私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君の可愛い指先

 助けてください、絶賛ミカンが不機嫌です。

 

 私はソファに座りながら、どうしたものかと心の中で唸った。隣では、ミカンが私の右手を掴んで指先をずーっと凝視している。

 指先と言うより、爪か。

 

「ね〜、機嫌直してよ〜」

「……」

 

 もう十数分はこの状態だ。原因はとっくに分かっているのだけれど……。

 事の発端は、帰宅時に遡る。

 

 ◆

 

「おかえり……その爪どうした?」

 

 まさか帰宅して早々、靴を脱いでる時点でバレるとは思わなかった。私はミカンの鋭さに少しビビりつつも、私をよく見ていることを嬉しく思う。

 だけど、ちょっと今は都合が悪いかもしれない……。

 

「あー、同僚に、やってもらったの」

 

 自分の爪を見ながらそう答えた。私の爪は今、淡いピンクで彩られている。

 仕事の休憩中に、私がメイク道具やそういったオシャレ用品を全く持ってないことを話したら、勿体ない、と手持ちのマニキュアを塗ってくれたのだ。

 それだけだから、別に問題ないと思ったのだけれど……。

 

「爪に色がついただけの割には、妙に焦って目が泳いでる……さては新田苺だな?」

「鋭いね!?」

 

 図星である。

 淡いピンクだから自爪の色と似てるし、あわよくばバレないか、バレても同僚にやってもらったと誤魔化し通すつもりだったのに……私ってそんなに分かりやすいのかな?

 ぐぬぬと唸っている私から荷物を取り上げ、「着替えてこい。ご飯の用意する」とすたすた歩いていってしまった。やっぱり怒っているのだろうか……。私ははぁと溜息を吐きながら、着替えるために寝室に向かった。

 

 美味しい夕ご飯を食べ、2人ともお風呂を上がり、ソファでゆったりとした一時……と思いきや、今こうして手を掴まれて爪を凝視されているという訳だ。いつもに比べて口数も少ない。

 けれど、妙に引っかかる。

 苺さんにマニキュア塗られて怒ってる割には、何故かそれをずっと見ている意味が分からない。落とした方がいいかなと思って聞いてみたけど、「そのままでいい」と言われてしまった。

 気に食わないなら全然除光液で落とすんだけど、落として欲しい訳ではないらしい。

 しばらく考え込んでも分からず、私は諦めてミカンに向き合って尋ねる。

 

「あのさ、なんでそんなずっと見てるの……?」

 

 怒ってる訳では無いのかと、確認をする。少ししてから、ミカンは相変わらずのぶすっとした顔で、不服そうに小さく呟いた。

 

「……爪を塗るだけでこんな可愛くなるなら、私がやってあげたかった」

 

 思わず、「はぁ〜〜」と落胆と安堵と慈しみが混ざった溜息が口から漏れ出た。ミカンを胸の中に抱き寄せ、髪の毛をわしゃわしゃ撫でてやる。抵抗せずに撫でられているミカンに、私は聞いてみた。

 

「苺さんが塗ったってことより、自分ができなかったのが悔しいの?」

 

 胸の中の頭がこくりと頷く。もう、なんて可愛いのだろうか。私の嫁は。

 

「じゃあ今度のお休み、マニキュア買いに行こっか。お互いに似合いそうな色選んで、塗り合いっこしよ。ミカンもきっとマニキュア塗ったら可愛いよ」

 

 こくこくと何度も頷く頭が可愛すぎて、思わず頬ずりをしてしまう。

 ミカンが頭を少し持ち上げて、私の肩に頬を預けてこちらを見上げた。

 

「……爪、伸ばすか? 長い方が、多分可愛いだろ」

 

 そう尋ねられ、私はミカンの顔と自分の爪を交互に見比べてから、「いいの?」と聞き返しながらミカンの鼻先を指で優しく突っついた。

 

「爪、伸ばしちゃって、ほんとにいいの?」

 

 鼻先から指を下ろし、柔らかい唇にそっと触れる。ミカンは数秒ぽかんとした後、はっと気づいたように顔を真っ赤にして狼狽えた。

 その顔を隠すように、また私の胸に飛び込んでくる。

 そして、ちらりとこちらを見上げて

 

「やっぱり、駄目だ……」

 

 と小声で呟いた。はーいと返事をしながら、またミカンを撫でくりまわす。

 

 ミカンのマニキュアには、何色を選ぼうか。頭の中で色々なイメージを浮かべて考える。

 黒、赤色、オレンジ色……きっとどんな色でも、ミカンの指先は可愛いのだろう。

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