強まり始めた日差しで目を覚まし、枕もとのスマホを手繰り寄せて画面をつけると、そこ表示された時刻を確認した。
「……もう九時じゃん」
体を起こすと頭を鈍痛が襲う。私はうめき声をあげながら頭を押さえてベッドから身を下ろした。
そういえば、昨日はビール飲みまくって酔ったままミカンとえっちしたんだったと、Tシャツに袖を通しながら思い出す。
ミカンはもうすでに起きていたようで、私が着替えを終えてリビングに向かうと、台所で鼻歌を歌いながら朝食を作っていた。この匂いは、前作ってくれたしじみのお粥だ。
私が二日酔いだということを見越して作ってくれていたのだろう。ミカンの優しさに心が温かくなる。
「ミカン、おはよ」
「おはよう。やっと起きたのか」
エプロンを身に着けたミカンの傍によると、焼きあがったばかりの卵焼きが目に留まる。相変わらず綺麗に整った形で、それはただそこにあるだけで私の口の中を唾液で湿らせた。
そんな私を見てミカンが微笑を浮かべる。
「……一つ先につまみ食いするか?」
「する!」
「ほれ、口開けろ」
ミカンの好意に甘えて、卵焼きを食べさせてもらうために私は口を開けた。しかし、数秒の沈黙のあと、ふいにミカンにキスをされた。びっくりして私は間抜けな声をあげてしまう。
顔を離したミカンは、自分からしたくせに頬を朱色に染めていて、それを誤魔化すように私の口に卵焼きを無理やり突っ込んだ。
「どしたのミカン」
卵焼きを飲み込み私が訊ねると、ミカンは恥ずかしそうに朝食の準備をしながら小さく呟いた。
「林檎が可愛くて……つい」
「もうミカンてば、朝からお盛んなんだからー」
「お盛んとか言うな、馬鹿」
軽く頭を小突かれ、お互い顔を見合わせて微笑んだ。
私はミカンの朝食の準備を手伝おうとしたが、ミカンに「二日酔いは大人しく座って待ってろ」と言われてしまい、今は素直にソファで待機している。
窓から差し込む日差しに温もりを感じながら、今日一日の予定を考える。
(そういえば駅前に新しいクレープ屋できたらしいし、ミカンと一緒に……あ、ミカン甘いのあんまりだったっけ)
私は振り返り、お盆をもって食卓へ向かうミカンに声をかけた。
「ねぇミカンって甘いの苦手だっけ?」
「んー? あぁ、駅前のクレープか」
「あれ、知ってたの?」
「この前チラシが入ってたからな。別に林檎が行きたいなら、付き合うぞ」
「だけど、それじゃミカン食べれないんじゃ……」
「私は林檎と一緒に出掛けられるだけで満足だよ」
でも、とミカンが続ける。
「二日酔いは大丈夫か?」
朝食の並んだ食卓につくと、向かいのミカンは心配そうに眉を下げて訊ねてきた。確かに二日酔いで頭は痛い。しかし、ミカンの作ってくれたしじみのお粥を食べてしばらく休んでればすぐに良くなるだろう。
そう伝えると、ほっとしたようにミカンは微笑んだ。
「じゃ、昼過ぎにでも行こうか」
「うん!」
◆
「ほらミカン、一口あげる」
「ん、ありがとう」
苺ホイップのクレープを一口齧ったミカンは数度咀嚼した後、驚いたように目を見張ると、柔らかに頬を緩めて呟いた。
「美味い……私も折角だから買おうかな」
結局ミカンも一つクレープを買って、日当たりのいいベンチに肩を並べて腰を掛けた。そして、この後どうしようかと会話に花を咲かせる。
ミカンと過ごすこんな日々が、幸せでたまらない。
「林檎、口の端についてるぞ……ほら」
「えへへ、ありがと」