シスター死亡フラグ   作:桐宮

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11話 出港

 フレバンスは四つの国に囲まれている。その内の一つ、ミナントは最も海に近く多くの人や物が行き交う海洋貿易国家である。

 

 漁師や商人の多い港町は朝が早い代わりに深夜にもなれば人通りはなく逃げるにはうってつけだ。港へ急いだが肝心の船は柵で仕切られた向こうにあり唯一の通用口にも銃を持った衛兵が並んで立っている。

 

 想定していなかったわけじゃない。とはいえ、もう足が限界だった。作戦を立て直すため人気のない倉庫に忍び込む。

 

 幸いにも鍵はかかっていなかった。重たい扉をどうにか開けたところでとうとう力尽きてその場に倒れ込んだ。シスター! と叫び声が上がるのを手で制して中へ這いずり入る。

 

 心臓がばくばくとうるさい。足の裏は痺れたようなのに脚は棒のようで感覚がない。打ちつけた肩がじんわり痛んでまぶたはとろけるように下がってくる。少し休んだらまた歩くから。少しだけ、少しだけ、まどろみに沈み込んでいく私を冷たい感触が突いた。

 

「寝るな、起きろ、ここで寝たら死ぬぞ」

 

 なおもつんつんつんつん頬を突かれて仕方なく重たいまぶたを持ち上げた先にはあの鳥のおもちゃが銃口をこちらに向けていた。思わず後ずさるとやっと起きたかなんていって銃を上に向けて脇に挟んだ。

 

「なんっ……」

 

「撃つ気はない、安心しろ。それよりも動く気になったなら船を盗むぞ。大陸にいてはいつ殺されるかわからん」

 

 驚きに目を剥いていれば返事は、と再び銃口を突きつけられる。やわらかいぬいぐるみだから起こすために硬いものが必要だったのか。やっぱり冷たいのでひゃい! なんて間抜けな返答が飛び出るが隊長は返事の内容には興味がないようだった。

 

「よし。港の通用口は一つ。警備はそこだけ、夜はわざわざ見回る者もいない。幸い柵はそれほど高くないのでおまえが我々を投げ入れれば出港の準備は整えてやる。港の一番端から柵を壊し、警備兵が追いつく前に脱出する」

 

「……頭打った?」

 

「失礼な!」

 

 さては本当の鳥頭になってしまったのでは、一丁前に帽子を被っている隊長の頭をおそるおそる触ると怒られてしまった。直接殴るのは攻撃禁止の命令に反するらしく銃を振り上げてぐぎぎとうなっているのがなんだかおかしい。

 

「おまえに従うしかないことは理解した。そこのおもちゃ共と違い、盾に使われるだろうこともな。こうなったら一連托生だ。能力が解除されるまでは付き合ってやる」

 

 わかったらとっとと体を動かせと背中を(これは判定されなかった。基準が謎だ)げしげし蹴られ立ち上がった。ついでだから食料や物資の調達もしておけと倉庫の荷を漁らされる。こいつ本当に中身軍人だろうか。

 

「あの……ありがとう?」

 

「礼を言うなら能力を解け。珀鉛病は中毒なのだろう。ならば、精々生き汚く足掻いてみせろ」

 

 どこでそれを知ったのか問えば病院を離れる際ドクターの呟きを耳にしたのだと返ってきた。

 

 やはりフレバンスを襲った兵士たちは珀鉛病の真実を知らないのだ。やっきになって駆除しようと追ってくるのは、彼らの認識ではこれ以上の感染拡大を防ぐため。周知されている事実と医者のこぼした真実を天秤にのせ、それが本当であったら政府に都合の悪い真実を信じることにしたと隊長は話した。

 

 思わぬ味方ができたことに戸惑いながらも私たちは倉庫を後にした。隊長の言う通り、最初に見たときから衛兵は一歩も動いていない。寝静まった町の中では通用口に設けられた警備室しか明かりもなく暗闇に紛れて行動するには十分だ。

 

 空は新月、星明かりだけを頼りに鉄格子に忍び寄り次々とおもちゃを放り込む。一番近くの船に乗り込んで瞬く間に錨を上げ帆を広げれば係留ロープがぎしぎし鳴った。

 

 

 作戦立案はほとんど隊長が行った。私がしたことといえば、それに少し手を加えただけだ。

 

「隊長、準備が整いました」

 

「もやいを解け、すぐに行く!」

 

 倉庫の隅で古びていた剣で鉄格子を押し破る。不審な音に気付いた衛兵たちが駆け出した頃には私は柵を踏み越えていた。

 

「何者だ!」

 

「止まれ、許可なく船を出すことは禁じられている!」

 

 近付いてくる衛兵に隊長がすかさず銃を撃った。おそらく威嚇射撃だろうそれに気を取られている隙に船へ飛び込む。

 

「出港だー!!」

 

 その一声で最後の船の係留ロープが解かれ、広がった帆が風を受ける。見れば他の船も大きく帆を広げてぐんぐん風に煽られ進んでいる。

 

「基地長! 港の船が次々に出港していきます! まさか、ホワイトモンスターがあれだけ……?」

 

「う、うろたえるな! 大砲用意、とにかく全部沈めるのだ! 軍艦はどうした!」

 

「それが舵を壊されており……出航できません!」

 

 背後から絶叫が聞こえてくる。いつの間に、と隊長の方を見ると彼は次なる指示を飛ばしているところだった。不安そうに取り囲むおもちゃたちをそっと抱き、私もそばへ向かう。

 

 白い町からの脱走は、こうして成功を収めたのだった。

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