剣鬼と黒猫   作:工場船

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第二話:聖剣使い

 欧州はイタリア。

 石畳の街を歩き薄暗い路地裏を通ってしばらく、朽ちかけた看板を見つける。

 雨風に晒されて錆び、今にも崩れそうなそれは、もはや書かれてある文字すら読み取れない代物だ。

 そんな客引きにも使えないような物を掲げる店こそ、魔物狩りの青年・暮修太郎と化け猫悪魔・黒歌が目指す場所だった。

 

「おお、誰かと思えば『魔剣』か。聞いたぞ、また大物を仕留めたそうだの?」

 

 錆びた金具のすれる音と入店した修太郎に、枯れ木のような老店主が声をかける。

 店内を見渡せば、席もまばらに数人の客が確認できた。傍目に見ても感じ取れるただならない雰囲気は、彼らが歴戦の猛者たちであることを示している。

 店に入った修太郎へ鋭い視線を寄越した彼らだったが、相手が彼の『魔剣』だと知るとすぐに目を戻した。ここは修太郎のような魔を狩り生活する者たちが情報を求めて集う溜まり場だった。

 

「事前の話だとそこまで大した奴ではなかったんだが。まあ、ちゃんと報酬は弾んでもらった。それよりマスター、情報が欲しい」

 

 この店は酒場もやっているが、店主の思惑とは別にどちらかと言えば依頼の斡旋、及び情報の交換と収集がメインだった。地上に人外が溢れる以上、こういった趣の施設はあまり多く無いとはいえ世界各地に点在している。

 カウンターに座れば頼んでもいないのに温かなココアとミルクの入った受け皿が用意された。既に成人である修太郎だったが、判断力の低下を嫌って酒はあまり飲まない。

 

「さて、何が知りたい?」

 

 店の奥から紙の束を取り出して老人は尋ねる。

 

「北欧の現況について。魔物に、神族の動向、それとうまい料理を出してくれる温泉付きの宿の情報はあるか?」

 

「またか。一つの場所に腰を据えたりはせんのか? というか、儂は旅行プランナーじゃないぞ。宿ぐらい自力で探さんか」

 

「流石に最後のは冗談だ。腰を据える、か……今のところ考えていないな。それで、どうだ?」

 

 呆れた顔で言う老人、飲み物に口を付けながら修太郎は答える。

 マイルドな甘みが口の中に広がり、温かな液体がのどを流れれば体が温まるように感じる。反対に、猫の姿でミルクを舐める黒歌は飲み物の熱さに表情を顰めているように見えた。

 この店主、おそらく黒歌が強大な悪魔であることぐらいなんとなく把握しているだろうに、たまにこうしてわざと温度を間違えるのだ。いい性格をしている。

 

「さて《魔剣》よ、こんな情報を知っとるか。教会で新しいエクスカリバー使いが見つかったそうだぞ」

 

「そうか」

 

「むう、興味なさそうだのう。お前も剣士だろうに、伝説の聖剣に憧れたりせんのか」

 

 話題に食いつかない修太郎の様子を見て、老店主はあてが外れたような声を出す。

 

「別段どうとも思わないな。武器は硬くて斬れればなんでもいい」

 

 第一、修太郎に聖剣を扱う素養は無い。

 使えないのだから、そんな箸の役にも立たないものに興味を抱く道理も無い。

 

「聖剣使いは若い女だそうだぞ。スタイル抜群の、とびっきりの美少女だと聞く」

 

「知らん。何が言いたいマスター」

 

 その手の話題はあまり好かない。あとで猫がうるさいからだ。

 修太郎としては、そんなことよりも対外的には隠されているだろう情報をいともたやすく手に入れる老人の手腕の方が気になるところだった。

 そもそも、ミーハーの話題に付き合えるほど遊びに長けた気質ではないのだ。要件があるなら早く言えばいい。

 

「ここ最近は儂の話に付き合ってくれる奴らが全然来んのだ。どいつもこいつも余裕なさすぎじゃろうまったく。……という訳で、儂の話に付き合ってくれたら情報をやろう。それと、お前に依頼の指名が来とる。どうせ急いではおらんのだろう? 一つ片していけ」

 

「…………」

 

 老人をしばし睨み、ため息を吐いて観念する。

 余談だが、この老人の話は長いことで有名で、だからこそ一部を除きほとんどの客は付き合わない。周囲に目を走れせれば、我関せずと白々しい荒くれども。

 つまりまんまと生贄にささげられる形になった修太郎は、その後4時間たっぷりと話に付き合わされることとなった。

 

 

 

 

                   ―○●○―

 

 

 

 

「キミの素性と、ここへ来た目的をしゃべってもらおうか」

 

「この近辺でキマイラを見かけたという情報があるの。大人しく知ってることを話してくれれば危害は加えないわ」

 

 明けて翌日。

 約束通り老人から情報を受け取った修太郎は、猫に変化した黒歌を伴い依頼の場所へやってきたのだが、そこには既に先客がいた。

 白いローブに動きやすさを重視しただろう黒い戦闘服を纏った、見目麗しい少女が二人。両方とも修太郎の知らない顔だが、素性は片方の少女が背負う荷物で知れた。

 

 ――聖剣。

 

 なるほど、老人が散々語った新しい聖剣使いとやらだ。

 メッシュの入った青髪と、栗毛のツインテール。しかし二人いるとは聞いてない。察するにどちらかが"新しい"方なのだろうが、まさか昨日の今日で話題の人物に出会うとは思わなかった。

 

 修太郎が受けた依頼は、森の奥にある山岳地帯に複数出現した合成獣・キマイラの討伐。

 中堅どころの魔物狩りでは歯が立たないレベルの難物だ。だからこそ、依頼人は修太郎を指名したのだろう。

 

 どうやら彼女達二人も同じ目的で教会から派遣されたようだった。一般人はほとんど足を踏み入れない森の奥に、男が一人でやってくればなるほど怪しい。そういう理由で修太郎は尋問を受けていた。

 キマイラ、あるいはキメラはギリシャ神話に登場する魔物ではあるが、魔法使いや悪魔が人工的に生み出した合成獣のことを指す言葉でもある。

 この二人は、修太郎がキマイラを生み出した者の関係者であると疑っているのだ。

 

「名は暮修太郎。フリーランスで魔物狩りをやっている。ここへはキミらの言うキマイラを殺しにやってきた。疑うならこの連絡先に聞け」

 

 懐から取り出した紙片を青髪の少女に渡す。

 

「魔物狩り……? 民間人か」

 

「ちょっと荷物を見せてもらってもいいかしら?」

 

 大人しく二人に従い、持っていた鞄を渡す。

 

「刀……は武器か。財布、コート、篭手、ベルト……これは剣帯か? まじないの札に、なんだ随分少ない荷物だな。これでキマイラと戦えるのか?」

 

 剣一本で立ち向かおうとする少女に言われたくはない。

 すると、栗毛の少女が何かを見つけたのか声を上げる。

 

「あっ!!」

 

「どうしたイリナ」

 

 イリナと呼ばれた少女が手にしていたのは日本が誇る携帯健康食品。フルーツ、チョコレート、メープル、それぞれブロックタイプ四つ入りの箱たちだった。

 

「見て見て、ゼノヴィア! メイトだわ!」

 

「なんだそれは。毒か? それとも魔物の餌か?」

 

「違うわ、日本のお菓子よ。懐かしい、私これ好きだったの!」

 

 なんだお菓子か、と警戒心を解く少女――ゼノヴィアに対し、無邪気に懐かしがっているイリナ。考えはわからなくもないが、正しくはお菓子ではない。

 しかし、反応と容姿から察するにこの少女はもしや。

 

「そっちは日本出身か何かか?」

 

「そうよ。私の名前は紫藤イリナ、故郷は日本のプロテスタントよ。こっちはカトリック教会のゼノヴィア。よろしくね」

 

「よろしくする必要はないぞイリナ。暮修太郎とやら、疑ってかかったことは謝ろう。キミがこの件に関与していないことは把握した。魔物狩りが目的というのも本当なのだろう。しかし残念だがここから先は私たちの仕事、部外者には手を引いてもらいたい」

 

 毅然と言い放つ少女はまっすぐな眼差しを修太郎へ向ける。

 そうしてしばし見つめ合い、視線を反らしたのは修太郎だった。

 

「……ああ、わかった。間が悪かったのだろう、大人しくするとしよう」

 

「それでいい」

 

 ゼノヴィアは修太郎の返答を聞くと彼に鞄を返した。そうして背を向け歩き出す。

 イリナはそれを追いかけようとするが、何やら手に持ったままの携帯食料――チョコレート味だ――と修太郎を交互に見つめて立ち尽くしていた。

 

「ああ……欲しいなら持っていけ。これも何かの縁だろう」

 

「!! ありがとう! あなたに神のご加護がありますように!」

 

 なんだかやたらと感謝され、祈りまでささげられてしまった。

 駆ける少女の元気な後姿を見て、これって餌付けに当たるんだろうかと思いつつ、踵を返す。

 

「……シュウ、まさか本当に引き返すにゃん?」

 

 今まで沈黙を守っていた黒歌が修太郎へと尋ねる。

 万が一悪魔だとばれた場合面倒なことになるため、仙術と幻術を駆使して隠れていたのだろう。

 

「冗談」

 

 彼女達の命令を聞く理由はひとかけらもありはしない。

 この業界は信用商売。退けと言われて退いてしまえば何のためのフリーランスなのか。受けた仕事は完了させねばプロではないのだ。

 篭手とベルトを身に着け、刀を佩き、手早く装備を整えて、修太郎は別のルートを探し始めた。

 

 

 

 

 

                   ―○●○―

 

 

 

 

「ねえゼノヴィア、本当にさっきの荷物検査だけで彼が無関係だってわかったの?」

 

 栗毛を揺らしながら歩くイリナが、先を往くゼノヴィアに尋ねる。

 緩やかな勾配の坂はごつごつとした岩石がせり出して、移動するにも一苦労だ。

 しかしながら、聖剣の担い手として厳しい訓練を積んできた彼女達からすれば、この程度の荒れ地などそう大きな障害にならない。息一つ乱さず、周囲の気配に気を配りながら敵を探していた。

 

 先ほどの暮修太郎と名乗った目つき鋭い黒髪の男。長身痩躯の立ち振る舞いは隙が無く、武芸を身に修めていることが一目でわかった。荷物に見かけた日本刀から察するに、おそらくは剣士だろう。明らかに魔法使いの様な研究者ではないが、それでも協力者という線は捨てきれない。

 

「いや、わからない」

 

「もぐもぐ……え? じゃあなんで大人しく返したの?」

 

 相棒の意外な返答に質問を重ねるイリナ。手に持っている携帯食料のパッケージは既に開けられ、チョコレート色のブロックが少女の口に納まっている。

 その様子を横目に見ながら、ゼノヴィアは修太郎から渡された紙片を取り出した。

 

「彼個人についてはわからないが、彼からもらった連絡先のことなら知っている。ヴァチカン公認の魔物討伐斡旋業者だ」

 

「ヴァチカン公認……? そんなのがあったなんて、知らなかったわ」

 

「無理もないだろう。教会の勢力圏内に出現した魔物・悪魔の討伐に関し、対外的には我々聖剣使いやエクソシストが処理していることになっているからね。しかし、実際それだけでは手が足りない。人間よりは少ないとはいえ、この世界には人ならざる者もまた多く存在する。そうなれば、在野の力ある者たちの活動も黙認すべきことではある。今のところ一般人に大きな被害を加えている訳でもないようだしね」

 

 それに、と続けて。

 

「良い人材がいればエクソシストにスカウトすることもあるらしい。人材発掘という点で、実は中々有用なものではあるんだ」

 

「へえ、そうだったのね。でもそれはわかったけど、見逃した理由は?」

 

「見逃してなどいないさ。さっきは私の言葉に従ったように見えたが、多分彼に聞く気はないだろう。そういう目をしていたよ。嘘を吐けないタイプだね、あれは。いずれ敵に相対した時嫌でも会うことになるだろうから、その時見極めればいい」

 

「うーん、まあ会わなかったら会わなかったでデメリットはないものね」

 

 正直な話、それは言ってみれば体のいい後回しではないのだろうか? と思わないでもなかったが、結局のところイリナもその意見に賛同した。

 戦闘では技巧を凝らした剣技を得意とする彼女も、相手の腹を探る術には通じていない。ゼノヴィアもまた同様だろう。

 何を斬るべきか判断するのは彼女達の上司であり、つまるところ聖剣使いとは荒事に長けた実行要員でしかないのだ。

 現場では最低限信仰に基づき適切な行動をとってくれさえすれば問題は無いのだろう。そのスタンスが原因で時折暴走する若手もいるのだから、指揮がとれる人材が足りないことを嘆く中間管理職のエクソシストは多い。

 

「しかし、情報によるともうキマイラが出てもいいはずなんだが……」

 

「……何もいないわね」

 

 草木もわずかな山道は、不気味なまでに静かだ。

 森の中では確かに聞こえた鳥のさえずる音も無く、生の息吹を感じさせない静寂に包まれている。

 そのまま進めば、次第に草木すら無くなっていき、そしてある場所へたどり着いた。

 

 そこは険しい山岳に不釣り合いな広場だった。異様なのは、地形に高低こそあれど全てが滑らかな平面、あるいは曲面を見せていること。

 元はせり出した岩山だったろう突起は、虫食いにあったかのようなオブジェとして散見される。

 明らかに自然的なものではなかった。

 

「これは……明らかにおかしいぞ」

 

「ええ、異常だわ。キマイラの仕業とは考えられない」

 

 驚く二人の聖剣使いだったが、しかし気を抜いてはいない。それぞれがいつ敵が襲い掛かってきてもいいように構える。

 

 ゼノヴィアが背負う大剣の柄を握ればひとりでに包みが外れ、中の聖剣が姿を現す。攻撃的なフォルムに肉厚の刃、破壊力に特化した七本あるエクスカリバーの一振り『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』だ。

 

 同時にイリナが二の腕に巻いた紐をほどくと、それが意思を持ったかのように動き出す。そして次の瞬間、手に握られていたのは鋭い刃持つ日本刀。同じくエクスカリバー『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。

 

 二振りの聖剣が放つプレッシャーは並の魔物であれば恐怖してすぐさま逃げ出すだろう。

 しかし、どうやらこの場を作った張本人は違ったらしい。

 臨戦態勢をとる二人の前に、“それ”は姿を現した。

 

「……!」

 

「あれは……何?」

 

 第一印象は、大きな饅頭。

 しかし色は鋼で、ふるふると震えて這いずるさまは水銀に酷似していた。

 体高は馬ぐらいか。随分と大きい。

 濃い色合いにも拘らず、わずかに向こうが透けて見える。中心に据えられた実体を持つ球形は、それが粘体生物であることを表していた。

 

「スライム……かしら」

 

「わからない。見たことがない魔物だ」

 

 正体不明の敵を警戒して注視する二人の少女。

 不意に、鈍色のスライムが少女たちを「見た」。

 

 そう思った瞬間、無数に枝分かれして迫る鋼の槍が、二人の目前にあった。

 速い。信じられないほど、速い。

 

「お……あああああああっ!!」

 

「くっ、はあああっ!」

 

 少女たちがそれに反応できたのは偶然ではない。

 応戦する二人の剣技はなるほど聖剣の担い手にふさわしい練度。突き出される鋼の槍を巧みな剣捌きで弾き、いなす。

 それでも手数は圧倒的にあちらが上。迎撃が間に合わず、傷つく箇所も出てくる。

 

「ぐっ……イリナ! 一度体勢を立て直すぞ!!」

 

「わかったわ!」

 

 ゼノヴィアの言葉に了承を返したイリナの聖剣が形を変える。

 その刃を伸長させ、まるで鞭のように迫る槍を弾き返していく。縦横無尽に走る刃はゼノヴィアに迫る攻撃すら叩き落とし、彼女が力を溜める隙を作った。

 

「はああっ!!」

 

 『破壊(デストラクション)』の名にふさわしい一撃が地に叩き付けられれば、飛礫が弾丸となって飛び散り土煙が辺りを覆い尽くした。

 

 ゼノヴィアは、出会った時のスライムから「視線」を感じた。であれば、おそらく敵は目で物を見ているのだと予測できる。

 一か八かではあったがどうやらその予想は当たっており、スライムの攻撃は精度を急激に落としあらぬ場所へと降り注いでいた。

 

 その場から素早く退散した二人は、広場に点在する歪な岩のオブジェの影に隠れ、対策を練る。

 

「何だあの化け物は」

 

「多分、この場にいた生物は全部あいつに殺されたのね」

 

「おそらくはそうだろう。しかしアレは何だ? 硬くなるスライムなど聞いたことが無い」

 

「どちらにしても、アレが危険な以上は退治しなくちゃならないわ」

 

「わかっている」

 

 この難敵をどう崩すか。

 弱点は分かる。粘体の中央にある球体――核だ。

 しかし、敵の攻撃速度は尋常ではない。さっきは距離も離れていたため高速の槍も捌けたが、それが至近距離でとなると難易度は凄まじく跳ね上がる。

 奴の硬化する身体には聖なるオーラも効きが悪いらしい。聖剣と打ち合ってもひるむ素振りすら見せなかった。

 伸ばした身体を硬くできるのなら、本体も可能に違いない。

 高速で伸びる無数の槍と鉄壁の防護。外見は間抜けながら、単純に強い。

 

 意外なことに、敵には視覚があるようだ。

 ゼノヴィアは岩のオブジェの根元に残った小石をとると、大きくスイングしてスライムの背後に放った。

 石が地に落ちるや否や、瞬時にそれを貫く鈍色の槍。どうやら聴覚まで備えているようだった。

 しかし、やはり速い。その様子を見たイリナは、獲物を捕らえるカメレオンを想起した。

 

「ねえゼノヴィア、私の聖剣を全速力で伸ばして、気付かれないうちに敵の核を狙撃するっていうのはどうかしら?」

 

「現状とれる攻撃手段はそれくらいか……しかしその攻撃方法はそこまで長い射程は持っていないはずだ。確か10メートルほどだろう? 近づくのなら、囮が要る」

 

 それを務めるのは必然ゼノヴィアになる。

 危険な賭けだ。先ほどの短い攻防は二人の精神力と体力を大きく削り、もう一度、今度は一人でアレの攻撃を捌くとなれば命を懸けることになるだろう。

 それでもやるしかない。それが教会の戦士、それが聖剣使いなのだ。魔に屈することなどあってはならない。

 

 二人頷き覚悟を決めて分れる。

 ゼノヴィアは敵の正面に、イリナは敵の背後に。

 岩のオブジェに隠れながら移動しつつ、機会を窺っていたその時。

 

 ゆっくり這いずるスライムが、何かに反応して機敏に振り向く。

 その先には一人の影。長身痩躯の男が、いつの間にかそこにいた。

 

 古びた篭手と足甲を身に着け、腰の剣帯に太刀を佩き、右手を静かに柄へ添える。

 漆黒の頭髪が風に揺らめき、眼光鋭く鷹の如し。纏う空気は刃の鋭さ。

 

 男の名は、暮修太郎。

 巷で『魔剣』と称される――剣鬼である。

 

 


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