恥ずかしがり屋な提督が鎮守府に着任してました。   作:グラヌンティウス

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色々あって、だいぶ遅れちゃいました。ゆるして♡

※設定について

・泊地棲鬼=泊地棲姫

・艦隊の人数に限度はありません。
 ただ、六隻以上だと見つかり易くやる感じ。
 深海側もこれと同様。

・艦娘、深海棲艦は障壁(バリア)が張れます。
 コイツのせいで、人間の通常兵器は無力です。
 ピンポイントバリアみたいな感じ――か?

今更ですが、前回の誤字脱字報告ありがとうございましたァ!



第4話 -乱闘(後編)-

 この世には〝船の墓場〟と通称される場所が幾つか存在する。

 その大体は、不法投棄された船々の集まりや船舶解体場なのだが――

 稀に、海難事故の多発地帯や海戦の戦場跡地だったりする。

 そして、ここはその前者と後者のハイブリッドな場所だった。

 元々は戦場跡地で、軍艦の残骸が数多く残されている海域であり――

 そこに人間達が廃棄船の不法投棄を次々と行い、今に至っている。

 なお、廃棄船からの重油等、汚染物質はほったらかしにされている為――

 この場所には、魚等の生物は一匹足りとも存在しない。

 

 

 泊地棲姫率いる深海勢の艦隊は、その〝船の墓場〟を拠点としていた。

 駆逐、空母、戦艦、その他――総勢三〇〇隻を超える、超大規模艦隊である。

 この艦隊は、だいぶ前から周辺海域の〝敵達〟に猛威を振るい続けていた。

 潰した基地の数は一つ二つではない。沈めた敵数は最早数えてすらいない。

 更に、最近になって艦隊は、『本営』から戦艦レ級を数隻与えられていた。

 これにより、艦隊の得意な強襲戦術の威力はますます強化され――

 ここ最近は最早戦闘とは呼べない、一方的な戦果を上げ続けている。

 人の諺で『飛ぶ鳥を落とす勢い』というのがあるが――正にそんな感じだ。

 今日も既に二つ三つ、暢気に行動していた敵艦隊を海の藻屑とさせている。

 この調子だと、新たな海域に手を出すのは時間の問題だろう。

 

 巨大な脚部艤装の端に腰を下ろしたまま――

 数匹の浮遊要塞を侍らせた泊地棲姫は、何気なく周囲を見回した。

 寝転がっている軽母ヌ級。数匹の駆逐イ級達と戯れている戦艦タ級。

 脚部艤装を外し、船の残骸に腰掛け、ボーッと空を眺めている雷巡チ級。

 寛いでいる者達は他に何隻もいる。皆、非番の者達である。

 一部、艤装を身につけている者もいるが――それらは休憩中の者達だ。

 この拠点周辺の哨戒担当艦であり、単に順番の関係で休憩しているのである。

 あと小一時間もすれば、帰投してきた奴等と交代し出撃する筈だ。多分。

 

 そう漠然と思っていると――

 浮遊要塞の一つを介し、一つの部隊から通信が入った。

 遣り手の戦艦ル級が旗艦を務める、強襲部隊からの通信である。

 元々精強な部隊なのだが、新たにレ級三隻が加わり更に強力になっていた。

 具体的には、準備万端の敵連合艦隊に余裕綽々と勝てる程度には強い。

 ただ、その新戦力であるレ級達だが、相当な問題児ばかりらしく――

 最近の旗艦ル級は『あいつら奔放過ぎ』と、よく愚痴るようになっている。

 

 そんな気苦労の多い旗艦ル級からの報告は――ほとんどが良い内容であった。

 一つ目は、攻略対象としていた敵基地の主力艦隊を壊滅させたこと。

 二つ目は、帰投中に人間達の貨物船を発見したこと。

 三つ目が、その貨物船を一隻丸ごとブン獲った、ということである。

 言うまでもないが――当然、乗組員や護衛していた敵共は皆殺しだ。

 そして、唯一の悪い内容は――まぁ、案の定、レ級達についてだった。

 拿捕した貨物船を牽引している最中、三隻とも作業に飽きたようで――

 一言「チョット遊ンデクル!」と言い、何処かに行ってしまったらしい。

 ――まぁ、一言残すようになっただけ、成長したともいえるのだが。

 初めの頃は何も言わず、勝手に部隊から離脱していたし。

 

 旗艦ル級の心底困り果てた声を聞きながら――

 泊地棲姫は苦笑を漏らすと、牽引の援軍派遣をル級に伝えた。

 そして、手近にいた部下達数隻に、牽引の手伝いを命令する。

 命令された部下達は、嬉々として旗艦ル級の下へと出発していった。

 見送る者達も、明らかに期待に満ち溢れ、嬉しそうにしている。

 その理由は、貨物船に積まれているであろう人間達の食料にあった。

 深海棲艦は体質故に〝食うに困る〟という状況に陥ることはないのだが――

 食べる事は普通に出来る為、娯楽としての食事は非常に人気だった。

 中でも特に人気なのは、お菓子やジュース等の嗜好品関係だ。

 自然界に存在しないその暴力的な甘味は、同族達を見事に虜にしている。

 ――ちなみに、泊地棲姫の好物はチョコレート菓子だ。

 特に、小箱に入った、アーモンドを包含した楕円形のヤツを好んでいる。

 

 

 しばらくすると、水平線向こうから一隻の船が現れた。

 貨物船――正確にはコンテナ船だ。遠くからでも分かる程に巨大である。

 泊地棲姫は浮遊要塞の一つを空高く飛ばし、自身と視界を同化させた。

 天気が良い事もあり、空からの眺めは中々に壮観であった。

 目を凝らし視界をズームさせる。貨物船を牽引する同族達の姿を捉える。

 ――見る限り、重症を負っている者はいない。皆、元気に船を牽引している。

 泊地棲姫は旗艦ル級に通信を繋ぐと、貨物船の係留場所を指示した。

 了解の返事を確認すると、部下達と一緒に、自らもその場所に向かう。

 出迎え――及び、貨物船に積まれた戦利品の荷下ろしを手伝う為だ。

 本来、それらは全て部下達に任せても、何も問題はないのだが――

 そこは――ほら、アレだ。嗜好品の魔力というかなんというか……。

 ……うん。やはり、このような物を作り出す人間は恐ろしい存在だ。侮れん。

 

 荷下ろしは、予想していたよりもだいぶ手早く進んだ。

 士気の高さは勿論、拠点にいた全員が協力が一番の原因だろう。

 今回の貨物船は、所謂『当たり』の獲物だった。食料が豊富だったのだ。

 足場に下ろしたコンテナが開けられる度に、大きな歓声が上がる。

 缶詰。干物。レトルト食品。和菓子。洋菓子。スナック菓子。

 泊地棲姫の大好きなチョコレート菓子も大量にあった。気分が高揚する。

 酒も色々と豊富にあったが――こちらは、一部を除いてウケが悪かった。

 というのも、深海棲艦に酒好きはあまりいないのだ。少数派なのである。

 嗜む者を見ては、『なんであんなものを、美味そうに飲めるんだ』と――

 そう心中で不思議に思うのが、泊地棲姫含めた殆どの深海棲艦であった。

 どう考えても、チョコのほうが美味しいと思うのだが……ナゼナノカ?

 

 

 そろそろかと戦利品の選別に一区切りつけた時には、夕方になっていた。

 貨物船からは、全部の四分の一ほどのコンテナが下ろされている。

 泊地棲姫は、海面から突き出た用済みのコンテナの山を見ながら――

 通信も使用し、全員に『今から明後日まで宴会だ』と伝えた。

 周りから、返ってくる通信から、やんややんやと喜びの声が上がる。

 宴会宣言から、任務中の全員が拠点に戻るまでは三十分と掛からなかった。 

 幸せそうにお菓子を頬張る空母ヲ級。共にジュースを飲む潜水カ級とヨ級。

 鯉の餌やりのように、駆逐ロ級達に楽しげにお菓子をバラ蒔く軽巡ヘ級。

 笑い声あり。楽しげな声あり。少数派である酔っ払い達の愉快な声あり。

 拠点である〝船の墓場〟は、今までにない程に賑やかになっていた。

 

 泊地棲姫も例のチョコ菓子を食べながら、隣の脚部艤装に飴を与える。

 当然、一個二個ではない。軽く百個は入っているであろう袋を三、四袋だ。

 それを袋ごと、脚部艤装の大口に放り込むのである。ゴミ捨てのように。

 それでバリボリと咀嚼しているところに、今度は酒瓶を放り込む。

 立派な瓶に入ったブランデーだ。これも二、三本ほど放り込む。

 泊地棲姫は全くの下戸なのだが――何故か脚部艤装はイケる口なのだ。

 なお――拠点周辺の警戒だが、そちらの方は心配ない。

 艦載機持ち全員で協力し、哨戒の索敵機を順番に飛ばしている。

 

 

 ――と、目の前を一隻のレ級がおぼつかない足取りで横切っていった。

 見事な千鳥足だ。旗艦ル級の強襲部隊の面々が、それを見て爆笑している。

 飲酒か――? と思ったが、レ級が手にしている箱を見てあぁと納得した。

 あれはチョコレート菓子の箱だ。ただし、酒入りのヤツである。

 確か、ウイスキーボンボンといったか。

 

 酔ったレ級が足と尻尾を縺れさせ、滑稽に転倒する。

 更なる爆笑が沸き起こる中で――ふと泊地棲姫は気付いた。

 周囲を見回す。――やはり旗艦ル級の部隊のレ級達がいない。

 その時、浮遊要塞を介して泊地棲姫に通信が入った。

 例のレ級達の一隻からだった。現状の報告とのことだった。

 要約すると――レ級達は現在、気儘に暴れ回っているとの事だった。

 はぐれの駆逐、軽母、重軽巡の深海棲艦を纏め、数十隻の艦隊を組織し――

 敵の艦隊や基地等の施設を、片っ端から襲撃しているらしい。

 みんな元気にやっている。飽きたら戻るから。それじゃ。

 

 

 報告してきたレ級は、話を終えると直ぐに通信を切ってしまった。

 近くで共に聞いていた旗艦ル級が、『ほっといて大丈夫?』と尋ねてくる。

 正直、こちらにも計画があるので、勝手な真似はやめて欲しいのだが――

 まぁ、敵に損害を与えているのには変わらないので、黙認する事にする。

 ……言っても聞かないから、こちらが合わせる――というのが本音だが。 

 すると――こちらの気持ちを察してくれたのだろう。

 脚部艤装が子猫を心配する親猫のように、擦り寄ってきてくれた。

 何だか温かい気持ちになれたので、お礼にと飴袋と酒瓶を大口に投げ込む。

 脚部艤装は『気にすんなよ』と言わんばかりに、景気良く咀嚼した。

 

 

 

 

 

 事の始まりは、翌日の正午近くだった。

 宴会を中断し、再び全員で貨物船の荷下ろしをしている最中である。

 突然――例のレ級達の一隻から通信が入った。緊急通信だった。

 一体全体、何事か――と、泊地棲姫が直ぐに通信に出る。

 すると、ノイズ混じりの音声で、にわかに信じられない報告を受けた。

 なんと、レ級達の艦隊が、敵の駆逐艦一隻に半壊させられたというのだ。

 現在、艦隊はレ級達も含め、ボロボロの状態で退却・帰投中とのこと。

 報告によると、戦闘の場所は拠点からだいぶ離れた場所であり――

 泊地棲姫が『次の攻略場所』と、考えていた海域だった。

 

 取り敢えず、レ級達に『気をつけて帰ってこい』と告げようとしたが――

 どうも、向こうの通信機器が限界を迎えてしまったらしい。

 ブツリ――と、明らかに事切れた嫌な音と共に、通信が切れてしまった。

 

 

「…………」

 

 

 泊地棲姫は持ち上げていた空コンテナを海に投げ捨て、思考を巡らせた。

 はぐれの寄せ集めとはいえ、レ級が三隻もいる艦隊である。

 戦力的には、ここらの敵主力艦隊を正面から擦り潰せる強さなのだが……。

 それが何故、たった一隻の駆逐艦に半壊させられたのだろうか?

 レ級達がふざけて嘘を吐いているのか? それとも敵の新兵器か?

 ふと思い出す。そういえば、少し前に『本営』から通達が届いていた。

 とある激戦区で死闘を制した敵軍が、大規模な人員整理を行っている。

 そこで鍛え抜かれた敵精鋭が、各地に散らばるからくれぐれも用心しろ……。

 通達はそういった――注意喚起の内容だった。

 

 話では、その精鋭達は皆が〝鬼〟や〝姫〟とサシで戦えるという。

 レ級達の報告が真実ならば――恐らく、その駆逐艦は件の精鋭の一隻だ。

 そして、これは勘だが、件の精鋭はその駆逐艦以外にもいるだろう。

 一匹いたらなんとやら――とは違うが、警戒しておくに越したことはない。

 まずは偵察部隊を組織し、可能な限り例の海域の敵状を調べながら――

 並行して『本営』に援軍要請しておくのが、今取れる最善策だろう。

 要請する戦力は〝鬼〟や〝姫〟クラスを数隻。独立部隊でも構わない。

 正直、奴等は『我』が強過ぎるので、頼るのは気が進まないのだが――

 レ級三隻が退却させられた事実があるので、背に腹は代えられない。

 戦は基本的に、目には目を――強者には強者をぶつけるしかないのだ。

 

 

 そして、泊地棲姫が『本営』に要請を済ましてから――数十分後。

 部下の一隻が、『索敵機が幾つかの艦影を捉えた』と報告してきた。

 全部で五隻の同胞とのことだった。レ級も一隻いるらしい。

 ボロボロながらも全速力で、こちらに向かってきているとのこと。

 ――その報告を聞き、泊地棲姫は眉根を寄せた。

 レ級が一隻だけ? 残りの二隻は一体何処へ? 何故、全速力?

 様々な疑問の中、泊地棲姫は浮遊要塞を高々と空へと上げた。

 視界を同化させる。レ級達五隻は、確かに部下の報告通りの方角にいた。

 視界をズームする。レ級、軽巡ツ級二隻、重巡リ級とネ級の姿が見えた。

 全員、格好はやはりズタボロで、何故か恐怖に駆られた顔をしている。

 レ級の尻尾には、同胞の片腕と破れた布の小袋が引っ掛かっていたが――

 それらに全く気付いていない様子から、全く余裕の無い心境が窺える。

 全速なのも相まって、まるで何かから逃げているようにも見え――

 

 

 そう思っていた時だった。

 突如、一瞬で、重巡リ級が海中へと引き込まれた。

 

 

「!?」

 

 

 泊地棲姫が目を剥く。

 同時に、今度は片方のツ級も海中に引き込まれた。

 これも一瞬だった。まるで、落とし穴に落下したかのような速さだ。

 一体何が――と困惑している間にも、二隻目のツ級が海中に消える。

 だが、その一瞬に――泊地棲姫はとあるものを目撃していた。

 『手』である。大きく、指が長く、骨張った――白い右手だった。

 そいつが海から出てきてツ級の足を掴み、一気に海中へ引き込んだのだ。

 

 

 ――間違いない。海の中に何かがいる。

 

 

 泊地棲姫は脚部艤装に搭乗した後、直ぐに拠点の全員に敵襲を伝えた。

 部下達が一隻残らず迅速に、迎撃の為の行動を取り始める。

 先陣の駆逐艦達がレ級を目視した時には、既にネ級の姿はなかった。

 ――そして遂に、レ級の足も謎の白い手に掴まれた。

 たちまちレ級の顔が絶望に歪む――が、やはり戦艦。最後まで諦めない。

 レ級は断末魔のような雄叫びを上げると、尻尾の口を真下に向け――

 一度に大量の魚雷を吐いた直後、砲撃でそれら全てを誘爆させた。

 

 轟音と共に、海面から見事な水柱が立ち上がる。

 高々と吹き飛んだレ級は、先陣の駆逐艦達の直ぐ側に落下した。

 即座に駆逐艦達から救助される。片足と片腕、尻尾が千切れていた。

 酷い損傷だが――深海棲艦ならば、治らない怪我ではない。

 後方には下げられるが、長くても二ヶ月程度で元に戻るだろう。

 まぁ、ひとまずは応急措置だ。情報の聞き出しはその後でも遅くない。

 例の海域の駆逐艦のこと。先程の謎の白い手のこと。他にも色々。

 落ち着いてからの方が、レ級も頭で話を纏めやすいだろう。

 

 泊地棲姫が、拠点にいる修理担当班にレ級の応急措置の準備を命じる。

 そして、空の浮遊要塞から再びレ級を確認した――その時だった。

 レ級を背負ったイ級含めた、駆逐艦達の進行方向――目の前。

 その海面から突然、勢いよく『何か』が飛び出してきた。

 

 

 人型。色素の無い肌。

 初めは同胞かと思った。

 しかし、直ぐに違うと気付かされる。

 何故なら『それ』は、絶叫と共に怪我したレ級に飛び掛かり――

 そのまま文字通り、レ級の身体を引き裂き始めたからだった。

 

 

「█████████████████!!!」

 

「――ッ!」

 

 

 不気味な叫び声に顔を顰めながら――

 泊地棲姫は直ぐ様、謎の存在への攻撃を命じた。

 既に、例のレ級はくたばっている。血がヤバい。噴水のようだ。

 腕はもがれ、抉れた頭は、首の皮一枚で胴体にぶら下がっており――

 その胴体も、ちょうど袈裟斬りに引き裂かれている最中だった。

 

 背中で惨劇を引き起こされていたイ級が、一切合切を振り落とす。

 直後――その謎の存在に、ありとあらゆる攻撃が集中した。

 砲撃。雷撃。銃撃。爆撃。空から。海上から。海中から。

 後方の空母達の艦載機及び、先陣の約百隻からの集中砲火だ。

 普通の生物ならぱ、肉片どころか血すら残らない。

 人間は勿論、強力な障壁展開能力の無い通常クラスの深海棲艦や――

 あの忌々しい艦娘共も例外ではないだろう。

 

 ――しかし、今回の相手は例外だったらしい。

 

 そいつは砲撃や爆撃をものともせずに突き進むと――

 手近の戦隊に襲い掛かり、駆逐艦や軽巡達を容赦なく始末し始めた。

 イ級が抉られ、ロ級が踏み潰され、ハ級が口から真っ二つに引き裂かれる。

 軽巡ホ級などは、両腕をもがれた末に全身をねじ切られていた。

 そして、襲った戦隊をあっという間に全滅させると――

 絶叫を続けながら、再び手近の同胞達に襲い掛かっていった。

 

 全員に『誤射誤爆を気にせずに集中砲火を続けろ』と命じ――

 泊地棲姫は浮遊要塞越しに、阿鼻叫喚を作り続ける謎の敵を見据えた。

 異様な長身痩躯。身体とは不釣り合いな長い腕。

 頭はスキンヘッド――いや、ハゲだ。眉毛も睫毛もない。

 目は瞳が無く真っ白で、口は口裂け女を彷彿させる程に大きく開いている。

 ――その姿は、紛うことなき『化け物』だ。ヤツは一体、何者なのか……?

 唯一確実なのは、〝ヤツは我々にとって敵〟だということだ。

 今も、命中する砲弾をまるで気にせずに、謎の凶悪な馬鹿力で――

 絶叫と共に、雷巡チ級を頭から、強引に左右に引き裂いている。

 ……これだけでも、敵対の理由としては充分過ぎるだろう。

 

 泊地棲姫は、共に後方に控えていた重巡・戦艦達に合図を送り――

 謎の敵を一斉砲撃で始末するべく、砲持ち全員で前進を開始した。

 先陣の駆逐と軽巡達の集中砲火が、人を跡形も無く消し去るならば――

 こちらの集中砲火は、町を跡形も無く消し去る威力と言えるだろう。

 空母達の艦載機、駆逐と軽巡と潜水艦達が必死に足止めを続ける。

 その甲斐あって、泊地棲姫達は絶好の配置に着くことが出来ていた。

 謎の敵を中央にして半包囲――といった具合である。

 泊地棲姫が砲撃の号令を発したのは、丁度謎の敵に振り向かれた時だった。

 目と目が合ったのを本能で察する。砲が一斉に轟く。

 

 数多の砲弾の着弾は、謎の敵が駆け出すのとほぼ同時だった。

 轟音と共に、謎の敵が十数隻の同胞ごと巨大な爆炎の中に消える。

 しかし、謎の敵は直ぐに、その爆炎の中から飛び出してきた。

 そのまま海上に着水し、爆走。絶叫しながらこちらに向かってくる。

 泊地棲姫は主砲の照準を調整しながら、小さく呻き声を漏らした。

 ――やはり、傷一つ負っていない。一体どういう手品なのか?

 同胞を粘土の如く引き裂く馬鹿力も、理不尽以外の何物でもない。

 いや、そもそも通常兵器の通じない我々に、何故素手で対抗出来るのか――

 そもそも何で海上を走れるのか――等、他にも疑問は多々あるけども。

 艦娘でも深海棲艦でもないくせに……ホント、ナンナノダアイツハ?

 

 距離が狭まってきたので、泊地棲姫は『次』の合図を全員に送った。

 旗艦ル級の強襲部隊をはじめとした、幾つもの部隊が順々に動き出す。

 波状攻撃の準備だ。単縦陣で敵に肉薄、至近距離で発砲後、即座に離脱――

 所謂、ヒット&アウェイ戦法を各部隊が順々に行うのである。

 敵は、謎の手段でこちらの攻撃を無効化にしているようだが――

 流石に、至近距離での戦艦と重巡達の連撃には耐えられないだろう。

 

 ――しかし、ここで一つアクシデントが起こった。

 レ級達の命令無視である。同型の惨殺が余程腹に据えかねたらしい。

 汚い罵り言葉と共に、全五隻のレ級達は一斉に敵に突撃していった。

 仕方ないので、泊地棲姫は直ぐに『レ級達に合わせろ』と各部隊に伝える。

 レ級達が行う攻撃と攻撃の間に一撃離脱を実施しろ――そういう意味だ。

 勝手気ままに行動するレ級達に合わせるのは、至難の技だが――

 一撃離脱を行う艦達は、全艦がそれを可能とする技量を持ち合わせていた。

 なので、無茶は言っていない――筈である。

 

 レ級達の攻撃は、まさに苛烈の一言だった。

 雷撃、砲撃、艦載機の爆撃と――休みなく猛攻が続いている。

 戦艦レ級は通常クラスの深海棲艦では、最強と言っていい艦種である。

 個体差はあるが、大体が〝鬼〟や〝姫〟に迫る強さを持ち――

 どの局面でも戦闘に参加出来る手広さが、その評判を更に高めている。

 なお、ここでいう『強さ』とは、攻撃力と防御力の高さのことだ。

 攻撃面にのみ注目されがちなレ級であるが――その防御力も極めて高い。

 流石に、障壁の展開能力は〝鬼〟や〝姫〟ほどではないが――

 それでも、その頑丈さは、敵戦艦の主砲の直撃にも余裕で耐える程だ。

 

 

 ――故に、その場の誰もが自分の目を疑った。

 

 

 一瞬の出来事だった。

 謎の敵が、衝角戦を仕掛けたレ級の頭に手刀を深々と突き刺し――

 そのままもぎ取るように、レ級の頭半分を抉り取ったのだ。

 更に、謎の敵は、その頭半分となったレ級の尻尾を両手で掴むと――

 豪快な一回転の後、手近な別のレ級にフルスイング。両者を粉砕した。

 ――そう、粉砕である。見た目や音は水風船の破裂に近いけども。

 バシャッ、という音と共に、赤い霧が舞う――そんな感じだ。

 

 万全の状態だった同型を手早く始末され、動揺したのだろう。

 猛攻を加えていた残り三隻のレ級達が数瞬たじろく。

 実はこの時――レ級達にとって、とても不幸なことが起きていた。

 偶然も偶然。全員が同じ場所に、一ヶ所に固まっていたのである。

 謎の敵は大きな跳躍で、瞬く間にレ級達との距離を詰めた。

 後は〝一網打尽〟という言葉の通りである。決着は直ぐに着いた。

 初めに接近されたレ級が、頭を両手で挟み潰され、真っ二つに裂かれる。

 その隣にいたレ級は、頭をもがれ、身体を幾つもの肉片に千切られ――

 最後のレ級は、尻尾を掴まれ、野球のオーバースローの要領で――

 その全身が弾け跳ぶほど強烈に、勢いよく海面へと叩きつけられた。

 

 

 約十秒。

 謎の敵が、五隻のレ級の内、最初の一隻を始末してから――

 残りのレ級全てを轟沈させるまでに掛かった時間である。

 

 

 唖然としていた泊地棲姫がハッとし、慌てて攻撃中止の命令を下す。

 ――が、遅かった。謎の敵は既に、波状攻撃の第一隊に襲い掛かっていた。

 部隊先頭の旗艦ル級が、ティッシュペーパーの如く引き千切られる。

 後続達も同様だった。血飛沫が飛び、悲鳴と絶叫が交錯した。

 艦隊全体に広がる明らかな混乱。直感する。これは――かなりマズい。

 泊地棲姫は舌打ちすると、謎の敵目掛けて自ら突撃していった。

 一時的な撤退が必要な状況だが、今の士気の低さでは壊走してしまう。

 撤退先で迅速に態勢を整えるには、統制の取れた撤退が必要不可欠だ。

 気分を盛り返す為には――トップが自ら戦う姿を見せなければならない。

 例え、轟沈の危険性が非常に高いとしても。

 

 泊地棲姫は実力者数隻に援護を頼み、全速で前進しながら主砲を構えた。

 タ級を引き裂き、鮮血を撒き散らす謎の敵に――照準を合わせる。

 弾は徹甲弾。レ級達の猛攻をも防ぐ、敵の手品のタネは未だ不明だが――

 その手品を、高い装甲貫徹力で強引にブチ抜こうという算段だ。

 ――要するに、一点突破の力押しである。

 

 泊地棲姫の接近に気づいた謎の敵が、絶叫を上げて走ってくる。

 味方の援護射撃が幾つも炸裂しているが――全く意に介していない。

 距離があっという間に詰まる。謎の敵の白目を目視で確認する。

 泊地棲姫の主砲が火を吹いたのは、その直後であった。

 至近距離。放たれた徹甲弾が、突進してきた敵の顔面に叩き込まれる。

 敵戦艦に一撃で致命傷を与えられるそれは、謎の敵を大きく仰け反らせた。

 期待していた結果とは違うが、こちらの攻撃で敵が見せた初の反応だった。

 ――どうやら、攻撃の方向性は正解らしい。ならばいけるか?

 間髪入れず、泊地棲姫は脚部艤装の大口を大きく開かせる。

 そして、仰け反りながらなおも突進してくる謎の敵に――

 脚部艤装を正面から、豪快に喰らい付かせた。

 

 脚部艤装は、厚さ三〇センチの鋼鉄をも余裕で噛み砕く咬筋力を持つ。

 だが――案の定、謎の敵には歯が立っていなかった。

 噛みつかれている謎の敵が、脚部艤装の上顎と下顎に手を掛ける。

 脱出しようとしているのだろうが――そういかない。手遅れだ。

 泊地棲姫が脚部艤装をパージし、「タノム」と呟いて後方に跳ね飛ぶ。

 次の瞬間――脚部艤装から刺すような閃光が迸った。

 続けて、轟音と共に、これ迄にない巨大な火柱が立ち上る。

 脚部艤装内部に仕込まれた、特別重砲による零距離射撃の一撃だった。

 陸の巨大列車砲並の威力を誇る――泊地棲姫のとっておきである。

 

 

 爆風に煽られ、空中で体勢を崩しながらも――

 幾つかの浮遊要塞達に助けられ、泊地棲姫は無事、海面に着水した。

 前方では〝自爆〟した脚部艤装の残骸が、もうもうと黒煙を上げている。

 上部は完全に吹き飛んでおり、残っているのは僅かな下部だけだった。

 見た感じ、全体の八五パーセントは消失している。

 そして、肝心の敵はと周囲を見回すが――その姿はなかった。

 至近距離でアレを食らったのだ。木っ端微塵だろう。

 

 空に舞い上がった、脚部艤装の細かい破片が降る中――

 泊地棲姫は安堵するように肩を落とし、ため息を吐いた。

 なんとか片付けたが――艦隊の損害は甚大。レ級達も全滅。

 これはもう、しばらくは艦隊の再編で忙しくなるだろう。

 『本営』にどう説明すれば……ほんと、厄介なことをしてくれたものだ。

 つーかそもそも、あの〝化物〟は一体なんだったのだろうか。

 少なくとも、人間ではないのは確かだが――

 

 

 突然、後方から大きな着水音が聞こえた。

 海面に、空高くから『何か』が落下した音だった。

 

 

 泊地棲姫が表情を歪ませ、即座に振り返る。

 喉奥から、苦渋に満ちたうめき声が漏れる。

 直ぐ目の前には、両手を広げて迫る〝謎の敵〟の姿があった。

 

 

「████████████████!!!」

 

「――ッ!」

 

 

 距離を取ろうと、瞬発的に後ろに下がる。

 しかし、謎の敵の突進速度はそれ以上に速かった。

 敵の左手刀が真っ直ぐ、泊地棲姫の顔面目掛けて飛んでくる。

 すかさず障壁を張るが――意味を成さない。紙の如く貫かれる。

 泊地棲姫は咄嗟に首を右に振り、敵の左手刀をギリギリで避けた。

 直ぐに追撃の右手が横薙ぎに払われるが、これも屈んでどうにか避ける。

 ――幸い、この横薙ぎは大振りで、終わりの隙が大きかった。

 その隙を突き、泊地棲姫は滑るように左後ろに下がる。

 そして、周囲の浮遊要塞達を足止めと牽制の為に特攻させ――

 再び、謎の敵に徹甲弾を叩き込もうと、主砲を構えた時だった。

 

 

「!?」

 

 

 特攻させた浮遊要塞の一体が、物凄い勢いで泊地棲姫に飛んできた。

 謎の敵が特攻させた内の一匹を捕まえ、こちらにブン投げてきたのだ。

 障壁で何とか弾くものの、衝撃で体勢が崩れる。

 マズい――と思った時には既に、謎の敵に再接近を許していた。

 急ぎ主砲を敵に向けるが――砲身に手を掛けられ、軽々とへし折られる。

 それでも諦めずに、なんとか間合いを取り直そうとするも――

 今度は頭を、大きく不気味な片手で容赦無く掴まれた。

 

 みしり――と頭の中から音がする。

 泊地棲姫は凄惨なまでの表情を浮かべた。

 謎の敵は絶叫しながら、空いている片手を高々と振り上げている。

 深海棲艦としての本能か――口から自然と、憎しみに満ちた言葉が漏れた。

 

 

「コノ、バケモノメ……!」

 

 

 泊地棲姫が両手で頭を挟み潰されたのは、その直後であった。

 

 

 

 

 

 この日の海は、まさに『晴朗ナレドモ浪高シ』な天気だった。

 空は快晴。三日続いた悪天候が、嘘のように晴れている。

 それとは反対に、海の方は悪天候の面影を色濃く残した状態だった。

 吹く風は中々に強く、荒れた海上を更に過酷な環境にしている。

 とはいえ、鎮守府が面している海は防波堤の働きもある為――

 そこだけは例外的に、荒れた波もだいぶ大人しくなっている。

 

 そんな中――叢雲は一人、堤防に設置されたベンチに座っていた。

 晴れない表情で、じっと海を眺めている。かれこれ十五分は経つだろうか。

 直ぐ隣には、ハロウィンのカボチャ頭。勿論、司令官の私物である。

 割と新しめで、額には《予備》と書かれた大きな付箋が貼られている。

 執務室の執務机の下に置かれていた物だった。三つあった内の一つである。

 ……なお、『あった』と過去形なのは、昨日龍驤が一つ壊したからだ。

 掃除当番で執務室の掃除中、何らかの事故で粉砕してしまったらしい。

 一緒だった天龍曰く『かぶったカボチャごとトマトにやられた』とのこと。

 全く意味が分からないが――まぁ、何か厄介事が起きたのだろう。

 

 

 時刻は正午過ぎ。

 特に任務のない叢雲にとっては、昼休みの時間帯である。

 すると後方――少し遠くから「おーい」と声を掛けられた。

 聞き間違えようのない声。ちらりと振り向く。

 姉妹艦の深雪と吹雪だ。人懐こい笑顔で、手を振りながらこちらに来る。

 吹雪は片手に蓋付の紙コップを器用に三つ持っており――

 深雪は何やら、手に薄い正方形の箱を持っていた。

 近くに来られてようやく気付く。あれは――食堂のピザボックスだ。

 となれば、吹雪が持つ紙コップは食堂の自販機のヤツだろう。

 しかし、執務室のベル同様、食堂のピザ箱は外に持ち出し禁止の筈だが……。

 

 

「叢雲ー。昼飯一緒に食べよーぜー!」

 

「……もうとっくに食堂で済ませたわよ、私は」

 

「へー。じゃ、もっかい食べよーぜ!」

 

「だから、既に食ったんだっつの。もうお腹いっぱいなんだってば」

 

「ダーイジョーブだって! 深雪スペシャルだぜ!? 別腹別腹!」

 

「勘弁してよ……。あんたの好きなピザ、全部ガッツリ系じゃないの」

 

 

 叢雲が露骨にげんなりとした表情を浮かべる。

 深雪の持つピザボックスは、食堂の少々不思議な備品だった。

 誰かが箱に触ると、その者の好みのピザが必ず中に現れるのである。

 しかも、中身を空にしても、再び箱を開ければまたピザが、という――

 まぁ、単純に言ってしまえば〝無限ピザ生成機〟だ。

 そして現在、その箱は深雪が手にしているので――

 中身が肉とチーズ多めの大きいピザなのは、容易に想像がついた。

 深雪はピザに限らず、やんちゃ坊主が好むような食べ物が大好きなのだ。

 ――ちなみに叢雲の好みは、チーズを主体とした生地が薄めのピザだ。

 ワインが合うと、なお良し――といった具合である。

 

 

「……っていうかその箱、食堂からの持ち出し禁止でしょうが。何勝手に持ち出してきてんのよ」

 

「へへん。そこはちゃんと間宮さんから許可貰ってるから、なーんも問題ないぜ!」

 

「まぁ、許可っていうよりは『お願いされた』って言った方が正しいけど……」

 

 

 吹雪が苦笑しながらそう言い、叢雲に紙コップを一つ手渡す。

 お茶の入ったそれを受け取りながら、叢雲は眉根を寄せた。

 

 

「お願い? 間宮さんが?」

 

「うん。――ガンビアさんの件でちょっとね」

 

「ガンビアさん?」

 

 

 吹雪の言葉に、叢雲が眉間の皺をますます深くする。

 ガンビア・ベイといえば――この間、近海の警備中に助けた艦娘である。

 こことは別のとある基地に転属され、そこに向かっている最中に――

 迷子、敵襲撃、新旧所属先のダブル壊滅を味わった中々に不幸な空母だ。

 故に現在、彼女の所属は宙ぶらりんな状態になっており――

 一時的にここで身柄を預かっている――みたいな感じになっている。

 中央には報告しているので、近々何らかの沙汰が届くだろう。

 

 

「何かあったの? ――まさか、喧嘩したとかじゃあないわよね?」

 

「喧嘩、ではないけど……」

 

「けど?」

 

「えーっと、ほら。 ガンビアさんってピザ大好きでしょ? 何枚も食べられるくらい」

 

「そうね。流石〝かの国〟って、思っちゃうくらい食べるわね。……本人は『少食だ』って言い張ってるけど」

 

「それで――実は間宮さん、そのピザの大食いが物凄く不満だったみたいでね。『たまになら許せるけど、連日となると流石に許せない。今日からガンビアさんに徹底した食育を施す』――って、凄く張り切ってて……」

 

「ホントは、おにぎりとかサンドイッチ持ってくるつもりだったんだよ。でも、間宮さんに話したら『ちょうどよかった』って言われて、このピザボックス押し付けられてさあ」

 

「…………」

 

 

 叢雲がなんともいえない、微妙な表情を浮かべる。

 間宮による、熱血的な基本からの食育指導により――

 泣き顔で困惑するガンビア・ベイを容易に想像出来たからだった。

 まったく。泣き顔が板に付いている艦娘というのも珍しい。

 

 

「なぁ、叢雲ー。隣座っていい?」

 

「え? あぁ、うん」

 

 

 深雪に言われて、隣の予備カボチャを膝の上に置く。

 それからはしばらく、姉妹達で気兼ねなく会話を楽しんだ。

 深雪の冗談を笑い、吹雪の天然な発言にツッコミを入れたりする。

 ……実の所、叢雲は二人が気を使っている事に前々から気付いていた。

 なんというか――二人とも世話焼きが露骨だったからである。

 恐らく、司令官に経緯やら何やら色々吹き込まれたのだろう。

 ――しかし、叢雲は二人の世話焼きを鬱陶しく思ったことはなかった。

 何故なら、二人からは安易な同情や憐れみ等は全く感じなかったし――

 なにより、本気で自分を心配してくれているのが伝わっていたからだ。

 露骨な感じになっていたのは――ただ単に二人が不器用なせいだろう。

 尤も、吹雪型には総じてそういうところがある。隠し事が下手なのだ。

 

 そして今現在、二人がわざわざ外で昼食をとっているのも――

 休み時間を外で過ごす自分に配慮しているのだと、叢雲には分かっていた。

 司令官が海に飛び込みどっか行った――との話を聞いてから早五日……。

 叢雲は〝マニュアル〟を参考に、司令官の帰りを待っていた。

 着任初日に読んだ司令官の自己紹介の書類――それが、マニュアルである。

 そいつによると、司令官は〝必ず〟元居た場所に帰ってくるらしい。

 加えて、そのルートは『行きと帰りは同じ可能性が高い』とのこと。

 故に――叢雲は今、司令官が海に飛び込んだとされる場所に陣取っていた。

 昨日まで続いていた嵐で、恐らく紛失しているであろう被り物を準備して。

 

 一応、マニュアルには『ほっといてOK』みたいな記述があった為――

 特に捜索などは行われず、鎮守府ではいつも通りの日常が続いていた。

 しかし、自分達のトップをほっとくのは流石にどうかと思い――

 叢雲は暇さえあれば、自主的に司令官の出迎えの為、外で待機しているのだった。

 ――まぁ、現状を纏めれば、大体こんな感じである。

 

 

 ふと何かに気付いたのは、深雪が一人でピザを半分ほど食べた時だった。

 会話の途中だったが前を見る。妙な気配――のような物を感じたのだ。

 身の毛がよだつ――とはちょっと違うが、こう……ぞわぞわした感じだ。

 吹雪と深雪がきょとんとし、何事かと尋ねてくる。

 

 

「む、叢雲ちゃん、どうしたの?」

 

「なんだよ急に」

 

「ん、いや。ちょっと……」

 

 

 叢雲が『気のせいだった』と口にしようとする。

 その時、ベシャリ――と、濡れ雑巾を床に叩きつけたような音がした。

 吹雪も深雪も、全員の視線が自然と音がした方に向く。

 視線の先――海と堤防のちょうど境目。

 そこに、見慣れた大きな白い右手があった。

 

 

「あ……」

 

 

 叢雲が目を丸くする。

 すると――海から、異様な長身痩躯の人型が這い出てきた。

 身体と不釣り合いな長い腕。色素の見られない白い肌。

 半裸であり、顔には何枚もの昆布(?)を巻き付けている。

 司令官だった。ここ五日間、行方不明になっていた上司である。

 司令官はのっそりと立ち上がると、項垂れた姿勢でのろのろ歩き始めた。

 その進む先には――鎮守府の庁舎がある。

 ――成る程。マニュアル通りだ。

 

 

「…………」

「…………」

 

「ちょ、ちょっと司令官? 待ちなさいってば!」

 

 

 UMAでも見たかのように、呆気に取られる姉達を尻目に――

 叢雲は予備のカボチャ頭を持って、急いで司令官に駆け寄った。

 

 

「昆布なんか巻いてないで、早くこっち被りなさいって! 偶然でも、アンタの顔見るかもしれないこっちの身にもなってみなさいよ!? 顔見ただけで解体とか冗談じゃないわ!」

 

「…………」

 

「いや、きつく締めてても所詮コンブなんだから、滑って取れるかもしれないでしょ!? ――いいからほら! 四の五言わないでコレ被りなさいっ!」

 

「…………」

 

「そう、それでいいの。……ところで、五日間も何処行ってたのよ」

 

「…………」

 

「ふーん。まぁ、長くなるんなら――そうねぇ。……それじゃあ、夕食の時にでも聞かせてもらおうかしら。別に問題ないでしょ?」

 

「…………」

 

「あぁ、それとね、アンタが居なかった時に新しい艦娘が――」

 

 

 司令官と色々と話をしながら歩いていく。

 叢雲は、話したい事が次々と出てくる自分を不思議に思いつつも――

 特に深く考えずに、司令官と一緒に庁舎へと戻っていった。

 

 ガンビア・ベイが、そのままここの所属になったと聞いたのは、それから直ぐだった。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、深雪ちゃん」

 

「なに?」

 

「叢雲ちゃん――誰と会話してたの?」

 

「だ、誰ってそりゃ、司令官だろうよ」

 

「で、でも、司令官喋ってなかったよ!?」

 

「そ、それは――まぁ、そうだねとしか……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「い、以心伝心してた――ってことでいいかな……?」

 

「べ、別にいいけど……」

 

 

 




SCP-458 - The Never-Ending Pizza Box 
by Palhinuk 
http://ja.scp-wiki.net/scp-458


次回、2-4-11。ちょっと内容短め。
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