剣鬼と黒猫   作:工場船

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月光校庭のエクスカリバー
第十三話:聖剣使いたちの剣舞


「迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉ!!」

 

 街中に少女たちの声がこだまする。

 現代社会でひときわ目立つ白いローブは教会の戦士であることの証。聖剣エクスカリバー使いのゼノヴィアと紫藤イリナは、戦士の誇りもなんのその、尽きた路銀を補うべく街頭にて物乞いをしていた。

 

 兵藤一誠、匙元士郎、そして塔城小猫の三人は、そんな二人を見て驚きと呆れが混じった視線を向ける。

 

「……おい兵藤、あれが聖剣使いか?」

 

「ああ、そのはずだけど……。またいきなりイメージぶっこわれたなあ」

 

「学園での面影は微塵もありませんね」

 

 匙が疑わしげな声を上げ、一誠が頭を掻き、小猫が事実を述べる。

 

「ま、まあ、目的の人物は見つけたんだ。交渉といこうぜ」

 

「……ああ、くそ。ここまで来たらもう帰れないよな……。すいません、会長……」

 

「行きましょう」

 

 事の発端は、彼女たち聖剣使いが学園へ来訪したことにあった。

 

 ――彼の名高き聖剣エクスカリバーが堕天使に奪われた。

 

 下手人は『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部コカビエル。三大勢力全てを巻き込む三つ巴の戦争を乗り越えた、聖書に名を残すほどの力を有する堕天使だ。

 何のためにこんな地方都市へやってきたのかはわからないが、ゼノヴィアたちの話によればそんな大物がこの街に潜伏しているのだと言う。学園へ訪れた目的は、悪魔側に今回の一件への干渉をやめるよう警告するためだった。

 

 本来であれば話はここで終わり、納得はいかないまでも一誠たちが気にする必要は無かったかもしれない。

 しかし件の『聖剣エクスカリバー』こそ、一誠が所属するグレモリー眷族の『騎士(ナイト)』木場祐斗にとっては鬼門だった。

 かつて教会内部にて行われた非道の研究――『聖剣計画』。その被験体であり、唯一の生き残りである木場は、聖剣に――特にエクスカリバーに対し強い恨みを抱いていたのだ。

 

 それ以前から様子のおかしかった彼である。憎しみの対象が目の前に現れたことでいつもの冷静さを失って、主であるリアス・グレモリーの説得すら聞かずに一人聖剣破壊のために飛び出していってしまった。

 主の手から離れた悪魔は、所謂ところの『はぐれ』として処理されることとなる。警告を破って横槍を入れてしまえば、聖剣使いたちが直接処分を下すこともあるだろう。

 イケメンであることはいけ好かないが、木場には借りも作っているし眷族の大事な仲間でもある。何よりも主の悲しむ顔は見たくないとして、一誠は出来ることをやろうと奮起した。そうして必死に考えた末、聖剣使いと共同してエクスカリバーの破壊を行おうと思ったのだ。

 

 リアスとゼノヴィアたちの話を聞く限り、コカビエルと言う堕天使は現状教会側が派遣した戦力だけでは心許ないレベルの相手であるらしい。

 一誠からしてみれば唯一知る剣の達人だった木場、そして倍化した自分をはるかに上回る実力を示したゼノヴィアたちでも敵わないとなると少し想像力が追い付かない。しかしそれなら、自分が持つ赤龍帝(せきりゅうてい)――『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』の力を交渉材料にすれば協力を了承してもらえる可能性もゼロではないと踏んだ。

 

 そして結果は――。

 

「そうだな、一本ぐらい任せてもいいかもしれない」

 

 ファミレスにて食事を奢った後のことだ。口元にご飯粒を付けたままのゼノヴィアが了承する。

 それにイリナが反発し、少々の悶着はあったものの、結果"悪魔"ではなく"ドラゴン"として協力することで話はついた。やはり当人たちも相当無茶な案件であることは承知であったらしい。

 

「それにしても、やっぱり日本人は親切だわ。たとえ異教徒でも持ってる"施しの精神"! イッセーくんは悪魔だけど、きっと潜在的に神の信徒たる素養があるのよ! これは他の人にも期待できるわ!」

 

 そう言って祈りをささげるイリナに、一誠たちは再度ダメージを受けて頭を押さえる。それにまた笑顔で謝るイリナの姿を見て、ゼノヴィアは呟いた。

 

「さっきまで私と一緒になって異教徒どうこう言ってたやつの言葉とは思えないな……」

 

「でもゼノヴィア、昔だって私たち二人とも"彼"のお世話になったじゃない。あの時割って入られなかったら、きっと大怪我してたと思うわ。だから私、お礼に彼へ聖なるロザリオを贈ったの。これで彼もきっと主への信仰心に目覚めているはずだわ!」

 

「確かに世話になったことは否定しないが……。施しを受けたのはイリナだけじゃないか。というか、そんなことをしても彼の様な手合いには無駄だと思うぞ」

 

「あら、やってみなくちゃわからないわ。信仰とは信じることから始まるのよ!」

 

「"彼"って? あのー、いったい全体何の話……?」

 

「ああ、すまない。今回の件には全く関係の無い話だ、気にしないでくれ」

 

 疑問の声を上げる一誠に、至極冷静な顔で答えるゼノヴィア。本当に何でもないらしい。

 突然始まった世間話に微妙な顔をした一誠は、さいですか、と一言返して携帯電話を取り出す。

 

「それじゃ、商談成立ってことで。俺はドラゴンの力を貸す。んでもって俺のパートナーも呼ぶけど、いいよな?」

 

 そう言って木場へ連絡を取ろうとした一誠は、きょろきょろと辺りを見回す小猫に気付く。

 

「小猫ちゃん、どうかした?」

 

「いえ……」

 

 首をひねる小猫の姿はコンパクトで愛らしいが、その表情は難しげだ。

 

「なんだか懐かしい匂いがしたような気がしたのですが、どうやら気のせいだったようです」

 

 そう言っていつもの無表情に戻った。

 少し気にかかったものの、一誠もそれ以上は追求せず改めて携帯電話を操作する。そうして待ち合わせの場所目指し、聖魔混じった5人組はファミレスから出て行った。

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

「まだそこまで事態は動いていないようだな」

 

「…………」

 

「…………」

 

 去って行った一誠たちが座っていた席のすぐ真後ろに、三人の男女がいた。

 漆黒の髪に同色の瞳、鍛え上げられた長身痩躯に鋭い目つきの男、暮修太郎。

 上下共に長袖の衣服に身を包むその姿はいささか時期外れだ。纏う雰囲気は明らかに堅気のそれではなく、集団から頭一つ抜ける長身は本来であれば非常に目立つだろうが、圏境で気配を薄めての隠密行動は誰の目にも咎められることはない。

 

「クロ、どうした?」

 

 男の傍らには黒髪の妖しい美女、黒歌。

 いつもの着物は脱ぎすてて、ワンピースとそれに合わせたジャケットという洋服姿だ。長い髪の毛は三つ編みにして前にたらし、変装用の伊達眼鏡をかけて静かに座ればどこをどう見ても清楚な文学系美女。とはいえ、今現在は仙術の応用で気の質を変え、認識阻害の術式を用いて他者の印象に残らないようにしている。

 見事「そこに誰かいることはわかるが、どういう人物がいるのかはわからない」という状態を作り上げ、一誠たちの目を完全に欺いて見せた。

 

「そうみたいね……」

 

 どうやら考え事に没頭していたらしい黒歌の返答は、ややぼんやりとしている。

 

「妹に直接会いたいか?」

 

「……会いたくないと言えば嘘だけど、この状況じゃ会ってもどうにもならないにゃん」

 

 眼鏡の下から覗く瞳は憂いの色と共に伏せられている。彼女らしからぬ後ろ向きな雰囲気だった。

 

「しかし、いずれは会って謝るのだろう? まさか今のままでいいなどとは思っていまい」

 

「それはそうだけど……」

 

 大方、今更出てきて本当にいいのだろうかとか、実際に妹の姿を見て考え直しているのだろう。加えて名前を変えていることにもショックを受けているようだった。

 自由気まま、且つ快楽的で短絡的な気質である彼女だが、実のところ意外と臆病であることを修太郎は知ってる。

 

「ならば、そうだな……。やることは一つ、か」

 

「シュウ……?」

 

 何かの結論を出したらしい修太郎に、黒歌は疑問の声を出す。しかし男は答えない。

 そのまま体面に位置するもう一人に問いかけた。

 

「ロスヴァイセ、探索はどうなっている?」

 

「…………」

 

「ロスヴァイセ?」

 

 日本にやってくるにあたり、探索要因として無理やり引っ張られてきた戦乙女ロスヴァイセ。

 ノースリーブのブラウスにレギンス、それに合わせてポニーテール状に結い上げた銀髪は常とは違う健康的な色香を漂わせている。彼女もまた通常であれば非常に目立つ容姿だが、黒歌の認識阻害を受けて他者の印象には残らない。ちなみにこの戦乙女、当初はジャージで行動しようとしたため、黒歌に取り押さえられて無理矢理この服を着せられている。

 そんな彼女だが、密かに頼んだ食事を一人平らげて、ぶつぶつと何やら呟いていた。

 

「これが日本のファミリーレストランなるもの……。なるほど家族向けの通り子供でも入れるカジュアルさ、料理の写真が添えられた見やすいメニュー表。値段も手ごろで量産品めいていながら味も悪くない……。客単価は500から2000円かしら。小国ながら経済大国となったのは伊達ではないと言ったところですか。どんな工夫がされているか気になりますね……」

 

「おい」

 

「噂では百均ショップなる全商品を100円で販売する店もあるとか。何という価格破壊。いったいどうなってるのでしょう? とても興味深いです。これが日本……やはり、来てよかった」

 

「……」

 

 彼女に額へ手をかざす。中指を親指で押さえ、力を臨界点まで溜めこんで――。

 パァン、と大きな音を鳴らして一撃。

 

「痛いっ!? あうぅ、急にデコピンはやめてください。あなたのそれ、何故か全身にダメージがいくんですから」

 

 両手で額を押さえるロスヴァイセだったが、走る衝撃に痺れて全身がぷるぷる震えている。発勁技術の応用がここにも生きていた。

 

「それで、探索結果はどうなっている?」

 

「うぅ……。はい、とりあえず街中をざっと調べてみましたが、それらしい痕跡は見当たりません。おそらくは人目に付かない郊外の方ではないかと思います。既に術式は放っていますが、どうやらうまくオーラを隠しているようで結果が出るにはもう少しかかりそうです」

 

「ご苦労。そうだ、ここは奢ろう」

 

「いいえ、結構です。このような時のための予算は確保しています。先月の初ノルマ達成でお給金が少しだけ上がったので」

 

 修太郎の申し出を手で制してロスヴァイセは答える。

 汚すのが怖くて最初の一度しか使ったことは無いが、ただでさえブランド物の服やらバッグやら化粧品やらを半ば無理矢理押し付けられる形で貰っているのだ。自身の仕事のことも併せて、これ以上この男の世話になるわけにはいかない。

 

「今回のお手伝いも報酬は要りません。日本には私も一度来てみたいと思っていたところですし、事情はいまいち把握できていませんが、今までの恩返しも含めて協力させていただきます」

 

「それはこちらとしても助かるが……」

 

「……ちなみにチケット代は今のところこっち持ちなんだけど、それは大丈夫なのかにゃ?」

 

「――――!」

 

 黒歌の言葉に固まるロスヴァイセ。

 昇進しておきながら役職手当も出張手当も宮殿の修繕費にとられて、平ヴァルキリーの平均的な手取り額+αしか貰っていない彼女だ。しかも祖母へ仕送りまでしている彼女にはイタリア→日本までの航空チケット代を払う余裕など微塵も無かった。

 

「……しゅ、出世払いでお願いします……」

 

『…………』

 

 悔しげに顔を逸らしながら頼み込む戦乙女は、確かに社会人の悲哀を漂わせていた。

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

 深夜。多くの人々が寝付く時間帯に、激戦の鐘は鳴り響く。

 月光の下、交わされる剣戟の音は止まない。

 蒼い水晶質の結界に覆われた学園の校庭において、今まさに行われている死闘は常人の理解が及ぶところには無かった。

 

 現在進行形で駒王学園にて展開されている都市破壊の儀式。その実行者であるコカビエルたち反逆者とグレモリー眷族、聖剣使いたちの戦いは熾烈を極めていた。

 手始めにコカビエルが地獄より呼び寄せたケルベロスを皆が共同して撃破。

 次に教会より奪われた三本に加え、さらにコカビエルがゼノヴィアより奪い取った『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を融合し強化されたエクスカリバーが完成。それを振るうはぐれエクソシスト、フリード・セルゼンを禁手(バランス・ブレイカー)に至った木場が破るも、聖剣計画の首謀者であるバルパー・ガリレイがコカビエルに始末されてしまう。

 そして今。

 

 空間に張り巡らされた銀糸が空を切り裂き敵へと迫る。

 標的である敵手――堕天使コカビエルは、迫るそれらの悉くを光力の波動で叩き落して右手に現出させた光の剣から刃を飛ばす。

 

「伏せろっ、イリナ!!」

 

 銀糸の主――紫藤イリナの背後から、ゼノヴィアが飛び出す。

 その手には莫大な聖なるオーラを放つ大剣が握られている。『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を超える圧倒的なパワーは彼女が本来持つべき得物、最強クラスの聖剣『デュランダル』。

 未だ完全には使いこなせない代物だが、秘める切断力は尋常ではない領域だ。その凶悪な切れ味で以ってコカビエルの放った光波の刃を切り裂いて、イリナの身を守った。

 

 しかし、壮絶な威力の攻撃を打ち破った反動か、ゼノヴィアの動きは鈍くなる。

 それを見逃すコカビエルではなく、左手に素早く光の槍を生み出して投擲しようと構え――。

 

 迫る神速。

 コカビエルの背後に金髪の美少年が現れる。グレモリー眷族が『騎士(ナイト)』木場祐斗だ。

 その手に握る神器、禁手(バランス・ブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』が彼の戦意に呼応してその強度と切れ味を増大させる。『天閃(ラピッドリィ)』『夢幻(ナイトメア)』『透明(トランスペアレンシー)』そして『破壊(デストラクション)』の四本を融合させたエクスカリバーすら打ち砕いた切れ味は決して侮れるものではない。

 しかしそれは使い手が熟達している場合にのみ限る。はたして風を切り裂く鋭い斬撃は、コカビエルの光剣に容易く受け止められた。

 

「背後をとっただけで俺の首を獲れるとでも思ったか? 甘いぞ聖魔剣使い」

 

「ぐうっ……!」

 

 僅かな動作で弾かれて空中に投げ出された木場は、自慢の足を封じられてしまう。

 同時に、花が咲くかのごとくコカビエルの背中から十枚の黒翼が出現する。光力のオーラによって鋭く硬質化した翼が、木場を切り裂かんと迫るが、しかし。

 

「甘いのはあなたよコカビエル」

 

 銀糸が全ての黒翼を押さえつけた。

 それだけではない。コカビエルの四肢にまで巻き付いた糸が、堕天使の動きを完全に封じる。

 白銀の糸の正体は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。キマイラとの戦いを経て紫藤イリナが試行錯誤の末に考案した斬糸形成の技だ。

 攻・防・補の全てに優れるこの技だが、かかる精神的負担は相応に大きい。しかしここは出し惜しみするところではなかった。

 流石にコカビエル本体を切り刻むにはパワー不足であるものの、エクスカリバーの強度も加味すればこうして押さえつけることは不可能ではない。

 

 その隙をついて駆け抜けるはこの場において最大の攻撃力を持つ剣士、ゼノヴィア。

 デュランダルを覆うオーラは現状で出来る最大域にまで研ぎ澄まされている。イメージは、彼女が見た中で最も鋭い斬撃の主――キマイラを切り捨てた彼の動き。

 本人が見ればあまりの稚拙さに苦い顔をするだろうが、それでも彼女の剣は確かにレベルを上げている。

 通過するだけで大地が裂けるオーラの高まりは、コカビエルをして危機感を抱かせるほどのものだ。

 

「コカビエルッ! 覚悟ぉおっ!!」

 

 気合い一閃。肩に担いだ刃を上段に構えて振り下ろす。

 当たればたとえ堕天使の幹部だろうと両断するだろう。――そう、当たりさえすれば、だが。

 

「だから、甘いと言っているッ!!」

 

 咆哮だけで大地が割れる。

 コカビエルの全身から発せられるオーラがまとわりつく銀糸を、背後に着地した木場を、そして迫るデュランダルの刃と共にゼノヴィアを吹き飛ばした。

 

「ぐああっ!!」

 

「う、ああああっ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

 爆風の付近にいた木場とゼノヴィアは大きく吹き飛び、精神力を振り絞って銀糸の拘束を維持していたイリナは襲い掛かる反動に悲鳴を上げる。

 まさしく、圧倒的。これが神と魔王を相手にして生き延びた古強者の実力。

 

「教会の聖剣使いに聖魔剣使い、か。我が根城に来た時は大したことは無いと思っていたが、なかなかどうしてやるものだ。デュランダルのオーラの練りも存外悪くない。即席にしてはコンビネーションもいい塩梅だった。面白いぞ。だが――」

 

「――くっ!?」

 

 横合いから飛び出てきた拳を受け止める。

 グレモリー眷族の『戦車(ルーク)』塔城小猫。小さな体格に秘めたパワーは決して弱いものではないが、コカビエルに通用するかと言えば無謀以外の何物でもない。

 

「駄目だな。力の単位が小さすぎる。やはりサーゼクスあたりでなければな」

 

 無造作に振るわれる拳は、少女の顔面を砕かんと迫り――。

 

 鈴鳴りの音が響く。

 

「む――――?」

 

 とっさに上空を見上げたコカビエルは攻撃の動作を一瞬硬直させる。

 その隙を突いて木場が神速で駆ける。堕天使を囲んで形成される都合10本の聖魔剣は、主の意思に従って敵へ殺到した。

 

「ふん、こんなもの!!」 

 

 堕天使の十翼が羽ばたけば、羽根の一枚一枚が刃の如く研ぎ澄まされて全ての聖魔剣を打ち砕いた。

 ガラスの如く砕ける聖魔合一の刃。しかし、グレモリーの『騎士(ナイト)』は目的を果たしていた。

 

「大丈夫かい? 小猫ちゃん」

 

「……はい、祐斗先輩。ですが……っ」

 

 木場の腕に抱えられながら、唇を噛み締める小猫は自身の無力さを嘆く。この場この時において、彼女の力は何の役にも立たない。

 赤龍帝の力を譲渡されたリアス渾身の一撃も、眷族最強の『女王(クイーン)』姫島朱乃の雷も通用しなかった相手だ。自分程度がどう頑張ったところでどうにもならないのかもしれない。

 だが、しかし、もしかしたら――。

 

(仙術を使えば……でも……っ)

 

 心によぎった言葉を否定する。

 たとえ才能があろうと、あれだけは使わないと決めたのだ。唯一の家族を失うきっかけとなった忌むべき力。少女はもう何も失いたくはなかった。

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、お前たち信者と悪魔はよくもまあここまで戦えるな」

 

 満身創痍の敵を前にして、未だ余裕の表情を浮かべる堕天使は苦笑する。

 その不可解な言葉を受けて、全員の視線がコカビエルへ集中した。

 

「あなた、いったい何を……。主がいないとはどういうこと?」

 

 怪訝な表情のリアスが疑問の声を上げる。

 その問いかけに、コカビエルは心底おかしいとでも言うように大笑いで答えた。

 

「フ、フハハハハハハハハハッ!! そうかそうか、そうだった! お前たちのような下々の者には真相は伝えられていないんだったな! いいだろう、どうせ戦争を起こすのに今更隠す必要も無い。教えてやろう。先の三つ巴の戦争で死んだのは魔王どもだけではない。神もまた、死んだのさ」

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

 学園全体を覆う水晶質の結界。そのドーム状になった頂点に、彼らはいた。

 長身痩躯の剣士・暮修太郎と、黒い着物の悪魔・黒歌。そして銀髪の美少年、白龍皇ヴァーリだ。この場にいないロスヴァイセは、もしもの時に備えて都市破壊の術式を解析し、解除する準備を行っている。

 

「いくぞ、クロ」

 

「…………」

 

 修太郎の言葉に対し、静かに怒気を表す黒歌。

 先ほど白音――塔城小猫が殴殺されそうになった時、殺気を放ってコカビエルの動きを止めた修太郎だったが、実のところあれは賭けだった。コカビエルが相応の実力者でなければ成立しなかっただろう。彼女はそれを怒っているのだ。

 登場のタイミングを見計らうなど、いったい何を考えているのか。今の修太郎は黒歌でも読めない。

 

「謝罪は後でいくらでもしよう。頃合いだ。コカビエルを捕獲する」

 

「……わかったにゃん」

 

 斬龍刀を構え、膂力を振り絞っての一撃。

 結界上を葉脈が走り、秘められた破壊力が開放されれば水晶質の天蓋は瞬く間に砕け散った。

 そうして重力の任せるまま二人は飛び降りる。

 

「なあ、アルビオン。彼ほどの剣士を今までに見たことがあるか?」

 

 降下する二人を見送りながら、内なる龍へと楽しげに語りかけるヴァーリ。

 先ほどの剣技『落峰の太刀』。ヴァーリが戦った時には使わなかったが、あんな出鱈目な技まで持っているとは。本当に驚かされる男だ。

 

『私の知る限りあの領域に達している剣士はいなかった。あるいは、伝説に残る英雄の技とはああいうものを指すのだろう』

 

「英雄、か。俺のライバルにも期待したいところだが……」

 

 視線を移せば一人の少年が見える。

 今代の赤龍帝、兵藤一誠。白龍皇であるヴァーリと対を成す『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』を宿す者。一目見ればわかる凡才だ。修太郎はおろか、他のグレモリー眷族と比べてさえ光るものなど何一つ見当たらない普通の男。

 せっかく宿命のライバルだというのに、このままではヴァーリの圧勝が目に見えている。どうすれば彼との戦いを楽しむことができるだろうか。

 

「…………」

 

 ともあれしばらくは様子を見るよりほかは無い。彼は最近目覚めたばかりだと聞く。もしかしたら今後化ける可能性があるかもしれない。

 ならば今は戦いの見学を楽しむとしよう。自分で戦えれば最高だが、たまにはこんな趣向も悪くは無い。

 そして史上最強の白龍皇は、誰にも気づかれずに学園へ降り立った。

 

 




オーディン「マジでノルマ達成しおった」

今回は原作からの変更点の描写と、原作キャラたちのコカビエル戦です。
主人公が戦うのは次回。最近ルビが多くなってきてるので少し読みにくいかもしれません。
というかサブタイが思いつかん。

破壊の聖剣はコカビエルに奪われましたが、ゼノヴィアにはデュランダルがあるので本人は無事離脱できたようです。フリード? やられ方は原作と大差ないのでカット。

いつもと違う髪型や服装の女性ってギャップがとてもいいと思います。普段は露出が多い彼女が低露出になったり、(一見)クールな彼女が二の腕出したり。
うーん、イマジネーション重点。

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