私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君と昼寝日和

 ベランダから青空を見上げるとお日様が眩しくて、私は思わず目を細めた。

 同時に柔らかな暖かさに眠気が刺激され、私は柵に腕を預けて瞼を閉じる。

 遠くから聞こえる踏切のリズム、雀の囀り、近隣住民の庭の花の香り、今まで意識していなかったそれらが、一気に身近に感じられた。

 

 やはり人間は五感のうちどれかを封じると、他の感覚が敏感になるんだなぁと実感する。まぁそうだよね、だから夜の営みも電気消すんだよね。

 

「おーい寝るなよ。早く取り込んでくれ」

「……はーい」

 

 部屋の中から声をかけられ、私は渋々瞼を開いた。何も急かさなくったっていいじゃんか。ミカンのせっかちー。

 

 ベランダに吊るされた洗濯物を回収し、籠に放り込んでいく。布巾、タオル、私の私服、仕事服、ミカンの私服、私の下着、ミカンの……。

 

「理不尽だよなぁ」

 

 ミカンのブラジャーを自分の胸に当て、その差に絶望する。この前もちょっとキツくなってきたとか言ってなかった? 私なんて中学生のころから成長してる気がしないんですけど!? どうして豊満の神は私に微笑んでくれないの!?

 

「何してんだ馬鹿!」

 

 後ろから叩かれてはっと我に返り、振りかぶった右腕を下ろす。もう少しでこのブラを外に投げ捨てるところだった。後頭部をさすりながら他の洗濯物もすべて取り込み、それなりの重さの籠を抱えてリビングの中央へ運ぶ。ふぅと一息吐き、もう一度ベランダに戻る。

 次は布団類を取り込むのだ。バランスを崩して転ばないよう気を付けながら布団を抱きかかえ、リビングに運び込む。そして、倒れこむように取り込みたての羽毛布団にダイブした。

 

「あーお日様の匂いするー」

「……寝るなよ。もう昼ご飯できたから」

「ミカンもおいでよー」

「……炒飯が冷めるじゃないか」

 

 口では咎めながらも、結局私が伸ばした腕の中に身を委ねてくるミカン。胸元に埋められた灰色の髪の毛を撫で、私は目を瞑った。

 

 お日様の匂い、背に差すお日様の暖かさ、胸元の温もり。身の回りの要素すべてが、まるで私に昼寝を促しているようだ。まずい、このままでは本当に寝そうだ。

 

「ミカン、ご飯食べよ。……ミカン?」

 

 少し体をのけぞらしてミカンの顔を覗き込むと、そこには瞼を閉じて寝息を立てる美顔が。

 

(起こすのも悪いよね……)

 

 私はそっと腕の中の同居人を抱きしめ、その耳元で囁いた。

 

「おやすみ、ミカン」

 

 ◆

 

「林檎の馬鹿、炒飯冷めたじゃないか!」

「ミカンが爆睡しちゃうからでしょ!?」

「起こしてくれよ! 折角の炒飯が……」

 

 すっかり冷たくなった皿を前に、ミカンの尻尾が悲しそうに項垂れる。

 

「大丈夫だよ。ミカンの炒飯は冷めても美味しいから」

「そんな調子の良いこと言ってもチャラにならないからな」

「ちぇ」

 

 考えを見透かされ、私はわざとらしく拗ねたように唇を突き出した。

 

「まったく……ふふ」

「えへへ」

 

 温めなおした炒飯はやっぱり美味しくて、二人で顔を見合わせて微笑むのであった。

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