第1十刃の部屋。
彼は「十刃」の中でも1の数字を与えられた最強の存在である。
司る死の形は「孤独」。
強者でありながら弱者の立ち位置が羨ましいと思う普通の破面とは違った感性を持つ男だ。
藍染の自室でおぞましい矯声が聞こえたため、目的を変えて今に至る。
彼の自室を訪れると、いつも通りにクッションをそこら中に敷き詰めて寝転がっていた。
「スターク、今日もか?」
「俺にとっては毎日がこれなんだよ。てかさっさとお前が第1十刃になれよ俺はめんどくせえ」
「やるべきことが終わってからだったら構わない。そのためにはお前の助けが必要なんだが交換条件ということでどうだ?」
「…内容によるぜ?面倒くさいことなら却下だ」
こうして自分にとって面倒くさいことであればどんな頼みでも断ってしまうのがスタークである。
実力がありながらその性格と考えがそれ以上の高みになることを押さえ込んでしまっている。
彼が生きてきたこれまでの経験がそうさせているのだろうが少しは前向きになってほしい。
「まず最初に言っておく俺の計画は藍染とは真逆の思考だ。どちらかと言えば尸魂界の考えであると言える」
寝転ぶスタークの横にあぐらをかいて座ってから伝えると、さすがのスタークも驚愕の表情を浮かべ、枕にしていた組んだ腕を解いて起き上がる。
「…あんた正気か?あの人に挑むつもりかよ」
「正気だろうと狂気だろうとどっちでも構わない。虚圏は死神ではなく破面が支配すべきだと思っている。
「…おいおい、今のあんたならまだしも『崩玉』を融合させたあの人には適わねぇ。それはあんたでもわかってんだろ?」
「確かに〈帰刃〉すれば互角以上に戦えるが取り込まれた奴と渡り合えるとは思っていない。だがそれは
予想外の言葉にスタークは開いた口が塞がらないという事態に陥っていた。
「あがががが」
「スターク、顎閉じなよ」
角の生えたヘルメットのようなものを被った虚がスタークの頭と顎を抑えて、強制的に噛み合わせる。
「ほげぇ!…助かったぜリリネット。もう既に協力者がいるみてぇな言い方してやがるが誰がいるんだ?」
「誰1人いないさ」
「…は?」
眼をパチクリさせてフェクの顔をガン見する。
「そんなに見るなよ照れるじゃないか」
「そういう意味じゃねぇ!」
「スタークが藍染様と同じ病気に目覚めたし」
「リリネット勘違いすんなぁ!おいフェク、てめえのせいで俺の立場危うくなってんぞどうしてくれんだ!」
「jcを手元に置いているお前に言われたくない」
「それは〈現世〉の言い方だな!?なんで〈現世〉での危ない言い方を知ってんだ!?」
「ウルキオラが藍染に頼まれて買ってきたのを渡されて読んだ。なんでも藍染が『フェクくんが奥さんを楽しませれるように』ってことで買ってきたようだが。生憎、それを使わずに俺はハリベルを満足させられるので必要ないがな」
「ウルキオラてめえかぁ!」
スタークのツッコミは今日も健在のようだ。フェクはボケもできればツッコミもできる才能の持ち主なので、スタークの前では必然的にボケを担当する。
ツッコんだスタークに対して辛辣な評価を下すリリネットがいると、お笑いトリオのようで第三者から見れば楽しいの一言に尽きる。
「…話し戻すぜ。何故最初に俺を誘った?」
「お前は全破面の中で最強の称号を与えられし〈第1十刃〉。そんな奴を計画を練るためにのこのこと手放しにすると思うか?俺の目的は藍染を殺すこと、お前は第1十刃の地位を俺に渡すこと。双方利益があると思うんだがどうだ?」
「藍染様にこのことを言うかもしれないぜ?」
「その時はお前を殺すさ」
フェクが獲物を見る猛禽類のように眼を細めて霊圧を上げると、スタークは冷や汗を流しリリネットに至っては気絶している。
「穏やかじゃねえな。だが殺されるよりあんたの下についた方がこの先面白そうだからあんたの計画に賛成するぜ」
「交渉成立だ。頼むぞスターク」
「喜んで。だけどよ俺以外にあてはあるのか?」
「幾人かはいるさ。俺の考えているメンバーが了承すれば会合を開く。その時まで楽しみにしていてくれ」
スタークとの話し合いを終えて今度は第2十刃であるバラガン・ルイゼンバーンの部屋へと向かっていた。
バラガンの部屋へ行くには藍染の部屋の前を通るのが近道なのだが、あんなことやこんなことが起こっている部屋の前を通りたくなかった。
ということで余計な時間をかけてまでしてバラガンの部屋へと行ったのだが…。
「…おい」
「…なんじゃ」
「何故そこまでイジケテイル?」
「片言か!…いいんじゃもう儂は王じゃないんじゃ死ぬまでこうするんじゃ」
「ジオ・ヴェガさんよ、いつからバラガンはこうなった?」
紅茶を運んできたサーベルタイガーを模した頭蓋骨を被る中性的な顔立ちの少年に聞く。
「藍染様に負けてから自室ではこの様です」
「様とはなんじゃ!様とは!儂は負けとらん!下についただけじゃ!」
「どっちみち従っていることには変わりねえだろ」
「…もういいもん儂は隠居じゃ」
「はぁ~」
「露骨な溜め息じゃな」
「誰のせいだ誰の」
話をしていないにもかかわらずここまで疲れるのは何故だろうか。会合や廊下では見せないバラガン本来の姿に驚く。
初期の〈刃〉であるバラガンは《老い》を司る存在だ。かくして言う自分もバラガンより年下だが初期の〈刃〉である。
だからこうして〈十刃〉となった今でも関係は良好だ。大虚時代、自分はバラガン以下の虚どもと戦闘を繰り返していた。
負けた配下が負傷しながらも帰ってきたことに疑問を感じ、単独で会いに来たときは驚いたものだ。
〈虚圏の王〉であるあいつが頭を下げにきたときは油断させる作戦かと思ったが、戦闘するつもりはないという彼の意思を組んで休戦を申し出た。
もともと俺は相手を傷つけることがそれほど好きなわけではないので、手を出されなければ攻撃することはない。
孤独で生きてきた俺は配下を持つバラガンを羨ましく思った。
それからというもの行動を共にしていたがある日、離反前の藍染、ギン、東仙と出会ってしまった。
〈卍解〉を使用した東仙に勝利し、東仙との戦闘での疲労もあったがギンと引き分けたことで藍染に自分の元に来るよう言い渡された。
あのときは勝てる見込みがなかったので、バラガンやそれ以下の虚たちの安全を約束してもらえるならという契約でその申し出を受けた。
強者の下についたのはいいがあの性癖が目覚めるとは誰が予想しただろうか。謀反でこっちきたのはまだいいが(それ自体がダメなのだが)、そこから手当たり次第に(男メイン)喰べるので1人で廊下を歩く輩はいなくなった。
〈十刃〉でさえ喰われるよりはマシということで、仲のよろしくないノイトラやグリムジョーでさえ距離をおきながらも歩く始末だ。
ギンは藍染の状態にやられたのか、彼の命令通りに動くことが少なくなった。何故か俺とよく行動を共にするようになり考えを共有するようになっている。
「落ち込んでいるところ悪いが話をしたい。これはお前にも特だと思うぞ」
「…なんじゃい、儂に神になれとでも言うんか?」
「自称〈虚圏の神〉ポソ。間違いではないな」
「なんか最初に儂を侮辱する言葉が聞こえたんじゃが。まあいい。それより間違ってはいないとはどういうことじゃ?」
食いついたなと内心でほくそえんでいるが、表面はいたって普通を装う。
「俺の計画に参加してくれればお前を〈虚圏の王〉に戻すことができる」
「なんじゃとぉ!嘘じゃなかろうな?」
「こんなこと嘘として言えると思うか?」
「むう。してどういう計画じゃ?」
「藍染を殺す。ただそれだけの話だ」
バラガンがその単語に眼を見開く。部下であるギンや東仙と戦い、激闘を繰り広げたフェクだが、それ以上に強者である藍染を殺すのは不可能ではないかと思った。
「あやつに勝てると申すか?」
「俺1人じゃ無理だ。だが複数でかかればさすがのあいつも隙を見せるはず。そこをなんとかして首を切る」
「…よかろう。儂の本来還る場所に導いてくれるのであれば喜んで手を貸そう」
「助かる。メンバーは俺の考えている奴らがどう動くかに変わるからな。そこだけをわかっていくれ」
「もちろんじゃ。う~しヤル気が湧いてきたぞ」
肩をほぐしながら立ち上がったバラガンを見てジオとフェクは苦笑する。さきほどまで子供のようにいじけていた爺が、元気を取り戻した様子と比べてあまりにも違いすぎたのだ。
バカにされるよりはマシな反応である。したところで今のバラガンには届かないだろうが。
〈髑髏大帝〉を振り回して喜びを爆発させているバラガンをジオに任せて部屋を出た。
バラガンの部屋から出た俺は、廊下で男の破面が複数倒れている場面を目撃した。
〈数字持ち〉である彼らだが、〈十刃〉である自分たちでも(暴走した)藍染は手に終えないのだからこうなっても仕方がない。
最近は藍染に堕とされた者たちが、仲間を増やそうと同盟を組んで新たなる犠牲者を産み出そうとしている。話によると東仙がそのグループをまとめているらしい。
おぞましいという一言に尽きるのだが、それを良しとする輩もいるので事実上虚圏は崩壊している。
藍染を崇拝する団体と(暴走)藍染排除団体、我関せず団体という三竦みが出来上がってしまっている。
俺の最終目標は藍染の排除だが今のところは我関せず団体に所属している。女性破面はもちろん(暴走)藍染排除団体か我関せず団体に所属している。
アパッチやミラ・ローズは排除団体、スンスンやロカは我関せず団体。別れ方で言えば、気の強い女性破面が排除側、大人しい女性破面が無視側となっている。
藍染排除団体であるが、藍染が男であれば手当たり次第に手を出しているので、対抗措置を取るのが不可能らしい。
毎日何十人と破面が生まれてくるため、どこに人を置けばいいのかわからないのが現状である。
置いたとしてもそいつが堕とされる可能性もある。それはそれでさよならしなければならないのだが。
そうこうしているうちに、最大の戦力になるとおぼしき人物の自室の前にきた。こいつはまあ、何を考えているかわからない顔をしているのでボコっても文句を言われることはない。
本人からは様々な悪言雑言をいただくが脅せば大人しくなる。
「よいしょー」
部屋の扉を蹴り破って中に入る。破片が飛び散るが掃除をするのは住人なので気にしない。
「うわ!びっくりしたなぁもう!ボクに恨みでもあるん?」
「顔」
「それだけなん!?」
「あと、内心の読めない笑顔」
「顔と変わらへんやん!…んでどないしたん?ボクの部屋に来るなんてボクがここに初めてきてから一回もなかったのに」
藍染と共に来たギンは初めての虚圏に戸惑っている様子だった。尸魂界とは違い何もない白い世界がどのように映ったのかはわからない。
好評価ではないのは確かだが、自分と互角に渡り合える存在を欲しがっていたのではないかと俺は思う。
自分より強くなく、また弱くもなく。自分が強くなる目的を与えてくれる存在が欲しかったのだ。
「計画がひとつあるんだがいいか?」
「計画?難しい計画やったらボクには無理やで?」
「そこは大丈夫。知性が低いのは理解済み」
「ひどない!?これでも藍染さんの右腕として頑張ってんねんけど!?」
「話とは藍染のことだ」
「スルーかいな。…フェクさんはいつも謎やからもうええねんけど。藍染さんがどうしたん?」
いつもの内心が読めない笑みを浮かべながら首をかしげる。その様子は無邪気で子供のように純粋だが本来はどうだろうか。嘘を言っているわけではないが信用できないような表情と口調であるため、信じていいのかわからなくなる。
「虚圏は破面だけの世界だった。それを壊したのは藍染だ。破面は虚、死神と相容れぬ存在が同じようなところにいて虚が下につくのはありえない。俺たちが藍染を従えさせるべきだ。だが今の俺たちでは藍染には勝てないことは自分たちが一番よくわかっている」
「まあ、無理やろね。ボクと互角やったあの頃より強くなってるとはいえ藍染さんは別次元の強さや。束になっても勝てへんで」
「確かに俺たちだけでは勝てない。破面だけではな」
「死神の力借りる言うんか?ボクが貸すとでも?」
「貸すさ。何故ならお前は藍染を心底憎んでいるからだ」
ギンの眼がうっすらと開かれる。蛇のように鋭い視線がフェクを襲うが動じず無機質にその眼を見返す。
ギンの自室は2人の霊圧が荒れ狂い、風が吹いていないも関わらず2人の服が揺れる。
「…何故そう思うんや?」
「お前が藍染に向ける視線と感情は普通じゃない。手を貸しているはいるが、実はそれが藍染を殺す機会を伺っていることも。違うか?」
「仮にそうやとしたらどうって言うんや?僕は尸魂界を裏切ってここにきたんや。それは藍染さんと同じことを志しとるという意味やで」
「じゃあ、なんでもっと積極的に手を貸そうとしない?東仙のようになんでも言うことを聞けばいいだろう」
ギンの行動は消極的なものが多い。それ故こうしてギンの目的に気付くことができた。本人はそのつもりはなかったようだが、俺からすればそれを聞いてみろと言っているように感じられた。
「…それを知って藍染さんに言うんか?」
「まさか。俺はそれを望んでいる」
「なんやて?フェクさんも藍染さんを?」
「ああ。あいつが来てからいろんな意味で虚圏は崩れてしまった。大昔からある力の強化はあいつによってサイクルを狂わせられ、先代や2代前の〈刃〉が〈
「ボクら2人じゃ勝てへんで?〈崩玉〉を持っていない藍染さんならまだしも、取り込まれたら不可能や」
「そこはなんとかする。お前の復讐と俺の夢が叶うなら断ることはないと思うがどうだろうか」
ここまで話せば断られることはないだろう。断ればギンの機会はなくなるのだから不可能なはず。
「…ええよ。ボクのためにも君のためになるんやったら協力するわ。計画がまとまったら教えてや」
「感謝する」
互いに本心からの笑みを浮かべて握手を交わした。
一方その頃藍染は…。
「僕のを見てどう思う?」
「すごく大きいです!」
やら、
「決めた。君、僕のお腹に◯◯◯◯◯しなさい。…お腹がパンパンだよ」
ゾマリ・ルルーと楽しんでいた。