私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君と週末の介抱

「なんで私はいっつも失敗ばかり……うぅ……」

「林檎、もう何本目だ。そろそろやめておけ」

「うぅ……ミカンもこんな女やだよねぇ……」

「や、そんなこと……」

 

 ◆

 

 小鳥が囀る爽やかな朝が来た。が、気分は最悪だ。

 

「あだまいだい……」

「ビールの飲みすぎだ、阿保」

 

 ソファに丸まって横たわる私を見下ろし、ミカンは呆れたように肩を竦めた。私よりも背が10cmほど高いミカンが、今日は一段と大きく見える……。あ、私が寝転がってるからか。駄目だ、頭が回らない。

 

「あのな、仕事で疲れてるのは分かってるが、いくら翌日が休日だからって――」

 

 ミカンの説教が頭に響き、私はまた呻き声をあげる。そんな私にミカンは深く溜息を吐くと、台所へと姿を消してしまった。腰から伸びる尻尾が力なく垂れ下がっているのを見て、流石に怒っただろうか、と反省する。

 このやり取りはほぼ毎週末に繰り返されるものだが、いい加減愛想をつかされたかもしれない。

 

(謝らなきゃ……もしミカンに見捨てられたら……)

 

 先日上司に激しく怒られた記憶がフラッシュバックした。それに恐怖心を煽られ、私は壁を伝うように、おぼつかない足取りで台所へと向かう。

 壁からこっそり顔を出して様子を伺うと、ミカンはしゅんと耳と尻尾を垂らしながら何かを作っていた。

 

「ミ、ミカン……」

「台所じゃなくて、部屋に行け」

 

 その素っ気ない物言いに、私は何も言い返せずにふらふらと自室へと足を運んだ。道中何度か足がもつれ、転びそうになる。頭の中は不安でいっぱいだった。これも、二日酔いのせいだろうか。

 ミカンと一緒に使用している自室。二人で寝るには狭いが、一緒に寝ているシングルベッド。ミカンはいつも私が落ちないようにと、私を壁側にしてくれる。

 朝日が降り注ぐベッドにごろりと寝転がり、ぎゅうと羽毛布団を抱きしめた。

 

 ――ミカンの匂いがする。胸の奥が温かくなる、優しい匂いだ。

 

「何をそんなに布団を嗅いでるんだ」

「っ!!」

 

 咄嗟に布団を手放し上体を起こすが、頭痛でぐらつき、またベッドに横たわってしまう。そんな私を見て、ミカンはまた肩を竦めた。

 ……ふと、ミカンがお盆に何か乗っけていることに気が付く。

 ミカンがお盆をミニテーブルに置くのを眺めながらなんとか起き上がり、ベッドの脇に腰を掛けると目の前にお椀が差し出された。

 

「しじみのお粥。二日酔いにはしじみが効くらしいからな」

「怒って……ないの?」

「怒ってるに決まってるだろう」

 

 むすっと顔をしかめたミカンからゆっくりお椀を受けとる。口に運ぶとほんのり温かく、猫舌の私でも食べやすくなっていた。

 

「毎週のように心配かけさせやがって。さっさとこれ食って回復しろ」

 

 その優しさの詰まった言葉に、頭の痛みがふっと軽くなる。お椀をテーブルに置き、私の隣に腰を下ろしたミカンに抱き着いた。

 ミカンの大きな胸に顔をうずめていると、温かな手が私の頭を優しく撫でる。

 

「……酒臭い」

 

 そう言って引き剥がされるまで、私はミカンに包まれていた。

 小鳥囀る爽やかな朝、気分は最高だ。

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