私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君と私の新婚旅行②

 旅館周りの散策から戻った頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。

 こんな自然の中を歩く機会がなかなかないので、私もミカンも随分歩き続けてしまったのだ。慣れない山道で少し足が痛いが、それでも楽しさの方が圧倒的に勝っている。

 

「はー、楽しかったねぇ」

「そうだな。空気が美味しいし、景色は綺麗だし。明日も時間あったら歩こうか」

 

 部屋に戻って一息つきながら談笑していると、廊下から足音が聞こえてきた。時計を見ると、そろそろ女将さんが夕飯を持ってくると言っていた時刻だ。私が目配せをすると、ミカンは広縁の椅子に移動する。わざわざ覗き込まれない限りは、襖の影になって見えないはずだ。

 ミカンが広縁に消えると同時に、女将さんの声がかかる。襖を開けて通すと、早速配膳を始めてくれた。

 

「わぁ、全部美味しそう……!」

 

 並べられていく豪華な料理の数々に思わず私が声を漏らすと、女将さんは嬉しそうに微笑みをむけてくれる。

 

「ありがとうございます。お酒もありますから、どうぞゆっくり召し上がってくださいね」

 

 そう言って置かれた瓶ビールに、私は一層目を輝かせる。懐石料理を食べながらのビールなんて、絶対に美味しいに決まってるじゃないか。

 

 一通り配膳を終えた頃、女将さんは少し不思議そうに部屋を見渡して尋ねてくる。

 

「あら、お連れ様は?」

「あぁ、奥で寛いでるので、お気になさらず」

 

 にこりと笑いながら答えると、女将さんも「左様でしたか」とそれ以上深入りしてくることはなかった。

 

「この時期にいらっしゃる方はなかなか珍しいのでね。本日はお友達でご旅行ですか?」

 

 手際よく作業しながら、機嫌良さそうにそう尋ねる女将さん。私はいつものように「そうですね」と答えようとして、一度口を噤んだ。

 そして、首を振ってから答える。

 

「いえ、新婚旅行です」

 

 広縁の方で、小さく物音がする。女将さんはこちらを見つめて驚いたように目を丸くしていたけれど、すぐに目を細めてにこりと微笑んでくれた。

 

「左様ですか。そんな大事な旅行の行き先に選んでいただいて光栄です。どうか、末永くお幸せに」

「はい、ありがとうございます」

 

 配膳を終えて出ていく女将さんにお礼を述べ、足音が聞こえなくなってから、私は広縁に向かって声をかける。

 

「ミカン、もう出てきて大丈夫だよ。ご飯食べよ」

 

 すると、ミカンが恐る恐る広縁から顔を覗かせた。頭にタオルをかぶって、端を握りしめている。万が一に備えて耳を隠していたのだろうが、あまりにもポーズが可愛すぎる。無言でスマホを向けてパシャリと撮ると、おいと短く怒られた。

 なんだか顔が赤いミカンに「どうしたの?」と聞いても、「なんでもない」と誤魔化されてしまい、私は肩をすくめながら料理の前に腰を下ろした。向かい合って座るミカンはまだぶつぶつと、「なんであんな、ストレートに……」と文句を言うように呟いている。

 

「もー、ほら食べよ食べよ」

「むぅ……そうだな、頂こうか」

 

 ミカンを促して、「いただきます」と手を合わせてから、私たちは箸を手に取った。どれから食べようか散々迷ってから、私は素敵な照りを放つ煮付けから食べることにした。

 

「ん、このお魚の煮付け美味しいねぇ!」

「これか? ……おぉ、確かに美味いな。今度家でも作ってみようか」

「やったー! 楽しみにしてるね!」

 

 色んな品を食べる度にそんな会話をしながら、私たちはあっという間に平らげていった。

 

 結構量があったのに、全部食べてしまった。丸くなったお腹をさすりながら、座椅子に背を預けて寛ぐ。お膳ももう下げてもらったし、あとはのんびりするだけだ。ミカンも私の肩に頭を預けてぼぅっとしている。

 窓の外に目を向けると、もうすっかり暗くなっている。ちらりと見える星空に、胸が高鳴った。

 私は「よし」と声を出しながら座椅子から立ち上がる。ミカンは頭を持ち上げて、少し眠たそうな目で私を見上げた。お疲れのようだけれど、メインイベントはこれからなのだ。

 ミカンに手を差し伸ばして私は言った。

 

「本物の温泉、入りにいこっか」

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