恥ずかしがり屋な提督が鎮守府に着任してました。   作:グラヌンティウス

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長くなりそうだったので二つに分けます。

前回の誤字脱字報告ありがとうございました。



第5話 -2-4-11(前編)-

 

 

 

 執務室の掃除中、妙に目立つ箱を本棚で見つけた。

 大きさは一般的な国語辞典ほど。綺麗に加工された木製である。

 今週の秘書艦担当である那珂(改二)は、思わずはてと首を傾げた。

 箱はキチンと並べられた本達の上に、無造作に置かれている。

 まるで整頓の最中、『邪魔になるから一応』と仮置きし――

 そのまま存在を忘れ去られてしまったかのような感じだ。

 

 取り敢えず、好奇心にまかせて箱を手に取ってみる。

 ニスの類は塗られていない。手触りはなめらかだった。

 蓋は上に取れるタイプで、お土産の饅頭の箱とかと同じだ。

 しばらくの間、箱の全体を確認し――その後に蓋を開けてみる。

 箱の中には、緩衝材である綿がぎっちりと入っており――

 それと共に、装飾品が一つ入っていた。

 

 金属製。宝石が散りばめられたネックレスだった。

 輝き的に金属部分は銀――いや、プラチナだろうか?

 装飾部分は円形で掌サイズ。中央には大きなルビーの宝石。

 その周囲には、幾つかのダイヤモンドが飾り付けられている。

 恐らく、これまで自分が目にしたことのある装飾品の中では――

 このネックレスが最も、ぶっちぎりで高価な物だろう。

 ――アイドルの勘が、深い部分からそう告げていた。

 

 

「う~ん。ねー、提督提督」

 

 

 振り向き、提督を呼ぶ。

 提督は窓際で、トマトの盆栽の剪定をしていた。

 カボチャ頭の顔面が、ゆっくりとこちらに向く。

 出会った当初こそ、その異様な外見を恐れていた那珂だったが――

 今では普通に、提督と艦娘のよくある上下関係を築けていた。

 不気味な容姿とは裏腹に、気配り上手で意外と〝ノリ〟の良い性格。

 人は見かけによらぬもの――とは、昔の人はよく言ったものだ。

 ――ま、那珂ちゃんはアイドルだから、外も内もどっちも重要だけど。

 

 

「なんか本棚に、すっごい豪華なネックレスがあったんだけど――コレって提督の?」

 

「…………」

 

 

 那珂の問いに、提督がこっくりと頷く。

 今現在、この提督とまともな会話が可能なのは叢雲ただ一人である。

 しかし、他の艦娘達も、筆談かイエス・ノー形式の質問であれば――

 ジェスチャーも交えて、それなりに意思疎通が可能であった。

 

 

「へー。……あ。もしかして指輪みたいなケッコン関係だったり?」

 

「…………」

 

 

 今度は首を横に振られる。

 那珂は再び箱の中のネックレスに視線を向けた。

 まぁ、確かにケッコン関係の物としてはだいぶ派手だ。

 TPO的には、もっと騒がしい場所でつけるべき物だろう。

 例えば――そう、コンサートで舞台に上がる時とか。

 ゴージャスとエレガントな雰囲気が欲しい時などに――

 衣装と合わせてコレを身につければ、バッチリなのではなかろうか。

 となれば、アイドルの一人として是非とも試着してみたいものだが……。

 

 

「ねぇ、てーとく♪ 那珂ちゃん、ちょ~っとお願いが――ひゃッ!?」

 

「…………」

 

 

 可愛く笑顔を浮かべ、再び振り向くと――

 いつの間に移動したのか、直ぐ目の前に提督がいた。

 驚き、その場で飛び上がるよりも先に、提督に片腕を掴まれる。

 初めて見る素早さだ。いつもの数倍は俊敏な動きだった。

 困惑の最中、提督から有無を言わせない調子で片腕を引かれる。

 連れていかれたのは、執務室の隅にある姿見の前だった。

 提督が那珂の持っている箱から、ネックレスを取り出す。

 そして、ちゃちゃっと、妙に慣れた手早さで――

 その豪華なネックレスを那珂の首に取り着けた。

 

 

「…………」

 

「え、えーっとぉ……きゃはッ♪」

 

 

 姿見の前に、ネックレスを試着したアイドルが一人……。

 ――取り敢えず、アイドルらしく姿見にポーズを決めてみる。

 すると、提督が控えめながらも好意の伝わる拍手を送ってきた。

 心の中で安堵のため息を吐くと同時に、姿見に映った自分の姿を確認する。

 ――うん。まぁ、予想通りだ。悪くはない。案外。

 意外なのは、ネックレスが今の服にも似合っていることだろうか。

 ちょっとしたライブなどで使ったりする分には、申し分ないだろう。

 流石に、普段使いには勇気の必要性があるみたいだが。

 

 そう思っていると、提督はネックレスの箱を執務机に持っていき――

 何処から取り出したのか、箱にリボンのラッピングをし始めた。

 そして、手早く綺麗にその作業を済ませると――

 戻ってきて『はい、どうぞ』とばかりに、その箱を差し出してきた。

 那珂はポカンとしながらも、何処かで見た光景だな――と思い出す。

 あぁ、と納得した。そうだ。この間、みんなとテレビで見たヤツだ。

 週末の映画番組。神隠しのアニメで顔無しが青蛙を砂金で釣る場面。

 

 

「…………」

 

「んーと……那珂ちゃんへのプレゼント――ってことでオッケー?」

 

「…………」

 

 

 提督がやはり、こっくりと頷く。

 戸惑いながらも、箱を受け取ろうとする那珂だったが――

 途中でピタリと、その手が止まった。

 デジャブの原因である、例のアニメのその場面。

 確か、砂金を受け取った青蛙は、その場で顔無しにがぶりんちょと――

 

 

「と、とって食べたりしないよね……?」

 

「……?」

 

 

 提督に首を傾げられる。

 その時、執務室の扉がノックされた。

 扉が開き、「失礼しまーす」と一人の艦娘が入室してくる。

 工作艦娘の明石だった。改修工廠の元締めである。

 手には書類が数枚。注文書だった。提督が何か頼んでいたらしい。

 発電機だとか貯水槽だとか倉庫だとか言っているが――

 鎮守府の防災関係でも整えるのだろうか……?

 

 その後、この明石の来訪を皮切りに――

 執務室には様々な仕事が舞い込み、それなりに忙しくなった。

 ネックレスに関しては、周りからの評判が意外と良い事もあり――

 以降、那珂は鎮守府内でよくネックレスを着けるようになる。

 

 

 数日後、鎮守府に届いた中央からの要請により――

 那珂は単艦出張――商船護衛艦の一隻として中央に赴く事となる。

 那珂の轟沈が鎮守府に伝わったのは、それから一週間後だった。

 深海棲艦の奇襲から商船を守りきり、殿を務めて沈んだらしい。

 報告を持ってきたのは、転属してきた駆逐艦娘、朝潮だった。

 朝潮は那珂と共に殿を務めた一隻であり――その時の唯一の生存艦だった。

 

 

 

 

 

「すみません叢雲さん。この書類ですが……」

 

「あぁ、その書類は――このファイルに綴じておいて」

 

 

 隣に座る補助役の叢雲が、秘書机の引き出しからファイルを取り出す。

 ファイルを受け取った今週の秘書艦――朝潮は、まじまじと表紙を見つめた。

 表紙には丸文字で《大演習関連》と黒マジックで記されている。

 

 

「大演習関連……」

 

「そ。今後も何枚か見かけると思うけど、それ関係は全部このファイルに綴じていいから」

 

 

 書類の束を整えながら叢雲が言う。

 朝潮はファイルを開き、パラパラと中身を見た。

 日程の計画表や案内状の返信等が、全て雑に綴じられている。

 書類の種類やら順番やら――何もかもがメチャクチャだった。

 

 

「あのう、これ書類の整理とかは……」

 

「司令官が言うには、気にしなくていいらしいわ。保存しておくだけでいいって」

 

「い、いいんですか? うちの鎮守府が主催する大演習みたいですけど……」

 

「そんな堅苦しい行事じゃないから適当でいいんだって。ただ、それなりに人数が集まるらしいから――食べ物関係だけは多めに手配しといてって話だったわ」

 

「では、間宮さんと話合いを?」

 

「そうだけど――そこからはもう秘書艦の仕事じゃないわね。ほら、ウチの鎮守府の秘書艦ってローテーション制でしょ? だから、こういった腰を据えて準備するような行事の担当には向かないのよ」

 

「となると――新たに担当者を?」

 

「多分ね。近々、誰か任命されるんじゃないかしら」

 

 

 叢雲の説明に、朝潮が『ふむ』と表情を浮かべる。

 大演習とは、各基地同士の連携能力の維持・向上を図る為――

 近所の司令官達が一堂に介し、大規模な演習を行う行事である。

 大抵は目的を忘れ、各司令官同士の見栄の張り合いになるのだが――

 それを『適当でいい』とは……やはりここの司令官は器が大きいようだ。

 

 朝潮は書類をファイルに綴じながら、ちらりと執務机の方を見た。

 執務机では、司令官がゆっくりながらも熱心に事務に取り組んでいる。

 カボチャ頭に長身痩躯。長い両腕に、色白が過ぎる死人のような肌。

 初対面の時は、あまりの不気味さに背筋を凍らせたが――

 幾らか交流した今では、心から信頼出来る人物だと確信している。

 人は見かけによらぬもの――とは、先人もよく言ったものだ。

 

 再び、ファイルの書類に目を通す。今度はしっかりと内容を読んだ。

 バラバラの順番に綴じられた書類の内容を、頭の中で再構成する。

 性格と経験故か――こういう事務仕事は割と得意だ。

 朝潮には、前の所属先で専任秘書艦を務めていた過去がある。

 真面目さを買われての抜擢だった。出世といえば出世かもしれない。

 勿論、期待に応えて成果は出した。優秀艦として表彰された事もある。

 ――尤も、当時の司令官が憲兵に捕まったことで、全ては崩れ去ったのだが。

 賄賂だか脱税だか、よく分からないが汚職関係で逮捕されたらしい。

 寝耳に水だったが、そうなると当然、身近だった秘書艦も疑われる訳で……。

 まぁ、無罪だったのだが、その後は新たな司令官から露骨に冷遇を受けた。

 秘書艦の解任は当然として、単艦での遠征、補給の遅延等々――

 この間の、中央からの要請での単艦出張命令も、その一つだろう。

 で、その時、任務を共にしていた別鎮守府の那珂が沈んでしまった為――

 これ幸いと『那珂のお詫びに』とここに転属させられ――今に至るのだった。

 

 転属してきてから、既に早一週間。

 来た当初は正直、『那珂を見捨てた臆病者』との糾弾を覚悟していたが――

 そんな事は全然なく、ここの司令官と艦娘達は皆普通に接してくれた。

 むしろ、よく那珂の最後を教えてくれた――と感謝された程である。

 となれば、せめて那珂の代わりを――と張り切るのが人情というものだ。

 流石に、艦隊のアイドルだなんだと騒ぐつもりはないが――

 一人で二人分の仕事をこなすくらいは、訳無くやってみせるつもりだ。

 そうと腹が決まれば、まずは手始めに――

 

 

「司令官! 一つお願いがあります!」

 

「…………」

 

 

 言葉を強く、挙手と共に起立する。

 司令官が筆記の手を止め、ゆらりと顔を上げた。

 ――ここの司令官は、意外と表情が豊かだったりする。

 カボチャの面を被っているのに、表情が豊かとは変な話だが――

 まぁ、そうとしか言えないのだから仕方がない。

 現に、今の司令官の顔からは『一体何事?』といった返事が読み取れた。

 隣の叢雲のように、自由自在にとはいかないものの――

 司令官の表情を読み取り、擬似的に会話出来るのは自分が唯一である。

 少なくとも、今のところは――だが。

 

 

「大演習の準備担当艦は、この朝潮にお任せ下さい!」

 

「……?」

 

「ちょ、ちょっと、朝潮?」

 

 

 司令官が首を傾げる。隣の叢雲が戸惑った声を上げる。

 二人揃って驚いた表情をしていた。

 

 

「別にそんな無理しなくても……」

 

「大丈夫です、叢雲さん! 決して無理はしていません!」

 

「そ、そう。ならいいけど」

 

「司令官の大演習に関する意向は先程把握しました! この朝潮――必ずや司令官のお気に召す大演習を計画・準備してみせます! ですので、この件は私にお任せ下さい!」

 

「――って、言ってるけど……アンタはどうするの?」

 

「…………」

 

 

 叢雲に尋ねられ、司令官が腕を組んで悩み始める。

 すると、執務室の扉が叩かれ「失礼します」と大淀が入ってきた。

 なにやら困っているような、悩んでいるような表情を浮かべていた。

 

 

「すみません。ちょっと妙なことが」

 

「妙なこと?」

 

 

 叢雲が眉を寄せて言った。

 大淀が「えぇ」と話を続ける。

 

 

「実は今、哨戒機を通じて――その、深海棲艦から通信が入りまして……」

 

「深海棲艦から通信!?」

 

 

 朝潮は目を丸くした。

 常識的に、そんなことはありえないからだ。

 世間の常識として、深海棲艦というのは常に敵意剥き出しの存在である。

 撹乱の為に、ノイズを撒き散らす通信妨害は行っても――

 敵対している奴等と直接コンタクトをとる真似は絶対にしない。

 口を利くことすら拒否する程に、同族以外を敵視しているのだ。

 

 

「えーと、何かの間違いでは?」

 

「それがですね……哨戒機からは、白旗を掲げた空母ヲ級を目視で確認した――との報告が入ってまして……。頭の艤装とされる帽子とかも廃棄されてるそうで、見た限りは武装解除済みだそうです」

 

「ぶ、武装解除する深海棲艦なんているんですか……!?」

 

「あいつらって、死ぬまで突っ掛ってくるわよね」

 

 

 叢雲の言葉に、朝潮は頷いて同意する。

 自らの戦闘経験から、それは全くの事実だったからだ。

 武器が無くなれば素手で、腕も無くなれば噛みついてでも――

 奴等は、そんな振り切った精神構造の存在である。

 

 

「普通に考えたら罠だと思うんだけど」

 

「朝潮も叢雲さんと同意見です。こんなの絶対に罠に決まってます!」

 

「まぁ、私もそう思うんですけども――真の問題はここからでして」

 

「真の問題?」「真の問題?」

 

 

 なんじゃそら――と、叢雲と言葉が重なる。

 大淀は神妙に言葉を続けた。

 

 

「接触してきたヲ級ですが――ここの所属だった那珂ちゃんを自称しているんです」

 

 

 

 

 

 結局、ヲ級の投降は司令官の判断で受け入れることになった。

 ただし、囮を用いた敵の罠である可能性が非常に高いので――

 出撃する艦娘達は、全員が完全武装の重装備である。

 結論から言えば――罠などではなく、本当にただの投降であった。

 素直に確保されたヲ級を連れ、迎撃艦隊が全員無事に戻ってくる。

 その後、しばらくしてから――工廠の一室で尋問の準備が進められた。

 場所が工廠の理由は――まぁ、司令官の希望である。詳しくは分からない。

 きっと、何か考えがあるのだろう。

 

 秘書艦としての仕事を大体こなした後――

 朝潮は叢雲と共に、工廠の一室に向かっていた。

 司令官は一緒ではない。先に仕事を終え、既に現場入りしている。

 今頃は例のヲ級の尋問の真っ最中――の筈だ。

 

 

「そういえば……」

 

「どうかした?」

 

 

 工廠までの道。歩いている途中――

 ふと口から出た呟きに、叢雲が反応する。

 朝潮は「いえ、大したことではないのですが」と前置きし、言葉を続けた。

 

 

「艤装関係以外で工廠に向かうのは、初めてだなと気づきまして」

 

「ここに転属される前もそうだったの?」

 

「はい。機械に明るい訳でもなかったですし……まず、接点がなかったですね」

 

「ふーん。じゃあ今後、確実に増えるわよ。接点」

 

「へ?」

 

「ここの工廠、多目的施設なのよ。機械一辺倒じゃないの」

 

「た、多目的――ですか?」

 

「そ。――まぁ、利用には司令官の許可が必要な場所がほとんどだけど」

 

「それは――例えば、どんな施設があるんですか?」

 

「例えば? 例えば、そうね――」 

 

 

 叢雲が例の一つを紹介しようとする。

 すると、横から「おーっす!」と親しげに声を掛けられた。

 駆逐艦の深雪だった。人懐こい性格の艦娘である。

 その深雪の服装だが――何故かジャージの上に白帯を締めていた。

 空手や柔道等の武道で、よく初心者が身につけている――

 あの印象的な帯である。

 

 

「どーしたよ二人共。どこ向かってんだ?」

 

「ちょっと仕事の用事で工廠に――ところで深雪さん、その格好は?」

 

「ん? あぁ、コレ?」

 

 

 深雪が『にしし』と笑みを浮かべる。

 そのまま得意気に教えてくれた。

 

 

「実はな、これから深雪さまは一週間の缶詰修行に挑むのだ!」

 

「缶詰修行……?」

 

 

 色々と意味が分からず、思わず首を傾げた。

 隣にいる叢雲が、補足するように教えてくれる。

 

 

「そういう施設もあるのよ。一週間引きこもってても大丈夫みたいな」

 

「そ、そんな施設が……」

 

「司令官が直々に鍛えてくれるんだ。前々から約束してたんだよ」

 

「――? 司令官は、何か武術の嗜みでも?」

 

「嗜みどころか達人だぜ達人! もうさ、色々すっげえんだ!」

 

 

 深雪が目を輝かせながら、興奮気味に言葉を続ける。

 感極まった少年のような反応だった。

 

 

「どんなに硬い鉄の塊でも、パンチ一発で粉々に出来るしさ――」

 

「へぇ」

 

「遠く離れた物でも、貫手で『シュッ!』ってやるだけで穴が空くし――」

 

「……うん?」

 

「壁とかもなんつーか――変わった歩き方で、すり抜けて通れるんだ!」

 

「ええっと、それって武術……?」

 

 

 聞く限りでは、最早超能力の類なのだが……。

 首を傾げながらも――取り敢えず、目的地が同じなので共に工廠に向かう。

 工廠では相変わらず、明石と専属の妖精達が機械いじりに精を出していた。

 朝潮達に気付き、明石が「はいはーい」と小走りで駆け寄ってくる。

 受付だ。工廠の元締めである明石は、工廠の各施設の管理艦でもあった。

 署名等、諸々を済ませ――工廠の奥にある地下へと続く階段を下る。

 地下には、幅の広い一本の通路が伸びていた。

 白い壁に灰色の床。天井には蛍光灯型のLED照明。

 無機質な空間だ。シンプル過ぎて、空気が冷えているようにも感じる。

 通路の左右には、プレートが貼られた幾つかの金属製のドアがあった。

 マンションやホテルの内廊下のように――等間隔に並んでいる。

 雰囲気的には――何処かの病院や刑務所や研究所といった感じだ。

 

 

「……なんか、殺風景な場所ですね」

 

「訓練場はもっと殺風景よ」

 

「そーだな。ここ以上に何もねーもんな」

 

「ここ以上にって、これ以上があるんですか……!?」

 

 

 叢雲と深雪の発言に衝撃を受けつつ――やがて、一つのドアの前に辿り着く。

 ドアのプレートには〝特別訓練場〟との文字があった。

 はたして、どのような内装なのか……。

 内心、少しワクワクしながらドアに手を掛け――開けてみる。

 

 室内は噂通りで、全く何もなかった。

 広さは学校の教室一つ分程度。雰囲気は廊下の延長線上だ。

 ちょっとは合宿設備が整っているのかと思っていたが……。

 ――と、朝潮は部屋の奥に妙な物を見つけた。

 金属製の小さな扉だ。屈めば人一人は潜り抜けられるだろう。

 扉は、壁に埋め込まれたコンクリートの破片に取り付けられていた。

 まるで、壁ごとくり貫いて持ってきたかのような――そんな感じだ。

 扉は開いており、先には白い床(地面?)が見える。

 

 

「向こうにも部屋があるんですか?」

 

「部屋っていうより――外ね」

 

「だな。ありゃ立派な屋外だぜ」

 

「へ?」

 

 

 地下で室内なのに屋外――?

 意味が分からず、思わずきょとんとしてしまう。

 すると、壁の扉の向こう側から、誰かが身を屈めて此方にやって来た。

 深海棲艦のヲ級だった。帽子は勿論、武装は何もない。完全な丸腰だ。

 恐らく……いや確実に、例の那珂を自称するヲ級だろうが――

 どう接するべきか迷っていると、向こうがこちらに気付き、声を掛けてきた。

 

 

「あ、叢雲ちゃん深雪ちゃん久しぶりー! 元気にして……あれ? もしかして、そこの朝潮ちゃん――護衛任務の時に一緒だった朝潮ちゃんじゃない!?」

 

 

 初めて見る、深海棲艦の眩しい笑顔。

 よくよく見ると、そのヲ級は首からネックレスをぶら下げていた。

 なんか見覚えが――と思ったと同時に、朝潮は気付いた。

 あれは、那珂が肌身離さず身に付けていた豪華なネックレスだ。

 あの時――共に殿を務めた時もそのままだったので、記憶にはハッキリ残っていた。

 

 

 




SCP-963 - Immortality 
by TheDuckman 
http://ja.scp-wiki.net/scp-963

SCP-2400 - Temporal Dilation Facility 
by Anborough 
http://ja.scp-wiki.net/scp-2400

SCP-710-JP-J - 財団神拳
by Kwana
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j

INTRODUCTION OF 財団神拳
by sakagami 他
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

次回、後編。那珂ちゃん軍団結成の巻。

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