剣鬼と黒猫   作:工場船

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日記風過去編第二弾。前回から書き方がぶれまくってます。
過去話? いらねぇよ! って方はごめんなさい。



番外話:黒猫のメモリー~インド編~

 ――あなたがそこを訪れると、目当ての彼女は不在だった。

 ――どうやら入れ違いになったらしい。

 ――ふと、テーブルを見るといつか見た古い日記帳が置いてある。

 ――時計を見れば、次の予定までまだ時間がある。

 ――再びの好奇心に、悪いと思いつつもあなたは日記帳を手に取り、そして開いた。

 

 

 

 

 ●月△日

 

 亜空間に漂ってたこれを見つけて、また何となく書いている。予想通りの三日坊主。さすがは私。

 やっぱりこういうのは向いていないな、と思う。まあ、今後も気が向いたらメモ書き程度に色々書き留めておくことにしよう。

 

 書くなら前回の続きからかな。

 インドに着いてしばらく各地を回りながら食べ歩きを楽しんでいたんだけど、遂にお金が無くなった。

 今までの資金は修太郎が持ってきていた日本円を両替して用立ててた。使う機会が無かったらしく、年齢の割に貯金はたくさんあったみたい。

 それでも考えなしに使ってれば当然尽きる。……まあ、ほとんど私が悪いんだけど。

 

 あ、そう言えばインドにはカレーなんて名前の料理は無いらしい。私たちがカレーと思ってる料理にはそれぞれ固有の名前があるのだとか。初めて知った知識だけど、美味しければ別に呼び方なんてどうでもいいよね。

 

 ともかく資金が尽きて、日々の宿にも困る有り様になった。いや、あんまり困ってなかったかも。

 修太郎は野宿も苦にしないみたいだし、私もなんだかんだで慣れている。昔取った杵柄というやつだ。

 そこら辺の獣を狩れば、食料は一応確保できるけど、って言うか実際しばらくそうしていたんだけど、でもやっぱり我慢できなくなって術を使ってちょっと他の人からお金を失敬しようと思った。美味しいものが食べたかったから、仕方ない。

 

 で、そんなことをしてたら東方教会の奴らに目を付けられて追いかけられる羽目になった。

 結果としては当たり前なんだけど、インド=ヒンドゥー系列っていうイメージがあったから、天使たちの勢力がいることを忘れてたのが痛かった。

 うん、まあ普通に撃退したけど、表立って動くのが難しくなったのだ。

 

 結局、お金は修太郎が剣舞やら体術を活かした曲芸モドキやらで稼ぐことになった。

 なんだろう、日本を出てから、って言うか出会ってからずっとこの男に養われている気がしてきた。日本でも私の逃亡に協力して食べ物とか持ってきたのは基本的にあいつだし。

 これは良くない気がする。私はただの猫じゃないんだから。うん、いずれ見返そう。

 

 

 

 

 ●月■日

 

 また日にちが空いた。ま、どうでもいいか。

 最近はなんだか暇だ。修太郎がお金を稼いで、私がその姿を見ていて、そうして二人で食事して安宿で寝たり野宿したり。この繰り返し。

 うーん、建設的じゃない。何をすれば建設的になるのかはわからないけど。

 

 何か面白いことは無いかな。なんだかんだでサル仙人のところでは一日一日が充実していた気がする。修行ばっかだったから楽しくは無かったけど。

 今は本当に暇だから、黙って一人鍛錬してるこいつをいじったり、寝顔をつついたりするぐらいしかやることが無い。

 

 思えば、修太郎って寝顔だと普通にかっこいい方なのよね。目を開けると殺し屋にしか見えないけど。

 地味に子供に怖がられることを気にしてるみたいだし、それならずっと目をつぶってたらいいんじゃないかしら?

 ちょっと明日言ってみよう。

 

 

 

 △月○日(少し土に汚れている)

 

 安定の隔日、って言うか隔月。

 2週間目をつぶって生活していた修太郎の直感力がさらに強化されてからも、その日暮らしの毎日を送っていた私たち。

 端的に言えば、あれからしばらくして暇じゃなくなった。

 

 発端はトラックを襲っていたサルの魔物を修太郎が撃退したことだ。

 よってたかって一台の車に群がるサルを、ずっぱずっぱと斬り捨てて、見事無傷で襲われてた人たちを救い出した。

 これがいけなかった。

 

 サルの魔物の正体はヴァナラ族。有名どころは風神の化身とされるハヌマーンあたりだったかな。インドの英雄、ラーマと一緒に戦ったらしいサルに似た一族だ。

 通常人間には害を加えず異界に引っ込んで暮らしている彼らが、なんで人間を襲っていたかと言うと、それはつまりその人間たちが悪事を働いていたから。

 

 神宝サルンガ。ヴィシュヌ神が持ち、英雄ラーマが魔王ラーヴァナを打倒した際に用いた神の武具。

 はるか昔にラーマより預かっていたらしいそれをヴァナラから盗み出した下手人こそ、修太郎が助けた人間たちだった。

 

 サルンガの弓と矢の内、太陽神の矢の方を人間たちは奪っていた。

 その現物は一目見て吐き気がした。太陽の炎と光そのもので作られた矢は、私のような悪魔には猛毒だから。

 聖剣なんか目じゃない聖なるオーラは、視界にすら入れたくないほど怖く映る。魔術の施された布に包まれている状態でさえ目障りに感じる。直接触ったらきっと、私でも影響が出るレベルのパワー。

 

 正直関わりたくなかったけど、ヴァナラたちには顔を覚えられたし、国外に出るほどのお金は無いし、とりあえず人間たちはボコって捨てて、今後の安全のためにサルンガの矢を返しに行くことになった。

 話せばわかってくれるだろうと修太郎が言ったから、好きにすればいいって私も賛同した。律儀よね、ほんと。

 結論を言えば、私だけでもさっさと逃げてればよかった。

 

 ヴァナラを探してそこらへんの森をうろついていると、急に矢が飛んできた。

 滅茶苦茶鋭い刀みたいな切れ味の矢。全部修太郎が撃ち落としたから何ともなかったけど、私だけだったら一発ぐらい当たってたかも。

 見たら崖の上に一人の戦士が弓を構えて立っていた。

 

 手に持っている弓は太陽の聖なるオーラを放つ代物。サルンガの弓だ。

 戦士は線の細い女みたいなイケメンだった。バラ色の鋭い瞳が印象に残っている。戦士は、自分を英雄ラーマの子孫だと名乗った。嫌な予感がした。

 気を感じ取ればいつの間にか周りを無数の気配が囲んでいた。ヴァナラたちだ。

 

 修太郎が戦士を説得にかかったけど、こいつはこいつでコミュニケーション能力が高いとは死んでも言えないし、結局信じてもらえなかった。私が悪魔だったのも大きいんだろう。猫に変化してればよかったかな。

 そして戦闘に突入。不可抗力だったことを主張するこちらとしては、考えなしにヴァナラを切り捨てるわけにもいかない。

 私はもう殺し合っても良かったと思ったけど、修太郎が刀を峰に反して戦ってたから仕方なく手加減してた。これも間違いだった。

 

 膠着した戦闘に痺れを切らしたのか、ラーマの子孫はサルンガの弓を構えてとんでもないものを放った。

 あのド畜生、ブラフマーストラのマントラを使ってきやがったのだ!

 

 ブラフマーのマントラを受けて絶大なまでに威力を引き上げた矢は直撃こそしなかったけど、だからこそ滅茶苦茶なエネルギーを開放して大地を大きく爆散させた。

 前方1000メートル超を扇状に深く抉る威力。しかもバカスカ撃ってくる。意味が分からない。

 サルンガの弓の影響か、ブラフマーストラそれ自体に聖なるオーラが込められていた。悪魔の私は直撃=死亡確定なので仙術妖術魔力全部を駆使して避けまくった。修太郎は普通に避けてた。こいつらアホかと。

 

 遠巻きに見てたヴァナラたちもドン引きするこの有り様から抜け出せたのは、敵の攻撃が地形を崩し過ぎたからだ。私たちは川に落ちて流れの中に身を隠し、山の中に逃げることができた。

 そうして見つけた洞窟を私が幻術の結界で覆ってひとまずやり過ごしている。

 修太郎は今眠っている。こいつ、逃げる時に敵の攻撃から私をかばって結構大きな傷を受けてたのだ。

 

 幸いブラフマーストラではない、普通の矢だった……普通の矢? まあ、鋭く切り裂かれて大量出血していたから仙術の治癒で塞いで、今も気の循環を促して治してあげている。

 猫は受けた恩を忘れるって言うけど、前に書いた通り私はただの猫じゃないんだから。たまには有用性ってものを示してやらないと。

 

 それにしてもすごい気の質と量だと思う。武術の達人はみんなこうなんだろうか? 体温も高くていい感じに温かい。

 抱き着いた時の反応も普通の時と違って新鮮だったし、これからもたまにやってあげようかな。

 

 あ、そう言えばサルンガの矢、どうしよう?

 

 

 

 △月×日(土に汚れている)

 

 今日も今日とて森の中。

 もう何日になるだろう。ヴァナラたちはしつこく周囲の森を探索している。

 彼らの鋭敏な知覚には、仙術や妖術による惑わしも破られやすい。入り組んだ森の中だからこそこうして潜んでいられるのだけれども、いいかげんどうにかしなくては暇で暇で仕方がない。

 食料は私がたまに、修太郎が大体いつも動物を狩ったり山菜を採ったりして確保しているから困らない。でもやっぱり温かい寝床が恋しい。

 

 しかし圏境、便利だ。

 自然と一体化する気配隠蔽、と言うよりも相手の認識から外れる技は、たとえ目の前に近づかれても勘が良くないとほぼ気付かれない。

 流石に戦闘中に行うことまでは出来ないらしい。それでも十分規格外だ。仙術で再現できそうな気がするんだけど、今のところ成功しない。まさしく人体の神秘ってやつね。

 ヴァナラの知覚も捉えきれないみたいだし、修太郎一人なら簡単に包囲から逃げられるはずなのに、それをしないのは出会った時の言葉を守ってるから?

 バカだなと思うけど、結局私も甘えてしまってる状況がある。

 

 うーん、どうしましょ、これ。

 

 最初はこんな予定じゃなかったんだけど。もう1年以上一緒にいるなんて想定外も想定外。

 今更別れるのもなぁ……。なんだかんだで色々な場所を旅するのは気楽でいい。やっぱり飼い猫は性に合わないもの。

 うん、連れの一人や二人いたっていいわよね!

 

 

 

 △月*日

 

 見つかった。

 ラーマの子孫が直接やってきて、あっちの持つサルンガの弓とこっちが持つ矢を共鳴させたらしい。

 だからそこらへんに捨てておけって言ったのに、まったく修太郎ってば真面目なんだから!

 

 開幕ブラフマーストラの雨に、避けまくる私たち。自然保護とか考えないのかしらあのファッキン英雄。

 でもまあ、今までの日々で何の対策も練っていなかったなんてことは無く、あらかじめ用意していた改良型転送魔法陣で修太郎を子ラーマの目の前に転移させた。手間と時間をかけた甲斐あって見事成功! さすが私ね、褒めてもいいのよ?

 

 でもそこはやっぱり英雄の子孫、即座に弓を捨てて剣で応戦を始めたんだけど、相手はある意味剣士の天敵。

 対剣士トラウマ量産の剣技カウンターで見事勝利を収めた。残るヴァナラ程度じゃ私たちの相手にならないし、これでやっと穏やかな交渉の場が整った。

 個人的にはもう交渉なんてしなくてもいいとは思うけどね。

 

 とりあえずサルンガの矢を返したら目を丸くして驚かれた。

 それでもってやっと誤解が解けたんだけど、私たちも相手も交渉事苦手よね、ほんと。

 誤解を謝る相手はお詫びに宴会を開きもてなしたい、なんて申し出てきたから、美味しい料理に飢えていた私は一も二も無く了承した。修太郎も文句は無いみたいだった。やったー!

 それで今は人間に変装したヴァナラが運転するキャンピングカーの中にいる。意外と近代的なのね。

 

 そう言えば、男だと思ってた子ラーマは実は女だった。

 男装の麗人ってやつかしら? 車の中で終始修太郎にチラチラ視線を向けていたけど、これはもしかして?

 

 ……複雑だわー、めっちゃ複雑だわー、これをネタにからかおうなんて思ってないわー、ブラフマーストラが掠りかけた事なんてなんて根に持ってないわー。

 あー料理楽しみ。

 

 

 

 △月#日

 

 料理は美味しかった。

 野性動物を捌いて新鮮な肉を焼いて食べるのもそれはそれで悪くないけど、やっぱりちゃんとした料理人が作ったものは格が違う。

 私自身が分量測ったり、そういう作業が苦手だから料理をおいしく作れる人は素直に尊敬する。理論より感覚派だもの、私。きっとそういうのは白音の方が向いている。元気かなぁ……白音。

 

 それはさておき、子ラーマだ。ヴァナラたちの住処である異界、キシュキンダーに私たちは滞在している。ヴァナラたちは複雑みたいだけど、出ていこうとしたら子ラーマに引き留められたんだから仕方ないね。

 

 なんでも子ラーマはそこで最強の戦士であるらしい。半神英雄の血をひき、神々の加護も得て、練度が低いながらブラフマーストラも使える。っていうかあれで練度低いんだ梵天砲。

 そんなものだから今まで自分より強い男に出会ったことが無かったらしく……まあ当たり前よね。初めて自分を打ち負かした修太郎に興味津々らしい。からかったら顔真っ赤にしてブラフマーストラ放とうとしてきた。解せぬ。

 それで事あるごとに白兵戦で再戦を申し出てはぶっ飛ばされている。一応相手は女なんだから、修太郎ってば手加減くらいしたらどうなの? 私としてはもっとやってくれてもいいんだけど。

 

 その当の修太郎はキシュキンダーで出会った聖仙から何やら指導を受けていた。

 チャクラの極意とかなんとか。ヨーガ、つまりはインド流の仙術って言った方が解りやすいかしら?

 チャクラは人間の会陰から頭頂にかけて脊椎を通り全部で7つある霊的器官で、それを開き利用することで術者の念と気を高位に押し上げ神秘的な力を獲得することができる。いわゆるところの超能力ね。

 

 実際、修太郎には仙術の才能はあるのかしら? 実はそこらへんがよく分からない。

 闘気は使える。気は練れる。身体強化は人並み以上に使いこなせているみたいだけど、闘仙勝仏の修行を経ても相手の気脈を乱したりなんてことは出来なかった。

 感覚的な才能はあるんだろう。でも他者への干渉が苦手と言うか、自分の外から力を取り入れたり、力を放出したりする能力・機能に欠けている。殺気はものすごいのが放てるんだけどね。

 

 振り返れば闘気の質に比べて随分と外に出ている分の密度が薄いと思った。修太郎の実力なら本来はもっと高い防御力がある筈だもの。多分、内と外の密度が違い過ぎて戦闘中も本気で動けていないんじゃない?

 そう思うと改めて化け物みたいだ。まだ伸びしろがあるなんて。

 

 チャクラの修行には長い時間が必要みたいだったから、私は私で適当にキシュキンダーにあった文献をあさって神々のマントラについて調べてみた。

 さすがに完全習得は難しいけど、インドとか中国とか、そこらへんの術って小難しい理論より感覚的なものが多いから助かる。

 子ラーマを口車に乗せてブラフマーストラのマントラも少しだけ聞くことができたし、ちょっとめんどいけど少なくとも暇はしなさそう。

 強要されるのは嫌だけど、こうして力を手に入れる感覚は好きだ。

 

 食べ物も美味しいし、キシュキンダー、いいところね。

 

 

 

 □月×日

 

 久しぶりの日記。半年ぐらい?

 うーん、なんだか負けた気分。

 今日、子ラーマが修太郎に手料理をふるまっているのを見た。それで、ちらりとこっちを見てきた子ラーマが鼻で笑ってきたから私も腹が立って料理を作ってみたんだけど……。

 うん、黒い塊が出来た。やっぱレシピなしで目分量じゃ無理があったかしら。……無理しかないわね。

 仕方がないからそこら辺のヴァナラに食わせて気絶したのを見届けた後、マントラ習得ついでに料理本に目を通している。

 

 あ、別に子ラーマの料理は美味しい訳じゃなかったみたい。あの後修太郎を見れば珍しく調子悪そうだったし、子ラーマも申し訳なさそうな雰囲気だったし。

 やっぱり今まで戦闘漬けだった人間が無理するもんじゃないってことね。ま、私は私で見返してあげるつもりだけど?

 そうよね、いずれ子供を産んで育てるなら、家事ぐらいこなせるようにならないと!

 

 

 

 □月△日

 

 このまま穏やかに過ごしてインドを去るかと思ってたけど、どうやらそう都合よくはいかない訳で。

 なんだっけ、『禍つの団(カオス・ブリゲート)』? そう名乗るやつらがキシュキンダーに襲撃してきた。場末の盗賊団か何かかしら?

 

 襲撃って言ってもそう大きなものじゃなく、子ラーマとサルンガセットを誘拐していったのだ。

 あの子ラーマを? うっそぉ? なんて思ったけど、知らない仲じゃないし気になったから、修太郎と一緒にヴァナラたちと追跡してみれば本当にさらわれてた。薬か呪いでも受けたのか、ぐったりして力が発揮できないみたいだった。

 子ラーマってお姫様ってよりはどっちかと言うと王子様なもんだから違和感バリバリ。思わず吹き出したらすっごい睨まれた。ごめん。

 

 サルンガの矢を盗み出したのもこいつらだったらしい。顔は覚えていなかったけど、相手がこっちを見て騒いでたからそうなんだろう。

 さらわれるまで気付かれなかったことを考えれば、こいつらは相当隠密能力が高い。というのも、相手はその大半が神器使いだったから。

 神器(セイクリッド・ギア)って反則臭いわよね。単一能力しか持たないものが大半だけど、その分特化してるからかなり厄介。

 

 でもまあ、それだけなら正直私たちの相手にならない。見つけた時点で相手の目論見はほとんど崩壊している。

 だから相手は切り札を使ってきた。

 と言うか、誘い出されたのは私たちの方だった。子ラーマたちを見つけた場所には、古代のアスラが封じられていたのだ。

 

 名前は知らないけど、三面六臂の巨大鬼神は凄まじいパワーでキシュキンダーに襲い掛かった。

 ヴァナラたちも応戦したんだけど、多少の攻撃はオーラの防御で弾かれて全然通らない。

 修太郎はどうやら子ラーマを助けに向かったみたいで、この場を私に任せて走って行った。結局、私一人でアスラを相手取ることになった。ま、暴れるのも久しぶりだし別に嫌じゃなかったけどね。

 

 どうせなら新技を試してみようと色々撃ってみた。

 倶利伽羅剣の破邪の黒炎や、仙術で地脈の気を操っての地形攻撃、マントラを乗せた魔力妖力ミックス波動、極大重力場×3による多重圧殺攻撃etc……。

 結構いい出来の技たちだったんだけど、これが中々倒れない。怒りで我を忘れて痛みを感じていないようで、すごいタフネスで耐えてきた。

 相手の攻撃もかなり激しくて、ちょっとでも油断すれば即消し炭になりそうだった。

 

 多分このままいけば勝てるけど、それじゃあキシュキンダーが滅茶苦茶になってしまう。

 なんだかんだで愛着がわいた土地だから、どうしたものかと悩んでいると、すぐ横を通る梵天砲。

 そちらを見れば子ラーマと修太郎。間一髪矢が当たらなかった私に、子ラーマの舌打ちが聞こえた気がする。さっき笑ったことの仕返しかあのアマ……!

 

 とにかく形勢逆転、あとは多く語るまい。

 アスラは修太郎に手足を切り裂かれ、私の炎にオーラを吹き飛ばされ、そしてサルンガの矢に穿たれて消滅した。

 ついでにキシュキンダーも半壊した。何故に。

 

 原因は最後に放ったサルンガの矢。

 子ラーマが調子に乗ってサルンガの矢でブラフマーストラを使ったものだから、元々練度が低かったこともあって制御しきれなかった太陽のエネルギーが凄まじい余波をまき散らしたのだ。

 幸い私の奮戦もあって既に避難は完了していたので、人的被害は無かったからよかったものの、こいつ意外にドジっ子である。いや、この半年以上の付き合いでわかってたんだけど。

 

 って言うかもうこの娘、修太郎にベタ惚れよね。バラ色の瞳をキラキラ輝かせていちいち頬を赤くしている。はっ、似合わないわー。

 確かに慣れれば顔も悪くないし、背も高いし強いしスペックはかなりのものだけど、性格的には恋人向きじゃないわよ? 絶対。

 羞恥心は無いわデリカシーは無いわ自分の命の危機を無視するわ割と後先考えないわ修行マニアの剣術バカだわ、真面目だけど紳士には程遠いし、付き合う方として見れば危なっかしくて仕方がない。

 

 あれ、なんで私そんなのと一緒にいるのかしら?

 別に修太郎との約束に私が付き合う必要はまったくないのよね。……うーん、今更だからいいか。

 

 ともあれ、キシュキンダーを復興しなくちゃいけないんだけど、ぶっちゃけ私たちに出来ることはほとんどない。

 地脈の気は聖仙が整えられるし、土木建築は専門のヴァナラがいるし、備蓄食料も微妙な今、正直私たち邪魔になってる。

 それぞれの修行も一区切りついててちょうど頃合いだったから、この機会に旅へと戻ることにした。資金? 禍つの団とやら美味しいです。

 

 やっぱりと言うべきか子ラーマは渋っていたけど、いい具合に修太郎が説得していた。

 なんでも次に会った時ブラフマーストラ無しで修太郎に勝てたらなんでも言うことを聞いてやる、みたいな話になった。

 梵天砲無し? 無理無理。まあやる気を削ぐのもアレなので黙っておいた。

 

 それでヴァナラのキャンピングカーで空港まで送ってもらって、今に至る。

 さて、次は何処に行こう。どうせなら料理がおいしいところがいいな。イタリア料理とかフランス料理とか食べてみたいかも。

 でもあそこって天使勢力の真っ只中だったりするのよね。本気で隠れれば何とかなるだろうけど。

 

 資金不足が無いように仕事も探さないと、なんて修太郎と相談する。

 ほんと、私たちに何ができるのかしらね? 日本じゃもうすぐ成人になる年齢だもの、適当に生きるだけじゃダメかしら?

 でもこいつと一緒だと大抵のことは何とかなる気がするから不思議。

 

 うん。ま、これからも何とかなるでしょ。

 

 

 

 

 ――!!

 ――気が付くと、背後に誰かの息遣いを感じた。

 ――振り向けば目つきの凶悪な男性が一人、座って本を読んでいる。

 ――圏境。今の今まで気付かなかったあなたは、抗議するように男を見る。

 ――あなたの視線を受けた男は「盗み見もほどほどに」とあなたの白い髪を撫で、自分の部屋に戻っていった。

 ――なんだか色々と気勢が削がれたあなたは日記帳を元の場所に戻す。

 ――時計を確認すれば予定の時間に近づいていたので大人しくそこを後にした。

 

 

 




眷属加入時の小猫が大体11歳として(木場が12歳くらいだったはず)、15歳でまだ未成熟。
逃亡した黒歌がすでに成熟した猫魈ならその時の年齢は大体17・18歳くらい?
原作本編がその4年後だから今の黒歌は21・22歳ぐらいでしょうかね。
小猫が発育遅いのならその限りじゃないですが、この作品では大体そんな計算でやってます。
何か矛盾点や誤字、アドバイスがあったら指摘よろしくお願いします。

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