ドールズフロントライン:T&C   作:紅茶入りブランデー

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急襲して一撃、然る後に離脱する。それ以上の戦いは、この際、無意味だ──ウォルフガング・ミッターマイヤー


St.11 オペレーション・デネブ:シヴァを巡る攻防

 6月10日、シヴァ基地を目指すα軍集団と、反時計回りに防衛ライン外縁を進みバーミリオン基地を目指すβ軍集団に分割された鉄血東方方面軍は侵攻の用意を整えていた。

 

 α軍集団は6月12日、シヴァ基地防衛ラインの3本目にある前線基地TB-26を制圧し、15日には防衛ラインの4本目まで迫っていた。

 

 

 **********

 

〈ヤン提督、防衛ラインは破られつつあります〉

 

「心配ない。フィッシャー中将、貴官の用兵の妙を再び頼むよ」

 

 ヤンはそれだけ言うと、カリーナに指示を下した。その内容は、まさにヤン・ウェンリーが魔術師と呼ばれる所以であった。この戦役を分析する各勢力の分析官や指揮官たちは、この芸術作品を驚き受け入れるもの半分、詭計に属するモノだと断ずるもの半分にわかれた。この時、ヤンの視界には既に、今後の敵の動きが映し出されていた。

 

 16日、当初の予定よりだいぶ遅れて、α軍集団支援の為、β軍団第4機械化師団がシヴァ基地に迫るα軍集団の攻勢軸に対して90度の角度からシヴァに横撃を加える形で第4防衛ラインに攻撃を開始。第4機械化師団軍はシヴァ基地南部へ進撃するα軍集団を東部から援護攻撃して、補給改善のために、補給路に近く度々妨害工作を行っていたランテマリオの前線基地を占領し西からの補給を確保しようとした。

 18日には防衛網を突破し前線基地TB-27を占領。小規模な市街地が連続する山脈沿いに町を次々と占領していった。

 しかし、これはランテマリオ基地司令ビュコック提督とシヴァ基地司令フィッシャー中将の巧みな連携であり、ヤン・ウェンリーはこの伸びきった補給網を叩くべく行動を開始。

 

 20日にはヤン・ウェンリーはランテマリオの第474大隊222突撃中隊、直轄の特殊分遣隊、加えてランテマリオのネクスト"オルレア"、ティアマトの"プロメシュース"、"ストリクス・クアドロ"を投入。敵補給路を分断、さらに侵攻部隊をそのまま独立計画都市グリフォンの後背へと向かわせた。これに対し、鉄血はGAネクスト"タイラント、"フィードバック"、オーメルネクスト"ナル"、"アンズー"らリンクスタイプのネクスト4機、武装タイプのネクスト6機を投入する。

 

 

**********

 

 

アヴェンジャー1(M4A1)です、よろしく。222nd、私たちの後に続いてください」

 

 いつもの黒地に緑のラインが入ったバトルギアに白の制式バトルジャケットを腰巻きにしたM4A1は、ひと言そう言った。今回は特殊分遣隊ユニットDの部隊長だけでなく、今回の攻撃任務の指揮を務めている。222突撃中隊は、474大隊の約3分の1を占める戦力である。

 

「アヴェンジャー、指示をお願い」

 

 中隊長コルト・シングル・アクション・アーミー率いる222突撃中隊がシヴァの西側ゲートに揃っている。ヘリから降り立った特殊分遣隊5ユニットと合流する。

 

「我々の任務は、敵補給路を破壊し、独立計画都市グリフォンとその南のコロニー・エチナとの間に橋頭堡を築くことです。私が先頭をいきます。各員は陣形を崩さずに続いてください」

 

 ホログラムを投影し任務を説明する。西から出て、南西に進み敵補給路を守る部隊を撃破、そのまま補給路を分断し南下、エチナとグリフォンの間の連絡路を監視できる位置に野戦陣地を作るルートだ。陣形は特殊分遣隊の魚鱗の後ろを222ndが追従する形。

 

 特注のジェネレータを装備したM4A1が先陣を切る凸形陣で222ndは戦域に突入した。

 

「……はぁ!?」

 

 コルトSAA(シングル・アクション・アーミー)と222ndの部下たちは、その様に驚愕した。先陣を切るというのは、てっきり電磁妖精の技術を使った16Labの新兵装か何かだと思っていたのだ。しかし、M4はレーザーブレードを発振させると、そのブレードで殺到する弾丸を蒸発させたのだ。

 

「あなた正気!?」

 

 〈電磁妖精は有能ですが完全ではありません。消耗は可能な限り抑えるべきです〉

 

 全力疾走しながら自身に銃撃を集中させ、その全てを蒸発させていきながらM4は答える。

 

 〈受動防御では限界があります。攻勢防御の試作ですよ〉

 

 それはさながら、何十年も前の映画……遠い昔、遥か彼方の銀河系の騎士のごとく。M4を狙う敵を、後に続く人形たちが撃ち倒しながら特殊分遣隊と222ndは進撃を続けた。

 

 この時、驚異的なことにM4A1の被弾はゼロ。部隊損害はダミー人形が三体、数発の被弾があったのみであった。

 攻勢防御とは、かつてのボタン戦争の時代に考案されたものの派生である。ミサイルに対する防御は00年代前後に対空機関砲やバルカン、CIWSから対ミサイル防御ミサイルに取って代わる。受動から能動へと変わるのだが、これを陸戦レベルまで落とし込むにはとてもではないが密度が足りない。

 

 殺到する銃弾や砲撃に対しては壁を張るフォースシールドや電磁バリア、あるいは運動エネルギーを吸収する電磁トーチカなどの様々な手段が考案された。プライマル・アーマーですら受動防御のひとつである。幾多の戦線で考案された防御装置、その中の一つに、ニュートロン防御膜というものがある。元は接近する艦船や戦闘機本体などの目標に対して使われる防護膜だ。電荷を持たず極めて透過性の高いニュートリノを反粒子と反応させることで膨大なエネルギーを発生させるエネルギーフィールドを形成する。この技術を応用し、敵の弾丸に対して被害があると思われる射撃線に対して中性子防御線を張ることで弾丸を溶融させるものだ。

 ヤン・ウェンリーはオペレーション・カノープスでのM4の個人装備であったレーザーブレードに着目した。鉄塊を溶解させるほどの出力のブレードであれば、弾丸に対して有効な攻勢防壁となりうるのではないか。

 研究開発班はしかし、この夢想とも思えるような案を具体化してしまった。

 

 ヒントはレイレナードのネクスト"オルレア"の持つレーザーブレード、MOONLIGHTが第13旅団研究開発班の元にもたらされたことだった。規格外の出力を誇る紫の刀身は、安全装置がついていた。それを解除すると、なんとその刀身をブレードを振りながらダッシュすることでエネルギー光波として射出する機構が備わっていたのだ。

 

 その悪魔的な機構をなんと、たったの4日で研究開発班は試作に成功。試験的にM4のブレードに搭載したというわけだ。

 

 

 **********

 

 

 20日中に補給路の分断に成功した222ndは、そのまま日付が変わると共に独立計画都市グリフォンの西を通ってグリフォンの南へと回り込む。午前3時50分、M4率いる特殊分遣隊と222ndはグリフォンとエチナのルートを守るネクストと遭遇する。事前にこれを察知していたM4は、部隊に随伴しここまで出番のなかった3機のオリジナルを前線に出す。

 

 〈まさか貴様と協働するとはな、女帝様〉

 

 "オルレア"アンジェ、一撃必殺を旨とする長大かつ高出力レーザーブレード"MOONLIGHT"を持つ烏殺し。その実力はモーターコブラ、ホワイト・グリントらはもちろん、メアリー・シェリーやシュープリスも一目置くほどのネクスト。

 

 〈フン、契約が無ければ貴様など近づく暇も与えず撃ち抜いてやるものだが……今はそうもいかん。目の前で粋がる粗製共、彼奴等は捨て置けん。本来なら貴様もだが〉

 

 "プロメシュース"メアリー・シェリーは大口径スナイパーライフルを超精密射撃で運用する。BFFの最大戦力である。

 

 〈私は強者にしか興味はない。蚊を何匹叩き潰そうが、何の益にもならん。腕利きの烏か山猫でなくてはな。おい、王小龍、貴様、間違っても私に当てるなよ〉

 

 〈今がただの協働であればやぶさかでもないがな。今は貴様の力が必要だ〉

 

 "ストリクス・クアドロ"王小龍もBFFのネクストらしく、精密な狙撃戦を得意とする。今回は、アンジェが近接戦闘を挑み、戦域外縁から2機のBFFネクストが十字の射線から狙撃戦を展開する。10対3、いくらオリジナルとはいえ苦戦を強いられることが予想された。

 

 しかし、粗製ではオリジナルであるアンジェと同じくオリジナルのBFF最高戦力2機に対しなすすべはなかった。あっという間に片がついた。驚くべきことに、アンジェとBFFの2機の息はピッタリ合っていたのだ。

 アンジェの背中を襲うネクストにはメアリーの魔弾が降り注ぎ、回避しようとクイックブーストを吹かしたあとの一瞬の硬直を縫って光刃が迫る。2段やキャンセルなど望むべくもない、練度の低いネクストたち。刃をかいくぐり、安心した先は王小龍の罠の下。

 あるものはMOONLIGHTに両断され、あるものは撃ち抜かれる。生存したのはわずかに2機、フィードバックと武装タイプのネクスト1機が這う這うの体で撤退した頃には、グリフォンは第222突撃中隊によって包囲されていた。

 

 これにより、グリフォンを基点にシヴァに侵攻していた鉄血部隊への補給と後方からの支援は事実上消失したことになる。もちろん、グリフォン東方からシヴァの東隣のバーミリオンへと向かうルートは残っているものの、西方ランテマリオからグリフォンのルートは222ndによって封鎖が完了した。

 

 同日中に退路が絶たれたことを知った‪α‬軍集団は、シヴァ第4防衛ライン付近まで陣形を広げていたものの、そこで一時的に侵攻を停止せざるを得なくなった。奪取したTB-26を中心に陣を広げていた‪α‬軍集団だったが、TB-26を含む13旅団前線基地は事前に撤退を含む23の行動プランが設定されていた。今回TB-26で実行されたのはプラン18、基地物資の意図的な破壊と基地インフラの電子的ロックを軸にした基地機能の停止である。

 これにより、基地における各インフラ、地面深くに埋め込まれた周期的なEMPパルスの発信、鉄血に最も不要な木材物資の破片のみが大量に残された状態のTB-26に駐屯せざるを得なくなった‪α‬軍令部は補給不足だけでなく、精神的・情報的にストレスを抱えることとなる。

 

 シヴァではランテマリオとの補給線を確保し、また十字攻勢の一方が停止したことによって、反撃のための準備が着々と進められていた。

 

 一方で、東側のバーミリオンでは血で血を洗う激闘が繰り広げられていた。

 

 




あけましておめでとうございます。
筆者です。

今回は短めになりましたが、次回はもう少しだけ泥沼になるかなと思いますので……。

筆者が個人的に1番好きなスキル発動台詞はネゲヴの「私は、あんたたちと違う!」なんですよね。ドロドロの感情マシマシで叫びながら銃を連射する(自称)エリート……いいですよね……

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