薄い暗がりの中を、老人が歩いていく。
明かりは手元の燭台一つ。鉄板に堅く閉ざされていた道を容易く開け、やがて月明かりの下へ出れば飛行艇と呼ばれたその船に辿り着く。
いとおしむように機体を撫でた老人は、握っていた工具を振り上げた。
「ちょっと待ったー!」
間一髪飛び出した私はその人の腕を掴むことに成功した。流れるような連携でトニーが力の緩んだ手から工具を引き剥がし、マリアが遠くに運んでいく。
何が何だかといった表情をしているトマさんに話を聞いてくださいと懇願し、いぶかしそうに眉をひそめながらも私たちは飛行艇から少し離れた地面に腰を下ろした。
「後をつけてきたのか。どこでこの船のことを知った」
ひとまず冷静に耳を傾けてくれるくらいの余裕はあるみたいだとほっとしながら同時に何を話したものか頭を悩ませる。トニーのことを話そうにも、肝心の彼の記憶が父親であるトマさんからは消えているのだから。
「単刀直入に言う。その船を譲ってくれ」
腕を組んでどっかり座り込んだトマさんと同じように翼を組みながらトニーがそう宣言した。唐突すぎる答えに耳を疑っているとトマさんも目を見開いて驚いていた。
「薄々思っていたが、政府の人間ではないのか」
「は、はい。むしろ追われる側で……」
あれ、これ言ってもいいのかと思いつつ口に出した言葉は取り返せない。トニーの発言を補足するように助けたい子どもがノースにいること、そこまで行く手段が必要なことを立て続けに話した。
トマさんは長い時間黙ってその話を聞いていた。相槌も打たず、私の目線からでは眠っているように見えたのでおそるおそる覗き込めば鋭い眼光が続きをうながした。
「本来レッドラインを越えて四つの海へ渡ろうとしたら聖地を通り抜けるほか道はありません。けれど、政府の力は使えない上にグランドラインをまともに渡ろうとしたら時間が足りない。
私たちには、この船が必要なんです」
添えるように呟いた一言にトマさんの目の色が変わった。
「わかった。……こいつをお前に託そう」
「本当ですか!?」
ジェットダイアルといい、この世に二つとない機体だ。もっとしぶられると思っていただけに喜びはひとしおだった。感極まってマリアと抱き合うと懐から眼鏡を取り出したトマさんが譲る前にと口を開いた。
「こいつはじゃじゃ馬でな、俺の言うこともまるで聞こうとしない」
素人が簡単に動かせるようなものじゃない。続けられた言葉にちらと足下を見れば白い翼が高く上げられたところだった。
「問題ない。俺が操縦する」
ぴんと挙翼したトニーに眉をひそめ、しばらくしてこちらに視線を戻したトマさんは呟いた。
「先ほどから気になっていたが彼らは何だ? こんな種族がいるとは聞いたことがない」
「悪魔の実の力で……長くなるので、これ以上は」
ノースへの距離を考えたら説明している時間はない。このままスルーしてもらえたらよかったのだが、そういうわけにはいかなかった。
幸いにもというか、トマさんはそれ以上尋ねてくることはなく「操縦できるというならここで見せてみろ」と飛行艇の操縦席に乗り込みトニーを膝の上に乗せた。もやい綱を解いて離れているよう言われた私たちは岸壁に寄りかかり、伸びた翼がジェットダイアルの先端を押した。
プロペラが徐々に速度を落とし、戻ってきたトマさんが開口一番驚いたと口にした。
「悪魔の実……と言ったか。そうなる前は祖先と知り合いだったのか?」
トニーはさっさと操縦席を降りてしまい、私も曖昧に頷くしかなかった。
この腕なら文句はない。そう太鼓判を押され細かな説明を受けた後、まとめていた荷物と一緒に乗り込んだ。やけに準備がいいなと不思議そうにしたトマさんに当初の目論見をこっそり話すと拳骨が落ちてきたが、今となっては関わりのないことだ。
「ありがとうございます。きっと、返しに来ますから!」
「ああ。……俺の息子を、よろしく頼むよ」
ジェットダイアルから勢いよく風が噴き始める。その言葉はきっと飛行艇に向けられたもので、トニーのことをわかって言った言葉ではない。
けれどもその言葉は確かに息子の胸に届き、飛行艇は水面を離れた。
おもちゃの目がうるむことは決してない。今だけはそれをよかったと思いながら、トニーは操縦桿を前に引いたのだった。
ということで飛行艇ゲットしました。いぇーいぴーすぴーす。
年末年始忙しいですね。そして風邪をこじらせました。まともに病気になるの数年ぶりなのでどうやって治すんだっけと思いながら書いています。
気付いたら一ヶ月更新していなかったので不安に思われた方いましたらご安心ください。一応これ完結までは書くつもりでいます。
とりあえず一話挟んだらミニオン上陸する駆け足プランなので気長に次のお話をお待ちください。
なお、久しぶりすぎて語り口を忘れている上いつも通りの突貫制作ですので誤字脱字等ありましたらご一報ください。訂正します。