私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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2020/10/28
タイトルを変更しました


君しか知らない私の愛情(前編)

 雨粒が傘を叩く。

 苺さんと肩を並べて駅へ向かっていると、帽子を深くを被った女性が前から歩いてきた。

 すれ違いざまに視界に映った、揺れるグレーアッシュの雑なポニーテール。

 その瞬間、私の中で妙な既視感が湧き出し、思わずその人を振り返ってしまった。

 学生の頃に、あの人をどこかで見たことがある。そんな、気がした。

 

 揺れる、灰色の毛の、尻尾――

 

「? 桃、どうしたの」

「……いえ、なんでもないです」

 

 まさか、ね。

 

 ◆

 

 耳に届いた入店音に、私は視線を上げる。

 

「お待たせ、林檎」

 

 そう言いながら、私の最愛の同居人が頭を撫でてくる。

 

「ううん、お迎えありがとう」

「春野桃はもう帰ったのか?」

「うん、新田先輩と一緒に帰ったよ」

「……なんでそこで新田苺が出てくるんだ?」

 

 新田先輩の登場に困惑してるミカン。まぁ、そうなるよね……。

 これ以上居座るのも気が引けるので、私たちは一先ず店を出た。

 

「はい、林檎の傘」

 

 手渡された傘を受け取り、少し悩んだ末、私はそれを広げないままミカンの腕に抱き着いた。

 そんな私を戸惑ったように見つめるミカンの顔を見上げながら、私は微笑んだ。

 

「ミカンの傘に入れてよ。相合傘しよっ」

「……まったく、仕方ないな」

 

 そミカンは呆れたような笑顔を浮かべて、傘をさした。

 

 事のあらましを説明すると、ミカンは微妙な表情をして溜息を吐いた。

 

「なんか……世間て狭いんだな」

「ほんとだよ……」

 

 身近な人物の意外な繋がりに改めて驚きを感じながら、私はちらとミカンの顔色を窺った。

 いつもは新田先輩の名前が出ると顔をしかめるのに、今日はなんだか、平気そうだ。

 

 私の視線に気が付いたのか、ミカンと目が合う。

 

「なんだ、じっと見つめて」

 

 少し頬を赤くしながら訊ねてくるミカンに、私は素直に答えた。

 

「んーん、いつもは新田先輩の名前聞くと嫌そうにするのに、今日はしないからどうしたんだろうって」

 

 その言葉に、ミカンは真剣な顔で私を見つめてきた。

 不意にミカンが歩みを止める。腕に抱き着いていた私は、間抜けな声を出して体勢を崩してしまう。

 体勢を直した私を、ミカンはなおもじっと見つめてくる。

 ミカンの言葉を待って黙っていると、少ししてから、ミカンが空いている方の手で私の頬に触れてきた。

 

「私はな、もう決めたんだ」

 

 ミカンと視線を絡めあい、私はミカンの腕に抱き着く力を強める。

 

「……なぁ、林檎が一番好きなのは、誰だ?」

 

 不意に問われ、戸惑いながらも私は即答する。

 

「そんなのミカンに決まってるじゃん」

「あぁ、知ってる」

 

 そう言って、微笑むミカン。

 その微笑みは、新田先輩と私のことを心配していた時のような弱い笑みではなく、自信に満ちた力強い笑みだった。

 

「上司だろうが、親友だろうが知ったこっちゃない。林檎が私から離れたらどうしよう、なんて、もう不安がるのは辞めたんだ」

「ミカン……」

「林檎が一番好きなのは私で、私が一番大好きなのは、林檎だ」

 

 身体を折ったミカンに、優しく口付けをされる。

 ミカンの言葉と唇の余韻に暫く(ほう)けるも、ここが道端であることを思い出して、私は慌てて辺りを見渡した。

 幸い、周りに人はいないようだった。いたとしても、雨音でこちらの声は聞こえないだろうが。

 

「だからもう、いちいち新田苺に張り合ったりしないよ。林檎が私を一番だと言ってくれてる間は、な」

 

 イタズラっぽく微笑むミカン。私は堪らず、最愛の同居人(ペット)に抱きついた。胸元に顔を埋める。大好きな匂いが胸いっぱいに広がる。

 

「何があっても、ずっとずっと、ミカンが私の一番好きな人だよ」

 

 私は顔を上げ、こちらに向けられた優しい瞳を見つめ返し、

 

「ありがと。私を心から信じてくれて」

 

 背伸びをし、ミカンと唇を重ねた。

 

「これからもずっと一緒にいようね、ミカン」

「あぁ、勿論だ。愛してるよ、林檎」

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