剣鬼と黒猫   作:工場船

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第五十一話:鬼神剣

 構える青年――アーサー・ペンドラゴンの手には、聖剣ではなく一振りの禍々しい宝剣が握られていた。

 紫紺の刀身に赤銅の意匠が施された、両刃の長剣である。

 刃より迸る呪詛が瘴気を発し、大気を焼き焦がしている。常人であれば触れるだけで腐れ落ちるほどの呪力だ。

 もしやあれが金行鬼の正体であるのか。

 

 火行鬼たちの活動から、鬼神が力ある武具や器物を使って自身を強化していることは既に予測されていた。

 おそらく金行鬼の狙いはゼノヴィアのデュランダルと木場祐斗の聖魔剣、兵藤一誠のアスカロンとバルムンク、そして妖刀化した緋緋色金の太刀だったのだろう。なるほど確かにこれほど良い餌場も中々無い。遅かれ早かれここは襲撃されていたのだ。

 そう、予想はしていた。だからこそ修太郎に驚きは無かった。

 驚いたとすれば、それは相手がアーサーの身体を使っていること。

 

「……アーサーの身体を乗っ取ったのか」

 

「私は金烏(ジンウー)土公(トゥゴン)のような高位の霊格をベースとした式神ではありませんからね。こうして単独行動を行うには、原始的な憑依に頼るほかなかったのです。良い身体ですよ、この青年は。しかし乗っ取ったとはまた違う。この状態は彼――アーサー・ペンドラゴンの望みでもある」

 

「何?」

 

「わかりませんか。彼がこうなったはあなたのせいだと言うことが」

 

 そう言って笑みを張り付けたまま、おもむろに金行鬼(アーサー)は太刀を上空へ投げ上げた。天高く宙を緋剣が舞う。

 皆がそれに目を向けた瞬間、アーサーの姿は消失した。

 

「――!」

 

 目にもとまらぬ疾走は如何なる力によるものだろうか、完全に人の領域を逸脱している。

 しかして修太郎も同等の領域に身を置く者だ。蒼い闘気の残光と共に駆け抜ければ、疾走するアーサーに追いついた。

 直後、銀閃と紫閃が交わる。

 刹那の間に数十度の応酬、紫紺の剣が圧倒的呪力の質量を以って地を割り、白銀の太刀が鋭利な風で虚空を斬る。

 

 思考の加速が一秒を百倍近く引き伸ばし、互いの戦意が無数の斬撃予測線を描き出す。それらが作り上げる檻の中で、無想の境地が無意識化の超速演算を為せば、戦いは数十手先の未来にまで及び始めた。

 彼らが備える天性の才能は、互いの体勢、筋肉の動き、視線、速度と膂力、空気抵抗から重力の影響に至るまで、あらゆる戦場の要素を捉えだす。

 反応は反射を超え、もはや時間の軛すら突破せんと魂が唸りを上げるのだ。

 

 アーサー・ペンドラゴンは卓越した技量に紫紺剣の重さを乗せ、剛と柔の融合を成す。

 暮修太郎は圧倒的技量が生む鋭さを以って柔の極限を剛とし、それを迎え撃つ。

 袈裟切り、逆風、逆胴、唐竹、刺突――剣閃と体捌きの応酬は、まるで示し合せたかのように互いを傷付けることが無い。

 

 合わせた刃は百を超え、千を超えた。未だ緋剣は宙を舞ったまま。この刹那の攻防を見切れる者が、はたして世界にどれほどいるだろう。

 両者の実力、全く互角。そう評価してもいいように見えた。

 

 虚空を銀の鋭剣走る。紫紺の刃が受け止め逸らす。

 次の瞬間だった。

 突如として、しかし絶妙なタイミングで修太郎が背を向けたのだ。

 

 極限を超えた集中の中に生きる彼らの神経は、もはや未来に行われる動作にまで通っている。それに背を向けるという行為は一つ間違えば即死、分の悪い賭けなどと言うレベルではない無謀な行いだ。だがしかし、暮修太郎の才覚はそれを戦術として成立させる。

 アーサーが――金行鬼が放つ殺気をその背に受け流す。戦闘の拍子(リズム)を外されたアーサーにとって、それは目の前の目標を刹那の間見失うに等しかった。

 互い張り巡らせた斬撃予測線が、一瞬にして全て弾け飛ぶ。

 

(これは、龍尾返し――!)

 

 その崩し。

 所謂邪剣の類である。

 互いが構築した戦いの流れにコンマ数秒空白が生まれる。一秒を百にも分割する超高速戦闘の中において、それはもはや仕切りなおしも同然の時間だった。

 この戦い、いち早く体勢を立て直した方が勝つ。

 

 返す刃で放たれたアーサーの剣は、音すら断つ鋭さだ。しかし如何なる剣も当たらなければ意味は無く、『背後を向く』という自身の体勢を考慮していた修太郎は、当然の如くそれを躱す。

 振り向く挙動と踏み込みの向こうで、白銀の太刀が引き絞られる。

 放たれた神速の一刀は、『(いかづち)』に届かない。しかし、その速さは空気を燃やす。風を裂く鋭さにあってすら、灼熱と燃える斬撃になるのだ。

 

 闘気の筋肉により生まれた瞬発力そのまま、接触の刹那全身の関節を固め剛体法を成す。そこに渾身の勁力が加われば、絶大威力の斬撃がアーサーの剣を両断した。

 紫紺の鋼が欠片となって宙を舞い、剣技の余波がアーサーの胸に大きな傷を刻む。

 暗闇に、真紅の雫が飛び散った。

 

 アーサーは確かに強かった。以前戦った時より技も力も向上させ、修太郎とここまで打ち合えるほどに成長していた。

 だが、その程度では届かない。

 なぜなら既にアーサーの剣技は全て見て覚えている。その発展型すら修太郎は習得していた。だからこそ、戦闘中に背を向けるという無謀すら通すことができたのだ。

 

「そう、だから――『支配(ルーラー)』」

 

 アーサーの瞳が輝く。

 紫紺剣が砕けてなお、身を覆う凶悪な気配は消えない。

 その手にはいつの間にか別の剣が握られていた。迸る聖なる波動は伝説の聖剣・エクスカリバー。

 強烈な指向性を持って、支配の力が放たれる。

 

「――ッ!?」

 

 修太郎は動きを急速に鈍らせる。それどころか、動こうとするたびに皮膚が裂け、血を流していた。

 修太郎の体術は月緒流をベースに練り上げられている。その要訣は『肉体の完全連動による身体能力の超人化』。それが聖剣の干渉力で崩されたことにより、強烈な反動を生み出しているのだ。

 だが抗う。支配力のかかり方を把握し、それに逆らわず動くことで無効化する。

 しかし、そのわずかな時間は大きな隙となった。

 

 アーサーの手にはもう一振りの剣があった。

 莫大な魔のオーラは明らかな伝説級、高位の魔剣に相違ない。その刀身は暴力的な波動を漲らせ――。

 

「――魔剣、ディルヴィング」

 

 鉄槌剣が防御ごと修太郎を圧し潰す。

 解放された極大の破壊力はグラウンド全土に亀裂を刻み、学園校舎を大きく震わせるほど。その規模はもはや局地的な地震と変わらない。

 

 濛々と立ち込める土煙が割れると、血まみれの修太郎が現れた。

 すかさず放たれた蹴りは交差した剣で防がれるが、爆発する勁の衝撃がアーサーの身体を大きく背後に押し込む。

 が、相手もさる者。そこから素早く体勢を戻し、亀裂より脱出した修太郎にディルヴィングを走らせる。

 修太郎は卓越した体捌きでそれを回避していくが、大気震わせる波動の前に防戦一方となった。

 

「……ちっ」

 

 苦々しげに舌打ちをする修太郎。

 彼の剣――弐型斬龍刀は、その刃を無残に砕け散らせていた。修太郎の技を以ってしても、鬼神の力が加算された魔剣の一撃に耐えられなかったのだ。

 クロウ・クルワッハ戦で先代を破壊されてより、幾多の戦いを乗り越えてきた剣だ。愛着が湧き始めていただけに中々くるものがある。

 

 しかし今は別れを惜しむ時ではない。

 敵はここぞとばかりに攻撃を続行する。エクスカリバーも交えた二刀流による連続斬撃が、まるで嵐のように修太郎へと迫った。

 それでもなお見事な体捌きで躱す修太郎だったが、聖剣の支配力が地面をうねらせ動きを制限してくるとともに、周囲の岩盤が修太郎へと槍衾が如く殺到する。

 

 それらの猛攻を銀の軌跡が悉く撃ち落とす。

 修太郎の手の中には折れた太刀の切っ先があった。指に挟んだそれで以って斬撃を飛ばし、身を守ったのだ。

 

 思わず息をのむアーサー。まさかそんな残骸で防げるとは思っていなかったのだろう。

 そのわずかな隙を突き、震脚がうねる地面を砕く。踏み込みを蹴り脚にアーサーの横をすり抜け、瓦礫の中を駆け抜ける。飛び交う聖光波動と衝撃波動を背に疾走し、そして宙を舞う緋剣の柄へと手を伸ばす。

 しかし。

 

「――残念」

 

 金行鬼(アーサー)が笑む。

 その直後、足元より無数の武具が飛び出してきた。武具の群れは再び緋剣を上空へ弾き上げると、修太郎に襲い掛かる。

 刀剣から始まり、槍、斧、棍、矢など武具の種類は様々だが、共通しているのは全て金属であること。それらの武具は一つ残らず何かしらの力を発している。おそらくは宝具や神器の類だろう。決して直撃を許していいものではなかった。

 上体を後ろに大きく反らし勢いのまま回転、連続後転跳びで距離を離すが、修太郎を追うように大地は次々と武具を吐き出す。その尋常ではない速度にとうとう振り切れなくなり、軽気功の技を使って突き出る武具の上を渡りながら大きく後方に跳んだ。

 

 ふと夜闇に明かりが差す。先ほどの戦闘による余波が、曇天の雲を吹き飛ばしたのだ。

 そして、修太郎は見る。

 月光の中佇むアーサーの影は不自然なまでに巨大だった。グラウンドの半分を覆う歪な円形状に広がり、暗黒の沼を作っている。こちらを追う武具は、全てそこから生えてきていた。

 修太郎の強い霊感――見鬼の力が、影の中に潜む強大な存在を確かに視認する。

 

 それは巨大な鬼だった。

 天より降り注ぐ鋼の鬼面、直径100メートルにも及ぶ金属塊の大鬼神がそこにあった。

 

 はたして紫紺の長剣は、金行鬼の正体であったのか。

 答えは否。

 最も古き第一天将、その正体(ベース)とは『戦場に朽ちた鋼』。

 それは剣であり、槍であり、鎧であり、盾でもある。数多の怨念と呪いが成す、集合型の付喪神であった。

 

「ははは、やはり強い。剣技だけでは足りませんか」

 

 修太郎を見据えながらアーサーは呟く。その顔に湛えた笑みは、何故か満足げな様子だ。

 そうしてディルヴィングを影に沈めると、落下する緋剣をその手に収める。

 

「……ふむ」

 

 しばらく緋剣を眺めたアーサーは、なんとおもむろに修太郎へ投擲した。

 風よりも速く飛来する太刀に、しかし修太郎は微動だにしない。左の指で刃を挟み取り、右手で柄を握る。途端、莫大なオーラが刀身より溢れだす。本来の主に渡った妖刀はあまりの歓喜に鳴き声を上げ、鈴鳴る波の音を辺りに巻き散らした。

 

 返す刃で虚空を鞘に緋剣抜刀。奔る疾風は退魔の薄刃。その鋭さは空間にすら亀裂を入れる。

 神業とも言うべきそれを、アーサーは真っ向から打ち破った。

 その手には物理法則すら斬り裂く鋭刃、魔剣ノートゥング。バルムンク、ディルヴィング、ダインスレイブと共に教会から紛失した、伝説の魔剣だ。

 ディルヴィングがあるということは、ダインスレイブも持っているのだろう。元はフリード・セルゼンが使っていたと聞いているが、おそらく学園を襲った際取り込んだに違いない。

 

「……何のつもりだ」

 

 刃を構え、アーサーに問いかける。緋緋色金の太刀は金行鬼の目標であるはず。突然それを手放す意図がわからなかった。

 その疑問に対し、アーサーは当たり前のように――。

 

「私はあなたを倒したい。これは私個人の目的であり、アーサー・ペンドラゴンの目的でもある。ならば剣を持たないあなたと斬り合っても仕方がない。不利な相手を嬲るなど、興ざめも甚だしい。それにここからが楽しくなるのです。――いきますよ」

 

 答えた直後、オーラが急激に高まると、影の中から灼けた鋼が立ち上る。同時に漆黒の風が嵐と吹き荒れ、アーサーの身体を覆い尽くした。

 巨大な鬼神の影が中心に向かって収束していくと、次の瞬間、鋭い閃光と共に嵐が割れる。解放される邪気に、大気が弾けた。

 

 そこに立っていたのは金髪碧眼の青年ではない。

 紺碧の鎧甲冑を身に纏った、鬼面の騎士だった。

 炎のように揺らめくマント、スマートで鋭利なフォルムの装甲は、そのシルエットと裏腹に凄まじい重圧を放つ。眼光は真紅に燃え、強烈な戦意を漲らせていた。

 

「…………っ!」

 

 騎士がそこにいるだけで、周囲の大地が陥没する。金行鬼の莫大質量が2メートル弱の鎧に圧縮され、局地的な重力場を生み出しているのだ。

 凄まじい邪気と妖気――そして魔法力と光力。あらゆる属性が入り混じる混沌のオーラは、金行鬼が今まで取り込んできた武具によるものだろう。漏れ出る質量だけで空間が歪んでいるのが確認できる。火行鬼などとは比べ物にならない力の発露は、修太郎でさえ思わず息をのむほどだ。

 

 修太郎が知る金行鬼『流星』は、単純極まる質量攻撃のみの鬼神。その特性は重さと硬さ。それがアーサーという依り代を得るだけでこうも変わるのか。

 

(……いや、これは)

 

 感じられる力の高まりは、金行鬼だけでは為し得えない。使い手側に何らかの意志が無ければ不可能な現象だ。

 これが意味することとはつまり――アーサー・ペンドラゴンは鬼神と同調している。

 

『全力でいきます。さあ、尋常に斬り合いましょう』

 

 刹那、大地が爆散する。

 疾走の踏み込み、ただそれだけで学園全土が大きく震えた。

 超重量の甲冑を纏っているにもかかわらず、アーサーの速度はいささかも衰えていない。支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)を握り、神速の刃を振るう。

 その猛攻を修太郎は捌く、捌く。

 剣と剣が交差するたびに、凄まじい重圧が修太郎の身体を貫く。

 アーサーが放つ一撃一撃に山脈が如き威容の質量が込められていた。先の紫紺剣をはるかに上回るそのパワーは、アーサーの巧みな剣術によってさらなる威力を発揮する。

 

(これは……ッ!)

 

 その圧力は如何な修太郎と言えど、技術で受け流せる許容量を超えていた。斬撃の応酬が十を超えた直後、すぐさま回避主体にシフトする。

 放たれるオーラを受け流しつつ、歩法と体捌きを駆使して敵の剣を躱していく。攻撃の激突は最小限に、わずかな隙を突いて鎧を削るが、そのたびにこちらも傷を負った。

 返される刃を避けきれない。アーサーの剣は振るわれるたびに鋭く、速く、重くなっていく。

 流れるような肉体の駆動、筋肉の脱力と緊張によるゼロからの最大速力、人体限界を超える膂力の発露――この運体術は。

 

(月緒流か……!)

 

 月緒の体術は、特殊な訓練によって自己の肉体を完全に掌握するところから始まる。アーサーは聖剣の力を駆使して自分の肉体を完全に『支配』することで、それを実践していた。

 地を駆け、宙を蹴る戦闘はその余波だけで戦場を砕く。巻き上がる大地、降り注ぐ瓦礫、倒壊する校舎の雨の中、二人の集中力は時間を停滞させていた。

 

 アーサーの眼光は歓喜に満ちてる。この刹那が楽しいと言わんばかりに、殺気を高めて刃を放つ。振るう剣は、技は、さらに研ぎ澄まされ高みに至る。妖刀の剣を観察し、支配の力によってもたらされた月緒の剣術を彼の才能は急速に学習していた。

 

 逆に修太郎は内心の表情を険しくしていく。その理由は、彼が握る剣にあった。

 妖刀・緋緋色金。

 振るうたびに緋剣のオーラが歓喜に高まる。イリナが握っていた時と比較にならないその質量は、この場の悪魔たちを震え上がらせるほどの寒気を放った。

 斬り裂け、滅ぼせ、己が存在の意義を感じさせてくれと、こちらへ訴えかけてくる。

 それが邪魔だった。

 

(――五月蠅い)

 

 故に、封じる。

 勝手に高まる力と伝達される剣の意志――そんなもの、今はリソースの無駄にしかならないからだ。

 結果として退魔力も封じられるが、一瞬の判断が命取りとなるこの修羅場で制御力に力を割いて死ぬよりはマシだろう。

 しかし、それは同時に剣の攻撃能力を著しく低下させることになる。

 緋緋色金の切れ味は何も無くとも鋭いが、アーサーの纏う金行鬼の鎧はそれすらも撥ね返す強度だった。障壁のようなオーラに加え、魔王級の攻性魔力すら容易く凌ぐ装甲、さらに鬼神が取り込んだ無数の異なる材質と属性が鎧徹しすら無効化する。

 大きな隙さえあれば攻撃を通せないこともないが、この高速戦闘下では不可能に近い。

 

(ならば――)

 

 風を断つ斬撃六連。常人からは全て同時に放たれたようにしか見えないそれを、アーサーは全て捌ききる。

 その返す刃を潜り抜けた修太郎は、踏み込みからの鋭い拳打を放つ。龍すら屠る鉄拳にしかし、超重量の甲冑姿は小揺るぎもしない。それを見届ける前に、軽気功の技と拳の反動を利用し背後へ跳んで退避した。

 すかさず追いすがるアーサー。相手の着地点を予想して、剣を握る腕に力を溜めこむ。

 

 だが修太郎はそれを待っていた。

 戦闘中に用意していた魔法を起動、空中を跳躍し、アーサーへ急接近する。

 月緒の体術は爆発力こそ凄まじいが、それを溜めこむ間――緊張の瞬間に大きな隙が生まれる。アーサーの体術は修太郎のそれを参考にしただけあって、かなりの完成度だ。しかし、所詮は真似事。歴代最強の月緒である修太郎には到底及ばない。

 

 突進と共に修太郎が放ったのは渾身の兜割り。

 その一撃と同時、相手に向かって六つの斬風が走る。先ほど捌かれた斬撃によるものが、遅れて迫ってきたのだ。それを理解したアーサーは、自身が嵌められたことを知る。

 

 六つの斬風と兜割りが重なる。月緒流『旋風重(つむじがさね)』が崩し――『七颪(ななつおろし)』。

 

 一点集中された斬撃の威力は七倍どころでは済まない。桁違いの威力を誇る剛剣が、アーサーに放たれた。

 緋色の刃が障壁のオーラを容易く断ち、鎧に打ち込まれる。しかし刃は鎧を斬り砕くことなく、表面に傷を刻むだけだった。

 尋常ではない硬さに加え、アーサーが回避行動をとったためだ。おそらく相手が生身であっても致命傷には遠いだろう。

 内心で舌打ちする修太郎と、目に宿る喜びを強めるアーサー。

 

『は――はははっ、楽しい!! 極限と極限ッ、鋼と鋼が鎬を削る火花ッ! 我が力が十全に引き出されている!! 血沸き肉躍るッ! これが人間、これが剣士!!』

 

「ほざけ……ッ!」

 

 神域に踏み込んだ武の応酬は熾烈を極めた。

 月緒の技を用いてすら、単純な剣技であれば修太郎はアーサーを上回っている。しかしその技量差を鬼神の力が埋めることで、全く互角の戦いを演じていた。

 否、形勢はアーサーに傾いている。その堅牢さと圧倒的な膂力によって、徐々に修太郎を追い詰めていた。

 修太郎も反撃を浴びせるが、鎧に傷をつけることしかできない。その損傷ですら次の瞬間には修復される始末。関節部の強度にも穴は無く、常時変質する鎧の材質では斬撃法の確立すら不可能。

 状況は誰がどう見てもジリ貧、しかし修太郎は退かない。傷だらけになりながらも、戦い続ける。

 

 その時だった。

 突如として、アーサーの周囲を光の縄が取り囲む。縄の一本一本に浮かぶ呪文は退魔の言霊。強力な異形封じの術法だ。

 光の縄は激しく紫電を迸らせながら、アーサーを縛り上げた。

 瞬間、場の時間が戻る。

 

『……なるほど、真羅の鬼封じですか。そういえば一族の者がいたのでした』

 

 アーサーの燃える眼光が、空中に佇むシトリー眷族の姿を捉える。

 ソーナたちが椿姫を中心として、対妖刀のために用意していた拘束結界を発動したのだ。

 椿姫の生家、五大宗家が真羅一族は異形憑きの家系。それを拘束・制御するための術法は腐る程用意されている。一族より追放されて久しい椿姫だったが、ある程度のノウハウは心得ているのだ。

 眷族全員の魔力がつぎ込まれたこの結界は、彼女たちの成長も合わさってコカビエル戦で展開したものを遥かに上回る強度を誇っている。如何に金行鬼が強大であろうと、これを無視することなどできないはずだった。

 

「ぐっ……副会長、これは……!」

 

「なんて重さ……今にも引き千切られそう……!」

 

 草下と花戒が悲鳴を上げる。それだけでなく、眷族のメンバーは全員苦悶していた。

 アーサーが言葉を発するたびに拘束が千切れそうになる。そのフィードバックが全員の身体を襲っているのだ。

 

「全力で耐えなさい! ――リアス、今です!!」

 

「ええ!!」

 

 ソーナの声に応えるように、リアスが前に出る。

 彼女は両手の間に漆黒の矢を浮かべていた。矢の正体は極限まで圧縮された消滅魔力。効果範囲こそ狭いが、あらゆるものを撃ち貫く滅びの矢である。

 

 名付けて『流星の滅矢(シューティング・エクスティンクト)』。

 

 ソーナに対抗して開発を始め、つい最近実用段階に持ち込めた必殺技だ。

 射出速度は音速に届かない程度。先ほどの戦闘を見るなら、アーサーに中てるのは至難の業となるだろう。しかしそこにソーナたちの拘束が加われば――。

 

(十分に中てられる……!)

 

 イメージを引き絞り、矢を放つ。

 アーサーは未だ動けず、回避は不可能。決まったと確信した、その瞬間だった。

 

『くだらない』

 

 アーサーは拘束する縄を無造作に引き千切った。

 

「きゃあああっ!!」

 

 反動で弾け飛ぶシトリー眷族たち。特に術の基点となっていた椿姫にかかる負担は大きく、落下する彼女を木場が受け止めることになった。

 続いて放たれたリアスの矢を紺碧の腕が横から掴み取り、握り潰す。ひたすら圧倒的なオーラ質量が、完膚なきまでに『滅び』そのものを消し砕いていた。

 

「な――」

 

 絶句するリアス。

 空中で固まる悪魔たちに、鬼面騎士の冷たい声が響く。

 

『歴代の真羅白虎ですら出来なかったことが、未熟なあなた方で可能だとでも? 身の程を知りなさい』

 

 戦いを邪魔されたからか、激烈な怒気が上空に放たれる。

 そのままアーサーが紺碧の手を上空へ向ければ、大地より聖剣の群れが立ち上り――。

 

『――「聖剣創(ブレード・ブラック)……」』

 

「――いや、それで十分だ」

 

 返答は地上からだった。

 直後、凄まじい殺気が辺りを満たす。極寒の冷気にも似た気配がリアスたちへ突き刺さると共に、鬼面の騎士すらも貫いた。

 修太郎の手に握られた緋剣が、その退魔力を解放していた。それは堰き止められた水が解放されたかのように、洪水となって溢れだす。

 オーラの奔流を制御し、収束させる。斬龍刀を扱う中で磨かれた精密且つ高速の制御技術は、退魔のオーラを瞬く間に刃の形へと変える。

 黄昏色の薄刃が、夜闇に燦然と輝いた。

 

『降魔剣……「破軍」か「天軍」か――それとも件の光速剣か。いいでしょう、受けて立ちます』

 

 それに呼応してアーサーも構える。

 腕の鎧が大きく変形しエクスカリバーに纏わりつくと、巨大な鋼の刃を形成した。

 数多の伝説級武具が持つオーラが刃に集中していく。空間が、重力が歪み、嵐が起こり大地が揺れる。

 

「デュランダルが啼いて……?」

 

「……なんて、力だ……ッ!」

 

 鬼神剣の鳴動にゼノヴィアのデュランダルが反応を示し、木場は己が神器を通じてその力を感じ取る。

 アーサーに集う力は大都市ひとつを完全に滅ぼしかねないほど膨大だ。修太郎の緋剣が放つ力も尋常なものではない。そんな攻撃が激突してしまえば、この町はひとたまりもなく、草木一本生えない荒野と化すだろう。

 

「駄目です、暮さん……! こんなところで――」

 

 邪気に中てられ、朱乃に抱えられた小猫が制止の声をかける。しかし両者とも力の高まりを止めようとしない。

 グレモリー眷族もシトリー眷族も、圧倒的格上同士の戦いをただ見守る事しかできなかった。

 

「悪いが――」

 

 先に動いたのは修太郎だった。

 刃に漲る力は極限まで研ぎ澄まされ、その質量はもはや実体と遜色ない。

 脱力、緊張、そして瞬発。

 斬撃と共に延長した刃は閃光が如く。

 

「今回はここまでだ」

 

 鋭く伸びた黄昏の刃がアーサーの足元――その空間を断ち斬った。

 今まさに鬼神剣が力を解き放つ寸前である。

 斬滅された空間は次元の狭間へ通ずる道を拓く。金行鬼の鎧を纏うアーサーは、自身の膨大な質量によって引きずられるままそこに落ちた。

 

『な――』

 

 呆けたようなアーサーの声。同時に鬼神剣の力も霧散する。

 自身が狙われていたならば迎撃も叶ったかもしれない。しかし明らかに逸れた斬撃の意図を察するのに、修太郎の剣は速すぎた。

 支配の力を利用して体勢を立て直すも、空間は環境そのものの修正力によって瞬く間に修復されていく。伸ばした手は届かず、アーサーは次元の狭間に追放されることとなった。

 

 修太郎が放ったのは降魔剣の変形『虚断(こだち)』。

 高位の霊感――認識力を以って距離、あるいは空間を斬り裂く秘伝の奥義。月緒の歴史上でも修太郎も含め三人しか使い手のいない絶技であった。

 この技で斬れるのはあくまで空間のみ。相手の強度を無視する効果などは持っておらず、先人はもっぱら結界・異界の破壊に用いていたという。

 

「――はあっ、はっ、はあっ……」

 

 アーサーが場を去ったのを確認した修太郎は、その場に膝を突く。

 本来ならば、今の修太郎は降魔剣を放てる身体ではない。変質した経絡ではそもそも念を練ることができず、また物体に込めることも不可能だからだ。

 今回の『虚断』は緋緋色金の退魔力を自身に通して変換することで放ったが、それでも絶大な負担が身を蝕んでいる。全身の神経が無視できない痛みを訴えていた。この分だとしばらく気を練ることすら辛いだろう。

 

 その緋剣は既に沈黙させている。このままではリアス・グレモリーたちと話すこともできないからだ。

 当初の目的は達成できた。しかし――。

 

「アーサー……」

 

 アーサー・ペンドラゴン。

 彼が敵に回るとは思わなかったと、そう言えば嘘になる。

 過去、修太郎はアーサーと戦い、完膚なきまでに打ちのめした。それは決め事がもたらした結果でもあったが、修太郎が彼の才能に期待したという側面もあった。逆恨みされても不思議ではないと思っている。

 金行鬼曰く、アーサーは暮修太郎を倒したいのだと言う。その目的が一致したからこそ、彼の鬼神はあれほどの力を発揮できるのだろう。

 しかし。

 

「お前は本当に――家族を、愛する者を、捨てられるのか?」

 

 自身の手を見つめる。

 剣を握るために特化されたような、ごつごつとした硬い手の平だ。

 アーサーが力を求めた末に金行鬼に憑り付かれたのだとすれば、それは修太郎のエゴが招いたこと。そう考えることもできる。

 それでもこれ(・・)は、家族を捨ててまで得たいものなのか?

 

 修太郎にはそれがわからない。

 わからないからこそ、気にかかる。

 あれには自分を気にかけてくれる両親と妹、恋人だっているのだ。それがどれほど幸せなことか理解していてこれならば、修太郎はアーサーを問いたださなければならなかった。

 ただ操られているだけならば良し。しかしそうでないなら彼の本意を聞き、斬るか救うか決めるのだ。

 決意と共に、修太郎は強く拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼吸も整い、気の流れも落ち着いてきた頃。

 修太郎に遠くから声がかかる。

 

「師匠! 師匠!」

 

 声の主はゼノヴィアだった。

 彼女の下に行くと、泣きそうな顔のアーシアと目が合った。それだけではなく、リアスとソーナ、朱乃と椿姫もゼノヴィアを中心に集まっている。他のメンバーは壊滅寸前になった学園の修復作業に励んでいるようだ。

 

「どうしたゼノヴィア」

 

「イリナが……イリナの傷が、治らないんだ」

 

 ゼノヴィアの腕にはイリナが抱えられていた。

 彼女の傷は修太郎が施した応急処置そのままに、身体はぐったりとして動かない。傷口からは今も血を流し、ゼノヴィアの制服と地面を赤く染めている。

 

「わ、私の力でも治せなくて……どうしたら……」

 

 顔面蒼白でアーシアが告げる。

 治癒能力の連続行使で疲労しきっているのだろう。アーシアの吐く息は荒く、肩を大きく上下させている。それでも彼女はイリナの治療をやめようとはしなかった。

 しかし、現在進行形で癒しの力を発し続けているにもかかわらず、傷口にはまったく塞がる様子がない。見れば、切断面から立ち上る黒い瘴気が治療を阻害していた。

 

「不治の呪い……あの剣か」

 

 アーサーが使っていた紫紺の宝剣、おそらくあれには傷の治療を阻害する呪いが込められていたのだろう。

 大気が焼けるほどの呪詛である。解呪するには相応の使い手が必要となるが、しかし。

 

「……私たちではできなかったの」

 

「解呪の魔力は通用しませんでした」

 

 深刻な顔でリアスとソーナが答える。この分では朱乃と椿姫も駄目だったのだろう。

 ゼノヴィアがすがるような目でこちらを見上げてくる。

 

「師匠……」

 

「……離れていろ」

 

 ゼノヴィアを含め、一同を後ろに下げさせる。

 そうして緋剣の退魔力を今一度解放した。爆風のような力の発現はひたすら暴力的。オーラだけで周囲の悪魔に斬りかかろうとすらしているかのようだ。

 疲労を押してその狂暴なオーラを制御し、極限まで薄い刃とする。

 イリナの傷口にそれを振るえば、呪いの力は一瞬にして霧散した。

 

「凄い……」

 

 感嘆の声はリアスのものだ。

 緋剣を再度沈黙させれば、アーシアがイリナの傷を治癒すべく駆けつける。

 神器から発せられる光によって、イリナの傷はみるみる治っていく。ほどなくして血も止まり、腕も完全に繋がった。

 その光景を見届けて、しかし修太郎の表情は晴れない。

 傷が完全に癒えたにもかかわらず、イリナは目を覚まさなかった。

 

「――手遅れだ。血が足りない」

 

 人間は血液の30パーセントを失えば、命を失う。彼女の場合は1リットル半に届かない程度だろうか。応急処置で出血は抑えていたとはいえ、もはやそのラインは超えていた。

 紫藤イリナは、死んだのだ。

 

「……な、なあ師匠! 師匠の技でどうにかなるんだろう? 気功とか仙術とか、何かよくわからない技でイリナを……」

 

 ゼノヴィアが修太郎の服に縋り付きながら、今にも泣きそうな顔で尋ねる。

 修太郎は一度瞑目し、少女の目をまっすぐ見て告げた。

 

「ゼノヴィア。人は人を生き返らせることなどできない。それは神の御業だ」

 

 鋭い視線は何よりも雄弁に真実を語る。

 狼狽するゼノヴィアは迷子のように周囲を見渡した後、リアスに目を移す。

 

「リ、リアス部長、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』は――あれを使えば、イリナを生き返らせることが出来るはずだ。アーシアの時もそうしたと……」

 

「……私の残っていた駒は、会談の時に失ってしまったわ。再発行もまだなの。残念だけれど……」

 

「なら、ソーナ会長……!」

 

「私の駒は実家に置いています。……しかし転移の準備もありませんし、今から持ってくるにしてもおそらく間に合わないでしょう」

 

「そん、な……」

 

 望みを絶たれ、力無く崩れ落ちるゼノヴィア。アーシアが傍に寄り添い、嗚咽を漏らす。

 ゼノヴィアとて戦士。イリナの治療が間に合わないことなど、とっくに気付いていたはずだ。それでも彼女にとって親友の喪失という現実を受け入れることは、ひどく難しかったのだろう。

 紫藤イリナは太陽のような少女だった。その人柄は、おそらく万人に好かれる稀有なものだ。

 いくら知人の死に慣れているとはいえ、修太郎とて無感情ではいられない。あの場でアーサーの攻撃を阻止できた者がいるとしたら、それは修太郎をおいて他に居なかったからだ。出来る事なら助けてやりたかったと思う。

 

「――いや」

 

 そこで気付く。いや、思い出す。

 ある。

 紫藤イリナを蘇生させる方法は、ある。

 しかし意識の無い彼女にそれを行うことは、いささか無責任だった。ともすれば彼女の生きる道を勝手に歪めてしまうことになりかねないからだ。

 だがこのまま何の覚悟も無しに死んでしまうのは、あまりにも理不尽だろう。加えてこれは彼女だからこそとれる選択でもある。それすらも、間に合うかどうかは賭けなのだ。

 迷う猶予は欠片も無い。

 

 修太郎は懐より端末を取り出す。

 呼び出す番号はある人物のもの。すぐに出てくれるか疑問だったが、数コール後、無事に繋がる音がした。

 

『もしもーし。どうしたのさシュータロくん。何か問題でもあった?』

 

「――デュリオ、ミカエル殿に連絡はつくか」

 

 取っ掛かりは掴んだ。後は幸運を祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

『ふ、くくくっ、ははははははははははっ!!』

 

 色彩入り混じる万華鏡の海に笑い声が高く響く。

 原初の空間、混沌の海、次元の狭間の一角に、紺碧の鎧姿が浮かんでいた。鬼面の眼光は昂ぶりに燃え、ともすれば本当に笑顔で歪みそうなほどだ。

 金行鬼(アーサー)は当然のごとく健在だった。

 

「何が可笑しい。凶星(シォンシン)

 

 突如として声がかかる。

 いつの間にか金行鬼の上方に一人の男が佇んでいた。

 漆黒の両翼を広げた、コート姿の偉丈夫である。

 

『はははは……いえ、見事に出し抜かれましてね。我ながら酔狂にもほどがある。ああ土公(トゥゴン)、大体ひと月ぶりですか? 久しぶりですね』

 

「まったくだな。お前が連絡を取らない間に色々なことがあった。一度帰ってこい。今後の方針を詰めたい」

 

『無論帰るつもりですが……方針? 不要でしょう。我々はただ主の言葉に従えば良い』

 

「そこに問題が発生しているから言っているのだ。――我らの存在が公になった」

 

 偉丈夫――土行鬼(ドーナシーク)が告げる。

 しかしその言葉に対する金行鬼の反応は淡白なものだった。

 

『でしょうね。それが?』

 

「それが、だと? 主殿の命令が遂行できなくなるかもしれんのだぞ」

 

『そんなことは大した問題ではありません。どうせ金烏(ジンウー)雷星(レイシン)あたりが派手にやったのでしょう? 彼女たちがいる限り、それは規定事項ですよ』

 

 飄々と答える金行鬼には余裕すらある。言葉の通り、土行鬼の懸念をまったく問題視していないのだろう。

 それが土行鬼には不満だった。

 

「主殿は我々に期待していないと、お前はそう言うのか?」

 

『期待できる要素がどこにあるのです。我らは強いが、経験的には生まれて間もない子供も同然。神や魔王を前に、うまくできる保証は皆無ですよ』

 

 それを聞いて土行鬼は眉間のしわを深める。しばらく考え、そして尋ねた。

 

「一理ある。が、ならば主の狙いは何だ。お前にはそれがわかるのか?」

 

『だから言っていたでしょう? 「自由にやれ」と。ならばそうすればいい』

 

「何だと……?」

 

土公(トゥゴン)、あなたは真面目に考え過ぎです。もっと力を抜いたほうが良い。主が戻ってくるまで、ね』

 

 そう言って金行鬼は体勢を整え、土行鬼の横に移動する。

 ふと鎧の胸を撫でて呟く。

 

『ああ、痛い。痛覚など今まで感じたことがありませんでしたから、戸惑ってしまいます。もっと慣れが必要ですね』

 

「……御道修太郎とやりあったのか」

 

『ええ、とても楽しかった。中々いいところまでいきましたよ。次はきっと勝てます。願うならば、ハンデが無い状態で戦ってみたかったのですが……』

 

「御道、修太郎……か」

 

 土行鬼の表情は苦々しい。彼は過去に一度、修太郎に破壊されているのだ。

 その様子に金行鬼は苦笑する。

 

『安心なさい、あれは私が請け負います。何せ私は長男ですからね。弟妹は守らなければ』

 

「誰が弟だ。……変わったな、凶星(シォンシン)

 

『身体を変えましたからね。宿主の影響を受けているのかもしれません。反映させているのは戦意と技術だけのはずですが……これもまた面白い。さあ、帰りましょう。転移をお願いします。実は、ここから帰れなくて困っていたのです』

 

「……ふん。まったく、長兄が聞いて呆れる」

 

 土行鬼が指を鳴らした次の瞬間、二体の鬼神は空間の裂け目に吸い込まれて消えた。

 

 




イリナ死亡? そして学園再び壊滅。そんな話。

駒王学園「もうやめて」

原作で教会爺ズが強すぎたせいで相対的にアーサーが強くなり、結果この話では何かもう良くわからん戦闘力になってます。
インフレし過ぎてリアスたちがついていけないので、次章からテコ入れ入ります。

次回は事後処理とイリナの行方と一誠の話になる予定。

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