剣鬼と黒猫   作:工場船

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第十二話:剣鬼・天龍・悪魔祓い

 それはある晴れた日のこと。

 季節も移り春過ぎて夏に近づいてきた頃。

 ロスヴァイセの仕事が軌道に乗り始め、徐々に契約の数を増やしていた頃であり、修太郎たちが古代ペルシャ――現イランへの探索を終えて帰ってきた頃でもある。

 場所は修太郎たちの泊まる宿の一室。

 

 オーディンからもらった北欧の魔導書を前にうんうん唸る黒歌。ロスヴァイセはそれに付き添って丁寧に教えている。

 週に何度かではあるが、上級魔術の課程に入ってからこのような光景が増えてきた。理論的・数学的な部分が増えてきたため黒歌単独では習得が難しくなったのだ。

 おそらくオーディンはこういった部分まで織り込んで魔導書を渡したのだろう。

 

 そんな二人をよそに修太郎は部屋の一角で一人逆立ちになり、腕立て伏せをしている。

 黒歌が張った簡易式隔離結界の中、かかる重力を約十倍に設定したトレーニング空間だ。日本で退魔剣士をやっていた頃はよく鉄塊を体に巻き付けて山の中走り回っていたものだが、イタリアの街中でそれをやれば流石に不審者扱いされてしまう。省スペースで効率もいいこちらの方が何かとよかった。

 

「――――!」

 

 ふと、黒歌の猫耳がピクリと動く。

 

「――む」

 

 逆立ちしたままの修太郎も反応を見せた。

 

「?」

 

 ロスヴァイセだけが二人の様子を見て首をかしげる。

 

「ちっ、面倒なやつが来たにゃん」

 

「ずいぶんと久しぶりだな」

 

 嫌な顔をして呟いた黒歌は素早く黒猫へ変化する。修太郎は体勢を立て直しトレーニング空間から出てきた。

 

「いったいなんです?」

 

「すぐにわかる」

 

 事情が理解できないロスヴァイセへ簡素に返す修太郎。

 直後、部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 

『もしもーし、シュータロくん、いますかー?』

 

「鍵なら開いている」

 

 返答する声に、扉が開く。

 そこにいたのは金髪の青年。グリーンの瞳が印象的な、端正な顔立ちの神父だった。

 

「や、お久しぶりスね、お二方――それと」

 

 軽い口調で言葉を放った青年は、修太郎と黒猫以外にロスヴァイセを見つけて言葉を区切り、そして続ける。

 

「喫茶店の店員さん。ども、デュリオ・ジェズアルドといいまっす」

 

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 当代最強のエクソシスト、神滅具(ロンギヌス)煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』のデュリオ・ジェズアルド。

 上級悪魔すら容易く屠ると言われる、天使勢力が誇る虎の子。それがまさか。

 

「こんなに軽い人だったなんて――」

 

「ははは、うん、よく言われる」

 

 ロスヴァイセの言葉に笑う青年には威圧感の欠片も無い。

 修太郎たちとデュリオが知り合った経緯にはまず、黒歌の存在がある。

 SS級はぐれ悪魔として現在進行形で指名手配されている黒歌だが、フランスで起きたある一件が原因となりその存在を天使たちに知られてしまった。となれば教会としては当然退治しなければならず、そうして派遣されたのがこのデュリオと。

 

「もう一人『魔帝(カオスエッジ)』のジークフリートって人がいたんスけどねぇ。相当上位の使い手だったんだけど、彼シュータロくんに瞬殺されちゃって。で、めちゃくちゃ落ち込んで……」

 

 ある日、失踪したのだと言う。

 禁手(バランス・ブレイカー)まで使ってあれだからなぁ……、と困ったように腕を組むデュリオ。

 彼自身、修太郎とは相討ち寸前まで戦り合ったのだ。同じ剣士ならその実力差に心折れることもあるだろうとは思っていた。

 

「グラムだけ持って他の魔剣は置いて行ったから全部こっちで保管してるんだけど、シュータロくん、要る?」

 

「要らん」

 

 シャワーで汗を流した修太郎が答える。

 取り付く島もないとはこのこと。

 二刀ならともかく、伝説の魔剣を4本ももらったところでどうしようもない。

 そもそも、自身の剣腕を何より頼りにする修太郎にとっては強すぎる剣の特殊能力など邪魔なだけだ。おそらく魔剣の方も修太郎を忌避するだろう。使おうと思えば出来ないことは無いだろうが、今持っている弐型斬龍刀(先日バージョンアップした)ぐらいがちょうどいい。

 

「うん、まあそう言うと思ってた。それより、猫さんも別に家の中なら正体見せてもいいんだけど? 要は他のエクソシストに見られなきゃOKなんだから」

 

 デュリオが黒猫に変化した黒歌に話しかける。

 “取り逃がした”と上に報告している手前、見つけたならば退治しなくてはならないが、それもバレなければ問題は無い。

 しかし、修太郎の膝の上で丸くなる猫はデュリオをしばし横目で見つめた後、ぷいっと顔を背けた。

 

「ありゃ、嫌われたもんスねぇ……」

 

 苦笑いで頬を掻く神父。基本的に悪魔は敵だが、彼個人としては別に黒歌のことを嫌っている訳ではないらしい。

 

「それで、今回は何の用だ。世間話だけをしに来たわけではないだろう」

 

 修太郎が用件を尋ねる。

 

「魔剣殿は相変わらず無愛想だねぇ。用は無くても来たけりゃ来るさ。友達だもの」

 

『なーにが友達よ。どうせまた仕事に連れ出すつもりなんでしょ、この似非神父』

 

「仕事? エクソシストのですか?」

 

 黒歌が念話で呟いた言葉にロスヴァイセが疑問の声を上げる。ちなみにこの念話、神父には聞こえていない。

 それでもロスヴァイセと黒歌の間で交わされた会話の内容を理解したのだろう。軽い調子でデュリオは答える。

 

「そ。俺に回される悪魔祓いの仕事って、困ったことに大体ハードなんスよね、これが。シュータロくんってば強いし、連れて行けば早く仕事が終わって助かるんだ」

 

 だから個人的に雇うことがあるのだと言う。そして余った時間を趣味の食べ歩きに使い、ついでにそれを経費で落とすのだそうだ。

 不良神父だにゃん、と毒づく黒歌にロスヴァイセは内心同意した。

 とはいえ、それも最近は随分ご無沙汰だったのだが。

 

「悪いが、お前の依頼はまったく割に合わない。以前はこの仕事を始めた直後だったからともかく、今はそれなりの対価をもらうぞ」

 

 欧州最強の剣士である修太郎は、当然魔物狩りとしてもトップクラスの実力者だ。

 ここ1年で急激に名前も売れ、かかる依頼料もそれなりに高額となっている。

 

「うんうん、知ってる知ってる。いやあ、当然とはいえ大物になったもんスねぇ。斡旋所のおじいちゃんから相場聞いてびっくり、もう俺のポケットマネーじゃ無理だもん。年収おいくら?」

 

「さあ、ざっと4000から5000万ぐらいじゃないか?」

 

「ご、ごせん……!? そんなに!?」

 

 興味なさげに言い捨てた修太郎の言葉に、ロスヴァイセが驚き飛び上がる。

 

『月に数十万から数百万の依頼をいくつか受けてるからそんなもんかにゃ? 金欠にあえいでいた頃が嘘みたいだにゃん。まさしく天職ね』

 

「この前使ったフェニックスの涙で大半吹き飛んだが」

 

「ご、ごせんまんが……吹き飛んだ……?」

 

 襲い掛かる眩暈に体勢を崩す戦乙女。

 修太郎たちの仕事は老店主が管理しているので今まで知らなかったが、まさかここまで高収入だとは思わなかった。思えば、何かあるたびにブランド物の服一式やら何やらを簡単にポンポン放ってくるのだから収入が低い訳がないのだ。

 いやー景気いいねー、と笑うデュリオ。

 

「最強のエクソシストなんて言っても、そんながっぽりもらえないから素直に羨ましいスわ。しかも俺の場合は姐さんに管理されてるからなおさらだ。あれ……俺もうすぐ20だよ? そんなに信用無いかな?」

 

「無いだろう」

 

『あるわけないにゃん』

 

「こりゃ手厳しい!」

 

 隙を突いては趣味に勤しみ、たびたび行方をくらます人物にそんなものあるわけがない。

 おお、ジーザス! と大げさにリアクションをとるデュリオ。

 

「しゅ、修太郎さんたちはもっと計画的に資金を運用すべきです!」

 

 そこで突然ロスヴァイセがテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「どうした、急に」

 

「前々から思ってましたが、あなたたちは無駄遣いしすぎです! 食事はいつも外食か出来合いの物! 住所不定のホテル暮らし! そりゃあ稼げば資金には困らないかもしれないですが、もう少し老後のことを考えるべきです! どうせ保険にも入っていないんでしょう? 仕事柄毎日が命懸けなんですからもっとそのあたりをよく……」

 

 詰め寄るロスヴァイセに、修太郎は驚きのけぞる。

 やれ服はブランド物である必要が無いだとか、食費は自炊することで大幅に抑えられるとか、特定の住居を持てとか家計簿をつけろとか、一般の保険じゃなくヴァルハラの保険なら魔物がらみのことでも査定がすんなりいくとか。

 何気に営業トークも交えて説教され、げんなりする修太郎と黒歌。それを見て大笑いするデュリオ。

 

「ははははっ、あのシュータロくんがまさかね! やるなあ喫茶店の店員さん!」

 

「デュリオさんもいかがですか? ヴァルハラ保険」

 

「あ……、俺そういうの間に合ってるんでいいです……」

 

 こちらにターゲッティングしてきた戦乙女に若干引いて答える。

 ちなみにロスヴァイセの営業活動はきちんと天使側に把握されている。お咎めが無いのは活動しているのがロスヴァイセ一人であり、話にならないほど規模が小さいためだ。元々信徒ではない魔物狩りを主な顧客として扱っているのも大きい。

 

(そもそもヴァルハラの戦士になる契約ってつまり、「私と契約して死後を神に奉げてよ!」ってことスからねぇ……)

 

 それはいったいどこの死神なのか。

 確かに契約もなかなか取れない。むしろ今軌道に乗り始めていることが驚きだった。

 延々と途絶えないロスヴァイセの話を聞く中、またもや二人が何かに反応を示す。

 

『シュウ、まためんどいのが……』

 

「……今日は客が多いな」

 

「もう! 二人とも聞いてるんですか? 誤魔化そうったってそうはいかないんですからね!!」

 

 いきり立つ戦乙女の言葉を遮り、ノックの音が響く。

 

『入るぞ暮修太郎』

 

 修太郎の言葉を待たず、入ってきたのは銀髪の少年。

 ロスヴァイセの様な輝く銀ではない、ダークカラーの強い色味はある種幻想的でもある。天使のよう、とも形容されるだろう端正な顔立ちは、当人が放つ鋭利な雰囲気により冷酷に映った。

 修太郎よりも5つ以上は若い美少年だったが、纏うオーラは只者ではない。いや、これは――。

 

「ドラ、ゴン――?」

 

「ああ、俺は白龍皇(はくりゅうこう)――『白い龍(バニシング・ドラゴン)』ヴァーリだ。よろしく喫茶店のヴァルキリー、それと――デュリオ・ジェズアルド」

 

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

 

「こりゃ驚いた。シュータロくんってば、こんな人とも知り合いだったんスねぇ」

 

 神すら超える力を持つと言う伝説のドラゴン・二天龍の一角、白龍皇(はくりゅうこう)白い龍(バニシング・ドラゴン)』。

 その魂が封じ込められた神滅具(ロンギヌス)、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の所有者であるヴァーリと名乗った少年を目の前にしてもなお、『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』のデュリオは飄々とした姿勢を崩さない。マイペースと言うか、全く揺らがない気質は大物とも呼べるかもしれない。

 

「俺もまさか彼の名高き“最強のエクソシスト”がここにいるとは思ってもみなかった。やはり来てみるものだ。力を集めるのがドラゴンの特性なら、もうキミが赤龍帝(せきりゅうてい)でいいんじゃないか? 暮修太郎」

 

「御免だな。神器など俺は持たないし、必要ない」

 

「そうか、残念だ。キミがそうだったら俺としてはとても面白いのにな」

 

「シュータロくんが赤龍帝かー。もしそうだったら今俺ここにいないかもなぁ」

 

 冗談を飛ばすヴァーリの目は実に楽しげだった。笑うデュリオも朗らかに返す。

 洒落にならない内容に、寒気を感じるのはこの場でロスヴァイセただ一人という異様な空間。

 

「あなたも暮修太郎と戦ったくちか。強かっただろう? この男は」

 

「いやーもうデタラメっすわ。まさか俺の雷が斬られるなんて夢にも思わない」

 

「雷切程度、そう驚くことでもない。彼の立花道雪も成したと聞く。探せば同じようなことをできる者もいるだろう」

 

「ははは、ないわー」

 

「ふふふ、それよりもどうだろうデュリオ・ジェズアルド。神滅具(ロンギヌス)使い同士、この後一戦交えてみると言うのは」

 

「流石に白龍皇とプライベートで戦り合うなんてしたくないかなぁ。仕事なら別ですけど」

 

「なら俺がここら一帯で暴れまわったら受けてくれるのだろうか」

 

「流石にそうなると止めざるを得ないですけど……。え、マジで?」

 

「馬鹿が、やめろ。被害が洒落にならん。二人そろって叩き斬るぞ」

 

「それはむしろ俺の望むところだな」

 

「ちょっ、俺もスか!?」

 

 物騒な話しかしていない野郎どもに、戦乙女はドン引きだ。剣鬼の膝の上で目を細める黒猫は、内心でもう諦めているようだった。

 

『黒歌さん黒歌さん、あの人とはどういう関係なんですか?』

 

 念話で黒歌に問いかける。無論、クローズドチャンネルであるため他の面子には聞こえない。

 

『何って、大体想像がつくと思うけど……。はしょって結論を言えば、ガチバトった仲にゃん』

 

『ああー……』

 

 ルーマニアにて吸血鬼討伐の依頼を請け負った時のことである。

 なかなか見つからない標的に森を彷徨っていたところ、同じような目的で訪れていたヴァーリと出会い、色々あってそのまま戦闘。修太郎はヴァーリと、黒歌は何故かその場に居合わせた孫悟空の子孫――美猴と戦うことになった。

 周辺の地形を大きく変えるような死闘を演ずるも、最後には戦闘の余波で住処を破壊された吸血鬼たちの介入が発生。

 黒歌たちはともかく、修太郎とヴァーリの両者ともが大怪我を負っていたこともあり、戦いは中断して撤退することとなる。

 

『それが縁で偶にやってくるようになったにゃん』

 

『なんでそうなるんです……?』

 

 それは黒歌こそが聞きたい。隙あらば再戦を申し込んでくるため迷惑なのだ、この少年は。

 あの戦いはどちらが死んでもおかしくなかった。いや、吸血鬼の介入が無ければ確実にどちらかは死んでいたに違いない。にも拘わらず一向に諦めないヴァーリと言う少年は、筋金入りの戦闘狂(バトルマニア)なのだろう。

 少なくとも黒歌であれば、修太郎の刃を一度受けて再戦しようとは絶対に思わない。

 

「そういや白龍皇殿、確か『神の子を見張る者(グリゴリ)』所属だっけ? ちょっと聞きたいことがあるんスけど」

 

「なんだ?」

 

「――コカビエルのことについて」

 

「ああ……」

 

 笑みを消し真面目な顔で尋ねるデュリオに、ヴァーリは訳知り者の反応を返した。

 

「何日か前にカトリック教会、プロテスタント教会、正教会からそれぞれ聖剣エクスカリバーが強奪された」

 

「聖剣が……?」

 

 疑問の声を上げるロスヴァイセ。

 聖剣エクスカリバー。

 大昔の大戦において四散した最強クラスの力を持つ聖剣の一振り。今は錬金術によってその欠片を基にして7本の剣に分けられ、その内1本が行方不明に、6本が教会内の各宗派に分散して管理されている。

 修太郎がかつて出くわした聖剣使いの少女たちが持つ、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』と『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』もその一つだ。

 

「教会としては堕天使陣営全体と、ついでに悪魔の関与も疑ってるスけど、そこらへんどうなってるか教えてもらっても?」

 

「別段隠すような事ではないからかまわないが……。とはいえ俺の情報が真実であるとは限らないぞ? それでもいいのなら教えよう」

 

「どうぞ」

 

「あれは完全にコカビエルの独断だ。悪魔側の関与も無いだろう」

 

 言い切ってヴァーリは黙った。その様子をしばし見つめたデュリオは、次の瞬間様相を崩し。

 

「どもども、ご協力感謝しますです。いや、わかってはいるんだけども一応聞いておかないとね」

 

 俺仕事熱心だから。そう言って笑う。

 天使側は疑ってこそいるものの、組織としての総意で動いている線は薄いと見ていたようだった。

 顎に手を当てて考える修太郎は、ヴァーリに尋ねる。

 

「コカビエル……聖書に名を残す堕天使の一人か。戦争でも起こす気なのか?」

 

「大方そんなところだろう。気持ちは分からないでもないが、いささか無謀だと言わざるを得ない」

 

 ヴァーリの返答は少々意外なものだった。

 

「お前ならてっきり賛同するかと思ったが」

 

「失礼だな。俺だったらやるとしてもタイミングぐらい選ぶさ。アザゼルは戦争を望んでいないからな。この一件、教会側が何もしなくても終わる」

 

 おそらくこちらでケリをつけることになる、と言葉を添えるヴァーリ。

 

「はー、そりゃ何とも。可哀想だなぁ、あの子たち」

 

 デュリオが遠くを見る目で呟いた。

 全員の視線を向けられ、それに気づいたデュリオは言葉を続ける。

 

「実はもう追手が向かってるんスよね。エクスカリバー使いの女の子が二人。本当はこれぐらいのレベルになると俺にお鉢が回るはずなんだけどねぇ、人間側の利害関係も勘定しなくちゃいけないところがこっちのデメリットだよね」

 

 そう言って修太郎を見る。

 

「シュータロくんは知ってるかな? 一人はちょっと忘れちゃったたけど、もう一人、青髪の女の子だよ。一応、俺と同じカトリック教徒の」

 

「ああ、名前は確かゼノヴィア……だったか? となるともう一人は紫藤イリナか」

 

 そうそうそれ! と手を叩く神父。

 聖剣使いのゼノヴィアと紫藤イリナは、修太郎も知るところではある。確かにそれなりの才能は感じたが、現状で堕天使幹部を相手に勝利を収める程の実力があるとは思えない。

 

「言っては悪いがその二人、十中八九死ぬのでは?」

 

「だねぇ」

 

 暢気な様子のデュリオに、修太郎は怪訝な表情になる。

 そしてある結論にたどり着いた。

 

「もしやお前、俺に二人を助けろとでも頼むつもりだったのか?」

 

「うーん、二人とも貴重な聖剣使いだし、出来れば無駄に死なせたくはないんスよねぇ。誰かさんのせいで強力な戦力(ジークフリート)を失って俺の負担も増えたことだし? いやあここ最近の忙しさったらなかったね」

 

「失踪者が出たのは俺のせいではないだろう。当人の問題だ」

 

「あの子たちとも知らない仲ではないんスよね? 心配になったりとかしない?」

 

 やや困り気に話を続けるデュリオ。そう簡単に引き下がるつもりはないらしい。

 

「彼女達がそれを受け入れているのなら止める理由は無い。第一、俺がお前の仕事に付き合ってどれほど損をしたと思っている。頼むなら、相応の対価を用意することだ」

 

「うーん、予想通りの反応……。じゃあこんなのはどうかな?」

 

 そうして言葉を放った。

 

「今、コカビエルは日本のいち地方都市に潜伏しています。その土地は悪魔が管理している場所であり、管理者の名前はソーナ・シトリーとリアス・グレモリー……」

 

 ロスヴァイセとヴァーリには話の理由がわからない。

 修太郎と黒歌だけが反応を示す。デュリオが一瞬こちらへ目を向けた事に気付かない黒猫ではなかった。

 

「現魔王の妹二人が住まい、そしてその眷族が生活している場でもあります。あいつ、悪魔にもケンカ売る気みたいスよ」

 

 つまりは。

 

『白音……』

 

「中々うまい交渉をするじゃないか、デュリオ・ジェズアルド」

 

 睨む目の眼力を強めた修太郎に、神父は頭を掻きながら冷や汗を流す。

 

「いや、本当はこんなこと言いたくはなかったんスけどね。姐さんも心配してたみたいなんでやむなく。ま、恨むなら恨んでくれてもいいスよ」

 

「……いや、情報感謝する。行くぞ、クロ。すぐに日本へ飛ぶ」

 

 そう言って修太郎は席を立ち、荷物をまとめ始める。

 

『でも、シュウ……。あなた日本は……』

 

「問題ない。優先すべきはお前のことだ」

 

『シュウ……』

 

 心配げな黒猫はそれ以上何も言わなかった。彼女自身、妹のことが心配であったのだ。

 

「悪いスね。この礼はいつか」

 

「実はアザゼルからコカビエル捕獲の打診を受けていたんだが……。キミが行くのなら俺は要らないな。せいぜい高見の見物をさせてもらうことにしよう」

 

「え? え? どういうことなんですか?」

 

 瞑目して頭を下げるデュリオに、腕を組んで興味深げな様子のヴァーリ。話に着いて行けないロスヴァイセだけが右往左往していた。

 

 ともあれ、剣鬼と黒猫、一路日本は駒王学園へ――――。

 

 




前回から時間は飛んで原作への導入話。
長すぎる序章はこれで終了。原作はエクスカリバー終盤からになりますかね。
それにしても黒歌もデュリオも口調の再現が難しい。
デュリオとか原作でもあんまり出番がないからなおさらです。

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