恥ずかしがり屋な提督が鎮守府に着任してました。   作:グラヌンティウス

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今更ですが、ここの鎮守府は異常空間です。
前回の誤字脱字報告ありがとうございました。



第6話 -2-4-11(後編)-

 

 

 とある海域での連絡途絶が今回で十回を超えた。

 そこはかつて、同胞である泊地棲姫の勢力下にあった海域だ。

 泊地棲姫曰く『あと少しで完全な支配下に出来る』との話だったが――

 ある日から突然、泊地棲姫の艦隊とは連絡が途絶してしまった。

 その後も、調査隊含め派遣された深海勢は――尽く音信不通に陥っている。

 港湾棲姫は『本営』の命令で、約二〇隻の同胞達と共に調査を行っていた。

 大抵、こういう仕事は〝デキる〟イロハ級の担当なのだが――

 流石に〝鬼〟以上が、八隻も行方不明になっていては仕方がなかった。

 港湾棲姫は一隻だけで、中規模な敵基地の全艦隊と対峙することが可能だ。

 なので今回の調査への同行は――まぁ、用心棒みたいなものである。

 なお、調査は今日で三日目に突入している。

 手掛かりは、未だに何も掴めていない。

 

 

 港湾棲姫率いる調査隊は、船の墓場を拠点に周辺を調査していた。

 船の墓場は、かつて泊地棲姫が拠点にしていた場所だ。

 前回、前々回の調査隊も、拠点にしていた場所でもある。

 ――しかし、拠点に前任者達の形跡は何一つ残っていなかった。

 唯一あるのは、泊地棲姫の戦利品とされる貨物船だけだ。

 積み荷が中途半端に残されていることから――

 何か、早急に対応すべき事柄が発生したのだろうと考えられる。

 ――まぁ、これは『本営』が前の報告から導き出した推測だけども。

 

 

「…………」

 

 

 はたして、同胞達は何処に消えてしまったのか……。

 貨物船の甲板に腰を下ろし――漠然とそう思いながら空を見上げる。

 その時、同胞の一隻から緊急通信が入った。

 拠点からだいぶ離れた――とある海域を調査中の同胞からだった。

 なんでも戦闘が行われているらしい。

 しかも、敵と戦っているのはヲ級とレ級と――軽巡棲鬼とのことだった。

 軽巡棲鬼といえば、前々回の調査隊にいた中核的存在である。

 確か――その調査隊には、レ級もいた筈だ。

 ヲ級は前回と前々回の調査隊にもいたので、決めつけにくいが――

 

 そう考えていると、再び同胞から通信が入った。

 ちょうど今、軽巡棲鬼達が敵を撃退したとのことだった。

 これから合流し、共に拠点に帰ってくるらしい。

 

 

「……ムゥ」

 

 

 なんだか、話が上手く行き過ぎているような気がしたが――

 取り敢えずは、初の手掛かりだ。気をつけて帰投するよう通信を返す。

 同胞達が戻ってきたのは、それから数十分後だった。

 調査に出ていたイ級達を筆頭に、ヲ級、レ級、軽巡棲鬼が拠点に姿を見せる。

 その軽巡棲鬼達だが――どういう訳か、艦娘達の艤装を装備していた。

 軽巡棲鬼も、レ級も、ヲ級ですら敵の砲を装備している。

 そのことについて尋ねると――三隻は敵に捕まっていたとのことだった。

 もう少しで研究用に解剖される所だったが、隙をみて逃げてきたらしい。

 艦娘の艤装は、その時に臨時の武器として現地調達したそうな。

 

 

「いやーもー、ほんっとギリギリだったよねー! あそこに那珂ちゃ――ええと、艦娘達の艤装がなかったら、今頃私達三枚下ろしにされちゃってたかも!」

 

「ホントホント! でも意外だったよね、深海棲艦の私達でも艦娘の艤装が使えるなんてさ。――特に、空母が砲を扱えたのがビックリだよね。軽巡ちゃんや戦艦の私ならまだ話は分かるけど、空母が砲を扱えるって……」

 

「そーだよねー。自分でもビックリしちゃってるもん。『クーボでも砲戦は全然オッケーなんだー』って。いやー勉強なったねーホント」

 

 

 軽巡棲鬼達がキャイキャイと、かしましく会話を繰り広げる。

 コイツらこんな性格だったか……? と、港湾棲姫は疑念を抱くが――

 ここで、軽巡棲鬼が首から何かを下げていることに気づいた。

 豪華なネックレスだった。デカいルビーに、幾つかのダイヤモンド。

 宝石に詳しくなくとも、一目で価値が想像できるゴージャスぶりだ。

 当然、港湾棲姫はそのネックレスについて尋ねた。

 それはなんだ。いったいどうしたのか。

 

 

「へ? あぁ、これ? 敵の基地から脱走してる時に偶然見つけたの。すっごくキレーだったから、艤装と一緒に貰ってきちゃった!」

 

 

 軽巡棲鬼が『えへへ』と笑顔を浮かべながら言う。

 まぁ、確かに、自然と視線がキラキラな輝きに引き寄せられるが……。

 すると、軽巡棲鬼がにこやかな表情のまま、とある提案をしてきた。

 

 

「えーっと、コレ――身につけてみる?」

 

 

 そう言い、軽巡棲鬼が首のネックレスを外す。

 いや、別に――と言おうとしたが、既の所で思いとどまる。

 実の所、興味があった。何故かは分からない。

 なんというか、心の奥から懐かしいものを感じるのだ。

 かつて見たことがあるような、憧れたことがあるような――

 軽巡棲鬼にネックレスを差し出されたので――取り敢えず、手に受け取ってみる。

 

 港湾棲姫の意識は、こうして、ブラックアウトしたのであった。

 

 

 

 

 

 色々と施設のある鎮守府工廠地下だが――

 その内の一つに『職員室』と呼称されている部屋がある。

 その名の通り、オフィス然とした雰囲気の部屋だ。

 意外と広く、三十人程の子供が鬼ごっこをして遊べる程には広い。

 部屋には職員室らしく、大きめの事務机が幾つかあった。

 全部で十三台。よくあるスチール製の教員机である。

 

 それらの机の前には、それぞれ変わった人型の姿があった。

 身体と四肢は人間そのものである。服装にも妙なところはない。

 しかし、その十三人は全員――頭部が何らかの『物』であった。

 例えば、一人は地球儀であり、もう一人はメトロノーム――

 三角定規やトロフィーの頭をしている者もいる。

 

 普段、この十三人は各々違った行動を取っているのだが――

 今日、というか今現在は、何やら話し合いをしている最中だった。

 ――正確には『会議』と言ったほうがいいのかもしれないが。

 

 

「――では、国際溶鉱炉飛び込み実験部へのギロチン導入は、県大会での塩酸摂取による溶解式生贄部門の結果しだい……ということでよろしいですね?」

 

「異議なし」

 

「異議なし!」

 

「私も異議はありません。それが現実的な落としどころでしょうし」

 

「そうですな。個人的には、高々度からのロードーローラーによる圧殺も、花形として捨てがたいものでしたが……塩酸の蒸発殺も伝統的で中々美しいものですしな」

 

「クニャッペ!」

 

「ええ、そうですね。是非とも死屍累々を目指して頑張ってほしいものです」

 

「応援団の集団凍結餓死も楽しみですなぁ」

 

「分かります。血の池を泳ぐ白い脳漿達も、実にわびさびですよねぇ」

 

「Good luck. Morituri te salutant」

 

 

 小ぶりのトロフィー頭の言葉に、殆ど全員が賛同の声を上げる。

 その後も、会議では様々な報告や議題が挙がった。

 心臓圧砕部の地方大会進出。音楽災でのファラリスの雄牛導入案。

 いずれも荒れることなく、会議は平和に進行していく。

 しかし最後の最後で、その雰囲気が完全に壊れる議題が挙がった。

 それは『ヌンパ災』――とやらの、準備に関する内容であった。

 

 

「ですから、そこは切腹発電の細胞分解椅子を使用したらよいではありませんか! 昨年度のエレクトリカル焼身自殺は、世間でも大好評だった筈です!」

 

「いや、ここはトラクターによる轢死に変えた方がいいだろう。前々年度に起こった、異教徒による来賓専用公開脳解剖調理室の破壊をお忘れか? 予算は無限ではないのですよ」

 

「それでしたら、ここは初心に返って根元呪術を試してみては? 偽典礼拝による大気汚染ならば、自己細胞の異常増殖による自重での自壊が行えますが……」

 

「流石にそれは古臭過ぎやしませんかね。来賓や親御さん達は兎も角、今の生徒達は血の契約による釘バットでの百叩きくらいでないと納得しないと思いますよ」

 

「ヌイ・クエン! プロピロン・ビネガー!」

 

「全くだ。伝統的なのと古臭いのは違うからな。打ち首のほうがまだいい」

 

「蒙昧、公共の福祉、はじめからです。脳漿の腐敗。白血球の増殖は零下でパレードに」

 

「成る程、その手もありますな。――しかし、それだとやはり予算がネックになりますね。提案事態は、水圧死並の良いものだとは思うのですが……」

 

「それなら全員で破裂すればいい! 砂神聖典を月光に浴びせればいいだけだ!」

 

「そこはチェレンコフ光だろう! 何故、衝撃波の影響を忘れるのかね!」

 

「ゴガガガガガギガゴ」

 

 

 激論を交わす地球儀頭と毛筆頭。

 提案を挙げ続ける鍋頭とフラスコ頭とネジ頭。

 謎の奇声を上げる石膏の胸像頭とメトロノーム頭。

 文句を言いながら、ひっきりなしに頭部を入れ換えるボール頭。

 ぶつぶつと何かの呟きを続ける救急箱頭。

 連続する殴打音と共に、絶叫を垂れ流し始めるテープレコーダー頭。

 我関せずといった調子で、議論に茶々を入れる三角定規頭。

 何とか場を纏めようと努力する、小ぶりのトロフィー頭に――

 ただ一人、沈黙を続ける大型のトロフィー頭。

 

 『ヌンパ災』の討論が始まり、十と数分でこの有様である。

 会議が――職員室が、混沌とした空気に変貌し始める。

 そして、あわや殴り合いにまで発展しそうになった――その時だった。

 突然『バァン!』――と、職員室の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「先生方こーんにちわー!! 那珂ちゃんでーすッ!!!!」

 

 

 一人の艦娘が、陽気な大声と共にズカズカと入室してくる。

 なお、本人は那珂を名乗っているが――その姿は完全に深海棲艦であった。

 それも、軍では『離島棲鬼』と呼ばれている凶悪な深海棲艦である。

 

 

「これはこれは、那珂ちゃんさん。こんにちわ」

 

 

 那珂に挨拶が返される。落ち着いた、穏やかな声である。

 先程まで、ただ一人沈黙を続けていた――大型トロフィー頭の声だった。

 

 

「相変わらずのお元気で。本校の生徒達も見習って欲しいものです」

 

「それなら、那珂ちゃん達で学園ライブやってあげよっか? みーんな元気になるよー!」

 

「ほお、学園ライブ――ですか。それはいいかもしれませんね」

 

「そーでしょそーでしょ!」

 

「では是非とも、学園ライブの件は〝ヌンパ災〟の時にお願いするとして――ところで、那珂ちゃんさん。今日はどのようなご用件でこちらへ?」

 

 

 大型トロフィー頭が、その金色の頭部をキラリと光らせた。

 那珂を自称する離島棲鬼が『あぁ、そうそう』と話を始める。

 

 

「えっーとね、ほら。この間、手伝ってもらったでしょ? こっちの行事の」

 

「えぇ、そうですね。確か――『大演習』という行事の準備だった筈ですが」

 

「そーそー。それでね、朝潮ちゃんからのお願いなんだけど――」

 

「朝潮ちゃん……あぁ、あの素直で利発な女の子の」

 

「うん。前にやってくれた準備の出来が良かったから――もし暇があれば、引き続き手伝ってほしいんだって」

 

「そうですか。――では、今すぐ全員で向かいましょう」

 

 

 大型トロフィー頭の言葉に、職員室にいる全員が驚きの声を上げる。

 彼はゆっくり席から立ち上がると、どこか諭すように言葉を続けた。

 

 

「皆さん。皆さんの気持ちは充分に分かりました。ですが、ヌンパ災までは――準備期間も含めてまだまだ時間があります。教育者として白熱した議論を行うのも大事なことですが……なにも、今日決めねばならない訳ではないのですから。ここは一旦冷静になって――ね? 我々自身を見つめ直す為にも、地域の行事に寄り添ってみる必要性があると私は思うのですが……どうですかな?」

 

 

 大型トロフィー頭が、室内を見渡しながら提案する。

 静寂に包まれる職員室だったが――

 やがて、小ぶりのトロフィー頭が口を開いた。

 他の異形頭も、次々とそれに続く。

 

 

「そう、ですね……。校長の言う通りです」

 

「些か、熱くなりすぎましたな」

 

「いやはや、夢中になるというのは恐ろしい」

 

「ディスポ・ラベンサラ!」

 

「キヨスクに修羅共。仏陀、ガードレールにブレーキか?」

 

「そうですね。煮詰まった時は、外の空気が一番ですよ」

 

 

 口々に述べられる反省の言葉。

 職員室は、先程までの平和な雰囲気を完全に取り戻していた。

 そして、自称那珂に先導され――異形頭達は和気藹々と職員室を後にしていく……。

 

 

 

 

 

 鎮守府庁舎、二階。第三多目的室内でのことである。

 大演習の戦闘参加者名簿を作成していると、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、テープレコーダー頭から「Nice boat」と声を掛けられる。

 天龍型二番艦――龍田(改二)はたちまち困惑した表情になった。

 

 

「え、えぇと……はい?」

 

「We forgive you」

 

「へ?」

 

「Gentlemen, we have failed」

 

「あ、あの……ちょっと?」

 

「Good doctor, my cure is most effective」

 

「ちょ、ちょっとごめんなさいね~。ねぇ、ガンビアちゃーん? ガンビアちゃーん!」

 

 

 面倒を感じ取ったので、咄嗟に適任であろう生贄の名を呼ぶ。

 同僚のガンビア・ベイは、直ぐに駆け寄ってきた。

 

 

「W――What's happen!? タツタ、どうしましたか!?」

 

「こ、このテープレコーダーの方なんだけど、ちょっと何を言ってるのかよく分からなくて……。私の代わりに相手してくれないかしら~?」

 

「Oh。それは、No problemですけど……。Englishですカ?」

 

「英語よ~。でも私、ヒアリングは自信がなくて――ね?」

 

 

 龍田は『微笑み』を浮かべながら言った。

 ヒィ――と、ガンビア・ベイが情けない声を発する。

 すると、再びテープレコーダー頭が何かを喋り始めた。

 ガンビア・ベイが、慌てて耳を傾ける。

 

 

「Yeah. Well, I never saw its face. My squad did, and they paid for it up the ass」

 

「ハ、ハイ?」

 

「For God's sake, man, those people guarding him deserve to know exactly what he is and what he did. What WE did. How we fucked up, so they'll know better」

 

「あ、あの……excuse me?」

 

「Doc, do you remember agreeing that something wasn't shaped like a sphere?」

 

「ぱ、ぱーどぅん?」

 

「You disgust me. I don't even have the urge to strike you down」

 

「…………」

 

「ガ、ガンビアちゃ~ん? 彼女――なんて言ったの?」

 

「なんか悪口みたいなこと言われたんですけどォ……」

 

「悪口?」

 

「ハ、ハイ。『お前は殴る気にもなれない』とかなんとか……」

 

 

 ガンビア・ベイが泣きそうな顔で報告してくる。

 このテープレコーダー頭は、那珂が連れてきた『援軍』であった。

 なんでも提督の知り合いらしい。ただ者ではないのは――見てのとおりだ。

 提督も頭はカボチャだし……類は友を呼ぶ、というヤツだろうか?

 そっとため息を吐き、今度はちらりと窓際に視線を向ける。

 視線の先では、三角定規頭と毛筆頭が凄まじい速度で書類を処理していた。

 この二人(?)も、那珂が連れてきた援軍の一部である。

 お陰様で、事務仕事は通常の三倍以上の速さで片付いているが……。

 

 

「う~ん。何か気に障ることでもしちゃったかしら~?」

 

「な、何かココロアタリが?」

 

「なにもないわ~。ホントよ?」

 

 

 ガンビア・ベイの問いに、正直に答える。

 本当に、文句を言われるようなことは何もしていない――筈だった。

 

 

「……もしかして、ケンカ売られてるのかしら~?」

 

「そ、それにしては雰囲気があまりサッキ立ってないような……」

 

「でも、悪口言ったのよね?」

 

「えっと、まぁ、それは――」

 

「…………。ねぇ、ガンビアちゃん、このテープレコーダー頭に伝えてくれないかしら~。『いつでも何度でも相手になってやる』って」

 

「で、でもぉ……。この方、Admiralの知り合いですよ?」

 

「それが私に何か関係が?」

 

 

 龍田の冷たい笑みに、ガンビア・ベイが露骨に青ざめる。

 すると、多目的室のドアが開き、艦娘が二人入室してきた。

 大淀と重巡ネ級――通称『ネ級の那珂ちゃん』の二人である。

 

 

「失礼し――ど、どうしたんですか?」

 

 

 雰囲気を察し、大淀が驚いた様子で尋ねてきた。

 微笑みを絶やさずに返答する。

 

 

「なんでもないわ~。コミュニケーションに四苦八苦してるだけだから、うふふ……」

 

「コミュニケーションに?」

 

「S……Sorry。オオヨド、これにはちょっとスレチガイが……」

 

「あれ? なんで英語の先生がここにいるの?」

 

 

 きょとんとした顔で、ネ級の那珂ちゃんが言った。

 一体どういうことか。そう龍田が尋ねるよりも先に――

 テープレコーダー頭が、ネ級の那珂ちゃんと会話をし始めた。

 そう、『会話』を――である。

 

 

「先生って確か、工作担当だったよね? 今みんなグラウンドにいるよ?」

 

「We appear to have a problem」

 

「あはは。そんなの気にしないでよかったのにー」

 

「The reddish brown substance on the floor is a combination of feces and blood」

 

「え、いいの? でも大丈夫? 事務仕事は苦手って聞いてたけど……」

 

「Do you believe that the Children of the Sun were the first to overthrow those who came before them?」

 

「いや、先生がいいならそれでいいけど……。無理しないでね? 本業もあるんだし」

 

「You're to blame. You're to blame. You're to blame. You're to blame」

 

「へ? あぁ、那珂ちゃんは大丈夫だよ? なんたって艦隊のアイドルだしぃ♪」

 

 

 そう言い、ネ級の那珂ちゃんがかわいいポーズを決める。

 呆気に取られていると、大淀が横から遠慮がちに話し掛けてきた。

 

 

「あの――すみません。龍田さん」

 

「……あ、え、えぇ。な、なにかしら~?」

 

「私達、龍田さんと事務の交代に来たんですよ。代わりにグラウンド行ってもらえますか?」

 

「交代?」

 

「えぇ。ちょっと龍驤さんがノック・アウトされてしまいまして、場を纏める人員が……」

 

「……執務室に用でもあったの?」

 

「いえ、その――いつの間にか、提督が外に家庭菜園を作っててですね……」

 

「か、家庭菜園……」

 

「結構な豊作だったのがまた……」

 

「それは――御愁傷様ねぇ……」

 

「――あ、ガンビアさんは、このままここで事務を続けて下さい」

 

「わ、わかりましタ」

 

 

 ガンビア・ベイが若干身動ぎしながら頷く。

 龍田の仕事の引き継ぎは直ぐに終わった。

 まぁ、当然だ。仕事は単純な事務作業だけだし。

 『ここから続きをお願いね』と教えるだけ充分なのだから。

 そして、グラウンドに向かっている途中――廊下で数人と擦れ違った。

 時雨と夕立――そして、二人に担架で運ばれている龍驤だった。

 龍驤は気絶しており、その全身は真っ赤に染まっていた。

 ……どうやら、複数のトマトを全身にくらったらしい。

 

 

 

 

 

 龍田はそれなりに軍歴のある艦娘だ。

 これまでに幾つもの基地や戦場を転々としている。

 その為、ここの鎮守府が『普通でない』のには早々と気づいていた。

 勿論、世界というのは広く、普通ではない鎮守府というのは他にもある。

 所謂〝ブラック〟と呼ばれる所や、独特の決まりがある所――

 しかし、ここの鎮守府は、それらとは全くベクトルが違っていた。

 ……いや、『違っていた』よりは『狂っていた』の方が正しい表現だろう。

 それも、何ていうか――根本的な部分から、全部が『アレ』だ。

 

 

(……少なくとも、こんな光景――他では見なかったわね~)

 

 

 庁舎の外。グラウンド。

 目の前の光景を見ながら、龍田が苦笑を浮かべる。

 グラウンドでは『様々な種族』がこぞって作業に勤しんでいた。

 朝潮を筆頭に、各班に仕事の指示を飛ばす艦娘達。

 指示を受け、実に楽しそうに作業をこなす妖精達。

 妖精達に混じり、積極的に仕事を片付けていく異形頭の教師達。

 そして、班長及び賑やかしとして機能している人型の深海棲艦達……。

 全員、提督に『朝潮を手伝ってやって』と頭を下げられた人々(?)である。

 冷静に見れば――いや、冷静に見なくてもカオス極まりない光景であった。

 ある意味、平和な光景とも言えなくはないが……。

 そういえば五族協和なんて言葉があったっけ。昔。

 

 

「あ、龍田さん! お疲れ様です!」

 

 

 ぼんやりとしていた龍田に、朝潮がビシッと敬礼を決める。

 生真面目さが伺える、相変わらずの態度だった。

 

 

「お疲れ様、朝潮ちゃん。大淀さんから話は聞いたわ~」

 

「申し訳ありません。私がもっと気をつけていれば龍驤さんは……」

 

「最近になって『ようやく避けられるようになった』って言ってたのにねえ」

 

「初めの一つは、確かに避けたのですが――」

 

 

 朝潮がちらりと、隣の大きなベニヤ板に視線を向ける。

 大演習の時間割看板となるそれには、潰れたトマトが一個くっついていた。

 

 

「流石に複数は想定外だったようで……」

 

「不憫だけど、口だけじゃないのは流石龍驤さんね~」

 

「……やはり、この件は司令官に力になってもらった方がいいかもしれませんね」

 

「司令官――て、提督に? どうして?」

 

「はい。司令官は特殊な歩行で壁をすり抜けることが出来るので――もしかしたら、ぶつかってくるトマトにも応用が利くのではと思ったのですが……どうでしょう?」

 

「そ、それは提督が特殊なだけだと思うけど……」

 

「そうなんですか? 叢雲さんや深雪さんも出来るから、てっきり……」

 

 

 朝潮の言葉に、龍田はそういえばと思い出す。

 つい先日、深雪が執務室の壁に埋まっていた事件があったが……。

 

 

「龍田さん? どうされました?」

 

「……なんでもないわ。ところで――私は何をすればいいのかしら?」

 

「あ、はい。龍田さんには校長先生と一緒に複数の班の監督を――」

 

「えと、ちょっと待って朝潮ちゃん。こ、校長先生って……?」

 

「ええと、あの大きなトロフィーの頭をした――」

 

 

 そう言いながら、朝潮が視線を移した時だった。

 急に――いや、元々騒がしかった深海棲艦達が、更に騒がしくなる。

 すると、港の方から「ただいまー!」と陽気な声が聞こえてきた。

 龍田も含めたほとんどが、その声の方向に視線を向ける。

 陽気な声の主は深海棲艦の――港湾棲姫だった。

 晴々とした笑顔で大きく片手を振りながら、こちらに近づいてくる。

 その首には豪華なネックレスが下げられていた。

 

 

「あ、来た! 新しい那珂ちゃんだよ!」

 

「ホントだ、新しい那珂ちゃんだね!」

 

「あれは――港湾棲姫だったっけ?」

 

「うん、港湾棲姫だから――港湾の那珂ちゃんだね!」

 

「那珂ちゃんおかえりー!」

 

 

 チ級が、タ級が、重巡棲姫が、離島棲鬼が、潜水棲姫が――

 他にも、十数名いる深海棲艦達がやんややんやと騒ぎ出す。

 実は現在、ここの鎮守府ではとある計画が推し進められていた。

 その名も『NKA四八艦隊計画』。提督が立案した軍備拡張計画だ。

 那珂のネックレスで、強力な深海棲艦を上手いこと『鹵獲』し――

 そのまま鎮守府戦力として運用する、極めてエコ(?)な計画である。

 中央にも秘密(というか無断)のこの計画は、今のところ順調であり――

 鹵獲目標数である四八隻は、あと一週間もあれば達成することだろう。

 

 

「ところで港湾の那珂ちゃんはケガとか大丈夫だったの?」

 

「私も他の那珂ちゃんも無事だよー。今回は数が少なかったから」

 

「そんなに?」

 

「二十隻くらいだったかなぁ? もー、ひとひねり♪」

 

「おおー、さっすが港湾の那珂ちゃん! 頼りになるー♪」

 

「えへへ。――それじゃ、特訓場に行ってくるね!」

 

「ねー、その前に提督のところじゃないの?」

 

「さっき船渠で会ったから大丈夫! レ級とヲ級の那珂ちゃんも、もう少しで来ると思うから! じゃあねー!」

 

 

 そう大声で言いながら、港湾棲姫が去っていく。

 ちなみに本人も少し触れていたが、これから彼女は特訓に入る。

 鹵獲された深海棲艦は、工廠地下の特訓場で訓練を受ける決まりなのだ。

 約六時間の訓練である。『那珂』が身体を馴らす為の訓練らしい。

 固定化が云々との話だったが――あまり詳しくは分からない。

 ただ、他の場所だと約1ヶ月の時間が掛かってしまうとのことだった。

 恐らく設備等、何か替えのきかない物があるのだろう。

 

 作業に区切りがついたのは、夕方になった頃だった。

 朝潮曰く『想定の倍以上の速さで仕事が片付いている』らしい。

 夕飯は、援軍である教師達も一緒になっての賑やかなものだった。

 この日以降、鎮守府では仕事を手伝う異形頭の姿が、度々見掛けられるようになる――。

 

 

 

 

 

「さて――それじゃあ、パパッと終わらせましょうか」

 

「bow-wow.bow-wow.We are dogs.We are fine」

 

「オ、オオヨド? ちょっとイイですカ?」

 

「どうしました、ガンビアさん」

 

「あのEnglish teacherの喋ってることなんですガ……」

 

「Bird of scarlet hasn't departed yet」

 

「あぁ。あれ全部適当ですから気にしなくていいですよ」

 

「デ、デスよね。でもナカチャンは会話してるように見えたんですガ……」

 

「那珂ちゃんと一部の艦娘は会話できるんですよ。何故か」

 

「な、何故かって……ほわい?」

 

「さぁ?」

 

「さぁ、って……」

 

「一応、那珂ちゃん達や朝潮さんはニュアンスと言ってましたが――」

 

「Nuance?」

 

「ほら、一度チャンネルが合うと一生そのままっていうじゃないですか」

 

「そ、それってレーカンでは……?」

 

「同じようなもんですよ」

 

「そ、そうですかネ……?」

 

「あんまり深く考えないほうがいいですよ。頭が痛くなりますから」

 

「……オオヨド、もしかして疲れてます?」

 

「最近、ポーラさんや隼鷹さんが物凄く羨ましく見えますね」

 

「――今日、ホーショーのトコ行きましょうカ。一緒に」

 

「……ありがとうございます」

 

「I'm cat.Nice to meet you」

 

 

 




SCP-963 - Immortality 
by TheDuckman 
http://ja.scp-wiki.net/scp-963

SCP-2400 - Temporal Dilation Facility 
by Anborough 
ja.scp-wiki.net/scp-2400

SCP-710-JP-J - 財団神拳 
by Kwana 
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j

INTRODUCTION OF 財団神拳 
by sakagami他 
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

SCP-036-JP - Shock in 会議 
by shinjimaoshinjimao 
http://ja.scp-wiki.net/scp-036-jp


次回、うーちゃん vs 鎮守府SCP
他の作品書いたり書き溜めしたりで、次は遅くなるかもです。
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