シスター死亡フラグ   作:桐宮

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寒くなってきましたね。
風邪引いたっぽいのと本格的に鉛中毒について調べ直しているので一週間投稿を休止します。
27日辺りに更新再開する予定です。
変更がありましたら活動報告にてお知らせします。


15話 鯨

 結論だけ言えば私はタダの海賊団の客分となった。

 

 表向きには人質であり、彼らからは海軍が追ってきた時の盾として見られている。私も正体がバレたら追われる身なのでやすやすと海軍に差し出されるわけにはいかないが、これまでのところ何事もなく船は進んでいた。

 

 人質は無事に解放してこその人質だとお頭は考えているそうで船内での立場もそう悪くなかった。ただが大好きと言い張るだけあってお金や宝石に目もくれなかった彼らは滞在費も受け取ろうとせず、代わりに食事や洗濯などの労働を受け持っている。これでは居場所が海へ変わっただけで教会での暮らしとあまり変わらないが、本人たちがいいと言っているのでいいのだろう。

 

 共同生活を送っていれば生き物であるおもちゃたちについて説明しないわけにはいかず、病気の名前については伏せておおよその経緯やグランドラインを目指している理由を話すと泣いて同情された。その日は号泣する海賊たちで溢れかえったが、おかげで船内だけとはいえおもちゃたちが自由に活動できるようになったことはありがたかった。

 

 そして幾日かが過ぎ、海賊船はリヴァース・マウンテンを前にする。

 

 

「嬢ちゃん! 本当にここがグランドラインの入り口なのか!?」

 

 導きの灯の先へ船を進めるほどに、波は高く荒くなっていく。リヴァース・マウンテンは冬島であり、雪国の多いノースブルー側はひどい吹雪に見舞われていた。

 

 航海士と隊長と三人で羅針盤と海図を見比べていた私も大きな声で返事をする。麦わらの一味が入るときは嵐だったが、こちらは吹雪とは。ただでもらった(おそらく奪ったの間違い)という船はなかなか優れた代物で航海士の指示に忠実に動いてくれるのが不幸中の幸いだ。

 

「レッドラインを裂くように運河が走ってる! できるだけ中央を目指して!」

 

 でないとこの勢いのままレッドラインか水門にぶつかってジ・エンドだ。そんなことは嫌なので誰もが死に物狂いで船を操っている。

 

「見えたぞ!」

 

 片目が割れている双眼鏡を覗いていた副船長が叫んだ。目の前に広がる一面の壁と一筋の道。ここが正念場だ。向きを調整しながらとうとう船は運河に乗り上げた。

 

「「「入ったぁああああ~!」」」

 

 思うことは皆同じらしい。大歓声を乗せた船は海流に押されぐんぐん頂上へ進んでいく。危ないからと待機させているおもちゃたちのいる船内からも笑い声が聞こえてきた。

 

(あれ? でも、何か忘れているような)

 

 何だったっけ……。考えている間にも船は雲を突き抜け、さっきまでの暗雲が嘘のように青空が広がっている。空島の雲は特殊だと聞くが、ここの雲に降りたらどうなるのか少し興味があった。

 

 激流が頂上でぶつかり、勢いのまま飛び上がった船はやがて自重で落下し今度は下りの海流に着水する。もう後は流れに任せるままだ。リヴァース・マウンテンを越えれば七本の磁気の内一本を辿りログに従って航海を進め……進め?

 

「あーーーー!」

 

 叫び声を上げると同時に雲の切れ目から山のような何かが見えてくる。船すら揺らすような奇妙な重低音に海賊たちもなんだなんだと目を凝らす。

 

「取り舵いっぱーい! 運河の端へ寄せて! 急いで!」

 

 山のようなものは刻一刻と大きくなりついには壁のように運河の出口にそそり立つ。完全にせき止められるほどの大きさではないが、真正面からぶつかったらひとたまりもない。

 

 航海士の機転によって帆を広げることで減速を促しどうにかそれと岸との間をすり抜けた。真横を通り過ぎる巨大な目。真っ黒い体躯は既に灯台を軽く超えるくらい大きい。

 

 グランドラインに入る者は必ず会うことになる一匹のクジラ。

 

 まさかラブーンのことを忘れるなんて。黒目がしっかりこちらを捉えていることに海賊たちが悲鳴を上げ、私は深い溜め息をついた。

 

 

 その後すぐクロッカスさんが声をかけてくれて、おっかなびっくりタダの海賊団は船を岸辺につけた。リヴァース・マウンテンは無事越えられたがその衝撃で船体に傷ができていないか点検を兼ねた停泊だ。

 

 船を泊めている間ラブーンの話を聞いた。ルンバー海賊団のことも。三十年ほど前に約束を交わし、グランドラインを離れた仲間を今でも待っていることを。

 

 またも同情して泣いている海賊たちはさておき、私はクロッカスさんに声をかけた。場所を変えたいと告げれば神妙な面持ちで灯台そばの住居を示され、扉が閉じたのを確認して私は服の下を見せた。

 

「クロッカスさん。これ……治せますか」

 

 腹部に広がる白い痣を見てクロッカスさんが大きく目を開く。

 

「お前、これは」

 

「珀鉛病です。でも、伝染病じゃない」

 

 クロッカスさんは静かに話を聞いてくれた。ノースを出るまでの話、同じ症状のおもちゃたちのこと。フレバンスを出る時からずっと持っていた文書を差し出した時には中をぱらぱらとめくった上でよく纏めていると呟いた。

 

 Dr.トラファルガーに渡されたそれは大量の医療データだった。国中の患者を請け負っていたドクターによるすべての珀鉛病患者のカルテとそこから推察された珀鉛病の実態、考えられる治療法と臨床研究の内容。そのすべてをトランクに収め持ち続けていた。

 

 もちろん本来やってはいけないことだ。カルテを持ち出すだけでなく部外者に公開している。でも、私たちが助かるには必要だと考えDr.トラファルガーは託してくれた。

 

 クロッカスさんはもう一度紙面に向かい合い、私を診察すると黙考した上で口を開いた。

 

「事情はわかった。治せない病気ではないだろうことも」

 

「じゃあ……!」

 

 期待に腰を上げた私をクロッカスさんが手で制する。渋々椅子へ戻るとすまないがと前置きして話を続ける。

 

「ラブーンに最期まで付き合ってやると決めた時、診療所の看板も下ろした。あいつに必要なもの以外は医療設備もほとんど売った。ここには老いぼれしか残っとらんのだよ」

 

 わかるか。問われなくても私はその言葉が示す意味を知っていた。

 

 珀鉛病の治療法が最後まで確立しなかったのは、ここと同じように器材も人材も足りなかったからだ。本当のパンデミックが起きていたら世界中の人間が協力して研究を重ね、命を繋ぐ。白い町にはそれがなかった。

 

 フレバンスは人が滅ぼしたのだ。

 

 消沈する私に、顔を上げなさいと言ってクロッカスさんがお茶を入れてくれた。湯気の立つカップに口をつけるとそれだけで心がほっとした。

 

「グランドラインへ入ったということは、ドラムを目指して来たんだろう」

 

「はい」

 

 医療大国ドラム王国。チョッパーの故郷で桜の咲く場所。いつの間にか随分抜け落ちた記憶ではそれくらいのことしか覚えていないが闇雲に動くよりはましだと思ってここまで来た。

 

「医者を探しにドラムへ来る者は少なくない。私も知人がいないわけでもない、紹介状を書いてやろう」

 

「あの、それならDr.くれははご存知ですか」

 

 ペンを取ろうと再び立ち上がったクロッカスさんにそう尋ねるとぎょっと目を剥いて驚かれた。

 

「お前、あの女に頼むつもりか」

 

 Dr.くれはの名を再び目にしたのはドクターの蔵書がきっかけだった。何十年も前の論文だというそれは現代にあっても色褪せず、むしろ読み込まれてきたことで劣化しつつあったのを覚えている。

 

 そのこともあってまずは彼女を訪ねてみるつもりだと伝えるとクロッカスさんは何とも言えない顔をして口を開いた。

 

「腕は確かだ。あそこなら治験も安全に行えるだろう。だが……ひどいぼったくりでな……」

 

 語尾になるにつれてクロッカスさんの声が小さくなっていく。原作のことも完全に忘れたわけではないようで話をしている内になんとなく思い出してきた。そうだおばあさん版ブラック・ジャックだあの人。

 

 無下にはされないと思うが身包み剥がされることも覚悟しておいた方がいいと話すクロッカスさんに会ったことがあるのか問えば勢いよく頭を振って否定された。思い出したくもないという風だった。

 

 長く灯台守をしていただけあって近くの島の海図は持っているというのでドラムへ続くログを教えてもらい建物を出た。むせび泣いていた海賊たちも流石に落ち着いてきていつの間にか宴を開いている。相伴に預かったクロッカスさんとそれを眺めていたラブーンを巻き込んで大合唱が岬を包む。ノースの古い民謡だがラブーンは嬉しそうだった。

 

 一夜明け、タダの海賊団は再び帆を広げ双子岬を後にした。ここまで一緒に来たのだから最後まで送ってやるという彼らの好意に甘え、水平線の彼方へ消えていく一人と一頭に大きく手を振った。

 

 ラブーンの雄叫びはいつまでも耳の奥に響いていた。




個人的に凄く熱いシーンでした。

主人公が憶えている原作の記憶についてですが、生きることに必死だったので大分忘れています。
はっきりとしているのはフレバンス。また頂上戦争以降など印象深かった出来事は憶えていますが、大まかな話の流れ以上のことは薄れてきていますね。
悪魔の実については例外で、超人系の能力についてはフレバンス時代に勉強したこともあり特に記憶に残っているようです。
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