シスター死亡フラグ   作:桐宮

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8話 転機

 ついに戦争が始まった。国内にも兵士が入ってくるようになったという報せがあり、家族を自宅に残している者たちは一時帰宅を命じられた。

 

 私も病院へ来たばかりだったが帰った方がいいと促され、教会への道を走る。国境からじわじわと火の手が上がり、真っ白いフレバンスの町は夕陽に照らされたように赤々と燃え始めていた。

 

 今日がその日なんだろうか。国が燃え、人が燃え、病院にいる人も子どもたちも例外なく殺されていく。

 

 角を曲がろうとしたところでばらばらな足音が聞こえ身をひそめた。案の定数人の兵士たちが防護服に銃を構え走っていく。その内のいくつかは火炎放射器なんだろう、背中の荷袋にチューブが繋がっていた。

 

 とっさに姿を隠したのは市場だったようで、人のいなくなった屋台に多くはない数の果物が積まれている。食料なども自給自足するにはフレバンスの国土は小さく整備されすぎていた。

 

 どこかにオペオペの実が転がってやしないかと散々駆けずり回った時期もあったか。そんな偶然、期待するには遅すぎると思いながらも果物の山を眺めているとその中に目に留まるものがあった。

 

 ぐるぐると渦巻きを描いた果皮。形はちょうど葡萄に似ていて、果物にしてはまずそうな深い緑色をしている。

 

「何か音がしたな。総員、その場を捜索せよ」

 

 くぐもった兵士の声が聞こえる。逃げ出さなくては、そう思うのに手は勝手にその実へ伸びていた。

 

 実を手にした瞬間、パゴンと銃弾が木箱にぶつかった音が響く。

 

「あそこに何かいるぞ!」

 

 見つかった。もう考えている暇はない。路地の方へ駆け出しながら掴んだそれにかぶりついた。舌先にぴりりと痺れるような感覚が伝わり、後から味覚が追いついてきた。まずいなんてもんじゃない。タタババスコとやらの比ではないんじゃないか。

 

 たった一口、それだけでいいのにそれが辛くて涙が出てくる。残った実を放り出して口元を押さえ鼻を塞いだ。嗅覚を封じるだけで味の感じ方が随分変わるというのは本当のようでわずかにましになった瞬間大きく喉を鳴らした。

 

 ごきゅん。

 

 ひとかけらの果実が喉を通り過ぎていく。背筋が粟立つような感覚と共に、何かが体に宿ったのを感じる。

 

「あれは……悪魔の実か!? 何故こんなところに」

 

 地面に転がっていった実に兵士たちの視線が向く。そして、その一瞬で十分だった。

 

「契約よ。"私の命令に従いなさい"、こいつらをやっつけて!」

 

 人影がおもちゃへ変わり地面へ落ちる。記憶の喪失でまた一瞬の隙が生まれ、一番近い兵士の背中を引いた。

 

 彼らを率いる立場なのか、一人だけ動きの違う兵士が銃を構えるが味方の陰になって発砲をためらった。服を引っ張られてたたらを踏んだ兵士と近くにいた一人へ続けざまに能力を使い従えた。

 

 最初に変えたおもちゃがおもちゃの武器を片手に向かっていく。驚いた隊長格の男はしかし場慣れしているのか即座に銃を構え直し撃ち抜いた。

 

「タイチョぉおおお」

 

 まるで動画を早送りしているかのように撃たれたおもちゃが人間に戻っていく。流石に死んだ人間にはそれ以上能力は作用しないらしいと考えながら私の手は最後の一人にかかった。

 

 飛びかかった体勢のまま、地面にしゃがみ込んでばくばくと音を立てて鳴る心臓を押さえる。周りにはたくさんのおもちゃと一人の死体が転がっていて、どのおもちゃからもうめき声が聞こえてくる。

 

「貴様ぁ~!!」

 

 最後に触れた隊長のおもちゃが死体の銃を拾って跳躍した。それを見た他のおもちゃたちも一斉に飛びかかってくる。

 

「契約よ、"私を攻撃しないこと"! "私の命令に従うこと"!」

 

 なんとか出せた声はおもちゃたちを無力化するには十分だった。ばたばたと倒れていくおもちゃに間髪入れず次の命令を下す。

 

「フレバンスの民への攻撃を禁じる。私についてきて、襲ってくる人間は返り討ちにして」

 

 くず折れたおもちゃたちがゆっくりと立ち上がる。表情も見えないのに、彼らが絶望を抱いているとわかった。

 

 図鑑で何度も見たそれは超人系悪魔の実"ホビホビの実"。触れた者をおもちゃに変え、能力者となった人間はそれ以降"年をとらない"。

 

 悪魔の能力は一人に一つ。マリアにあげることはできない。

 でもこの能力があれば、死を待つだけだった人生に希望を見出せるかもしれない。

 

「……行こう」

 

 教会には妹たちが待っている。彼女は知っているから兵士の罠に乗るはずもないがこの戦火ではどう転ぶかわからなかった。

 この国はもう保たないだろう。けれど、国がなくても人は生きていける。

 

 おもちゃを従えてただ走った。たった一人の、私の家族のもとに。




オペオペするかトキトキするかヒエヒエコールドスリープしてもらうか、マリアと二人で助かることを前提に考えたらこうなりました。
ホビホビの実についていくつか捏造がありますのでここに纏めて記載。

1.ホビホビの能力者自身はおもちゃにした相手を覚えていられる。

2.おもちゃにした相手はその時点で本来の肉体の時間(体の成長など)が止まる。このため食事の必要はない。解除されると再び動き出す。

3.おもちゃ化してからの損傷は能力が解除されても本来の肉体には引き継がれない。
 ただし致命傷となるような傷の場合は別で、そのまま死亡する。生物以外には能力は行使できないため、同時に能力も解除される。


次回は火曜更新の予定です。
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