シスター死亡フラグ   作:桐宮

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20話 寄港

「そろそろ一度下に降りるぞ」

 

 造船島を出て以降飛ばしっ放しだったのでトニーの提案はありがたかった。

 

 天候の移ろいやすいグランドラインを渡るのは避け、カームベルトの上空を飛び続けてどれぐらい経つだろう。時折イーストブルー側へ出ては方角を確認し雲の上をひたすら進んでいた。

 

「どっちへ出るの?」

 

「もちろんイーストだ。できればどこかの島へ上陸しておきたいがあちらの海は詳しくないからな……上空から探すことになるだろう」

 

 グランドラインに海図はなく、カームベルトは海王類の巣なので着水させるのには適さない。指示通りにレバーを動かしながらそれならと口を開いた。

 

 

 イーストブルー西南の端。レッドラインとカームベルトに仕切られた文字通り最果てにその町はある。

 

「ここが、ローグタウン……!」

 

 十年前。私は故郷の町でここを見た。正確には、海賊王の処刑が行われる映像を。

 

「いいか。何度も言うようだがここへは補給に来ただけだ。用が済めばすぐ出発する、観光している暇はないからな」

 

 もちろんわかっているとマリアとこくこく頷いてみせれば本当にわかっているのかという呟きが返ってきた。失礼な。

 

 ドックを一つ借り、機体を布で覆ってその上にはちょこんとトニーが寄りかかる。停留中の見張りを買って出てくれたので物資の補給は二人で行くことになる。

 

「処刑台見たら帰るから!」

 

 背後から怒鳴り声が聞こえたような気もするが、駆け出した私たちには関係のないことだった。

 

 

 

 

「……迷った」

 

「わね」

 

 ゴール・D・ロジャーの処刑を皮切りに海賊時代は始まった。その日を境にこの町は大きく栄え、もとあった景色を塗り替えるように増改築を繰り返してきたのだろう。

 

 つまり路地は複雑で迷いやすい。攻められにくい、と言えば聞こえはいいがこうして迷子になってみると生まれ故郷がいかに考えて作られていたか実感した。

 

「碁盤の目というか、フレバンスはその点わかりやすかった……」

 

 すっかり裏路地に入り込んでしまったようで、時折道の先に見かけるのは強面の人間ばかり。なるべく騒ぎを起こしたくないと避けて通るたび迷路のような町並みに惑わされるのを感じていると、突然目の前が白い煙に覆われた。

 

「ごっほ、ごほ、けほ、」

 

 今度は何……? と目を細めて見るが視界はすっかり白に包まれてまるで役に立たない。鼻腔を直撃した匂いに煙草だと理解が追いついた。

 

 なんとか壁によりかかろうとグローブ越しの手を突き出したところで反対の腕がぱっと取られ、同時に煙が少しずつ晴れてくる。

 

「悪いなお嬢さん。怪我ねェか」

 

 そう言って葉巻の火を消しているのは坊主頭の青年だった。見上げるほど大きな体格にしわの寄せられた眉間はその筋の人を連想させる。

 

 思わず身をよじれば眉を上げたその人はすぐ手を放してくれた。転ばないよう気を使ってくれたのかと思い立ち、慌てて頭を下げる。

 

「ごめんなさいっ、前を見てなくて」

 

「そりゃこっちのセリフだ」

 

 さっと周囲を確認したその人はどうした、迷子かと聞いてくる。撤回できないので小さく頷きながら処刑台の場所を尋ねた。

 

「女子どもが見るもんじゃねえと思うが。この通りを左にまっすぐ、二本目を右、次も右、その次は……ああめんどくせェ、案内してやるからついてこい」

 

 くるりと向けられた背には見覚えのある青いカモメが描かれていた。マリアを抱き締める手に力を込めると数歩先を行っていた海兵がいぶかしげにこちらを振り返る。

 

「どうした、他に用でもあんのか」

 

「い、いえ。よろしくお願いしますっ」

 

 落ち着け。ドクトリーヌの家にいた頃も手配書が出回ったことはなかった。珀鉛病についても既に終わった出来事として、ローの記事が出るまで目にしたことはない。

 

 政府の内情はわからないけれど、イーストブルーの片隅にまで追っ手がかかったわけではない……はずだ。

 

 どちらにせよ右も左もわからない今の状況じゃ逃げ切るのにも無理がある。不安を押し殺しながら彼の背を追った。

 

 

 幸いにも悪い予感は形にならなかった。処刑台を見学した後、おそるおそる補給のメモを差し出したらいくつかの店を教えてもらい買い出しも無事に完了した。

 

「本当にありがとうございました! おかげで無事に出発できそうです」

 

 ドックの前まで来たところで買い物袋を地面に下ろした彼はおうと呟いた。半日ほど連れ回してしまったが、探している人がいるとかで町中を歩き回る分には構わないと返された。

 

「結局その人見つかりませんでしたね」

 

「ああ……まったくどこほっつき歩いてるんだか」

 

 どうやら探し人はとんだサボり魔のようだ。頭の中を過ぎるものがあったが、まさかと首を振って追い出した。

 

 気をつけて行けよと言い去って行く彼にもう一度深く頭を下げ、ドックへ入った。

 

 

 

 

 青に藍色の迷彩柄の塗装が施された海軍支部の一角。遠征中の上官などに割り当てられるという部屋へ入っていくと聞き慣れた女の声が飛んできた。

 

「スモーカーくん、どこへ行っていたのよ」

 

 腕を組んで仁王立ちする同期の後ろには、格子柄のアイマスクを下げて椅子によりかかった上司が堂々といびきをかいていた。どこで見つけたのか問い返せば不満げな態度を隠そうともせず町の酒場よと声が返ってくる。

 

「んん~……ぁあ、帰ってきたのか。ダメだろスモーカー、出かけるときはどこへ行くのか何時に帰ってくるのか伝えておかないと」

 

「アンタに言われたくねェよ、迷子を案内してたから遅くなった」

 

「あら、それこそここへ来ればよかったじゃない。保護者が必ずしもはぐれた場所で探しているとは限らないわ」

 

「迷子っつっても俺と同じくらいの年だよ……ああ、だが後生大事にぬいぐるみを抱えていたからもう少し下かも知れねえ」

 

「人の趣味で年齢を推し量るものではないわ」

 

 ヒナ心外。腕を組み直してそう吐き捨てた同期にひらひらと手を振ることで返し、中断されていた一服を続けようと葉巻を取り出したところで珍しく眉をひそめた上司が口を開いた。

 

「お前と同い年でおもちゃを抱えた女ねぇ……スモーカー、その子おかしなところなかった? おもちゃが動くとか、おもちゃとしゃべるとか、肌が白いとか」

 

「最後のはもはや関係なくねェか。そうだな、色白な方だとは思ったが何もなかった。一般人に見えたが、違うのか」

 

 クザンは難しそうに頭をかいていたが、やがて愛用しているアイマスクをぱちんと弾いてまぶたの上に乗せた。

 

「やめた。スモーカー、今日のことは忘れておけ。ヒナちゃんも聞かなかったことにしてくれ」

 

「わかりました」

 

「おい!」

 

 納得がいかずに叫ぶとそれを制するようにヒナの手が肩を掴んだ。すっかり視界を閉ざした上官はくるりと背中を向ける。

 

「おれの見立てが正しけりゃあ害はねえよ。お前の言った通り、ただの一般人だろう。それ以上知りたかったら、そうだな……今のおれの地位まで来れば、問題ねェだろう」

 

 それまでは独自に調べるのは危険だと暗に言っているのはわかった。

 

 今の地位では知ることさえ許されず、中将になってようやく知らされること。

 

 一見無害に見えたあの笑顔が何かとんでもないことに巻き込まれて……あるいは巻き込んでいるのだと考えても、眉間にしわが寄るばかりでとても信じられなかった。

 

 

 

 

 ローグタウンを出発し、なんとかレッドラインを越えノースへ渡ったレーナ達は昼夜を問わずジェットダイアルから噴出される風の続く限り飛行を続けていた。

 

 フレバンスを脱出するときに手に入れた海図を見てミニオン島のある海域がほど近いことを悟る。

 

 やっとドクターの頼みを叶えることができるかもしれない。それどころか今のローの心の支えになっているコラさんも一緒に助け出せるかもしれない。

 

 地図上で見た小鳥の島影が目視できる距離にまで近付いているのを確認してほっと胸を撫で下ろした瞬間、機体ががくんと傾いた。

 

 

「飛ぶ指銃」

 

 

 動力を失い、失速を始める飛行艇からは空中に浮かんでいる一人の人影が見えていた。




趣味回です。

もとい、海軍の末端にも情報は伝達されているのかというお話でした。
クザンさんは中将で遠征の引率役、スモーカーさんとヒナちゃんはまだ能力者ではない設定。入れられればゼファーさんの存在を匂わせたかった。

無事ここまで投稿できたので劇場版Fate HF 2章観てきます。

次回、あの人登場。
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