時計の針が進む音と、小説のページを捲る音。
もこもこのルームウェアに身を包んで、ベッドの上で読書に耽る。
そんな私は数十分前から、ずっとミカンに抱きしめられて髪の毛を撫で続けられていた。
「……ふふ」
時折漏れ出るその満足そうな声に、私は甘え半分呆れ半分でミカンに体重をかける。背中に伝わる暖かさと柔らかさに、身体の力が自然と抜ける。
「ずっと撫でてるね。そんなに新しいシャンプー気に入った?」
「あぁ、最高だな。さらっさらだ」
満ち足りた声で答えたミカンは、撫でるだけじゃ飽き足らず私の腰に腕を回して抱きしめ、髪の毛に頬を擦り付け始めた。
すりすりと押し付けられる温もりに、私はいよいよ観念して本を閉じる。
お風呂を出てからずっとこの調子だ。
ドラッグストアで買い物した際、いつものシャンプーとトリートメントが取り扱い終了しており、仕方ないので今までとは別のものを買ったのが数日前。
残量がいよいよ空になったので今日詰め替えて使い始めたのだけれど、以前のものより私の髪質に合う成分だったようで、キューティクルが増してさらさらしている自覚はある。
そして、その撫で心地に陥落したのがミカンだ。
「ふふ、さらっさらだな」
暖かい指が私の旋毛をなぞり、髪束を掬っては流す。それの繰り返し。たまに後頭部に唇を押し付けられている気もする。
私の茶髪は今やミカンの愛玩具と化していた。
「私もミカンみたいに伸ばそっかなぁ」
「今のボブカットも最高に可愛いぞ? まぁ林檎の髪の毛はさらさらで癖がないから、伸ばしたのも見てみたいな」
「そしたらミカンとお揃いのポニーテールにしたいなぁ」
私が身を委ねながらそう呟くと、ミカンは「うーん」と少し小さく唸ると、自分の毛先を摘んで残念そうに眺めた。
「私の髪はくせっ毛だからな。同じポニーテールでも、違う印象になるだろうな」
「えー」
不満げに私は顔を顰めて、体勢を変えてミカンの胸に顔を埋める。ボディーソープの匂いとミカン自身の匂いが混ざって心地いい。なんだか身体の力が抜ける気がする。
ミカンはそんな私を嬉しそうに抱きしめて、背中に手を添え、後頭部を優しく撫で始めた。
さらさらと髪を無言で梳き続けていたミカンが、ぽつりと呟く。
「明日、一緒に風呂に入りたい」
「ん、もちろんいいよ」
「……林檎のシャンプー、私がやっていいか? 最近一緒に入れてなかったから、林檎の身体お手入れさせてくれ」
「お手入れって……言い方がなんかえっちくない……?」
「林檎の脳内変換がいやらしいだけだろ」
「ぐ……反論できない……」
言い淀む私をくすくす笑って、ミカンが私の頭頂部に鼻を擦り付ける。すりすりと鼻先が押し付けられ、髪の匂いを嗅がれている。
私も負けじとミカンの胸元に顔を押し付け、ぐりぐりと甘えた。
「……林檎」
「ん? なぁに」
「……大好きだ」
旋毛に囁かれた愛の言葉に、びくんと肩が跳ねてしまう。
「……不意打ちずるい」
「ふふ、ずるくない」
「……私も大好き」
もごもごと胸元にお返事すると、ミカンの擦り付きが更に激しくなる。私はもうされるがまま、大人しく抱きついて身体の力を抜いた。
目を閉じて、髪を梳き続ける指と手のひらに感覚を研ぎ澄ませる。
明日のお風呂でこの指に優しくお手入れされることを想像して、それはきっととても気持ちいいのだろうなと心待ちにしながら、