ふと、天井が視界に映る。
まだ朝日すら弱く、部屋の中は薄暗い。隣からはまだミカンの寝息が静かに聞こえてくる。
細く開いた窓からは、ひんやりとした空気が流れ込んできていた。昨日の夜閉め忘れたのかもしれない。
やけにすっきりと目が覚めてしまった。二度寝する気分にもなれないので、ミカンを起こさないよう静かに抜け出してリビングへ向かう。
コーヒーでも飲もうかと思ってコーヒーマシンへ手を伸ばしかけて、流石に嫁が寝てる時に騒音を立てるのは控えようと思いとどまり、小鍋でお湯を沸かしつつインスタントコーヒーを用意する。
最近すっかり秋模様になり、空気が澄み始めている。食卓について熱いコーヒーを冷ましながらぼんやりと仄暗い窓の外を眺めていると、寝室からミカンがトボトボ出てきた。まだ眠たそうに目をしばしばさせている。
「おはよ」
「おはよう……寝返り打ったら林檎がいなかった……」
体重をかけるように抱きついてくるミカンの背中を撫でつつ、空いた片手で寝癖をなでつけてあげる。ぴょこぴょこ跳ねてて可愛い。
しばらくそうして満足したのか、キッチンで自分のコーヒーを淹れてきたミカンが隣に座って啜り始めた。
「朝日昇るの随分遅くなったな。薄暗いから曇りかと思った」
「天気はいいみたいだよ。折角だし、朝のお散歩でも行く?」
私の提案に、コーヒーを飲んだまま少し考えるミカン。ことりとマグカップを置いて一息つくと、「いいな」と呟いた。
「この前は真夜中にお散歩したよね。私たちお散歩好きだね」
「楽しいからな。夜中とか明朝なら人通りも少ないし」
手早く着替え、帽子を被ったミカンと手を繋いでアパートを出る。秋の朝は思ったよりも空気が冷たくて、私とミカンはどちらからともなく身を寄せた。
深呼吸すると、すっきりした空気が鼻を通って体の芯を冷やす。これが冬になると、もっと鼻の奥がツンとするほど冷たい空気になるのが、毎年の些細な楽しみだったりもする。
「朝は空気がいいねぇ」
「ん、まだ金木犀の匂いが少し残ってるな」
「向こうの公園のとこに、大きい金木犀の木あったよね。行ってみよっか」
昼間は人通りの多い道も、明朝は流石に人通りが少ない。耳と尻尾を隠しているとはいえ、人目が少ないに越したことはない。ミカンもこうして人が少ない時間帯の外出は心なしか目線が高い気がする。
ひんやりした風が落ち葉をカサカサと転がすの横目に、徐々に金木犀の木が見えてきた。
「相変わらず大きいねぇ」
「年々伸びてるよな。手入れはしてるんだろうが」
手を繋いだまま木陰に足を踏み入れると、オレンジ色のカーペットが広がっていた。
風が吹くとぽろぽろと新たに花弁が降ってきて、地面のオレンジ色が更に濃くなっていく。
「綺麗だねぇ〜!」
「鮮やかだしいい香りだし、いいよな」
「ね。今度ポプリとか探してみよっか」
そんなことを話しながらぷらぷらと公園内を闊歩していると、不意にミカンが大きな欠伸をした。ミカンはあまり口を開けて欠伸しないので、レアだと思いついついガン見してしまう。
私の視線に気がついたミカンは、恥ずかしそうに慌てて口を閉じて残りの欠伸を噛み殺した。
「早起きだったもんね。帰って二度寝する?」
「んー……、するけど、炊飯器だけセットさせてくれ」
「はーい。お昼ご飯なぁに? お休みの日だし楽してもいいけど」
「昨日の煮物残ってるから、おかずはそれ」
「あれ美味しかったから嬉しい! いつもありがとうね」
ぎゅうと手を強く握って見上げると、眠たげな目でにこりと微笑み返してくれるミカン。そのまま手を繋いで、私たちは公園を後にする。
金木犀の香りと秋の空気に包まれて、少し朝日が昇って明るくなりつつある家路を並んで歩いた。
「二度寝、寝巻きに着替える?」
「そのままでいいだろ……今度は起きた時隣にいてくれよ」
「ふふ、はあい」