シスター死亡フラグ   作:桐宮

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17話 噂

 それから私たちはドクトリーヌの下で暮らすことになる。

 

 その日の内に国王に掛け合ったという彼女は秘密裏に研究チームを発足し、ぼったくり治療を続けながら臨床研究を進めていた。

 

 メンバーはドクトリーヌの独断で決定され、中には彼女と仕事をするのはごめんだと断った医者もいたが抵抗もむなしく協力させられている。罪悪感がないわけでもなかったが、中毒症状に最も精通しているのがその人物だったので途中からは私も懇願して研究に参加してもらった形だ。

 

 そして二年の時が過ぎた。ドラムの医師たちの尽力により有効な治療法が確立し、被験者である私の体からも既に多くの珀鉛が取り除かれた。今は全員分の薬剤を製造しているところで、用意ができ次第おもちゃたちへかけた能力を解除して治療に移行する手筈になっている。

 

 すっかり住み慣れた大木の家で朝食を用意していると、新聞をばさりと広げたドクトリーヌが怪訝そうに声を上げた。

 

「レーナ、お前以外にフレバンスを脱出できた人間はいるのかい」

 

 問いかけに答えるより先にわらわらと集まったおもちゃたちがドクトリーヌの体によじのぼって歓声を上げた。まさかと思いながら示された記事を見ると、ある一文が目に飛び込んできた。

 

「珀鉛病の少年、ノースの街に現る……?」

 

 それは、もう一つの悲劇へのカウントダウンだった。

 

 

 

 

「だめだ」

 

 新聞を見て飛び出そうとした私の動きを封じ、ドクトリーヌはドクターストップだと告げた。地面に広がった新聞の一箇所にはひどくぼやけた写真で黒い塊に連れられるようにして見慣れた帽子の少年が写っている。

 

「止めないでください、ドクトリーヌ! ラミちゃんのお兄ちゃんなんです、助けに行かないと!」

 

「そうかい、この子が。でもお前の体にはまだ珀鉛が残っている。何と言おうと行かせはしないよ」

 

 メスまで取り出して脅しをかけるドクトリーヌにぎゅっと唇を噛んだ。彼女の患者である以上、治るまでここを出してはもらえないだろう。

 

「なら……お兄さまは、誰が助けてくれるの……?」

 

 静かに歩いてきたラミちゃんがぽろりと呟いた。垂れた耳をいっそう床に近づけて、胸の前で合わせた両腕がかすかに震えている。

 

 静寂が室内を包んだ。闇雲に駆け出すことはないと判断したのか馬乗りになっていたドクトリーヌが掴んでいた腕を放してメスをくるりとポケットにしまう。

 

「この二年音沙汰がなかったってことは、うまいこと隠れていたか誰かの庇護下に置かれてたんだろう。今になって表に出た理由はわからないが、すぐ死んじまうってことはない」

 

「それなんですけど、ドクトリーヌ」

 

 私はあくまで仮説だと言ってオペオペの実について口にした。医療に特化した悪魔の実であり、原作では実際に珀鉛病の治療を可能にしている。

 

 先代の能力者は既に亡くなっており、その実の行方は知れない。ただし能力者の死亡した海域では同じ悪魔の実が発見されやすいという噂があり、それを頼りに探し回っているのかもしれないと。

 

「その子ども、医者の家系だったね。確かに運よく見つかれば自分で治療するのも不可能じゃない……」

 

 オペオペの実についても知っていたのかドクトリーヌが眉を下げて思案する。

 

「だがレーナ、どうやってそこまで行くつもりだい? 政府の船でもない限りグランドラインを通り抜けた例はないし、イーストやサウスならまだしもノースへ戻るにはレッドラインを越える必要がある」

 

 そこなんだよなぁ。軍艦乗っ取るかカームベルトの中にあるという九蛇の海賊船に乗せてもらうか、と考えたところでそれまで黙って聞いていた隊長が口を開いた。

 

「一つ、手がなくもない」

 

 

 隊長の提案に乗り、マリアと三人で辿り着いた島は造船業が盛んなようで造船所を兼ねているらしい港はたくさんの船が行き交い木槌の音と活気に溢れていた。ウォーターセブンほど大きくはないが、ここもそれなりに有名な会社らしく相乗りさせてもらった船の船長さんが早速交渉に向かっている。

 

「着いたはいいけど、どこに行ったら……」

 

 いいの、と腕の中の隊長に話しかけたのを遮るようにここの従業員らしい人に肩を叩かれた。

 

「お嬢ちゃんは何の用事かな、もしや船を買いに来たのかい」

 

「い、いえ」

 

 流石ワンピース世界、自分よりずっと大きな人と話すのはタダの海賊団以来で思わず腰が引けるが隊長の助言を思い出して声にした。

 

「ブノワさんに、お会いしたいのですけど!」

 

 

 

 

「ブノワ・D・アントワーヌ。それが俺の名前だ」

 

 隊長の告白に、驚きで心臓が飛び出るかと思った。

 

 Dの一族。歴史の裏で脈々と引き継がれているという名で、神――天竜人の天敵とも言われている。海賊王ゴール・D・ロジャーや主人公であるルフィの家系、隠しているがローもその一人だ。

 

 私の知っている限りその名については明かされることはなかったけれど、Dは必ず嵐を呼ぶという文言や窮地に陥ってもどこからか救いの手が差し伸べられる不思議な特性は鮮明に記憶に残っている。

 

 急にむせ始めた私をいぶかしむように大丈夫か、と尋ねた隊長――アントワーヌ。本人はトニーでいいと続けた――はドクトリーヌにうながされ話を進める。

 

「実家は造船業を営んでいて、その昔空飛ぶ船の開発を進めていたこともある」

 

 空飛ぶ船……? 連想されるのは飛行機や空島のエネルが乗っていた船。ただしこの世界でまともなエンジンというものを見たことはなく、後者も悪魔の実の能力を利用して動かしていた筈だ。コーラエネルギーとかいう例外もあったけれど、あれを使っているのはフランキー一人で仕組みもよくわからない。

 

 聖地を飛び越えられる可能性のあった船はそのまま天竜人への侮辱と取られ、一度は完成までこぎつけたというトニーの先祖は処刑されてその船も壊された。

 

 しかし動力源であったジェットダイアルや設計図は残っており、空に憧れた子孫たちはひっそりと船の開発を続けていた。

 

 幼いトニーがそれを知ったときには、船はほとんど完成していた。人目につかない洞窟の先に工房はあり、何度もテスト飛行に乗せてもらっていたそうだ。

 

 だがある日を境に、トニーの父は船の開発を止めた。……オハラにバスターコールがかけられた年のことだ。

 

 トニーの父がオハラの何を知っていたのかはわからない。だが世界政府に消された島。それは処刑された先祖の末路を連想させた。

 

 今度こそ、一人の命では済まないかもしれない。その想像が父の手を止めさせたのだ。

 

「"海に縛られる必要はない、空は自由だ"。先祖の口癖を親父はよく口にしていた。だから、洞窟の入り口を自分から塞いでなお未練がましく眺めていた姿が俺は嫌いだった」

 

 そうして家を飛び出したトニーは紆余曲折あってフレバンスを訪れ、おもちゃとなった。

 

 唯一の肉親の存在が父の手を止めたなら、ホビホビの能力によって記憶をなくした今再び開発を進めていてもおかしくない。少なくとも、船が残っていれば操縦できると踏んだトニーは提案し私もそれに乗った。あてもなく動くよりはずっと希望が持てる。

 

 決め手になったのは彼の持つDの名だ。フレバンスを一人も欠けることなく脱出できたのは二人のDが傍にいたからなのかもしれないと私は思い始めていた。

 

 珀鉛の薬ができるまでまだ時間が必要で私とマリア、トニーを除いたおもちゃたちはドラムのドクトリーヌの家に預けてここまで来た。

 

 ローと再会しオペオペの実を手に入れる。そのための第一歩を、私はしっかりと踏み締めた。




ヒルルクとの話を挟もうと思ったのにまったく動いてくれなかったので一話分巻きました。
脳内でキャラクターが勝手に動くタイプの人間なのでその人の考えが掴めていないとこういう弊害が起こる。

一気に時間軸が飛んで、このお話は新世界編から数えて十四年前くらいですね。ミニオン島へのカウントダウンが始まりましたがはてどうなるやら。

また、某飛べる豚さんに触発されて次回から飛行艇出ます。ワンピース世界にも飛行機あったっていいじゃない、海列車(蒸気機関)あるしね!

それに伴い隊長の正体を予定より早いですが公開しました。一家の名前は一応実際に飛行艇乗っていた人や製造した人から取りました。仏語で統一したけど。


次回から週一更新(できたらいいな)になります。
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