいま〜……なんか焦げ臭いな」

 

 玄関扉がガチャリと開き、愛しい声が聞こえてきた。

 私は家事の手を止めて全力で玄関へ走る。

 そして、迷うことなくその体へ飛びかかるようにして抱きついた。

 

「おかえり、蜜柑(・・)!!」

「ただいまリンゴ(・・・)。もしかして、また料理失敗したのか?」

 

 蜜柑は優しく私を抱きとめて、髪の毛を撫でてくれながら困ったように眉を八の字に下げた。

 "また"という蜜柑の言い方通り、私は料理が壊滅的に下手くそで、狼女になってから何ヶ月も練習しているにも関わらず、一向に上達する気配は見られない。

 私のために外で仕事を頑張ってくれている蜜柑のために、家事くらいは支えてあげたいのだけれど……。

 

「何してもダメダメでごめんね。逆に迷惑かけちゃって――」

「そんなことない」

 

 私が申し訳なさからその場にうずくまって謝ると、蜜柑がすっと腰を下ろしてしゃがみこみ、私の顎に手を添えて顔を上げさせる。

 真っ直ぐで穏やかな眼差しで、にこりと私の大好きな笑顔を浮かべてくれた。

 

「支えようとしてくれるだけで、帰ったらリンゴが居るだけで、私は凄く幸せだよ。だから泣かないで」

 

 そう言って頬に手を添えられ、そっとキスされる。私はこの蜜柑の優しいキスが大好きだった。

 自己嫌悪でいっぱいだった胸の中が幸せで上書きされ、私は思わず蜜柑に抱きついてその豊満な胸に顔を埋める。

 蜜柑は少し恥ずかしそうにしながらも、「リンゴは甘えんぼだな」と受け止めて、手で髪の毛を梳いて甘やかしてくれた。

 

 本当に、私を拾ってくれたのが蜜柑で良かった。

 

 ◆

 

 結局、いつも通り夕飯は蜜柑と一緒に作って食べた。不思議なことに、ちゃんと蜜柑と手順を確認しながら料理するとちゃんとできるのだ。

 レシピはちゃんと見ているはずなのだけれど、不思議で仕方がない。

 片付けを終えてソファで首を傾げていると、お風呂から上がった蜜柑が髪の毛を拭きながら近づいてくる。

 

「お風呂洗いありがとうな。リンゴは掃除丁寧だから気持ちがいいよ」

 

 そう褒めながら、私の髪の毛をわしゃわしゃと撫で回す。本来であれば褒めるところなんて無いはずなのに、蜜柑は些細なことでも褒めてくれるのだ。

 蜜柑が食後休んでいる間に先にお風呂は頂いていたので、私の髪の毛も洗いたてでサラサラ。蜜柑はこのお風呂上がりの私を撫でるのが一層好きなことが、多分私にバレてないと思ってる。

 いつもより緩んだ優しい表情でバレバレなのにね。

 

「どうした、にやにやして」

「んーん、蜜柑に撫でられて嬉しいの!」

 

 蜜柑の腕を引き寄せ、隣に座らせて抱きつく。

 髪の毛や頬を撫で回されて幸せを感じていると、不意に手つきが変わった。

 

 少し躊躇うような、モジモジしているような、そんな手つきで私の頬を撫でる。

 私が顔を上げると、蜜柑は頬を赤く染めていて、目を泳がせてから私をじっと見つめた。

 その扇情的な表情には、覚えがあった。

 

「リンゴ…その、今日も仕事で疲れてるんだ。だから……」

「だから?」

 

 この時だけは、私は優勢になる。

 

 飼われている身、養われている身にも関わらず、私は蜜柑の熱くなった頬に手を添え、意地悪に目を細めて言葉の続きを促す。

 蜜柑は蕩けそうな目つきで、私の手に自分の手を重ねて、いじらしく呟いた。

 

「今日も……気持ちいいの、して欲しい……」

 

 口角が自然と上がり、あまりの愛らしさに破顔してしまいそうになる。

 それをグッと堪えて「もちろん」と蜜柑を抱きしめて耳元で囁いた。

 

 同居人(飼い主)の疲れを癒すのは、同居人(ペット)の務めだ。

 

「ベッド行こっか、蜜柑」

「うん……」

 

 素直で甘えたな蜜柑の手を引いて、私たちの寝室へと向かう。

 私の下で甘い鳴き声を上げる蜜柑を想像しながら、私はこの生活の幸せを噛み締めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「っていう夢を見たんだけど、どう?」

「どうって……」

 

 呆れた顔のミカンは、溜息を吐いて私の髪の毛を撫でた。

 

「林檎、今何時だと思う」

「夜の3時」

「うん、おやすみ」

 

 ぐいと引き寄せられ、ミカンの胸の中に抱かれて強制的に寝かしつけられてしまった。

 

 立場が違えど、結局お互い甘やかしあうのは変わらないのだなと、少し嬉しく思いながら、私は大好きな体温に包まれながら目を閉じる。

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