恥ずかしがり屋な提督が鎮守府に着任してました。 作:グラヌンティウス
色々あって、だいぶ遅れちゃいました。ゆるして♡
※設定について
・泊地棲鬼=泊地棲姫
・艦隊の人数に限度はありません。
ただ、六隻以上だと見つかり易くやる感じ。
深海側もこれと同様。
・艦娘、深海棲艦は障壁(バリア)が張れます。
コイツのせいで、人間の通常兵器は無力です。
ピンポイントバリアみたいな感じ――か?
今更ですが、前回の誤字脱字報告ありがとうございましたァ!
この世には〝船の墓場〟と通称される場所が幾つか存在する。
その大体は、不法投棄された船々の集まりや船舶解体場なのだが――
稀に、海難事故の多発地帯や海戦の戦場跡地だったりする。
そして、ここはその前者と後者のハイブリッドな場所だった。
元々は戦場跡地で、軍艦の残骸が数多く残されている海域であり――
そこに人間達が廃棄船の不法投棄を次々と行い、今に至っている。
なお、廃棄船からの重油等、汚染物質はほったらかしにされている為――
この場所には、魚等の生物は一匹足りとも存在しない。
泊地棲姫率いる深海勢の艦隊は、その〝船の墓場〟を拠点としていた。
駆逐、空母、戦艦、その他――総勢三〇〇隻を超える、超大規模艦隊である。
この艦隊は、だいぶ前から周辺海域の〝敵達〟に猛威を振るい続けていた。
潰した基地の数は一つ二つではない。沈めた敵数は最早数えてすらいない。
更に、最近になって艦隊は、『本営』から戦艦レ級を数隻与えられていた。
これにより、艦隊の得意な強襲戦術の威力はますます強化され――
ここ最近は最早戦闘とは呼べない、一方的な戦果を上げ続けている。
人の諺で『飛ぶ鳥を落とす勢い』というのがあるが――正にそんな感じだ。
今日も既に二つ三つ、暢気に行動していた敵艦隊を海の藻屑とさせている。
この調子だと、新たな海域に手を出すのは時間の問題だろう。
巨大な脚部艤装の端に腰を下ろしたまま――
数匹の浮遊要塞を侍らせた泊地棲姫は、何気なく周囲を見回した。
寝転がっている軽母ヌ級。数匹の駆逐イ級達と戯れている戦艦タ級。
脚部艤装を外し、船の残骸に腰掛け、ボーッと空を眺めている雷巡チ級。
寛いでいる者達は他に何隻もいる。皆、非番の者達である。
一部、艤装を身につけている者もいるが――それらは休憩中の者達だ。
この拠点周辺の哨戒担当艦であり、単に順番の関係で休憩しているのである。
あと小一時間もすれば、帰投してきた奴等と交代し出撃する筈だ。多分。
そう漠然と思っていると――
浮遊要塞の一つを介し、一つの部隊から通信が入った。
遣り手の戦艦ル級が旗艦を務める、強襲部隊からの通信である。
元々精強な部隊なのだが、新たにレ級三隻が加わり更に強力になっていた。
具体的には、準備万端の敵連合艦隊に余裕綽々と勝てる程度には強い。
ただ、その新戦力であるレ級達だが、相当な問題児ばかりらしく――
最近の旗艦ル級は『あいつら奔放過ぎ』と、よく愚痴るようになっている。
そんな気苦労の多い旗艦ル級からの報告は――ほとんどが良い内容であった。
一つ目は、攻略対象としていた敵基地の主力艦隊を壊滅させたこと。
二つ目は、帰投中に人間達の貨物船を発見したこと。
三つ目が、その貨物船を一隻丸ごとブン獲った、ということである。
言うまでもないが――当然、乗組員や護衛していた敵共は皆殺しだ。
そして、唯一の悪い内容は――まぁ、案の定、レ級達についてだった。
拿捕した貨物船を牽引している最中、三隻とも作業に飽きたようで――
一言「チョット遊ンデクル!」と言い、何処かに行ってしまったらしい。
――まぁ、一言残すようになっただけ、成長したともいえるのだが。
初めの頃は何も言わず、勝手に部隊から離脱していたし。
旗艦ル級の心底困り果てた声を聞きながら――
泊地棲姫は苦笑を漏らすと、牽引の援軍派遣をル級に伝えた。
そして、手近にいた部下達数隻に、牽引の手伝いを命令する。
命令された部下達は、嬉々として旗艦ル級の下へと出発していった。
見送る者達も、明らかに期待に満ち溢れ、嬉しそうにしている。
その理由は、貨物船に積まれているであろう人間達の食料にあった。
深海棲艦は体質故に〝食うに困る〟という状況に陥ることはないのだが――
食べる事は普通に出来る為、娯楽としての食事は非常に人気だった。
中でも特に人気なのは、お菓子やジュース等の嗜好品関係だ。
自然界に存在しないその暴力的な甘味は、同族達を見事に虜にしている。
――ちなみに、泊地棲姫の好物はチョコレート菓子だ。
特に、小箱に入った、アーモンドを包含した楕円形のヤツを好んでいる。
しばらくすると、水平線向こうから一隻の船が現れた。
貨物船――正確にはコンテナ船だ。遠くからでも分かる程に巨大である。
泊地棲姫は浮遊要塞の一つを空高く飛ばし、自身と視界を同化させた。
天気が良い事もあり、空からの眺めは中々に壮観であった。
目を凝らし視界をズームさせる。貨物船を牽引する同族達の姿を捉える。
――見る限り、重症を負っている者はいない。皆、元気に船を牽引している。
泊地棲姫は旗艦ル級に通信を繋ぐと、貨物船の係留場所を指示した。
了解の返事を確認すると、部下達と一緒に、自らもその場所に向かう。
出迎え――及び、貨物船に積まれた戦利品の荷下ろしを手伝う為だ。
本来、それらは全て部下達に任せても、何も問題はないのだが――
そこは――ほら、アレだ。嗜好品の魔力というかなんというか……。
……うん。やはり、このような物を作り出す人間は恐ろしい存在だ。侮れん。
荷下ろしは、予想していたよりもだいぶ手早く進んだ。
士気の高さは勿論、拠点にいた全員が協力が一番の原因だろう。
今回の貨物船は、所謂『当たり』の獲物だった。食料が豊富だったのだ。
足場に下ろしたコンテナが開けられる度に、大きな歓声が上がる。
缶詰。干物。レトルト食品。和菓子。洋菓子。スナック菓子。
泊地棲姫の大好きなチョコレート菓子も大量にあった。気分が高揚する。
酒も色々と豊富にあったが――こちらは、一部を除いてウケが悪かった。
というのも、深海棲艦に酒好きはあまりいないのだ。少数派なのである。
嗜む者を見ては、『なんであんなものを、美味そうに飲めるんだ』と――
そう心中で不思議に思うのが、泊地棲姫含めた殆どの深海棲艦であった。
どう考えても、チョコのほうが美味しいと思うのだが……ナゼナノカ?
そろそろかと戦利品の選別に一区切りつけた時には、夕方になっていた。
貨物船からは、全部の四分の一ほどのコンテナが下ろされている。
泊地棲姫は、海面から突き出た用済みのコンテナの山を見ながら――
通信も使用し、全員に『今から明後日まで宴会だ』と伝えた。
周りから、返ってくる通信から、やんややんやと喜びの声が上がる。
宴会宣言から、任務中の全員が拠点に戻るまでは三十分と掛からなかった。
幸せそうにお菓子を頬張る空母ヲ級。共にジュースを飲む潜水カ級とヨ級。
鯉の餌やりのように、駆逐ロ級達に楽しげにお菓子をバラ蒔く軽巡ヘ級。
笑い声あり。楽しげな声あり。少数派である酔っ払い達の愉快な声あり。
拠点である〝船の墓場〟は、今までにない程に賑やかになっていた。
泊地棲姫も例のチョコ菓子を食べながら、隣の脚部艤装に飴を与える。
当然、一個二個ではない。軽く百個は入っているであろう袋を三、四袋だ。
それを袋ごと、脚部艤装の大口に放り込むのである。ゴミ捨てのように。
それでバリボリと咀嚼しているところに、今度は酒瓶を放り込む。
立派な瓶に入ったブランデーだ。これも二、三本ほど放り込む。
泊地棲姫は全くの下戸なのだが――何故か脚部艤装はイケる口なのだ。
なお――拠点周辺の警戒だが、そちらの方は心配ない。
艦載機持ち全員で協力し、哨戒の索敵機を順番に飛ばしている。
――と、目の前を一隻のレ級がおぼつかない足取りで横切っていった。
見事な千鳥足だ。旗艦ル級の強襲部隊の面々が、それを見て爆笑している。
飲酒か――? と思ったが、レ級が手にしている箱を見てあぁと納得した。
あれはチョコレート菓子の箱だ。ただし、酒入りのヤツである。
確か、ウイスキーボンボンといったか。
酔ったレ級が足と尻尾を縺れさせ、滑稽に転倒する。
更なる爆笑が沸き起こる中で――ふと泊地棲姫は気付いた。
周囲を見回す。――やはり旗艦ル級の部隊のレ級達がいない。
その時、浮遊要塞を介して泊地棲姫に通信が入った。
例のレ級達の一隻からだった。現状の報告とのことだった。
要約すると――レ級達は現在、気儘に暴れ回っているとの事だった。
はぐれの駆逐、軽母、重軽巡の深海棲艦を纏め、数十隻の艦隊を組織し――
敵の艦隊や基地等の施設を、片っ端から襲撃しているらしい。
みんな元気にやっている。飽きたら戻るから。それじゃ。
報告してきたレ級は、話を終えると直ぐに通信を切ってしまった。
近くで共に聞いていた旗艦ル級が、『ほっといて大丈夫?』と尋ねてくる。
正直、こちらにも計画があるので、勝手な真似はやめて欲しいのだが――
まぁ、敵に損害を与えているのには変わらないので、黙認する事にする。
……言っても聞かないから、こちらが合わせる――というのが本音だが。
すると――こちらの気持ちを察してくれたのだろう。
脚部艤装が子猫を心配する親猫のように、擦り寄ってきてくれた。
何だか温かい気持ちになれたので、お礼にと飴袋と酒瓶を大口に投げ込む。
脚部艤装は『気にすんなよ』と言わんばかりに、景気良く咀嚼した。
事の始まりは、翌日の正午近くだった。
宴会を中断し、再び全員で貨物船の荷下ろしをしている最中である。
突然――例のレ級達の一隻から通信が入った。緊急通信だった。
一体全体、何事か――と、泊地棲姫が直ぐに通信に出る。
すると、ノイズ混じりの音声で、にわかに信じられない報告を受けた。
なんと、レ級達の艦隊が、敵の駆逐艦一隻に半壊させられたというのだ。
現在、艦隊はレ級達も含め、ボロボロの状態で退却・帰投中とのこと。
報告によると、戦闘の場所は拠点からだいぶ離れた場所であり――
泊地棲姫が『次の攻略場所』と、考えていた海域だった。
取り敢えず、レ級達に『気をつけて帰ってこい』と告げようとしたが――
どうも、向こうの通信機器が限界を迎えてしまったらしい。
ブツリ――と、明らかに事切れた嫌な音と共に、通信が切れてしまった。
「…………」
泊地棲姫は持ち上げていた空コンテナを海に投げ捨て、思考を巡らせた。
はぐれの寄せ集めとはいえ、レ級が三隻もいる艦隊である。
戦力的には、ここらの敵主力艦隊を正面から擦り潰せる強さなのだが……。
それが何故、たった一隻の駆逐艦に半壊させられたのだろうか?
レ級達がふざけて嘘を吐いているのか? それとも敵の新兵器か?
ふと思い出す。そういえば、少し前に『本営』から通達が届いていた。
とある激戦区で死闘を制した敵軍が、大規模な人員整理を行っている。
そこで鍛え抜かれた敵精鋭が、各地に散らばるからくれぐれも用心しろ……。
通達はそういった――注意喚起の内容だった。
話では、その精鋭達は皆が〝鬼〟や〝姫〟とサシで戦えるという。
レ級達の報告が真実ならば――恐らく、その駆逐艦は件の精鋭の一隻だ。
そして、これは勘だが、件の精鋭はその駆逐艦以外にもいるだろう。
一匹いたらなんとやら――とは違うが、警戒しておくに越したことはない。
まずは偵察部隊を組織し、可能な限り例の海域の敵状を調べながら――
並行して『本営』に援軍要請しておくのが、今取れる最善策だろう。
要請する戦力は〝鬼〟や〝姫〟クラスを数隻。独立部隊でも構わない。
正直、奴等は『我』が強過ぎるので、頼るのは気が進まないのだが――
レ級三隻が退却させられた事実があるので、背に腹は代えられない。
戦は基本的に、目には目を――強者には強者をぶつけるしかないのだ。
そして、泊地棲姫が『本営』に要請を済ましてから――数十分後。
部下の一隻が、『索敵機が幾つかの艦影を捉えた』と報告してきた。
全部で五隻の同胞とのことだった。レ級も一隻いるらしい。
ボロボロながらも全速力で、こちらに向かってきているとのこと。
――その報告を聞き、泊地棲姫は眉根を寄せた。
レ級が一隻だけ? 残りの二隻は一体何処へ? 何故、全速力?
様々な疑問の中、泊地棲姫は浮遊要塞を高々と空へと上げた。
視界を同化させる。レ級達五隻は、確かに部下の報告通りの方角にいた。
視界をズームする。レ級、軽巡ツ級二隻、重巡リ級とネ級の姿が見えた。
全員、格好はやはりズタボロで、何故か恐怖に駆られた顔をしている。
レ級の尻尾には、同胞の片腕と破れた布の小袋が引っ掛かっていたが――
それらに全く気付いていない様子から、全く余裕の無い心境が窺える。
全速なのも相まって、まるで何かから逃げているようにも見え――
そう思っていた時だった。
突如、一瞬で、重巡リ級が海中へと引き込まれた。
「!?」
泊地棲姫が目を剥く。
同時に、今度は片方のツ級も海中に引き込まれた。
これも一瞬だった。まるで、落とし穴に落下したかのような速さだ。
一体何が――と困惑している間にも、二隻目のツ級が海中に消える。
だが、その一瞬に――泊地棲姫はとあるものを目撃していた。
『手』である。大きく、指が長く、骨張った――白い右手だった。
そいつが海から出てきてツ級の足を掴み、一気に海中へ引き込んだのだ。
――間違いない。海の中に何かがいる。
泊地棲姫は脚部艤装に搭乗した後、直ぐに拠点の全員に敵襲を伝えた。
部下達が一隻残らず迅速に、迎撃の為の行動を取り始める。
先陣の駆逐艦達がレ級を目視した時には、既にネ級の姿はなかった。
――そして遂に、レ級の足も謎の白い手に掴まれた。
たちまちレ級の顔が絶望に歪む――が、やはり戦艦。最後まで諦めない。
レ級は断末魔のような雄叫びを上げると、尻尾の口を真下に向け――
一度に大量の魚雷を吐いた直後、砲撃でそれら全てを誘爆させた。
轟音と共に、海面から見事な水柱が立ち上がる。
高々と吹き飛んだレ級は、先陣の駆逐艦達の直ぐ側に落下した。
即座に駆逐艦達から救助される。片足と片腕、尻尾が千切れていた。
酷い損傷だが――深海棲艦ならば、治らない怪我ではない。
後方には下げられるが、長くても二ヶ月程度で元に戻るだろう。
まぁ、ひとまずは応急措置だ。情報の聞き出しはその後でも遅くない。
例の海域の駆逐艦のこと。先程の謎の白い手のこと。他にも色々。
落ち着いてからの方が、レ級も頭で話を纏めやすいだろう。
泊地棲姫が、拠点にいる修理担当班にレ級の応急措置の準備を命じる。
そして、空の浮遊要塞から再びレ級を確認した――その時だった。
レ級を背負ったイ級含めた、駆逐艦達の進行方向――目の前。
その海面から突然、勢いよく『何か』が飛び出してきた。
人型。色素の無い肌。
初めは同胞かと思った。
しかし、直ぐに違うと気付かされる。
何故なら『それ』は、絶叫と共に怪我したレ級に飛び掛かり――
そのまま文字通り、レ級の身体を引き裂き始めたからだった。
「█████████████████!!!」
「――ッ!」
不気味な叫び声に顔を顰めながら――
泊地棲姫は直ぐ様、謎の存在への攻撃を命じた。
既に、例のレ級はくたばっている。血がヤバい。噴水のようだ。
腕はもがれ、抉れた頭は、首の皮一枚で胴体にぶら下がっており――
その胴体も、ちょうど袈裟斬りに引き裂かれている最中だった。
背中で惨劇を引き起こされていたイ級が、一切合切を振り落とす。
直後――その謎の存在に、ありとあらゆる攻撃が集中した。
砲撃。雷撃。銃撃。爆撃。空から。海上から。海中から。
後方の空母達の艦載機及び、先陣の約百隻からの集中砲火だ。
普通の生物ならぱ、肉片どころか血すら残らない。
人間は勿論、強力な障壁展開能力の無い通常クラスの深海棲艦や――
あの忌々しい艦娘共も例外ではないだろう。
――しかし、今回の相手は例外だったらしい。
そいつは砲撃や爆撃をものともせずに突き進むと――
手近の戦隊に襲い掛かり、駆逐艦や軽巡達を容赦なく始末し始めた。
イ級が抉られ、ロ級が踏み潰され、ハ級が口から真っ二つに引き裂かれる。
軽巡ホ級などは、両腕をもがれた末に全身をねじ切られていた。
そして、襲った戦隊をあっという間に全滅させると――
絶叫を続けながら、再び手近の同胞達に襲い掛かっていった。
全員に『誤射誤爆を気にせずに集中砲火を続けろ』と命じ――
泊地棲姫は浮遊要塞越しに、阿鼻叫喚を作り続ける謎の敵を見据えた。
異様な長身痩躯。身体とは不釣り合いな長い腕。
頭はスキンヘッド――いや、ハゲだ。眉毛も睫毛もない。
目は瞳が無く真っ白で、口は口裂け女を彷彿させる程に大きく開いている。
――その姿は、紛うことなき『化け物』だ。ヤツは一体、何者なのか……?
唯一確実なのは、〝ヤツは我々にとって敵〟だということだ。
今も、命中する砲弾をまるで気にせずに、謎の凶悪な馬鹿力で――
絶叫と共に、雷巡チ級を頭から、強引に左右に引き裂いている。
……これだけでも、敵対の理由としては充分過ぎるだろう。
泊地棲姫は、共に後方に控えていた重巡・戦艦達に合図を送り――
謎の敵を一斉砲撃で始末するべく、砲持ち全員で前進を開始した。
先陣の駆逐と軽巡達の集中砲火が、人を跡形も無く消し去るならば――
こちらの集中砲火は、町を跡形も無く消し去る威力と言えるだろう。
空母達の艦載機、駆逐と軽巡と潜水艦達が必死に足止めを続ける。
その甲斐あって、泊地棲姫達は絶好の配置に着くことが出来ていた。
謎の敵を中央にして半包囲――といった具合である。
泊地棲姫が砲撃の号令を発したのは、丁度謎の敵に振り向かれた時だった。
目と目が合ったのを本能で察する。砲が一斉に轟く。
数多の砲弾の着弾は、謎の敵が駆け出すのとほぼ同時だった。
轟音と共に、謎の敵が十数隻の同胞ごと巨大な爆炎の中に消える。
しかし、謎の敵は直ぐに、その爆炎の中から飛び出してきた。
そのまま海上に着水し、爆走。絶叫しながらこちらに向かってくる。
泊地棲姫は主砲の照準を調整しながら、小さく呻き声を漏らした。
――やはり、傷一つ負っていない。一体どういう手品なのか?
同胞を粘土の如く引き裂く馬鹿力も、理不尽以外の何物でもない。
いや、そもそも通常兵器の通じない我々に、何故素手で対抗出来るのか――
そもそも何で海上を走れるのか――等、他にも疑問は多々あるけども。
艦娘でも深海棲艦でもないくせに……ホント、ナンナノダアイツハ?
距離が狭まってきたので、泊地棲姫は『次』の合図を全員に送った。
旗艦ル級の強襲部隊をはじめとした、幾つもの部隊が順々に動き出す。
波状攻撃の準備だ。単縦陣で敵に肉薄、至近距離で発砲後、即座に離脱――
所謂、ヒット&アウェイ戦法を各部隊が順々に行うのである。
敵は、謎の手段でこちらの攻撃を無効化にしているようだが――
流石に、至近距離での戦艦と重巡達の連撃には耐えられないだろう。
――しかし、ここで一つアクシデントが起こった。
レ級達の命令無視である。同型の惨殺が余程腹に据えかねたらしい。
汚い罵り言葉と共に、全五隻のレ級達は一斉に敵に突撃していった。
仕方ないので、泊地棲姫は直ぐに『レ級達に合わせろ』と各部隊に伝える。
レ級達が行う攻撃と攻撃の間に一撃離脱を実施しろ――そういう意味だ。
勝手気ままに行動するレ級達に合わせるのは、至難の技だが――
一撃離脱を行う艦達は、全艦がそれを可能とする技量を持ち合わせていた。
なので、無茶は言っていない――筈である。
レ級達の攻撃は、まさに苛烈の一言だった。
雷撃、砲撃、艦載機の爆撃と――休みなく猛攻が続いている。
戦艦レ級は通常クラスの深海棲艦では、最強と言っていい艦種である。
個体差はあるが、大体が〝鬼〟や〝姫〟に迫る強さを持ち――
どの局面でも戦闘に参加出来る手広さが、その評判を更に高めている。
なお、ここでいう『強さ』とは、攻撃力と防御力の高さのことだ。
攻撃面にのみ注目されがちなレ級であるが――その防御力も極めて高い。
流石に、障壁の展開能力は〝鬼〟や〝姫〟ほどではないが――
それでも、その頑丈さは、敵戦艦の主砲の直撃にも余裕で耐える程だ。
――故に、その場の誰もが自分の目を疑った。
一瞬の出来事だった。
謎の敵が、衝角戦を仕掛けたレ級の頭に手刀を深々と突き刺し――
そのままもぎ取るように、レ級の頭半分を抉り取ったのだ。
更に、謎の敵は、その頭半分となったレ級の尻尾を両手で掴むと――
豪快な一回転の後、手近な別のレ級にフルスイング。両者を粉砕した。
――そう、粉砕である。見た目や音は水風船の破裂に近いけども。
バシャッ、という音と共に、赤い霧が舞う――そんな感じだ。
万全の状態だった同型を手早く始末され、動揺したのだろう。
猛攻を加えていた残り三隻のレ級達が数瞬たじろく。
実はこの時――レ級達にとって、とても不幸なことが起きていた。
偶然も偶然。全員が同じ場所に、一ヶ所に固まっていたのである。
謎の敵は大きな跳躍で、瞬く間にレ級達との距離を詰めた。
後は〝一網打尽〟という言葉の通りである。決着は直ぐに着いた。
初めに接近されたレ級が、頭を両手で挟み潰され、真っ二つに裂かれる。
その隣にいたレ級は、頭をもがれ、身体を幾つもの肉片に千切られ――
最後のレ級は、尻尾を掴まれ、野球のオーバースローの要領で――
その全身が弾け跳ぶほど強烈に、勢いよく海面へと叩きつけられた。
約十秒。
謎の敵が、五隻のレ級の内、最初の一隻を始末してから――
残りのレ級全てを轟沈させるまでに掛かった時間である。
唖然としていた泊地棲姫がハッとし、慌てて攻撃中止の命令を下す。
――が、遅かった。謎の敵は既に、波状攻撃の第一隊に襲い掛かっていた。
部隊先頭の旗艦ル級が、ティッシュペーパーの如く引き千切られる。
後続達も同様だった。血飛沫が飛び、悲鳴と絶叫が交錯した。
艦隊全体に広がる明らかな混乱。直感する。これは――かなりマズい。
泊地棲姫は舌打ちすると、謎の敵目掛けて自ら突撃していった。
一時的な撤退が必要な状況だが、今の士気の低さでは壊走してしまう。
撤退先で迅速に態勢を整えるには、統制の取れた撤退が必要不可欠だ。
気分を盛り返す為には――トップが自ら戦う姿を見せなければならない。
例え、轟沈の危険性が非常に高いとしても。
泊地棲姫は実力者数隻に援護を頼み、全速で前進しながら主砲を構えた。
タ級を引き裂き、鮮血を撒き散らす謎の敵に――照準を合わせる。
弾は徹甲弾。レ級達の猛攻をも防ぐ、敵の手品のタネは未だ不明だが――
その手品を、高い装甲貫徹力で強引にブチ抜こうという算段だ。
――要するに、一点突破の力押しである。
泊地棲姫の接近に気づいた謎の敵が、絶叫を上げて走ってくる。
味方の援護射撃が幾つも炸裂しているが――全く意に介していない。
距離があっという間に詰まる。謎の敵の白目を目視で確認する。
泊地棲姫の主砲が火を吹いたのは、その直後であった。
至近距離。放たれた徹甲弾が、突進してきた敵の顔面に叩き込まれる。
敵戦艦に一撃で致命傷を与えられるそれは、謎の敵を大きく仰け反らせた。
期待していた結果とは違うが、こちらの攻撃で敵が見せた初の反応だった。
――どうやら、攻撃の方向性は正解らしい。ならばいけるか?
間髪入れず、泊地棲姫は脚部艤装の大口を大きく開かせる。
そして、仰け反りながらなおも突進してくる謎の敵に――
脚部艤装を正面から、豪快に喰らい付かせた。
脚部艤装は、厚さ三〇センチの鋼鉄をも余裕で噛み砕く咬筋力を持つ。
だが――案の定、謎の敵には歯が立っていなかった。
噛みつかれている謎の敵が、脚部艤装の上顎と下顎に手を掛ける。
脱出しようとしているのだろうが――そういかない。手遅れだ。
泊地棲姫が脚部艤装をパージし、「タノム」と呟いて後方に跳ね飛ぶ。
次の瞬間――脚部艤装から刺すような閃光が迸った。
続けて、轟音と共に、これ迄にない巨大な火柱が立ち上る。
脚部艤装内部に仕込まれた、特別重砲による零距離射撃の一撃だった。
陸の巨大列車砲並の威力を誇る――泊地棲姫のとっておきである。
爆風に煽られ、空中で体勢を崩しながらも――
幾つかの浮遊要塞達に助けられ、泊地棲姫は無事、海面に着水した。
前方では〝自爆〟した脚部艤装の残骸が、もうもうと黒煙を上げている。
上部は完全に吹き飛んでおり、残っているのは僅かな下部だけだった。
見た感じ、全体の八五パーセントは消失している。
そして、肝心の敵はと周囲を見回すが――その姿はなかった。
至近距離でアレを食らったのだ。木っ端微塵だろう。
空に舞い上がった、脚部艤装の細かい破片が降る中――
泊地棲姫は安堵するように肩を落とし、ため息を吐いた。
なんとか片付けたが――艦隊の損害は甚大。レ級達も全滅。
これはもう、しばらくは艦隊の再編で忙しくなるだろう。
『本営』にどう説明すれば……ほんと、厄介なことをしてくれたものだ。
つーかそもそも、あの〝化物〟は一体なんだったのだろうか。
少なくとも、人間ではないのは確かだが――
突然、後方から大きな着水音が聞こえた。
海面に、空高くから『何か』が落下した音だった。
泊地棲姫が表情を歪ませ、即座に振り返る。
喉奥から、苦渋に満ちたうめき声が漏れる。
直ぐ目の前には、両手を広げて迫る〝謎の敵〟の姿があった。
「████████████████!!!」
「――ッ!」
距離を取ろうと、瞬発的に後ろに下がる。
しかし、謎の敵の突進速度はそれ以上に速かった。
敵の左手刀が真っ直ぐ、泊地棲姫の顔面目掛けて飛んでくる。
すかさず障壁を張るが――意味を成さない。紙の如く貫かれる。
泊地棲姫は咄嗟に首を右に振り、敵の左手刀をギリギリで避けた。
直ぐに追撃の右手が横薙ぎに払われるが、これも屈んでどうにか避ける。
――幸い、この横薙ぎは大振りで、終わりの隙が大きかった。
その隙を突き、泊地棲姫は滑るように左後ろに下がる。
そして、周囲の浮遊要塞達を足止めと牽制の為に特攻させ――
再び、謎の敵に徹甲弾を叩き込もうと、主砲を構えた時だった。
「!?」
特攻させた浮遊要塞の一体が、物凄い勢いで泊地棲姫に飛んできた。
謎の敵が特攻させた内の一匹を捕まえ、こちらにブン投げてきたのだ。
障壁で何とか弾くものの、衝撃で体勢が崩れる。
マズい――と思った時には既に、謎の敵に再接近を許していた。
急ぎ主砲を敵に向けるが――砲身に手を掛けられ、軽々とへし折られる。
それでも諦めずに、なんとか間合いを取り直そうとするも――
今度は頭を、大きく不気味な片手で容赦無く掴まれた。
みしり――と頭の中から音がする。
泊地棲姫は凄惨なまでの表情を浮かべた。
謎の敵は絶叫しながら、空いている片手を高々と振り上げている。
深海棲艦としての本能か――口から自然と、憎しみに満ちた言葉が漏れた。
「コノ、バケモノメ……!」
泊地棲姫が両手で頭を挟み潰されたのは、その直後であった。
この日の海は、まさに『晴朗ナレドモ浪高シ』な天気だった。
空は快晴。三日続いた悪天候が、嘘のように晴れている。
それとは反対に、海の方は悪天候の面影を色濃く残した状態だった。
吹く風は中々に強く、荒れた海上を更に過酷な環境にしている。
とはいえ、鎮守府が面している海は防波堤の働きもある為――
そこだけは例外的に、荒れた波もだいぶ大人しくなっている。
そんな中――叢雲は一人、堤防に設置されたベンチに座っていた。
晴れない表情で、じっと海を眺めている。かれこれ十五分は経つだろうか。
直ぐ隣には、ハロウィンのカボチャ頭。勿論、司令官の私物である。
割と新しめで、額には《予備》と書かれた大きな付箋が貼られている。
執務室の執務机の下に置かれていた物だった。三つあった内の一つである。
……なお、『あった』と過去形なのは、昨日龍驤が一つ壊したからだ。
掃除当番で執務室の掃除中、何らかの事故で粉砕してしまったらしい。
一緒だった天龍曰く『かぶったカボチャごとトマトにやられた』とのこと。
全く意味が分からないが――まぁ、何か厄介事が起きたのだろう。
時刻は正午過ぎ。
特に任務のない叢雲にとっては、昼休みの時間帯である。
すると後方――少し遠くから「おーい」と声を掛けられた。
聞き間違えようのない声。ちらりと振り向く。
姉妹艦の深雪と吹雪だ。人懐こい笑顔で、手を振りながらこちらに来る。
吹雪は片手に蓋付の紙コップを器用に三つ持っており――
深雪は何やら、手に薄い正方形の箱を持っていた。
近くに来られてようやく気付く。あれは――食堂のピザボックスだ。
となれば、吹雪が持つ紙コップは食堂の自販機のヤツだろう。
しかし、執務室のベル同様、食堂のピザ箱は外に持ち出し禁止の筈だが……。
「叢雲ー。昼飯一緒に食べよーぜー!」
「……もうとっくに食堂で済ませたわよ、私は」
「へー。じゃ、もっかい食べよーぜ!」
「だから、既に食ったんだっつの。もうお腹いっぱいなんだってば」
「ダーイジョーブだって! 深雪スペシャルだぜ!? 別腹別腹!」
「勘弁してよ……。あんたの好きなピザ、全部ガッツリ系じゃないの」
叢雲が露骨にげんなりとした表情を浮かべる。
深雪の持つピザボックスは、食堂の少々不思議な備品だった。
誰かが箱に触ると、その者の好みのピザが必ず中に現れるのである。
しかも、中身を空にしても、再び箱を開ければまたピザが、という――
まぁ、単純に言ってしまえば〝無限ピザ生成機〟だ。
そして現在、その箱は深雪が手にしているので――
中身が肉とチーズ多めの大きいピザなのは、容易に想像がついた。
深雪はピザに限らず、やんちゃ坊主が好むような食べ物が大好きなのだ。
――ちなみに叢雲の好みは、チーズを主体とした生地が薄めのピザだ。
ワインが合うと、なお良し――といった具合である。
「……っていうかその箱、食堂からの持ち出し禁止でしょうが。何勝手に持ち出してきてんのよ」
「へへん。そこはちゃんと間宮さんから許可貰ってるから、なーんも問題ないぜ!」
「まぁ、許可っていうよりは『お願いされた』って言った方が正しいけど……」
吹雪が苦笑しながらそう言い、叢雲に紙コップを一つ手渡す。
お茶の入ったそれを受け取りながら、叢雲は眉根を寄せた。
「お願い? 間宮さんが?」
「うん。――ガンビアさんの件でちょっとね」
「ガンビアさん?」
吹雪の言葉に、叢雲が眉間の皺をますます深くする。
ガンビア・ベイといえば――この間、近海の警備中に助けた艦娘である。
こことは別のとある基地に転属され、そこに向かっている最中に――
迷子、敵襲撃、新旧所属先のダブル壊滅を味わった中々に不幸な空母だ。
故に現在、彼女の所属は宙ぶらりんな状態になっており――
一時的にここで身柄を預かっている――みたいな感じになっている。
中央には報告しているので、近々何らかの沙汰が届くだろう。
「何かあったの? ――まさか、喧嘩したとかじゃあないわよね?」
「喧嘩、ではないけど……」
「けど?」
「えーっと、ほら。 ガンビアさんってピザ大好きでしょ? 何枚も食べられるくらい」
「そうね。流石〝かの国〟って、思っちゃうくらい食べるわね。……本人は『少食だ』って言い張ってるけど」
「それで――実は間宮さん、そのピザの大食いが物凄く不満だったみたいでね。『たまになら許せるけど、連日となると流石に許せない。今日からガンビアさんに徹底した食育を施す』――って、凄く張り切ってて……」
「ホントは、おにぎりとかサンドイッチ持ってくるつもりだったんだよ。でも、間宮さんに話したら『ちょうどよかった』って言われて、このピザボックス押し付けられてさあ」
「…………」
叢雲がなんともいえない、微妙な表情を浮かべる。
間宮による、熱血的な基本からの食育指導により――
泣き顔で困惑するガンビア・ベイを容易に想像出来たからだった。
まったく。泣き顔が板に付いている艦娘というのも珍しい。
「なぁ、叢雲ー。隣座っていい?」
「え? あぁ、うん」
深雪に言われて、隣の予備カボチャを膝の上に置く。
それからはしばらく、姉妹達で気兼ねなく会話を楽しんだ。
深雪の冗談を笑い、吹雪の天然な発言にツッコミを入れたりする。
……実の所、叢雲は二人が気を使っている事に前々から気付いていた。
なんというか――二人とも世話焼きが露骨だったからである。
恐らく、司令官に経緯やら何やら色々吹き込まれたのだろう。
――しかし、叢雲は二人の世話焼きを鬱陶しく思ったことはなかった。
何故なら、二人からは安易な同情や憐れみ等は全く感じなかったし――
なにより、本気で自分を心配してくれているのが伝わっていたからだ。
露骨な感じになっていたのは――ただ単に二人が不器用なせいだろう。
尤も、吹雪型には総じてそういうところがある。隠し事が下手なのだ。
そして今現在、二人がわざわざ外で昼食をとっているのも――
休み時間を外で過ごす自分に配慮しているのだと、叢雲には分かっていた。
司令官が海に飛び込みどっか行った――との話を聞いてから早五日……。
叢雲は〝マニュアル〟を参考に、司令官の帰りを待っていた。
着任初日に読んだ司令官の自己紹介の書類――それが、マニュアルである。
そいつによると、司令官は〝必ず〟元居た場所に帰ってくるらしい。
加えて、そのルートは『行きと帰りは同じ可能性が高い』とのこと。
故に――叢雲は今、司令官が海に飛び込んだとされる場所に陣取っていた。
昨日まで続いていた嵐で、恐らく紛失しているであろう被り物を準備して。
一応、マニュアルには『ほっといてOK』みたいな記述があった為――
特に捜索などは行われず、鎮守府ではいつも通りの日常が続いていた。
しかし、自分達のトップをほっとくのは流石にどうかと思い――
叢雲は暇さえあれば、自主的に司令官の出迎えの為、外で待機しているのだった。
――まぁ、現状を纏めれば、大体こんな感じである。
ふと何かに気付いたのは、深雪が一人でピザを半分ほど食べた時だった。
会話の途中だったが前を見る。妙な気配――のような物を感じたのだ。
身の毛がよだつ――とはちょっと違うが、こう……ぞわぞわした感じだ。
吹雪と深雪がきょとんとし、何事かと尋ねてくる。
「む、叢雲ちゃん、どうしたの?」
「なんだよ急に」
「ん、いや。ちょっと……」
叢雲が『気のせいだった』と口にしようとする。
その時、ベシャリ――と、濡れ雑巾を床に叩きつけたような音がした。
吹雪も深雪も、全員の視線が自然と音がした方に向く。
視線の先――海と堤防のちょうど境目。
そこに、見慣れた大きな白い右手があった。
「あ……」
叢雲が目を丸くする。
すると――海から、異様な長身痩躯の人型が這い出てきた。
身体と不釣り合いな長い腕。色素の見られない白い肌。
半裸であり、顔には何枚もの昆布(?)を巻き付けている。
司令官だった。ここ五日間、行方不明になっていた上司である。
司令官はのっそりと立ち上がると、項垂れた姿勢でのろのろ歩き始めた。
その進む先には――鎮守府の庁舎がある。
――成る程。マニュアル通りだ。
「…………」
「…………」
「ちょ、ちょっと司令官? 待ちなさいってば!」
UMAでも見たかのように、呆気に取られる姉達を尻目に――
叢雲は予備のカボチャ頭を持って、急いで司令官に駆け寄った。
「昆布なんか巻いてないで、早くこっち被りなさいって! 偶然でも、アンタの顔見るかもしれないこっちの身にもなってみなさいよ!? 顔見ただけで解体とか冗談じゃないわ!」
「…………」
「いや、きつく締めてても所詮コンブなんだから、滑って取れるかもしれないでしょ!? ――いいからほら! 四の五言わないでコレ被りなさいっ!」
「…………」
「そう、それでいいの。……ところで、五日間も何処行ってたのよ」
「…………」
「ふーん。まぁ、長くなるんなら――そうねぇ。……それじゃあ、夕食の時にでも聞かせてもらおうかしら。別に問題ないでしょ?」
「…………」
「あぁ、それとね、アンタが居なかった時に新しい艦娘が――」
司令官と色々と話をしながら歩いていく。
叢雲は、話したい事が次々と出てくる自分を不思議に思いつつも――
特に深く考えずに、司令官と一緒に庁舎へと戻っていった。
ガンビア・ベイが、そのままここの所属になったと聞いたのは、それから直ぐだった。
「……ねぇ、深雪ちゃん」
「なに?」
「叢雲ちゃん――誰と会話してたの?」
「だ、誰ってそりゃ、司令官だろうよ」
「で、でも、司令官喋ってなかったよ!?」
「そ、それは――まぁ、そうだねとしか……」
「…………」
「…………」
「い、以心伝心してた――ってことでいいかな……?」
「べ、別にいいけど……」