シスター死亡フラグ   作:桐宮

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23話 勘違い

「紅茶です、熱いです」

 

 給仕服を着た少女がそう言ってカップを差し出した。言葉通り湯気の立つそれには私の指を気にしてか高さの合わないストローが添えられている。ちぐはぐな気遣いにお礼を言うと途端に笑顔になった少女はトレイを抱えて部屋を出て行った。どうやら一人にしてくれるようだ。

 

 ドンキホーテ・ドフラミンゴが船を襲ってから数時間が経過している。派手な彩色の海賊船に迎え入れられた私は治療を施され船室に案内された。しばらく休んでいろといった当人は早々に姿を消し今の居所はわからない。

 

 ……また、窓のない部屋だ。船倉近くの部屋をあてがわれたのでそうだろうなとは思っていたが、閉じ込められているような感覚に気も落ちる。

 

 ローは無事スワロー島へ着いた頃だろうか。ステューシーたちの話を聞いていた限り、ミニオン島での一件は既に終わっているようだった。

 

 原作でドフラミンゴはコラさんの発言を鵜呑みにして海軍に保護された少年をローだと勘違いしていた。それと同じ道を歩んでいるのなら男が現れた理由はローを回収するためだと考えて間違いないだろう。でも、それだけで私に辿り着くとは思えない。

 

 海軍に潜入しているドンキホーテファミリーの最高幹部、確か名前はヴェルゴと言ったか。そいつならホビホビの能力者について情報を手に入れ、リークすることも可能かもしれない。

 

 この能力は島一つ支配する手段として打ってつけのものだ。ドレスローザを手中に収めようとするドフラミンゴが探しているのはむしろ当然といえる。

 

 私を殺してホビホビの実を手に入れる。それが、ドフラミンゴの狙いなのだろうか。

 

 

 ノックの音に意識を呼び戻され、私は顔を上げた。入室を促すまでもなく開かれた扉からピンクの塊が部屋へ入ってくる。

 

「よォ、調子はどうだ」

 

 世間話でもするように声をかけてきたドフラミンゴに私は眉間を寄せた。そう身構えるなと笑いながら男は向かいの椅子に腰かける。背もたれのある椅子なのにふわふわとした羽毛が潰れるのを少しも厭うてはいないようだった。

 

「ご用件は、何ですか」

 

 少しの振動でも揺れるストローを視界の端に留めながらぎゅっと拳を握った。包帯塗れになった手ではそれすらも難しい。必然能力を使うこともできないので、今の私は無防備そのものだ。

 

 ドフラミンゴはおもしろそうにこちらを見ていた。おもしろそう、と評したのは男の口角がわずかに上がっていたからだが、それが男の常なのだとすると実際どう考えているのかはわからなかった。

 

「随分嫌われたもんだな。おれの名でも聞いていたか?」

 

「いえ、でも海賊だということはわかります」

 

 この船に乗る時に目にした黒い髑髏の旗を指して言うとそうだろうなという声が返ってきた。無法者だという自覚はあるらしい。

 

「おれもあんたのことを知っている。シスター、マグダレナで合ってるか?」

 

「なんで、その名を」

 

 呟きかけてローから聞いたのかと思い至った。案の定ドフラミンゴの口からもあの子の名前が出る。

 

「少し前までこの船で治療法を探していたが行方不明でな。居場所に心当たりがあれば知りたいんだが」

 

「……フレバンスを出てから、生きていることも知りませんでした。行きそうなところなんて私には」

 

 冷や汗がたらりと流れるのを服の下に感じる。髪を伸ばしたままでよかった。少しは表情が隠せているといい。

 

 そりゃあ残念だ、同郷の人間に会わせてやりたいのに。うそぶく声に同意しながらちらと男を見た。やはり男の考えは読めない。こうしてじりじり時間だけが過ぎていくのも男の策略なんじゃないかと頭が疑念で埋め尽くされる。

 

「だが知らねえもんは仕方ねえ。おれもあいつを探して迎えに行くつもりだが、どうだ。あんたさえ良ければ一緒に来ないか」

 

「え?」

 

 ドフラミンゴがサングラス越しに問いかける。その言葉に、私は大きく息をのんだ。

 

 

 

 

 私は勘違いしていたのかもしれない。

 

 ドフラミンゴの目的はオペオペの実とホビホビの実の確保だ。それがローや私である必要はない。

 

 たとえばローが不老手術のオペを拒んだら、また私がドレスローザで能力の行使を拒んだらその場で斬り捨て新たに生まれた悪魔の実をより従順な者へ食べさせればいい。

 

 けれどドフラミンゴは私を勧誘した。ホビホビの実の現能力者である私を。

 

 これがどういう意味を表しているのか、少し考えればわかることだった。なまじ原作知識があるのがあだになった。

 

 悪魔の実は同時に複数個存在することはなく、その能力も同時期に一人しか発現しない。能力者が死ねば世界のどこかにその果実が復活するとされている。

 

 だが私は知っている。頂上戦争以後能力者狩りを行っている黒ひげを。シーザーに飼われていたペット、スマイリーがシノクニへ変化した時近くに置かれたリンゴが悪魔の実に変わったのを。

 

 悪魔の実は新たに果実ができるのではなく、最も近くにある同じ果物が変貌してできるのかもしれない。その仮説が私の思考を制限した。

 

 悪魔の実の発生条件は明らかになっていない。仮説の大本になった黒ひげの件ですら今から遠い未来の話だ。

 

 目の前にいる能力者を篭絡するか、いつ現れるともしれない果実を待つか。どちらかしか選べないのなら確実に手に入る手段を取る。ドンキホーテ・ドフラミンゴはそういう男だ。

 

 

 

 

 突然黙り込んだ私を急かすことなく、ドフラミンゴはただ時を待った。どうせ答えは決まっているのだというように余裕の表情を浮かべながら。

 

「少し時間をもらってもいいですか。返事をするには、色々ありすぎて」

 

「構わねえよ。どの道おれ達のアジトまでは送ってやるつもりでいた。ああ、だが……」

 

 ローに残された寿命は少ねえんだ、早く答えを出してくれよ。

 

 扉を閉める、その直前。嗤うようにかけられた言葉は私の胸に棘を残した。




素で勘違いしていた内容をレーナにあてはめ、自分で気付いてもらいました。

このルートならドフラミンゴに会った時点でデッドエンドだと思っていたのでまだ生き長らえそうなことに驚いています。
あれ、ここで終わりじゃなかったっけ。

とりあえずドレスローザ編で一区切りと考えているので続きは気長にお待ちください。
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