目の前が、真っ暗になった。
絶望する傍ら、頭の片隅では、これは比喩ではなく本当に視界が暗くなるのだと感心さえしていた。
私が帰ってくると、君はいなくなっていた。
仕事の疲れを癒してもらおうと急いで帰ってきたのに、君はいなかった。その事実に、思わずその場にへたり込んでしまう。何も考えられなくなる。大げさと言われるかもしれないが、それくらい、私にとっての心の支えだったのだ。
とはいえ、自分が受けたショックは予想以上のものであった。自分で思っているよりも依存していたのだと、失って初めて気が付いた。
……早く君を見つけに行かなければ。頭では分かっていても、身体が動かない。心に受けたショックに加え、さらに身体には月曜日からの一週間分の疲れが蓄積している。心身ともにズタボロになった私に足には、中々力が入らなかった。
数分間かけてなんとか冷蔵庫に手をついて立ち上がる。そのままとフラフラと足を進め、リビングのソファに腰をぼすんと下ろした。それだけでどっと疲れ、私は深く息を吐いた。
「どうしよう……」
頭を抱え、私は歯を食いしばった。もちろん、今すぐに君のもとへ駆け出したい。しかし、何度も言うが疲労が溜まりすぎて動き回れる気がしない。今この状態で外に出ようものなら、そのまま力が尽きかねない。行きたいけど行けない、そんなもどかしい状況に、自分への苛立ちがだんだんと募っていく。
そもそも悪いのは私なのだ。もっと早くに気が付いていれば、こんな事態にはならなかったはずだ。自分の至らなさに、私は下唇を噛みしめた。私はいつだってそうだ。仕事でも日常生活でも、鈍感ですぐに大事なことを忘れる。いい加減、うんざりだ。
あぁ、こうしている間にも、私の体はますます動きが重くなっていく。最早、立ち上がることさえできない。君がいないことが、こんなにも苦しい。そして、そんな君に気を配ってやれなかった自分が、ふがいなくて仕方がない。私はうなだれ、強く願った。
神様、どうかお願いです。もう一度だけ、チャンスをください。もう一度、やり直させてください。今度こそちゃんと気を付けるから、もう同じ過ちは繰り返さないから……!
君がいないと、私は駄目なんだ――。
◆
「……さっきから何をしてるんだ、お前は」
「ビールが、なかった……」
「そうか」
「先週飲み干したの忘れてた……」
「買って来いよ」
「疲れすぎて無理……」
「……」
「金曜だから、帰宅即ビールしたかったのに……」
「諦めろ」
「ビールがないと、私死んじゃう……」
「このアル中め……」
結局、ミカンがコンビニで買ってきてくれた。