シスター死亡フラグ   作:桐宮

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区切りがいいのでとりあえず4話まで投稿します。


2話 接触

 散々考えた末、私が選んだのは医術を学ぶことだった。

 

 珀鉛病を治すには医者も物資も足りなかったという。発症してから封鎖されるまでがあまりにも短く、病気そのものについて研究する時間もなかったのだろう。

 それならば今の内に知識を蓄え、治療法を模索すれば助かるかもしれない。

 

 幸いにもDr.トラファルガー(最近恋人ができた)は二つ返事で医者としての勉強を請け負ってくれた。わけを聞かれるかと思ったけれど、人を助けたいと思うことに理由なんていらないとおっしゃった。もしかしたら私の母が彼のいる病院で亡くなったことに負い目を感じているのかもしれなかったが、それを聞くのはやめておいた。

 

 シスターとして仕えながら病院に通うのは大変だけど学んだこと一つ一つが自分を生かすことになるとわかっていたから苦ではなかった。マリアも応援してくれて、時折一緒になって勉強をした。

 

 それだけで満足していたら、よかったのかもしれない。

 

「中毒の対処法?」

 

「はい。耳にする機会があって、どうやって治すのかなって」

 

 後の死の外科医の父だけあって、外科が主なドクターに尋ねるのは専門外かもしれないと思いつつ問いかけた。案の定専門ではないのだけど、と前置きながら答えてくれる。

 

「症状にもよるね。アルコール中毒なら心療内科、薬物などは救急外来へ行ってもらうんだけど短期的なものか長期的なものかによって対処法は分かれる」

 

「アルコールって心療内科なんですか」

 

「そうさ。治療だけなら救急で受け持ってくれるが、依存症になるとそこから回復するまで見守っていく必要がある」

 

 意外な発見があって脱線してしまった。船乗りなんかは頻繁にお世話になっていそうだと思いながら話を戻す。

 

「鉛とか……鉱物を取り込んでしまった際の治療法が知りたいんです。そういうのってないんでしょうか」

 

「鉛か。珀鉛は世界政府が安全を保証しているけれど鉱山に公害事件というのはつきものだからね。調べておこうか」

 

「お願いします!」

 

 その珀鉛が有毒なのだがと思いつつ頭を下げる。その道の専門家がいるというのは想像していた以上に頼れるものがある。もしかしたら発病より前に治療法が確立するなんてこともあるかもしれない。

 

 希望が見えてきたことで私はその日一日浮かれていた。

 

 

 

 

 フレバンスは人々の憧れの国、というのは本当だったようで病院からの帰り道を歩くだけでも大勢の人とすれ違う。町の住人はもちろんのこと、観光客や商人。時々とはいえ正義を背負った人間もそこにはいた。海賊旗をまるで見かけないのはここが内陸国というのもあるが、それ以上に治安がいいのだろう。

 

 あれから数日が経ち、仕事の早いドクターからいくつかの症例や行われている対処法を教えてもらった。まだ確立しているとは言い難い状況だと言っていて、その中には聞き覚えのあるキレーション療法もあった。ワンピースの世界の技術は飛び抜けていたり中世のそれだったりとまちまちだから仕方ないのかもしれない。

 

 この角を曲がれば教会に着くと歩調を速めたところで何かにぶつかった。何か、じゃない。誰かだ。

 

「きゃっ」

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 

 注意していたつもりだけどぶつかるまで人がいることに気付かなかった。しりもちをついた女性に手を差し伸べると、青い瞳に引き寄せられる。

 なんだろう、どこかで見たことがあるような。

 

「平気よ、少し擦りむいただけだわ。あなたこそ怪我はない?」

 

「私はなんとも、そうじゃなくて、擦り傷はすぐ綺麗にしないとだめです! どっちが近いかな……」

 

 小さな傷口から細菌が侵入して悪化するケースを知ってからは自分でも気を遣っている。救急セットを持ち歩いているわけでもないので落ち着いて手当てできる場所を、と頭を上げたところで女性が腕を掴んだ。

 

「あなた、この町の子かしら。なら病院の場所はわかる? 手当てをするなら、そこへ案内してくれると助かるわ」

 

 ここからだと教会の方が近かったけれど、女性の言葉に頷いてひとまず水飲み場のある方へ促した。擦りむいたという箇所を軽く洗い流して改めて病院への道を目指す。

 

 もうすぐ着くよ。振り返って伝えれば急いでいただろうに申し訳ないと女性が眉を下げた。午後のミサの時間には遅れてしまうが、わけを話せば神父様も許してくださるだろうから大丈夫。

 

「それならいいのだけど……ごめんなさいね。ここへ来るのは初めてだから迷ってしまったみたいで」

 

「お姉さんだけじゃないよ、観光に来た人は皆同じように言うもの。真っ白だからどこも同じように見えるって」

 

 建物どころか草木まで白いんだから戸惑うのは仕方ない。今でこそ道を覚えたものの、歩けるようになったばかりの頃はひたすら迷子になっていた。

 そうやって歩みを進めていたら女性がぽつりと声を漏らした。

 

「お姉さんだけじゃ寂しいわね、ステューシーと呼んでちょうだい。あなたの名前も教えてくれる?」

 

「マグダレナ……レーナって呼ばれてます。ステューシーお姉さん」

 

 違和感の正体に頭が追いつき、声が震えていないか心配だった。




サブタイトルつけ忘れてました…。直しました。
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