虚刀流
虚しい刀の流れと書く。刀を使わない剣術であり、己を刀と見立てる剣法。
尾張幕府に終止符を打ったその刀は歴史に名を残す事も無く、静かに、そして確かに、絶えることなく現代にその存在を残している。
中学三年でありながら、虚刀流当主。その名を鑢花実(やすりかさね)。彼は今、国が運営する大型体育館の中で自分の名が呼ばれるのを待っている。事の発端はISを花実と同じ中学三年生の“男”が動かしたという事実からだ。
織斑一夏。本来女性でないと動かせないISを彼が起動させたことから、日本全土の男を対象にISの起動テストが開始されたのだ。もちろん拒否権はない。
「次、鑢花実。」
どうせ無駄だと言わんばかりのふてぶてしい態度で、派遣されてきた女は花実の名前を呼んだ。
「……面倒だ」
誰にも聞こえないような声でそう呟くと、テスト用の《打鉄》の前に出る。その外装は胴は守られていないもののさながら鎧。
事前に教えられた手順でISに触れる。といっても手をかざし起動のイメージを思い浮かべるだけだが。元より花実にISを動かす気は無い。起動のイメージに集中するはずもなく、全く別のことを花実は考えていた。
(打鉄… 打つ鉄か。お前もお前で、もしかして刀だったりするのか?)
[ あながち間違いでもないかも… ]
何か聞こえたと思ったその瞬間、閃光。
1秒にも満たなかったであろう間に、花実の体は鎧に包まれていた。
一気に会場かどよめき騒ぎ出す。
「……これは、面倒だ。本当に。」
いつもとは違う感覚に戸惑いながら、そう放った花実の言葉は周りの声にかき消された。
虚刀流当主 鑢花実 男性IS操縦者二人目の誕生だった。
◯
その後は大変だった。
勝手に進路は変更され、ニュースでは実名報道。
自宅には警備をつけられ、自由に買い物に出かけることもできない。両親が他界している花実にとって、外を出歩けないというとこは飯がないということになる。自炊もできるがレパートリーが致命的に少ない。そもそもそんな気が起きること自体滅多にないが。
政府の人間が鑢家を訪ねることも何度かあった。流石に中学三年生相手にお堅い話をすることはなかったが、IS学園の入学に関することや、今後の生活のことなど。花実はISを起動させたという自身の不必要な才能を呪った。
「自衛目的と、まぁ言ってしまえばデータ収集の為だな。君には専用機を渡すことになっている」
「専用機?」
定期的に来ている政府のスーツ男が花実に対してそういった。
いよいよISに乗らざるを得なくなってきた。乗ることに抵抗があるわけでもない、注目されるのが嫌なわけでもない。ただ単に面倒なのだ。今の環境が変わることが面倒であり、ISに乗ることが面倒なのだ。露骨に嫌な顔になる花実。
「まぁまぁ、そんな顔しないでくれ。ベースはもう完成しているんだがね、君の要望に合わせたISになる予定だ。それに、みたところ君は武術をやっているみたいだね。」
「まぁ少しばかり」
己を刀とする虚刀流を説明しても理解はされないだろう。
ここは武術ということにしておく。
「来週倉持技研の開発を連れてくる。君の武術が活かせるかもしれない。どんな機体がいいか考えておいてくれたまえよ」
そういうと「邪魔したね」と一言、見慣れたスーツの男は玄関から出ていった。
「そんなこと言われてもな」
どうしたものかと顔をしかめながら、花実は慣れない手つきでPCを使いISについて調べるのだった。