剣鬼と黒猫   作:工場船

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第二十四話:龍剣相打つ

 寂寞と広がる荒野に、距離を開けて相対する男が二人。

 暮修太郎とヴァーリ――剣鬼と天龍。

 間もなく始まる決闘は、周辺被害も考慮して異空間に形成されたバトルフィールドにて行われることとなった。

 

 二人が立つ荒野は岩山によって円形に囲われている。まだ決闘始まっていないにもかかわらず、その景色は所々は罅割れ、または穴を穿たれ、溶解している部分も見受けられた。それもそのはず、この場所はつい先ほどまでレーティングゲームの戦場だったのだ。

 ベオウルフを通じてグレイフィアに事情を説明し、急遽用意してもらった場だ。破棄する予定のフィールドを、一時的に再利用している形になる。

 

 極彩の空が広がる下で、二人は瞑目しながらその時を待つ。

 

『バトルフィールド固定、空間保護形成完了。お二方ともお待たせいたしました。何時でも始めていただいて結構です』

 

 響き渡るアナウンスの声に両者同時に目を開く。

 修太郎の右手に輝くリングが白銀の太刀へ姿を変える。

 ヴァーリは光翼を展開し、右手を敵手にかざした。

 

「――禁手(バランス)――」

 

 消失する剣士。

 鮭跳びの秘術と縮地法が生み出す神速が、力の解放より前に修太郎の身体をヴァーリの前に運ぶ。音も無く放たれる閃光の如き斬撃が敵対者目掛けて袈裟がけに走った。

 死合とは、決闘とは、自らの持ち味を最大限に活かして行われるべきである。戦とは無法が当然であり、"卑怯"などと言う概念はただの甘えに過ぎない。そしてわざわざ敵の変化を待つほど修太郎は優しくなかった。

 

 それはヴァーリも承知している。もしも自身が禁手化(バランス・ブレイク)する前に敗れるのなら、力を出し切れない己の弱さが悪いのだ。

 数多の技を重ねて動く修太郎の速さは人間の領域を遥かに超えている。おそらく最上級悪魔の『騎士(ナイト)』と同等以上。しかしそれは以前の戦いよりわかっていることだった。

 故に。

 

「――!」

 

 受け止める。

 禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を腕だけ先に顕現させて、見事ヴァーリは開幕の一撃を防いで見せた。斬風に頬が裂けるのを感じ、しかし臆さず宣言する。

 

「――(ブレイク)――!」

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 音声と共に龍の力が開放される。爆発的に広がった波動が土煙を巻き起こし、至近距離にいた修太郎を弾き飛ばす。

 羽ばたき一つで煙が晴れると、その身に白く輝く全身鎧を纏ったヴァーリが現れた。

 漲る魔力と龍のオーラが総身を覆い、正しく循環している。鎧の上にまた鎧を纏ったかの如く圧倒的な密度のそれは、修太郎が以前戦った時より質・量ともに一段階上の領域にあった。

 

「往くぞ、暮修太郎」

 

「来い、ヴァーリ」

 

 戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王学園旧校舎の一室。

 バトルフィールドの管制を行っているその部屋に、一人の男が入ってくる。

 

「ありゃ、もう始まってんのか」

 

「はい、アザゼルさま。つい先ほど」

 

 虚空に展開された術式魔法陣を弄りながら、グレイフィアが答えた。

 男の名はアザゼル。三大勢力が一つ、堕天使たちを束ねる総督である。

 

「アザゼル……」

 

「……まさか、こんなところで」

 

 思わぬ大物の登場に、街を管理する者としてこの場に集ったリアス・グレモリーとソーナ・シトリー両名が驚愕の表情を作った。

 

「ほら、着いたぞ」

 

 長身をゆったりとした浴衣で包むアザゼルは、片手に掴んでいたものを放り投げた。急に放り出されたそれは、空中で一回転しながらも何とか着地する。

 そうしてアザゼルの方を振り向き、文句を言い放った。

 

「あっぶねぇ! あんたいきなり俺をこんなところに連れてきていったいなんなんだ!?」

 

「イッセー!? アザゼル、あなたどういうつもり?」

 

 着地した人物は赤龍帝・兵藤一誠。

 問いただすリアスの気迫を受け流し、備え付けのソファにふてぶてしく座ったアザゼルが答える。

 

「白龍皇が戦うなら赤龍帝がそれを見といても損はないだろう。中々ないぜ? ヴァーリの奴が本気を出すってのはな」

 

 そう言って、空中に浮かぶモニターの方に目を向けた。それにつられて一誠もモニターを見る。

 しかしそこには飛び回る閃光と、無数の光弾と、それらによって巻き起こる爆風しか見えなかった。いったい何が起こっているのか把握できない一誠は、アザゼルを見て、そしてリアスとソーナを見つめて疑問符を飛ばす。その様子に見かねたリアスが口を開いた。

 

「……白龍皇が会談を狙う敵の組織と接触していたの。それで、その情報をこちらに教えると提案してきたようなのだけれど……」

 

「代わりに『戦え』だとよ。指名の相手は暮修太郎だ」

 

「暮さんが……!? なんでまたそんなことに?」

 

 リアスの説明にアザゼルが続ける。

 驚く一誠は話に着いて行けないようだった。根本的にヴァーリの思考回路が理解できないのだ。

 

「以前お流れになった戦いの決着をつけるんだとさ。別にそんな要求は無視して捕まえてもいいんだが、あいつは度し難いほどの戦闘狂(バトルマニア)だからな。そうなったらそうなったでこれ幸いと暴れて逃げるか、最悪戦って死ぬかだ。結果としてこっちの方がベターなんだよ。先方も了承してくれたしな。ま、黙って見てろ赤龍帝」

 

「お、俺の名前は兵藤一誠だ!」

 

「んじゃ兵藤一誠。ヴァーリはお前と違って凄まじく強いぞ。赤龍帝としてやってくつもりがあるなら後学のために見ておけ」

 

 そう言って、アザゼルはモニターに目を戻した。

 なんだか釈然としないながらも、言われた通り一誠も見る。しかし、何がどうなってるのかわからない。

 

「部長、この戦いっていったいどういう状況なんです?」

 

「えっ……と。禁手化(バランス・ブレイク)した白龍皇が空を飛びながら無数の光弾を撃ち出して、そのまま…………ソーナ、わかる?」

 

「……いえ、私も似たようなものです。どうやら暮修太郎さんの方は未だ健在のようですが……」

 

 何せ画面は閃光と爆炎しか見えず、爆発による破壊音が垂れ流されているだけの状況だ。いくら才ある上級悪魔といっても、この光景から戦況を読み取る技術を二人の『(キング)』は持っていない。

 

「おいおい、お前らそれでも魔王の妹かよ? 情けねぇぜ。仕方ねえな、ちょっと解説してやるか」

 

 呆れたようにアザゼルが言う。

 馬鹿にされたと思ったリアスは憮然とした表情になり、ソーナは己の身を恥じるように瞑目する。それでも二人の少女と一誠は、大人しく話に耳を傾けた。

 

「つっても、簡単に言えばお前らの言った通りで合ってるんだが、もう少し詳しく説明しよう。今ヴァーリは弾ばらまきながら隙を突いて光速で順次突撃かましている状況。そして暮修太郎はそれら全てを捌き躱してる状況だ。ヴァーリのヒットアンドアウェイ戦法に防戦一方の暮修太郎だが、まだほとんど無傷……ってな感じだな」

 

 アザゼルは何処からともなく高級そうな紙袋を取り出す。見ると、中身は日本酒だった。

 この男、戦いを肴に一杯やる気である。

 

「ヴァーリの放つ魔力弾は小さいながらも一発一発が上級悪魔の身体に風穴空けるレベルの威力だ。当たれば普通なら人間に耐えられる道理は無い。暮修太郎が仙術を修めているかどうかは知らんが、どうやら闘気を使えるみたいだな。しかしそれでも大ダメージは避けられんだろう。そして少しでも動きが止まれば、後はなし崩し的に全弾直撃……即死だ」

 

 他人事のように説明しながら、やはり何処からともなく取り出したグラスに日本酒を注ぐ。

 

「それ暮さん滅茶苦茶ヤバいんじゃ……?」

 

「ああ、ヤバい。相性が噛み合っていないからな。お前ら悪魔ならともかく、神器を持たず空も飛べない人間の剣士じゃあヴァーリに攻撃が届かない。普通は勝負にすらならん」

 

「何だよそれ! それじゃあ暮さんに勝ち目は……」

 

「無い、なんてことは無いんだろうさ。……そうだな、一ついいことを教えてやろう。昔ヴァーリがふらりと出て行ってな。そのまましばらく帰ってこないことがあった。まあ、あいつが何処かに消えるなんてそう珍しいことじゃなかったから、俺も放任してたんだが……」

 

 憤りを隠さない一誠に語りかけながらグラスを傾け、喉を鳴らして酒を飲む。そうしてアザゼルは言葉を続けた。

 

「戻ってきたあいつは血まみれだった。こう、左肩から右わき腹にかけてバッサリ斬られてな。骨もボキボキ折ってたぜ。ある程度応急処置はしてあったが、はっきり言って瀕死の重傷だ。そしてあいつをそんな状況に追い込んだ相手こそが――暮修太郎って男なんだとよ」

 

「え……」

 

「まあ見てろ。俺もそこまで詳しく知ってるわけじゃねぇんだ。……おっと、状況が動いたな」

 

 アザゼルの発言に一同がモニターへ目を戻す。

 そこには信じられない光景があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 

 縦横無尽に放たれる大弾が不規則な軌道で剣士を囲い、ある時点で弾け無数の小弾と化す。

 降り注ぐ光の雨に剣士は刃を閃かせ、襲い掛かる攻撃を弾き、逸らす。その腕前は流石と言わざるを得ないがしかし、そこへ敵手が猛然と突撃してくれば捌くだけで余裕がなくなってしまう。自らも絶え間なく動き回ることで何とか逃げ道を確保している状況だった。

 

 閃光の軌跡を描きながら飛び回るヴァーリは、地を走る修太郎より圧倒的優勢をもぎ取っている。

 以前の戦闘では自らのスピードとパワーに頼って接近戦を挑み、相手の技量の前に手痛い反撃を喰らった。魔剣投擲のことを考えれば、無暗に距離を離すことも躊躇われる。それ故の飽和攻撃と一撃離脱戦法だった。

 

 管制室にてアザゼルが諮詢した通り、このままであれば修太郎が負ける可能性は非常に高い。

 一体どのように反撃するのか? 相手がとり得る手を考える中、最も有り得ないのは敵がこのまま大人しく負けることだとヴァーリは確信していた。

 そして、その時は訪れる。

 

 修太郎が突如立ち止まる。

 当然として殺到する光の弾丸、その第一波が迫る中、斬龍刀のオーラが異様なうねりを見せる。そのまま剣が薙ぎ払われれば、本来防護に用いられるオーラの働きが相手の攻撃を包み、そしてなんと刃圏に存在する全ての弾丸が撃ち返された。

 まさしく人剣一体の妙技。ドワーフ謹製の魔法剣は、完全に彼の支配下にあった。

 

 反射されたことで互いに喰い合い爆散し、ヴァーリが敷いた魔力弾の陣形はその一部に穴を開ける。

 爆光に視界を塞がれたヴァーリは、敵がとるだろう次の手を思考する。

 修太郎は中距離以上の射程を持つ攻撃手段が少ない。ヴァーリが知る限り、禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を突破できる攻撃は魔剣投擲ぐらいだろう。しかしあれは隙が大きく、一時的に武器を手放すというデメリットがある。故にこの場は――。

 

 爆煙を突き抜けて銀閃が走る。

 矢のように飛んで来た修太郎が、既にヴァーリの目前まで迫っていた。

 閃光の突きがヴァーリの纏う鎧を滑る。天龍が誇る鉄壁の防御と、絶え間なく流動させ続けたオーラによって受け流すことに成功した。たとえ反応は出来なくとも、こうしてあらかじめ対策を施しておけば防ぎようはある。それでも如何なる技か、伝播した衝撃で鎧の下の肉がわずかに切り裂かれた。

 

「――っ!」

 

 はるか上空に位置する自分の下へと、いったいどうやって辿り着いたのか? 驚くべきはそこであろう。

 しかしそのような疑問は置き去りに、超速の反応で以ってヴァーリは迎撃する。

 かねてより手の平にて凝縮されていた魔力の球体。超圧縮されたその内部に渦巻く力の奔流が、意識のトリガー一つで解放される。

 

 大閃光が空間を裂き、極大の爆発が巻き起こった。

 

 ヴァーリがとった自爆覚悟の対応によって、弾け飛んだ両者の距離は一気に離れる。

 如何な白龍皇の鎧とて、この規模の爆発を受けて無傷とはいかない。ならば人間たる修太郎の被害は如何ほどのものか。

 罅の入った鎧をアルビオンの補助で復元しつつ、ヴァーリは敵手の行方を探す。

 

 いた。

 爆圧によって上空まで飛ばされたらしい。あちらもヴァーリを見つけたのか、刃を構えて卑睨した。纏う衣服はボロボロで出血の跡も多く見られるが、見た限り未だ健在。またもや魔法剣のオーラを操り致命傷を防いだようだ。

 ――そうでなくては。

 兜の下でヴァーリの口端が吊り上る。

 

(ならばこれをどう受ける……!)

 

 手の平と光翼から無数の光弾が撃ち放たれる。

 ヴァーリの意思に従って自身を包囲しながら迫るそれらに対し、しかし修太郎が慌てた様子は微塵もなかった。上下四方逃げ場の無い攻撃は、先ほどのように剣で跳ね返すことができないというのに、むしろ彼は口の形をいびつに歪めて笑って見せた。少なくとも、ヴァーリにはそう見えた。

 次の瞬間、信じられない光景を見る。

 

 目前の光弾を切り裂く。右からの光弾を受け流す。左より迫る光弾を弾く。空中でありながら体運びは柔軟に、次々とまるですり抜けるかの如く攻撃を躱していく。

 そして下方からの光弾が着弾するその刹那、まるで羽のような軽さでその上に()()()

 そのまま間を置かず跳躍。迫りくる光弾の上を蹴って渡り、ヴァーリに接近する。

 

 そんな馬鹿な、という感想を抱かずにはいられない。少なくとも管制室の面々は、修太郎の成したことを見て開いた口がふさがらなくなった。それと同時に納得する。なるほど、先ほどヴァーリに急接近した際にも同様のことを行っていたのだろう。

 

 原理としては難しいことなど無い。

 足に纏った闘気で光弾より体を保護し、軽気功の技で以って跳躍しているだけだ。問題は、「闘気の防護で光弾を爆発させない」ことが極めて困難であるという一点。

 一つ間違えればその時点で下半身を失う自殺行為に等しい所業。それを躊躇なく行えるのは自身の技量に絶対に自信があるからなのか。何にせよ、ヴァーリの攻撃は相手に足場を与えるだけの結果となった。

 

 以前の戦いでは見せなかった技だ。おそらく、いま完成させたのだろう。何という出鱈目、やはり一筋縄ではいかない。

 ならばこちらも相手の知らない技で応戦しよう。

 

Harf(ハーフ) Dimension(ディメンション)!』

 

 ヴァーリの手の平より目に見えない空間の圧縮現象が放たれた。

 修太郎はそれを第六感で認識する。しかし足場の無い空中に身体を置く今、それを躱す術は無かった。

 

「――ぐっ!?」

 

 歪む空間に捕まった修太郎は空中で磔にされる。それを認めたヴァーリは相手にかざした手の平を勢いよく閉じた。

 急激に高まる外圧。力も姿も何もかも、あらゆる質量を半分にする空間縛に、だが修太郎は潰れない。襲い掛かる圧力によって身体中から鮮血を噴き出しながらも、刃をヴァーリに向け睨みつけた。

 

『何だこいつは? 本当に人間か?』

 

 たとえこれで終わらなくともいい。驚くアルビオンをよそに光速で接近したヴァーリは、無防備となった敵に全力の拳を放つ。

 天龍のパワーに加え、魔力の爆破による一撃だ。為す術もなく直撃を受けた修太郎は、拘束空間を突き抜けて彼方の岩山に激突した。崩れ落ちる岩壁が土煙を巻き上げる。

 

『終わったな』

 

「いや、まだだ」

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 鎧の宝玉より音声が鳴り響く。

 10秒ごとに相手の力を半減化させ、その分だけ自身に吸収転換するディバイン・ディバイディングの能力だ。これが発動したということは、敵はまだ生きている。

 

「忘れたかアルビオン、本番はこれからだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒歌さん! 修太郎さんが!」

 

 慌てたように叫ぶロスヴァイセの声を聞きながら、黒歌はやはりこうなったかと諦観にも似た感情を抱いた。

 バトルフィールドの一角に浮かぶ結界球。黒歌とロスヴァイセが共同して構築したそれは、たとえ魔王だろうと容易く破壊できない強度を持つ。

 

 今も管制室にて空間制御を行っているグレイフィアの手により何とか成立しているこのフィールドであるが、通常のレーティングゲームとは違ってリタイア転移は機能していない。何しろ即席の場だ。フェニックスの涙こそ用意できたものの、現状の忙しさではそこまでが精いっぱいだった。

 つまり、フィールド内で待機する彼女たちはいわば救護班だ。

 

「これ、流石にヤバいんじゃあ……」

 

 呟くのはベオウルフ。

 一応は要注意人物である黒歌と、先ほどその枠に追加されたロスヴァイセを監視するために同伴している彼だ。とはいえ、修太郎とヴァーリの戦いに目を奪われっぱなしだったが。

 修太郎は確かに強い。ベオウルフは全『兵士(ポーン)』の中でも五指に入る実力者だが、彼と真っ向から戦って勝てる確率は3割を切るだろう。とても人間とは思えない。

 

 だが、相手はあの白龍皇。凄まじいパワーと鉄壁の防御、光と見紛うほどのスピード、そして感じられる莫大な魔力は彼が悪魔の血をひいていることを示している。あらゆる要素が極めて高次元でまとまっている上に、あの神器だ。

 

 『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。

 

 神滅具(ロンギヌス)としては中堅クラスだが、その能力は同格以下を地に落とす反則的なそれ。修太郎がどれほど強くとも、種族として弱者に分類される人間である以上は抗いようも無い。

 たとえ生きているとして、ここからどうするつもりなのか。少なくともベオウルフの目には、この状況が詰んでいるように見える

 

「でもまだ終わってない」

 

 しかし黒歌はそう思っていない。

 なぜなら修太郎はまだ生きているからだ。

 遠くに崩れる岩山から、今も力強い生命の波動が脈打っている。

 

「でもこれ以上は……」

 

「大丈夫よロスヴァイセ。シュウは負けない」

 

 確信を持って答える黒歌の表情は、しかしどこか寂しそうだった。

 

「絶対に、負けないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 暗闇の中、目を覚ます。

 同時に全身を駆け巡る激痛。懐かしいそれに歯を噛み締めながら、修太郎は現状を確認した。

 肋骨は一本を除いて全損、肺には穴が開き、四肢の筋肉は清々しいまでに断裂して使い物にならない。奇跡的に心臓と脳は無事らしいが、どこからどう見ても致命傷だろう。神経もところどころダメになっているらしく、もはや傷ついた箇所を数え上げることすら馬鹿馬鹿しい。

 

 まあ、人間など一つ間違えればこんなものだ。口腔に溜まった血を盛大に吐き出しながら、修太郎はぎこちなく立ち上がった。

 肉体の損傷などどうでもいい。そもそも壊れた身体は機能的に動くはずがない。それでも、修太郎は戦えるのだ。

 

 血の抜けた頭はかつてないほどクリアに働いている。邪魔な痛みは即刻遮断し、視界に映る余分な色はすべて捨てる。モノクロの世界で、傍らに突き刺さる斬龍刀を見つけた。

 その柄を握り、引き抜く。あれほどの攻撃を受けてなおドワーフ謹製の刃には罅一つ無く、思わず感嘆の想いが湧き上がる。

 

 総身を巡る気の流れは澱みなく、回す、回す。

 その奔流の勢いが、断裂した筋線維を繋ぎ、断ち切られた血管を繋ぎ、折れた骨の位置を矯正し、そして穴の開いた皮膚を塞ぎ、損傷した内臓の機能を補う。

 絶え間なく行われる無意識の身体活性により急速に治癒が進む。しかし、修太郎が一歩進むたびに再び壊れ、元に立ち戻る。

 

 しかし、それでいい。別に今すぐ治そうとしている訳ではない。

 ただ、身体を動かす出力が足りない。ヴァーリより受けた半減化のせいだろう。

 足りないなら増やすまで。霊的器官(チャクラ)の第一、会陰のそれを解放すれば、総身の気が倍化する。これでいい。

 

 内部を巡る気は肉体のあらゆる場所、それこそ筋線維の一本一本にまで流れ、身体を動かす。外部に纏う気――闘気を外骨格として、さらに力強く。横溢する気が漆黒の瞳に紫電を走らせた。

 本能をねじ伏せ、己が内界を完全に支配するという非常識。死に瀕した身体を意志だけで操るこの能力こそが、彼を英雄と呼ばれるまでに至らせた最大の要因だった。

 

 ぐるりと首を回して彼方に浮かぶ敵を見据える。

 次の半減まであと5秒、といったところだろうか? ならばまずは邪魔なこれを解除しなければならない。

 

 そして修太郎は今までと同じように駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 

『信じられん……あれでまだ動けるというのか』

 

 瓦礫から飛び出し、滑るように地を駆ける修太郎をヴァーリは認めた。

 驚くアルビオンに対しその宿主はどこまでも冷静に、しかし内心では感嘆していた。彼が放った拳の一撃は、本来ならば身体が丸ごと木端微塵に吹き飛んでしかるべきである。しかし暮修太郎と言う男は、あの刹那に闘気を操り、拳撃の軸をわずかにずらし爆発の衝撃を受け流したのだ。

 

 才能だけではこうはいかない。いったいどれほどの修羅場をくぐればここまで練り上げることができるのか。

 それが心底羨ましく、そして同時にどこまでも美しいと感じた。

 

 全身に魔力を漲らせたヴァーリは、まだ距離が離れているうちに力を溜める。

 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は使わない。発動すればおそらく高確率で勝てるが、その機会など彼は与えてくれないだろう。なにしろ最初の禁手化(バランス・ブレイク)でさえ綱渡りだったのだ。もし開幕の一撃をうまく防げていなければ、既に戦いは終わっていた。

 

 光翼と共に広げる漆黒の八翼。それは悪魔の翼だった。

 ヴァーリ・ルシファー。それが彼の真の名前。旧魔王ルシファーの血を受け継ぐ人間との間に生まれたハーフ、白龍皇となれたのも彼が人間の要素を持っていたからこそである。

 

 漲る魔力と龍の力に、先ほど吸収した修太郎のパワーも合わせて術式を展開。

 天に掲げたヴァーリの手の平に極大の魔力球が生み出される。それはまるで真昼の太陽が如く眩く輝き、周囲に同色の光弾を旋回させている。比喩ではなく小島一つを吹き飛ばす、超絶威力の砲撃だ。

 ()()()()()、追加で生み出され。

 

 何の躊躇いもなく、駆ける剣士へと放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリが放った光は球体から柱へと姿を変え、今まさしく修太郎を押し潰さんと迫っていた。

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 闘気が減じる。

 すかさず霊的器官(チャクラ)の第二を解放し、量を元に戻す。

 

 加速。一つ目の柱を背後へ振り切る。

 そのまま跳躍。二つ目の柱が先ほどまで修太郎が駆けていた場所に突き立った。そして刃を盾に、防護のオーラを操りながら独楽のように回転し柱の上を駆け上がる。周囲を旋回していた光弾が襲い掛かってくるが、全て刃で弾き返していく。

 

 三つ目、四つ目の柱が左右から圧し潰そうと近づく。刃で身体を大きく跳ね上げ回避。

 最後の五つ目が眼前に伸びるその前に――修太郎は刀を手放した。

 

 落ちる刀を足で受け止める。術式を込め、しなやかな肉体の高速回転と共に放つ。

 ――『魔剣投擲』。

 未だ球体のまま留まる最後の砲弾を貫き、しかしその密度故に狙いを逸らして雷光の一矢はヴァーリの光翼を片方破壊するに留まる。

 

「――!?」

 

 驚き、体勢を崩すヴァーリ。この時の彼には修太郎の意図が見えなかった。自ら最大の攻撃手段と防御手段を捨てるとは、何を考えているのか。

 ともあれこれはチャンスだろう。すかさず全ての砲撃魔力を無数の弾丸と変え、空中の修太郎へと殺到させる。たとえ間もなく剣が手元へ戻ってくるとしても、それまでこの攻撃をどうやって凌ぐというのだろう。

 それは無論――。

 

 中国武術に化勁と言う技がある。受け手を素早く流動、または回転させ、相手の攻撃が持つベクトルをコントロールし受け流す技法だ。

 修太郎は下方から立ち上るおよそ万を超えるだろう光弾に対し、これを使った。

 軽気功による跳躍回避を交え、五体全てを流動回転させて次々と攻撃を弾いていく。闘気による独自の制御で化勁を行えば、受ける手傷は最低限に留まった。

 

 本来であればヴァーリのような強者が放つ魔力弾を受け流すことは、修太郎でさえ至難の業だ。

 しかしそれは通常状態の話。血を流し過ぎたことで極限まで戦闘へと最適化した頭は余分な情報を悉く遮断し、知覚を超加速させた彼の感覚に見切れないものは無い。そして何より今の彼は、真に無念無想の域にある。

 

 あらゆる技、あらゆる経験、その全てが十全に発揮された暮修太郎ならば、万の光弾を徒手空拳で捌くことは十分に可能だった。

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 闘気が半減。第三の霊的器官(チャクラ)を解放する。

 同時に手元へ戻る斬龍刀。振るわれる閃光が無尽無数に空間を制圧し、修太郎が大地に降り立ったその瞬間、全ての光弾は白い霞となって消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――人間! あれが人間か!)

 

 ヴァーリは――ヴァーリ・ルシファーは己を指して奇跡のような存在だと思っていた時期がある。

 彼は魔王の血をひく悪魔と人間のハーフだ。魔王から受け継いだ超絶の魔力と、人の部分に宿る天龍の力。まさしく馬鹿げた組み合わせだとアザゼルでさえ認めるほどの存在である。

 

 しかしそれも今の修太郎を見れば何だと言うのだろう。

 己が身一つで神滅具の禁手(バランス・ブレイカー)と渡り合う。それもヴァーリのような規格外の宿主が使っているにもかかわらずだ。これを奇跡と言わずしてなんと言う。

 おそらく今後彼のような存在は現れまい。彼は人が持つ可能性の極限だ。

 

 以前冗談で『暮修太郎が赤龍帝だったなら』と言ったことがある。もし本当にそうだったならヴァーリと兵藤一誠の力関係が、そのまま修太郎とヴァーリの力関係になっていただろう。

 だからこそ、勝ちたい。

 

 復元した光翼を広げ、飛び立ちながら無数の光弾を発射する。この期に及んで接近戦を挑まないのは、最も勝ち目がない展開がそれだからだ。

 しかし当然として修太郎は光弾の上を跳躍してくる。爆発性を高く設定して放ったはずの攻撃は、彼の用いる絶技の前に全く用を成さなかった。

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 だがそれでいい。

 敵の攻撃を渡る修太郎だが、突如として道が途切れる。ヴァーリが消滅させたのだ。

 修太郎はそれに臆することなく最後に残った光弾を大きく蹴りだし、爆風を背に受けて鮭跳びの秘術。後退していくヴァーリへと神速で迫る。

 

 それをヴァーリは待っていた。空を飛べない修太郎は、一度足場を失えば一直線に跳躍せざるを得ない。

 しかしながら、そのルートに罠の類を置いても容易く斬り伏せられるだろう。半減空間(ハーフ・ディメンション)も間に合わない。ならば斬り裂けず、受け流せないほど威力が高く、また多少身体を動かすだけでは回避できないほど巨大な攻撃を放てばいい。

 

 抜き打ちの拡散砲に、修太郎から吸収したパワーを乗せて放つ。

 壁のように広がる魔力の奔流。足場も無い空中で、修太郎に躱す術など無い……はずだった。

 

 直感に従い下方向へ腕をクロスさせ、胸を守るように防御の体勢をとる。

 瞬間、腕を貫かれる痛みと全身を打ちつける衝撃。見れば、白銀の太刀が鎧を貫き、ヴァーリの双腕を縫い付けていた。

 

(この、技は……!)

 

 下方からの魔剣投擲。これが表す事柄とは、つまり。

 

 視界に影が差すのと、ヴァーリが上空を見るのは同時だった。

 無論のこと、影の正体は修太郎。拡散砲が放たれる直前に、魔剣投擲の反作用と軽気功を利用して上方へ跳躍を果たしたのだ。

 

 そう気付いた時にはもう遅い。

 修太郎の踵が脳天へ落ちる。襲い掛かる尋常ではない衝撃に、ヴァーリは歯を食いしばって耐えた。

 しかしそれだけでは終わらない。そのまま修太郎はヴァーリの両肩を掴んで上体を引き上げ、膝で顎を蹴り上げる。同時に手を離し膝から下を勢い良く跳ね上げて、さらに顎を打ち抜く。

 

 上下からの発勁三連、月緒流体術『重威(かさねおどし)』。

 

 空中でふらつくヴァーリの腕より斬龍刀を引き抜いた修太郎は、膂力を引き絞り渾身の斬撃を浴びせる。

 

 ――落峰の太刀『荒波(あらなみ)』。

 

 鎧の内外を無尽に走る斬撃波によってヴァーリの身体が無茶苦茶な軌跡を描きながら吹き飛び、そのまま大地に激突した。

 流動するオーラと頑強な鎧に守られているヴァーリだったがしかし、怒涛の攻勢に意識を寸断させた。

 

 そしてそれが意味することとはすなわち――。

 

『ヴァーリ、相手の半減化が解けたぞ! 起きろ!!』

 

「がはっ、はっ……問題ない、起きている」

 

 兜の中で口から血を吐き出すヴァーリ。落峰の太刀によって全身はズタズタに切り裂かれ、立ち上がる姿もどこかふらついている。

 しかし解せないことが一つ。吹き飛ばされ意識が途切れる瞬間、ヴァーリは負けたと思った。修太郎の速さなら、今この瞬間にさえ斬撃を浴びせにかかってもいいはずだ。

 

 理由は、相手を見た時に知れた。

 着地した修太郎はヴァーリの攻撃を受けていないにもかかわらず、今まで以上にボロボロだった。

 答えは明白。半減化の解除によって急速に高まった闘気を制御できずにオーバーロードを起こしたのだ。何故普段からあの技を用いないのかと思っていたが、なるほどそういった副作用があったからなのだろう。

 

 互いに満身創痍。

 損傷度合では修太郎が上だが、ヴァーリも万全とは言い難い。未だにふらつく頭では、複雑な魔力操作は行えないだろう。

 そして、この間合いでは空を飛ぶまでに撃ち落とされる可能性が高い。今にも倒れそうな修太郎だが、その鋭い紫電の眼光でしっかりとヴァーリを睨んでいる。相手の手心は期待できない。

 

「アルビオン」

 

『なんだヴァーリ』

 

「勝つぞ」

 

『……!』

 

 高まる闘志に鎧に埋め込まれた宝玉が輝きを増す。ヴァーリの意思に神器が応えた。

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 踏み込むヴァーリを確認したと思うと、目の前に拳が迫る。

 大気を貫き暴風を巻き起こす威力の拳撃に、修太郎は刃を走らせ受け流す。そのまま返す刀は閃光の如く。ヴァーリの胴に打ち込もうとし――『Divide(ディバイド)!!』――そこには誰もいなかった。

 背後に感じる気配に、頭を下げる。ヴァーリが拳を突き出した格好でそこにいた。

 

 流れるようなヴァーリの連撃を、捌き、撃ち落とす。そして反撃を行おうとすれば。

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 瞬く間に姿を消し、思わぬ場所から現れる。

 この不可解な現象を、修太郎は早々に見破った。

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 おそらくは、移動距離の半減。

 これによってヴァーリは一時的に修太郎と近接戦闘で渡り合っていた。しかしながら、ヴァーリの攻撃は全く当たらないのに対して修太郎の攻撃は徐々に鎧を削ってきている。

 対象距離の長さを毎回変えて使っているにもかかわらず、十回も用いないうちにこれなのだから、やはりこの男と近接戦闘を行うのは無謀な行為なのだろう。

 

「うおおお……!」

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 だがそんなことはヴァーリにもわかっている。

 無形物の半減という新能力の行使に激しく消耗しながらも、そしてその時は訪れる。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

Divide(ディバイド)!!』

 

 打ち下ろされたヴァーリの蹴りが大地を砕く。その大きな隙を逃さず斬りかかる修太郎だったが、突如として地面が揺れた。

 傾き、崩壊してく大地。ヴァーリは修太郎と接近戦を繰り広げながら地面の下――フィールドの大地を構成する術式そのものに半減化を施していた。急激に一部を縮小させたことで、地下に巨大な空洞が生まれ、そして大きな衝撃を加えたことで一気に崩落したのだ。

 ヴァーリにとって、修太郎と接近戦を行うのは賭けだっただろう。彼は、その賭けに勝った。

 

 瞬時に状況を把握した修太郎は、すぐさまその場から離脱しようとするが、同時にヴァーリの足から魔力が放出される。

 立ち昇る暴風のような衝撃波が修太郎だけを上空へと運んだ。

 

 先ほどまで拳撃に纏わせていた魔力を砲撃に利用する。

 空中の修太郎は落下するしか移動手段が無い。あるいは再び魔剣投擲を行えばそれも可能だろうが、ヴァーリはそれを許すつもりはなかった。

 魔力球を形成し、特大の砲撃を撃つ構えを見せたヴァーリを見て、修太郎は斬龍刀を野太刀へと変える。そして大きく上段へと振りかぶった。

 

 ――迎撃の構え。

 兜の下でヴァーリは笑う。そして、腕を天へと掲げて上空の修太郎へと紫電迸る大砲撃を放った。

 

 脱力からの緊張を、闘気の動きだけで再現する。きっかり1秒の溜めを行ったのち、解き放たれるは破軍雷霆。

 雲耀が崩し――『大雷(おおいかづち)』。彼が持つ技の中で最強威力の大斬撃。最大射程約10メートルの剣圧は、あらゆるものを斬り裂いて止まらない。

 

 激突の瞬間は刹那。

 はたして制したのは雷の剣。ヴァーリの砲撃は両断され、彼方へと消える。

 

 勝負はこれだけでは終わらない。

 彼我の距離は縮まり、第二撃。

 剣圧の余波で罅だらけの鎧を纏うヴァーリと、肉体の酷使によって全身から血を噴き出す修太郎。

 共に再び攻撃を放つ。

 

 『大雷(おおいかづち)』は先ほどよりも威力を減じさせ、ヴァーリの砲撃も溜め時間の短さから先ほどのような威力は無い。

 故に結果は同じく剣が制する。剣圧がヴァーリの鎧を崩し、技の反動で修太郎が血を流す。

 

 そして第三撃。両者の間に広がる距離は、もはや有って無いようなもの。

 しかし、ここでいよいよ修太郎に限界が来た。闘気だけで放つ『大雷(おおいかづち)』――しかも二度の連続行使は、彼の肉体に多大な負荷を及ぼしていたのだ。それこそ、闘気で操ろうとしてさえ動かなくなるほどに。

 

 その様子にヴァーリは勝利を確信する。拳に魔力を漲らせ、腕を引き絞った。

 

 この時、ヴァーリは油断などしていなかった。相手のあらゆる挙動を見逃さず、対処する気でいた。

 しかし、彼には一つだけ知らなかったことがある。

 

 修太郎の野太刀が形を変える。刃渡りを縮め、太刀の大きさへ。だが変化はそこで止まらず、とうとう白銀の刃は普段の半分程度の大きさに納まった。

 小太刀である。

 放たれたヴァーリ渾身の一撃は音を超え、修太郎の肉体を砕かんと迫る。

 しかし修太郎の一撃はそれよりもはるかに速い。足を止めて待ち受けるヴァーリには認識すらできなかった。

 

 雲耀が崩し――『疾雷(はやいかづち)』。修太郎が誇る最速にして最短射程の刃。

 

 拳諸共砕かれる。鎧などまるで無いかの如く、過去受けた太刀傷と交差するように刻まれた雷の剣。そして散る鮮血。

 砕け散った鎧に自らの敗北を悟ったヴァーリは薄く笑みを浮かべ、そして地に倒れ伏した。

 

 それを認めた修太郎はわずかに笑みを作った後、糸が切れたように崩れ落ち、そして意識を失った。

 

 




主人公「弾幕は足場(キリッ)」

勢いのままに書きました。
後で読み直して気に入らなかったら修正することもあるかもしれない。

対ヴァーリ戦終了。
接近戦? 鎧徹しデフォで持ってるやつ相手に無いわー。
主人公はただでさえアレなのに、HPの減少が発動条件となるスキルを山盛りに積んでます。というか、戦いにおいては頭を潰されないと死にません。意味わかんねえこの暫定人類。
まあだからこそ敵だった奴ら=妖怪たちは馬鹿みたいに怖がっているわけですが。

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