私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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忘れた頃にマークII
2023/10/11 タイトルを変更しました


君の元カノと私

「あ? "桃ちゃん"じゃん」

 

 突如名前を呼ばれ、私はびくりと肩を震わせる。

 駅前の喫煙所前は煙たくて、それが苦手で、私はいつものようにそこを足早に通り過ぎようとしていた。そんな時に、喫煙所から私を呼ぶ声が……。

 私が恐る恐る振り返ると、女性が一人、タバコを灰皿に押し付けてからこちらへ向かってくる。すらっと背が高く、派手な金髪をひとつに結んでいるその人には、見覚えがあった。

 

「……あれ、あってるよな?」

 

 不安そうに再度訊ねてきたその女性は、苺さんの元カノ――三枝柚子さんだ。

 

 苺さんに帰りが遅くなる旨の連絡を入れ、スマホを仕舞う。

 

「連絡できました」

「お、んじゃ行くか」

 

 そう言うと壁から背を離し、私の半歩前を歩き出す三枝さん。なんでも、私とゆっくり話がしたいらしい。良い人だというのはなんとなく分かっているが、やはり見た目と言葉遣いに、やや萎縮してしまう。

 

「や、この前は悪かったな。急に押しかけたりして」

 

 肩越しにこちらをちらと見て、申し訳なさそうにする彼女に、私は慌てて否定をした。

 

「いえとんでもないです。その、三枝さんのおかげで、良いこともありましたから」

 

 三枝さんの来訪をきっかけに、私達はお互いの秘密を打ち明け合い、更に親密になれたのだ。それに、こんな言い方は失礼かもしれないが、苺さんの態度を見るに、三枝さんとヨリを戻したりすることは無いだろうなと、勝手に安心していた。

 

「柚子でいいよ。アタシも桃ちゃんって呼んでるしな」

「分かりました……柚子さん」

 

 そう呼ぶと、柚子さんは満足そうに頷いた。

 

 ◆

 

 柚子さんに連れられてやってきた場所には見覚えがあった。

 

「あれ、ここって……」

 

 確か、苺さんと以前来たバーのはずだ。ここで互いの思いを伝え、晴れて私達は恋人となれた。そんな、思い出の場所だ。

 でもなんで、柚子さんが私をここに……?

 私が戸惑っていると、柚子さんは慣れた様子で扉を押し開ける。チリンチリンとドアベルが軽やかな音を奏で、それに気がついたバーテンダーさんがこちらを振り向いた。ショッキングピンクの派手な髪の毛には、やはり見覚えがあった。

 そんなこと思っていたら――

 

 ダァン!!!

 

 私はその場で飛び上がってしまう。

 突如として鳴り響いたその爆音は、バーテンダーさんが磨いていたグラスをカウンターに叩きつけるように置いたことによるものだった。

 般若の面のような形相で睨みつけられ、私は咄嗟に柚子さんの背中に隠れてしまう。おかしい、前来た時と様子が違う!

 怯える私を庇いながら、柚子さんは諭すようにバーテンダーさんに話しかける。

 

「バカ、勘違いすんなって。この子をよく見ろ」

 

 そう言いながら、私を前に突き出した。眉間に皺を寄せたバーテンダーさんに再度睨めつけられる。うぅ……怖い……。

 と、不意にバーテンダーさんの表情が憤怒から驚愕へと移り変わった。

 

「貴女……前来てたお客さん?」

「えっと、はい。私の事覚えてるんですか?」

 

 特に目立つようなことはしていないと思うけれど……いや、店内で告白してたな……。

 しかしまた別の理由があるようで、バーテンダーさんと柚子さんは苦笑を浮かべる。

 

「そりゃ、まぁ」

「一緒に来てた相手が、な」

 

 その言葉に、私の脳裏に苺さんの笑顔が過ぎる。「桃ちゃん」と柚子さんに呼ばれ、顔を上げた。

 柚子さんは私とバーテンダーさんの間に入るように立つと、こちらを向いて改まったように口を開いた。

 

「アタシは三枝柚子。知っての通り、大学生の時の苺の元カノだ」

 

 そして、バーテンダーさんをちらりと横目で見ると、バーテンダーは頷いて私に微笑みを向けた。

 

「私は宮澤花梨(かりん)。高校生の時の苺の元カノです」

「……えぇ!?」

 

 私が困惑を隠せずにいると、柚子さんは悪戯っぽく、にやりと笑った。

 

「つまりここは、新田苺の毒牙にかかった同盟ってことだ」




続きます(続くはず!)
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