剣鬼と黒猫   作:工場船

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第五十二話:スイッチ・オブ・ドラゴン

 

「――はっ!?」

 

 兵藤一誠が目を覚ますと、目の前には白い空間が広がっていた。一面が純白に覆われた、無限長のフィールドだ。

 そこが神器内部に広がる残留思念の領域であることを、一誠は即座に把握した。伊達に毎日潜っているわけではないのだ。しかし、いつもと雰囲気が違う。

 

 まず、全体的に罅割れている。地面は勿論、背景の白にも無数の亀裂が生じ、血のような赤い輝きを漏らしていた。真上を見れば、一際巨大な亀裂が大きな口を開けて一誠を卑睨している。距離感は曖昧だが、凄まじく高い位置にあるということだけはわかった。

 

 次に人が増えている。これまでは魔剣の持ち主である侍赤龍帝しかいなかったが、今は乱立する多数のテーブルに年齢・性別・人種も様々な人々が座っていた。テーブルの席は不自然に空いていて、閑散とした空気が漂っている。一誠の目にはそれが少し不吉に思えた。

 

 いったいこの空間に何が起こったと言うのか。

 妖刀に手の平を穿たれたところまでは覚えている。消滅の危機をゼノヴィアが阻止してくれたことも。

 おそらく自分は意識を失ったのだろう。しかしなぜ神器内部に迷い込んでいるのか?

 

『無事か、相棒』

 

 とりあえず、テーブルの人物に話しかけるべく動き出そうとすると、上方から馴染みの声が聞こえる。ドライグだ。

 

「ドライグ! なあ、これはいったいどうなってんだ? いやそれよりも外は、皆はどうなった!?」

 

 大声を張り上げる一誠。ドライグであればあるいは外の様子もわかるはずだ。

 

『落ち着け。とりあえず、相棒の仲間たちは無事脅威を退けたようだ。怪我人はともかく、死人は出ていないだろう』

 

「そうか、よかった……」

 

 緊張の息を吐き出す。もしもあのまま仲間が死んでしまうような事態になったなら、死んでも死にきれないところだった。

 

『それよりも、この状況についての説明だ。相棒、今のお前は中々面倒なことになっているぞ』

 

「面倒……?」

 

 神妙な様子のドライグに、一誠も真面目な表情になる。

 おそらくはこの異様な空間と関係があるのだろう。不吉な予感が強まった。

 

『まずは何故相棒がこの空間にいるかだが……大体予想はついているだろう、これはあの剣によるダメージが原因だ』

 

「剣……桐生が持っていた刀か」

 

 一誠の脳裏に緋色の刀身がよぎる。

 とても美しい輝きを放ってたが、同時に途方もない恐怖を感じた。あれは今の一誠が触れてはいけないものだ。

 

『あの剣は強力な龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)に近い。その力を魂にまで及ぶほど流し込まれた相棒は、無意識に逃げ場を求めた。それがここだ。何せ毎日欠かさず潜っていたからな。若干「癖」のようなものがついてしまっていたんだろう』

 

「……確かにとんでもない痛みだった。あれが龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)……?」

 

『少しばかり質は違うが、同じく存在そのものを根本から消し去る力だ。あれ以上受けていれば相棒は影も残さず消滅していた。仲間に感謝するんだな。相棒の魂がここに避難できたのも、ゼノヴィアと言ったか、あの聖剣使いが介入に間に合ったからだ』

 

「ああ、わかった。帰ったら礼を言っておかなきゃな」

 

 危ないとは思っていたが、本当に間一髪だったとは。ゼノヴィアには感謝してもしきれない。

 安堵する一誠とは対照的に、ドライグの様子は深刻だ。

 その理由は次の言葉で知れた。

 

『それなんだがな、相棒。今のお前はその「帰る」ことが出来ない状態にある』

 

「え?」

 

『「帰れない」んだ相棒。宝玉を通して剣の力を籠手にも流されたせいか、肉体と神器の結びつきが変になっている。相棒の精神と魂は、ここに閉じ込められたんだ』

 

「……え、ええええええええっ!!?」

 

 言葉の意味を理解して、絶叫する一誠。

 

「ちょ、ちょっと待てよドライグ!! 帰れないって……」

 

『疑うならば、やってみろ。そうすればわかるだろう』

 

 ドライグの言葉に従い、試しにこの空間から出ようといつものようにやってみる。

 意識を浮上させるイメージで肉体に戻ろうと試みるが……。

 

「……出来ない」

 

『驚くことに、あの時あの剣の力は籠手内部にいる俺にまで攻撃しようとしてきた。俺の魂は神器の最奥……システムの最深部にあるため届かなかったが、おかげで色々と引っ掻き回されてしまってな。今の状況の原因はおそらくそれだ。自動修復ではどうにもならん』

 

「…………」

 

 ドライグの話をよそに、再び身体に戻ろうと試みる一誠。

 だが何度やってもうまくいかない。心中を焦燥の念が満たしていく。

 

『テーブルの空きが見えるだろう? あそこには本来歴代所有者の残留思念が座っているはずなんだが、それも消し飛ばされてこの有り様だ。負の感情を基にした残留思念は、あの剣からすれば怨念や悪霊と同じようなものなのだろう。まあ格好の餌食と言う訳だ。まったく、この世にはとんでもない代物も……相棒?』

 

「……………………」

 

『どうした相棒、元気が無いな』

 

 黙ったままの一誠に声をかけるドライグ。

 一誠は焦った様子で頭を抱えていた。

 

「ううっ、元気も無くなるさ……! 帰れないってことは、部長のおっぱいを一生拝むことができなくなるってことなんだぞ!! 部長だけじゃない、アーシアや朱乃さんのもだ!! お、俺の生きがいが……」

 

『やはりそこなのか……もっとこう、他に無いのか? 命の危機でもあるんだぞ?』

 

「ねえよ!! 俺にはおっぱいだけだよ!!」

 

『……いつか「みんなが誇れる赤龍帝になる」と言った時の感動を返せ……』

 

 匙との一戦にて、実はかなり感動していたドライグである。

 やっと宿主が誇り高きドラゴンとして歩み始めたと思ったところに、これだ。一誠らしいと言えばそれまでなのだが、もう少しどうにかならないものだろうか?

 そんな想いなどつゆ知らず、一誠はついにおいおいと涙まで流し始めた。どれだけ女性の乳房に執着があるのだろう。ドライグには全く理解できない感覚だった。

 

「なあドライグ、何か戻る方法はあるんだろ……?」

 

 すがりつくように天を見上げる相棒は、何というか哀れだ。

 ドライグは魂だけで嘆息した後、返答する。

 

『ああ、ある』

 

「本当か!?」

 

『だが難易度はかなり高い。相棒なら出来ないことも無いだろうが……』

 

「それでもいいから教えてくれ! どんなに苦しくても、絶対に成し遂げて見せるぜ!!」

 

 希望の存在を知った途端、強い意気込みで立ち直る一誠。

 何をするのかすら一切説明していないのに、既に達成する気なのだ。彼は弱く、目立った才能も無いが、その意志力はドライグも評価するところだった。

 

『仕方がない……。方法とは、単純にセイクリッド・ギアを成長させるだけだ。お前が強く願えば、ちょうどいい具合にシステムが肉体と魂を繋ぎなおしてくれるだろう。だが先ほども言ったように、今の相棒では難易度が高い。相棒は最近神器を急成長させたばかりだし、ここに在るのは精神と魂だけ。無理ではないが、時間がかかることは覚悟しておけ』

 

「でもやるしかないんだろ? ならやるさ」

 

『……いいだろう。では――』

 

『話は聞かせてもらったわ!!』

 

 ドライグが説明しようとしたその時、間に割って入るように声が響く。

 そちらに振り向けば、一人の女性がドヤ顔で待ったをかけていた。

 スレンダーな身体にスリットの入ったドレスを纏った、金髪の美女だ。ややウェーブのかかった髪をなびかせ、こちらに歩いてくる。

 

『……エルシャか。どうしてお前がここに?』

 

 突然現れた謎の美女を前に、言葉を返したのはドライグだった。

 美女は親しげな口調でそれに答える。

 

『何だか騒がしくなってきたから出てきたのよ。こんな時に奥でのんびりやってるわけにもいかないでしょ?』

 

「えっ、と……どちらさま?」

 

 ドライグは知っている人物のようだが、一誠はこのエルシャと呼ばれた女性を見たことが無かった。

 ここに居るということはおそらく残留思念なのだろうが、それにしても感情豊かだ。

 

『ああ、彼女はエルシャ。歴代でも一・二を争う実力を持っていた赤龍帝だ。女性では最強になる』

 

『よろしくね、ボク♪』

 

 ウィンクをして答えるエルシャは、じろじろと一誠を観察し始めた。

 

「な、なんスか……?」

 

 まるで品定めをされているかのようだ。と言うか、実際されているのだろう。

 しばらくされるがままになっていると、エルシャは優しく微笑んだ。

 

『あなたが今代の赤龍帝ね? ちょっと頼りなさげだけど、良い目をしてるわ』

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

 何の意図があるかはわからないが、どうやら御眼鏡に叶ったらしい。

 そんなエルシャにドライグが突っ込む。

 

『おいエルシャ、いったい何をしに来た。俺は今から相棒を脱出させなければならんのだ。あまり邪魔をするな』

 

『あら、そんな邪険にしないでよドライグ。かつての相棒同士じゃない。それに、彼をここから出すなら協力者がいた方がいいでしょ? あなたと二人きりでやるよりは、いくらか効率が良くなると思うんだけど』

 

『……まあ、そうかもしれないが』

 

『決まりね。それじゃあ他の人にも協力してもらいましょう』

 

『他……? まさかエルシャ、ベルザードもここに来ているのか?』

 

『いいえ、ベルザードはお留守番。忘れたの? ドライグ。ここには最近になって意識を取り戻した思念がいるでしょう?』

 

「それってもしかして……」

 

『俺だ。兵藤一誠殿』

 

 かかった声に振り向けば、そこには着流しを着た男が一人。

 200年前の赤龍帝にして現・魔剣バルムンクの担い手である侍だった。

 

 言葉を紡ぐ彼の目はかつて見た憎悪に燃えるそれではなく、人間らしい色を湛えている。陰気な雰囲気を一転させて生気すら感じさせる男の姿に、一誠とドライグは驚きを隠せない。

 そんな彼らをよそに、エルシャは話を続ける。

 

『さあ、やりましょうか。これから私たちが、未熟なあなたに赤龍帝の戦い方を叩き込んであげるわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ―○●○―

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 桃色のつややかな唇からため息がこぼれる。

 兵藤邸の自室にて、リアス・グレモリーは課せられた業務をこなしていた。

 上級悪魔と言えども一つの町を管理していくのは相応の手間と労力が必要となる。いくらソーナと昼夜に分けて分担しているとはいえ、学園生活や眷族の主としての活動も含めてリアスたちに休みは無い。

 特に最近は『禍の団(カオス・ブリゲード)』によるテロ活動もあり、町の監視には注力している。町全体に張り巡らせた結界より流れてくる情報を分析し、異常な存在が紛れ込んでいないか毎日精査するのだ。今は朱乃が処理したそれらの情報を確認しているところだった。

 

 地道な作業はそれ故に集中力を要する。

 精査の結果、結界が認識した情報には特に異常は見られなかった。そのことに安堵し、同時に憂鬱な感情が芽生えるのを自覚する。

 ――本当に異常は起きていないのだろうか?

 ここ最近、ずっとそんなことばかり考える。

 

 思い起こすのは妖刀『黄昏の牙』、そして金行鬼『アーサー・ペンドラゴン』のこと。

 彼らが学園を襲撃してから、もう五日が経つ。

 襲撃者が町に侵入してきた時、リアスたちは何も感じ取ることができなかった。監視結界は正常に動作していたのにも関わらず、である。

 

 魔人の誇る超絶の式神、六天将の独立行動については報告を受けている。

 隠密性に長け、その実力は一体一体が最低でも龍王クラス。最大攻撃力に至っては神にすら匹敵する冗談のような怪物だと言う。

 今の結界にはアザゼルとアジュカ・ベルゼブブによる改良が加えられているが、それでも穴はあるはずだ。はたしてその時、リアスたちは敵に抵抗できるのか。

 もしも鬼神が町に紛れ込んでいたら……そう思うと気が気でない。おそらくはソーナも同じ気持ちを味わっていることだろう。

 それに加え、リアスには個人的な心配事があった。

 

「……ふぅ」

 

 本日の作業を終えた彼女は、静かに席を立ち自室を後にする。

 廊下を歩いていると、にぎやかな声が階下より響く。時刻は夕飯時。その準備がもうすぐ終わるのだろう。

 声を背後に、一つの部屋を訪れる。

 扉を開き明かりを点けると、大きなベッドに一人の少年眠っていた。

 

(イッセー……)

 

 少年の寝顔を眺め、その名を心中で呟く。

 彼女の『兵士』兵藤一誠は未だ目覚めていなかった。

 命に別状はない。肉体的には健康そのものだ。しかし、意識が戻らない。

 アザゼルが解析した結果によると、今の一誠は魂を神器に封じられた状態にあるらしい。神滅具の防衛反応か、それともドライグの介入によるものかは不明瞭だが、『黄昏の牙』から一誠を保護したのだろう、とのことだった。

 

 布団をめくれば、彼の左手には宝玉を損傷させたブーステッド・ギアがある。

 一誠が死んだとき、この赤き籠手は消滅する。言葉を発さず、身体を動かすことも無いが、この中で一誠は生きているのだ。

 しかしこれ以上眠りつづけるならば、流石に一誠の両親を含め周囲を誤魔化しきれなくなる。

 そのため明日、ヴァーリと回復した匙の協力も交えてアザゼルがさらなる調査を行うことになっていた。だがその結果、打つ手が見つからなかったなら――。

 

(……我ながら情けないわね)

 

 思考がネガティブになっていることを自覚し、頭を振る。

 眷族の主たる己が、ここまで弱気になってどうする。一誠は生きているのだ。きっとどうにかなるはず。

 眠る彼の頬に手を置き、そのぬくもりを感じ取る。そうして額に一つ唇を落とせば、心の内よりわずかに勇気が湧き上がる気がした。

 

 部屋を出るべく振り返ると、扉の前に誰かが立っているのに気付いた。

 少女と見紛う華奢で小柄な体躯。人形めいた金髪赤目の容姿は――。

 

「ギャスパー……?」

 

 ギャスパー・ヴラディその人である。

 今のギャスパーは旧校舎の自室から出て木場と共にマンションで暮らしている。その彼がこんな時間に何故ここに。

 疑問を巡らせるのもつかの間、ギャスパーが口を開く。

 

『久しぶりだね、リアス部長』

 

 発せられた声はどこか深いところから響くような、冷たい空気を孕んでいる。常の気弱なギャスパーのものではない。

 リアスはその声の正体を知っている。

 

「あなたはギャスパーの……!」

 

 ギャスパーの瞳には、ほの暗い影が渦巻いている。その輪郭はうっすらと闇に包まれていた。

 目の前の彼は会談の後に出会ったことがある、ギャスパーの別人格を名乗る存在だった。

 

『そう警戒しないでほしいな。僕はあなたたちに危害を加えるつもりはない』

 

 寂しげに微笑んだギャスパーは、リアスの横を通り抜けて一誠に近づく。

 そうしてブーステッド・ギアに触れ、何かを把握したように一つ頷いた。

 

「……何故あなたがここに?」

 

 その様子を見て話しかける。彼はいったい何の用でここにやってきたのだろうか。

 ギャスパーは一誠の左手から視線を移し、リアスを見つめる。そうして口にした言葉は、リアスにとって意外なものだった。

 

『赤龍帝を起こそうと思ってね』

 

「え?」

 

『だから彼を起こすのさ。いいかげん、毎日がうるさくて敵わない。さあ、リアス部長――』

 

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! いきなりすぎて訳がわからないわ。どうしてあなたにそんなことが出来るの?」

 

 唐突な展開に声を上げるリアス。

 ギャスパーはそれもそうか、と説明を始めた。

 

『どこから話そうか……そうだね、神器「停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」――これを制御するために僕……ギャスパーは訓練をしていた。アザゼル先生たちの協力を受けてね。結果としてそれは、ある程度実を結んでいるわけだけれど……』

 

 それはリアスも知っている。訓練の結果、ギャスパーは神器を制御できるようになっていた。しかしそれが今の状況とどのような関係があると言うのだろう?

 ギャスパーは続ける。

 

『その過程で僕は赤龍帝の血を何度か飲んだ。ドラゴンの血は吸血鬼の力を高める効果があるからね。その時、僕と赤龍帝――イッセー先輩の間に「繋がり」が出来たんだ』

 

「つながり?」

 

『うん。普通の吸血鬼じゃ起こらないことだけど、僕の場合はそうなった。今も声が聞こえるよ。どうやら彼も戻ってこようと必死みたいだ』

 

 ギャスパーの話が本当ならば、うるさい、とはそのことなのだろう。

 

「イッセーは何って言っているの?」

 

『……「部長のおっぱい揉みたい」』

 

「…………」

 

『あとは、触りたいとかつつきたいとか吸いたいとか……』

 

「うん、わかったわ。間違いなくイッセーね」

 

 それは確かにうるさいと思うわけだ。

 日ごろのギャスパーからそんな様子は見られなかったので、おそらくこの別人格を名乗るギャスパーだけが聞いていることなのだろう。

 いったい何時からそうなっているのかはわからないが、流石に同情を禁じ得ない。

 

『最初は幽かだったけど、今ははっきりと大きな声で聞こえる。こんなことではおちおちと寝てもいられない。だから彼を起こすことにした。悪いけれど、リアス部長には協力してもらうよ』

 

「構わないわ。それで、どうすればイッセーを起こすことができるのかしら?」

 

 ギャスパーの申し出に、リアスは一も二も無く頷いた。

 一誠が今すぐ目覚めると言うのなら、それ以上のことは無いだろう。

 ギャスパーは答える。

 

『揉ませればいいんじゃないかな?』

 

「え?」

 

『だから、「おっぱい」をさ。本人が揉みたいって言ってるんだから、揉ませてあげればいい』

 

「そ、それで起きるの……?」

 

 ギャスパーの提案に、リアスは困惑するしかない。

 神器、それも神滅具に起こった異常事態が乳房を触らせるだけで直るなど冗談もいいところだ。そんなことでどうにかなるなら誰も苦労はしない。

 普通に考えればそうなる。だがしかし、リアスは思った。

 一誠はかつて乳をつついて禁手を安定化させた男である。もしかすると、今回も何かが起こるかもしれない。

 理屈も何も全く以って理解できないが、揉ませるだけならタダだ。試してみる価値はあるだろう。

 と、リアスは自分を納得させた。……納得させてしまったとも言える。

 

「……わかったわ。イッセーのためだもの」

 

『え、わかっちゃうんだ』

 

「何か言った?」

 

『いや、何も。じゃあリアス部長、僕は後ろを向いているから、その間にお願いします』

 

 そう言ってギャスパーは扉の方へ移動し、リアスたちに背を向けた。

 

「…………」

 

 上半身だけ服を脱ぎ、乳房を露出させる。そうして眠る一誠の左手を取った。

 きっと傍から見ればこの光景は異常以外の何物でもないだろう。それを頭の片隅で自覚しつつ、籠手に包まれた一誠の手を乳房に近づける。

 

「……あん」

 

 肌に触れる籠手の硬い冷たさに、思わず吐息が漏れる。

 そうして数秒。何も起きない、そう思った次の瞬間だった。

 

『――この気配は!? 間違いない、部長のおっぱいだッ!!』

 

『なんだ、どうした相棒! とうとう頭がおかしくなったか!?』

 

『部長のおっぱいが、俺に触れている。その気配がはっきりわかる!! 今、俺の中で新しい何かが目覚めたっ! 今ならやれる気がする!! うおおおおおっ、待っててください部長!! いくぜおっぱい!!!』

 

『おいやめろ相棒、そっちに行くなッ!! 目覚めさせるなら、せめてまともに修行しろッ!!!』

 

 宝玉から声が響くと、赤龍帝の籠手が眩く輝きだす。

 

「え――?」

 

『うわあ、本当に目覚めちゃったよ。――冗談だったのに』

 

 赤き籠手がその輝きを加速度的に増大させれば、真っ白な光が辺りを包みこみ――。

 

『くそッ!! 俺たちの苦労は何なんだ……っ、相棒おぉぉぉぉぉッ――――!!!』

 

 ギャスパーの頭の中で、ドライグの叫びがこだまする。

 

 後日、事の顛末を聞いたサーゼクスは、広報活動の一環として特撮ヒーロー『乳龍帝おっぱいドラゴン』の制作を企画。赤龍帝ドライグがかつて抱いた不安は、加速度的に現実と化していくのだった。

 

 




遅れてしまってまことに申し訳ない。超お待たせしました、更新です。
色々と周囲の環境が変わり修羅場だったもので、書く時間が中々……。
今後はまだ何とかなるはず。

今回は赤龍帝の籠手への影響と、スイッチ姫不可避。そんな話。

それはそうと、アニメ三期始まりましたね。もう5話の放送終わってるタイミングですが。
まったくなにやってんだと。
何はともあれ黒歌美人で私うれしい。でもフェンリル弱体化しててちょっと悲しい。
ロキさんは何かデュエルしそうな外見で驚きました。
アーサーは大分イケメン。しかしスーツと言うより執事服っぽいです。
話の再構成には賛否ありそうですが、個人的には有り。覇龍楽しみですね。

次話は推敲済ませてすぐに投稿します。

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