二人の同棲はこれからも変わりなく続いてきます。
大好きな声に名前を呼ばれながら、身体を揺すられて目を覚ます。毎日のように体験していることだが、未だにその幸福感は薄れる気配がない。
顔を洗って寝癖を直して、スーツに着換える。
他のOLに比べて化粧する手間がないのは、睡眠時間アップに直結するので割とうれしい。
まぁ同僚らにそんなこと言ったら憎悪のこもった眼差しを向けられるだろうから、絶対言わないけど。
「おはよーミカン」
「おはよう。今日の弁当はハンバーグだぞ」
「あ、昨日作ってたやつか。やった!」
昼休憩の楽しみができたことに心を躍らせながら、用意されていた朝ご飯を食べ始める。
「いただきます」
「はい召し上がれ」
今日の献立は白米、チンジャオロース(昨夜の残り)にワカメと豆腐の味噌汁。
ミカンの作る味噌汁はいつも美味しいが、私はこのワカメと豆腐の味噌汁が特別好きだ。
それを知ってか、朝食に高確率で出されるのはこの味噌汁である。
時間を気にしつつ、向かいの席で一緒に朝ごはんを食べるミカンと談笑するのが、毎朝の日課。そして、今日もミカンの為に頑張って働くぞと、一日のやる気を充電するのだ。
大好きなミカンと幸せに暮らすためなら、私はどんなに辛くても頑張れる。
◆
私はいつも決まった時間に朝飯を作り終える。というよりは、決まった時間に作り終えるように心がけている。
林檎の毎朝の生活リズムを整えるためだ。
「ほら林檎、起きろ」
布団にくるまって緩み切った顔をしている林檎の身体を揺すり、起きるように言い聞かせる。
林檎は一度起こせばきちんと目を覚まして身支度を始める。寝起きの良さは小学生の頃から今に至るまで健在だ。
朝飯と並行して作っておいた弁当を詰め、林檎が朝飯を食べ始めると、その向かいに腰を下ろす。朝飯は必ず一緒に食べるというのが、私と林檎の約束だ。
美味しい、と嬉しそうに私の作った料理を口に運ぶ林檎と談笑していると、胸の奥がとても暖かくて幸せになる。
「ごちそうさま! 今日も美味しかったです」
「お粗末さま」
私にできることは家事くらいしかないから、林檎が喜んでくれるなら、これからも料理の腕を磨き続ける。
大好きな人の為なら、私はいくらでも頑張れる。
◆
食後のコーヒーを飲み終え、私は玄関で靴を履いた。ミカンから鞄を受け取り、よしと声に出して自分に喝を入れる。
「気をつけてな。あと、帰りに卵と食パンを頼む。あとでメッセージも送っとくから」
「分かった、いってきまーす」
ミカンに手を振ってドアノブに手をかけ、私はふと妙案を思いついた。振り返り、不思議そうに首を傾げるミカンに近寄る。
そしてその頬に手を伸ばし、こちらへ引き寄せた。
「ちょっ……んむっ」
「んぅ……えへへ。行ってきますの、チュー」
不意打ちに怒ってるのか照れてるのか、むすっと私を睨むミカンに、わざとらしく舌を出して微笑んだ。
「……明日からは私がする」
「あはは、楽しみにしてるね」
今度こそ、と手を振ってドアノブに手をかける。視界を照らす日差しに少し目を眩ませて、私は歩き出す。
大好きな人の為に、今日も頑張る。