シスター死亡フラグ   作:桐宮

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6話 告白

 ある日を境に、フレバンスの国民が倒れ始めた。肌には白い痣が浮かび、正体不明のその症状は最初白くなる病気……白化症と呼ばれていた。

 

 老若男女を問わずただ住民だけが発病していくその病を人々は伝染病だと考え、白い町への出入りは厳しく制限された。発病した患者はすぐに隔離され、国内でも消毒が徹底されるようになったが感染者は増え続けた。

 

 突如として猛威を奮い始めた、フレバンス出身者ばかりがかかる病。

 それはやがて珀鉛のように白くなる病気、珀鉛病と名を変えノース中に広まっていった。

 

 

 高齢だった神父様が真っ先に倒れ、私たちの教会は朝の礼拝を除いて信者の来訪を一時的に制限することになった。救いを求める人たちは昼夜を問わず神の家の門を叩こうとするが、それを受け入れるための人材が少なくなっていることが背景に上げられた。

 

「テレサさんのところ、おばあさん残して皆倒れちゃったそうよ」

 

「怖いわねえ」

 

「ドクターが必死に調べてくれてるそうだけど、国王様も手を打ってくれたらいいのに」

 

「最近めっきり城下に顔を出さなくなったんだってね。伝染るのが怖いんじゃない?」

 

 今日のおつとめを終えてせかせかと足を動かすおばさま方の噂話が遠くなっていく。彼女たちはいつも元気で顔を合わせるだけでほっとした。掃除用具を片付けていると彼女らを見送っていたマリアが駆け足でやってきた。

 

「お疲れ様、マリア」

 

「お疲れ様、レーナ。夕食にしましょ」

 

 私たちの宗派は幸いにして食事に関しての戒律などはなくお肉もお魚も美味しくいただけている。驚いたのが米文化が普及していたことで日本の白米に近いものを日常的に味わっていた。もしやローの米好きはこの頃からきていたのだろうか。

 

 夕食の片付けをしながら、朝の準備をしているマリアに声をかける。落ち着いて話したいことがあると告げれば先にお風呂に入っちゃおうかと提案された。

 

「なあに、姉さまがそう言うってことは大事なお話でしょう」

 

 成長しても変わらず二人で使い続けている寝台に腰掛けてマリアが切り出した。私はどう話したらいいかわからずにそっと襟元を握り締めた。

 

「ねえ……マリー、一緒に逃げよう」

 

 突然のことにぽかんとした表情のマリアが続きを促す。

 私はここを出ようと、発病したら二度と出られなくなってしまうからその前に逃げ出そうと妹に続けた。

 

「なぜ? いずれドクターが治療法を突き止めてくれるわ、他国のお医者様も知恵を貸してくれるかもしれない」

 

「それじゃ遅いの!」

 

 マリアの考えはしごくまっとうだ。これが本当に伝染病なら大がかりな研究機関が作られ、ワクチンを開発してくれる人も現れるかもしれない。

 けれど珀鉛病は中毒だった。明確な治療法はない。ろくに対策も打てぬまま、ここまで来てしまった。

 

 勢いのまま掴みかかってしまった腕からそっと力を抜く。王族が姿を見せなくなったのは政府の手を借りてこの国から脱出するためだ。じきに国境は完全に封鎖され、外へ出るにも困難になる。

 

 うつむいた私の手をマリアが包む。ぐるぐると思考を止められないでいるのをなだめるように手の甲を撫でられ、そっと握られる。

 

「レーナがずっと何かを抱えていたのは知ってたわ。誰にも話せなかったってことも。どうしてそう思うのか、聞いてもいい?」

 

 マリアはその名にふさわしく、聖母のような笑みを浮かべて私に問いかけた。

 

 私はすべてをぶちまけた。これまでのすべて。どこから来たのか、何故この世界を知っているのか、これから起きる未来についても。洗いざらい何もかもをぶちまけた。

 

 マリアはただ頷いていた。告解室で信者の過ちを打ち明けられたときのように否定も肯定もすることなく受け入れていた。

 

 そうして、すべてを話し終わったとき。マリアの腕がそっと背中に回された。

 

「お疲れ様、レーナ。ずっと、頑張ってきたのよね」

 

 声を上げて泣くのはいつぶりだろう。滲んでいく視界の中で、己の半身をかき抱いていた。

 

 

 

 

 私たちはすぐに準備を始めた。聖職に就く者として人々を見捨てられないといったマリアをなんとか説得し、祭りの夜ここを出発することに決定した。幸いにもまだ珀鉛病の兆候は見られない。交流のあった商人に取り次ぎを頼み、隣町へ神父様へのお見舞いの品を探しに行くつもりだと周囲には話した。

 

 祭りの日はすぐ訪れた。ここしばらくの暗い雰囲気を吹き飛ばそうと人々が集まっている。町中を紙吹雪が舞い、稲穂のような杖を掲げながら広場へ向かって行進していく。通り沿いに何軒も出店が立っていつもの賑わいが戻ってきたようだ。

 

 パレードが終わり夕方になっても後片付けが残っていたがそれはおばさま方が引き受けてくれた。

 

「あたしたちの分も神父様によろしくね」

 

 このまま国を去るつもりであることを知らない彼女たちに罪悪感が募る。けれど、今日を逃したらもう機会はないと本能が訴えていた。

 

 手荷物に例外なく消毒を受け、感染していないかボディーチェックも受けるという。監獄へ面会に訪れるときもこれぐらい厳しいチェックを受けるのだろうとかの海賊女帝を思い出した。

 

 シスターがベールを脱ぐときは限られている。衣服や装飾品も同時に消毒すると告げられ、布を外したところであっと声がした。

 

「申し訳ありませんが、貴方の出国は認められません」

 

 汚物でも触るかのように防護服越しに脱いだ修道服や荷物を渡され、部屋の隅にあった鏡を示される。下着だけになった背中の、ちょうど腰のあたりに小さな斑点が浮き出していた――――珀鉛病だ。

 

「どうされますか。精密検査を受け、結果次第では貴方の出国は可能です」

 

 もう一人いた監視員がマリアに問いかける。だめ。首を振って訴えかけるが、悲痛な顔をしたマリアも同じく首を振った。

 

「いえ。レーナと選びたかったんです……レーナと一緒でなきゃ、だめなんです」

 

 私たちの脱出計画は、失敗に終わった。

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