むわっとした熱気が肌にまとわりつく。汗が玉のように吹き出し、シャツが身体に張り付いた。
夏だから暑いのは当たり前である。問題なのは、ここが家の中という事だ。
「あ"っっっつい!!」
「暑いねぇ……まさかエアコンが壊れるとはね」
扇風機の前に陣取って苛立った声をあげるミカンを、私はソファに寝そべって眺めていた。
エアコンが壊れた。それはこの猛暑日においては致命的な事故だった。
もうとっくに就寝する時間だけれど、夜になっても暑いことに変わりはない。エアコンのない熱帯夜は、じわりじわりと私たちを苦しめていた。
室内温度計は、35度を示している。
「……あーもう無理だ、我慢できん!!」
ミカンが怒声をあげながらTシャツを脱いで床に叩きつける。普段のミカンからは想像もできないような破天荒な行動だが、仕方ない。
実はミカンは私よりも暑さに弱く、堪え性が無いのだ。
冷えピタを貼った首筋や腋下が
ミカンより耐性があるとはいえ、私も辛いものは辛い。特に咎めずにぼぉっと眺めていたけれど……。ショートパンツを脱ぎ散らかし、ブラトップにまで手を掛けたので流石の私も慌てて止めた。
「ちょ、流石に半裸はまずいって!」
「家の中だからいいだろ!」
ミカンは私の制止を振り切ってブラトップも脱ぎ捨て、ボディシートで汗を拭き始めた。目のやり場に困って視線を逸らすが、理性とは裏腹についつい目で追ってしまう自分もいる。
「いくら暑いとはいえ、そこまで?」
私がぽつりと呟くと、ミカンは暑さで真っ赤にした顔を勢いよくこちらに向けた。その目は明らかに正気ではない。
「暑過ぎて、林檎に抱きつけないんだよ!!」
「……へ?」
「このままじゃ林檎とくっついて寝れないだろ! 林檎と寝れないとかふざけてる!!」
沈黙が訪れる。ミカンの荒い息と、扇風機の羽が回る音だけがリビングに響いている。ミカンは肩で息をしていたけれど徐々に自身の発言を理解したのか、顔が青くなって、そして真っ赤になった。
「あっ、えっと……」
「もう、可愛いなぁミカンは」
自然と眉尻が下がり、口角は上がる。顔を真っ赤にしているミカンの髪を摘んで慈しむと、茹で蛸のように顔を赤くして黙り込んでしまった。
逃げるように寝室に駆け込むミカンの背中を見送って、私は冷蔵庫へ向かう。
「氷枕と、タオルと……ん、よし」
タオルに包んだ氷枕を持ってて寝室に向かうと、枕に顔を突っ伏しているミカンがいた。
「それ息苦しくない?」
「……」
答えないミカンの隣に横たわり、お互いの身体の間に氷枕を挟む。脇腹に触れた冷気に気がついて、ミカンが漸くこちらを向いた。
「ほら、これ挟めば少しはマシでしょ」
「……うん」
「明日管理会社の人来てくれるから、直ったら存分にくっつこうね」
「……うん」
珍しくしおらしいミカンに胸をきゅんきゅんさせながら、指先だけで髪の毛を梳く。それだけで気持ちが落ち着いたのか、ミカンは目を瞑って小さく寝息を立て始めた。暑さで体力が削られて、疲労も溜まっていたのだろう。
起こさないようにそっと指を離して、ミカンの整った寝顔を見つめる。
「おやすみ、ミカン」
むわっとした熱気の中、少しの冷気と愛おしい体温を感じながら、私も目を閉じた。
エアコンが直って涼しくなったらミカンと何をしようかな、と明日に想いを馳せながら。
次回は8/30(土)13時投稿予定です