「……なんだ、これ」
もともと大会の開催に伴って、その地は大いに盛り上がっていた。
だが、これは……。
まひろが今朝、アンチョビひいてはアンツィオ高校と遭遇した広間には、溢れんばかりの人――というか女子高生が集まっていた。
それも、今じゃなければいつやるのだと言わんばかりに、それはもう盛り上がっていた。
さながら祭り。出店の如く建てられた即席の食事処や擬似自販機など、もはや一団体でできるレベルを超えている。何故ここまで。
恐らくは誰かさんの栄光を讃えているのだと分かるが、おめでとうと拍手を送るだけの自分とは明らかに規模が違う。
はっきり言って、何事なのだろうか。
事情が知りたいまひろは、とにかく首謀者の特定を開始する。が、数秒で難航した。
集まり、食事や会話を楽しむ少女達。共通点は戦車道の戦乙女であることだけで、彼女らの着ている制服はバラバラだ。
プラウダ、サンダース、聖グロ、アンツィオ、そして大洗。まさかの黒森峰まで。他にもいくつか名も知らぬ高校が見受けられて、これで人探しなど無謀もいいところである。
「女三人寄れば姦しいと言うが、三桁集まったらどうなるんだよこれ」
「沢山いるからといって、それを集まっていると表現するのは正しいのかな?」
「ぬぉ!?」
誰に言ったでもない問だった故に、背後からの答えにまひろは驚く。
振り向いた先にいた声の主は、大きな帽子と手に持ったカンテレが特徴的な少女だった。制服を着ている以上、彼女も戦車道を歩んでいるのだろう。
「驚かせてしまったみたいだね」
「いや、大丈夫だ」
「そう」
「ああ。ところで、一人なのか?」
「いいや、チームメイトと来ているから、厳密には一人じゃない」
「そうか。じゃあチームメイトと離れている今は一人なんだな」
「どうかな?周囲から見れば君と二人で話しているように見えるかもしれない」
「なるほど」
……めんどくさいタイプだ。
そう結論付けたまひろは会話の区切りを探す。早く別れた方が楽な相手だろうと。
「何故そんなことを聞くのかな?」
「いや、周りがペアだったり団体だったりしてからな。それで」
「周りが常に群れているとしても、一人でいることを否定される理由にはならないんじゃいかな?」
「だな。現に俺も一人だし。あ、いや、二人か」
「いや、周囲からの見方はともかく。君が一人だと思うなら、それは団体の中でさえ一人さ」
「そうかもな。んじゃ、この辺で」
「ところで、継続高校の二人組を見なかったかい?」
「知らねぇよ」
「そう。……」
「けど、お前と同じ制服を着た二人が、サンダースの屋台で飯食ってるぞ?」
言いながらまひろが指さす先には、恐らく目の前の少女の知り合いだろうと思われる二人がいた。
その片方、赤みのある髪をした少女が何を思ったのか振り返った。
「あ、ミカ」
「やあ、ミッコ。そこにいたのか」
「え?ってミカ!どこ行ってたのっ!」
「風に身を任せていただけだよ」
ミカ、と呼ばれた帽子の少女は二つ結びの二人の元へ歩いていった。
これで用はないだろうと、まひろも向く方向を変える。
「そうだった、礼を言うよ。おかげで迷子が見つかった」
「迷子はミカでしょう!?」
「気にすんな。……隊長がそんなんだと大変そうだな」
「いや?気にするかも大変だと感じるもの自分次第さ」
「あ、そう?」
「それはそうと、大洗なら向こうに集まっていたよ。今はどうかは分からないけれど」
「…………」
カンテレを持っていない方の手が示す先。まひろは一度向けた目を再びミカに戻した。
「あぁ、名乗ってなかったな。まひろだ」
「そうだったね。気にしていなかったよ」
「で、なんで俺が大洗の関係者だと思ったんだ?」
まひろはミカと初対面で、一度も大洗との関わりを口にしていない。
「さあ?それは、君が継続高校の隊長を言い当てたことくらいに、気にしなくてもいいことだろう?」
「……かもな」
要は、勘か。
まひろがミカの役を言い当てたのは、単に似ていただけ。彼の知る、強い隊長達に。
ならばミカも何かしらのものを感じ取ったのだろう。感覚的な話である以上、その先の追求に意味はない。
わざわざ頭を下げる少女と、チキンを持ちながら手を振るミッコと、カンテレの現に手をかけたミカに別れを告げて、まひろは目的地を目指した。
人混みを上手くすり抜けながら、まひろはようやく彼女らを見つける。
ミカが指したように、進んだ先には大洗の女子生徒達の集まり。その辺りを見回していると、真っ先に河嶋と目が合った。
「まひろさんか」
「ああ。色々と聞きたいんだが、みほか会長さんいる?」
「すまない。悪いが西住も会長も席を外している。私で良ければ話を聞こう」
「そうか。じゃあとりあえず、この騒ぎの主犯格は誰だ?」
「また随分な言い方だな」
「悪い事してるわけじゃないけどな。ただ後々面倒な話が上がると嫌だろ?」
「あぁ……そうだな。確か、主催者はアンツィオだ」
「アンツィオ……」
聞き覚えのある名前に、まひろは無意識に寝ぐせを掻く。
十中八九、今朝会った高校だろう。となれば、事の発端の一角を買っているのは、自分か。
「まぁ、それはそれとして。アンツィオってこんな規模の祭り開けるような所だったのか。知らなかったな」
「アンツィオにそこまでの財力はない。ただ、たまたま会場で近くにいたらしいサンダースが同調したみたいでな」
「あぁ、サンダース……」
謎は全て解けた。
このバカ騒ぎの主犯はアンツィオとサンダース。確かにそうなるだろう。
みほから聞いていた話通りならば、この様になるまでの道は簡単に想像できる。
サンダースの隊長、ケイのノリがアンツィオと上手くハマった。そしてアンツィオのノリと勢い、サンダースの財力と物量がこの祭りの正体だろう。
「Hey!マヒ〜!」
「おぉ、今朝の!」
そしてその主犯格が、今まさにまひろの元へと出頭、もとい登場した。
「よう、ケイ。それに、ドゥーチェ?」
「来たか、安斎」
「安斎じゃなくてアンチョビ!」
「話は聞いた。お前らが開いたみたいだな。この、祭り?」
「というより祝勝会ね!大洗のだけど」
「つか、良く黒森峰誘えたなお前ら」
「Why?」
「え?」
「どっちが負けても呼ぶに決まっているだろう。戦った相手は勝敗に限らず労う!それがアンツィオ流だ!」
「いやそれは自分達の試合だけにしとけよ」
よくまほが許可を出したな。
いや、みほ関係に弱いところがあるからなあいつ。アンチョビとケイにその辺突かれてしつこく勧誘されたんだろう。
けど……多分大洗が負けてたら誘うどころじゃなかったと思うぞ。
「…………」
「マヒ?どうしたの?」
「ん?いや、なんでも」
頭に過ぎった考えを即座に振り切り、まひろの顔はいつもの笑顔に戻る。
「てか、やることがある。アンチョビ、拡声器とかあるか?」
「もちろんあるが、それがどうした?」
「お前ら、特に何も考えずにこれやっただろ?」
「ん……?」
「こんだけ騒いだら他方面から文句を言われかねん」
「う、確かに……。それは、軽率だった。すまない」
「いや、いい。むしろ労うって精神は見習いたいくらいだ。そんな訳で、今ここにいる連中に事情を説明する」
「ねぇマヒ。それはパーティーは終わりってこと?」
「違う。楽しんでもらうために、な?」
その一言に、アンチョビとケイがサムズアップで応える。
まひろも含め、三人はすぐに行動を開始した。
ケイの指示で、サンダースのトラックで特設のステージのようなものを作り、アンツィオの拡声器を運び込む。サンダースにもスピーカーがあったので準備を頼んだ。
一方まひろは、ある程度存在する人脈にこの草原の使用許可と高校生達が行う賑わいの責任者として話をつけた。
そして、準備は整う。
拡大されたまひろの声が、スピーカーから放たれる。
『あー、その場でいいから聞いて欲しい。戦車道大会、ご苦労だった。こんな風に大洗の優勝祝賀会を含めた後夜祭を開いてくれたアンツィオとサンダース、参加してくれた皆にはお礼と賞賛を送りたい。その上で、いくつか話しておく必要があるので聞いてくれ。まず、この祭りは皆から見れば誰だ?こいつ?となっているであろう、この俺が責任者になった。よって、無いとは思うが、問題行動は謹んで頂きたい。俺が大変だから。次に、こちらで念の為、各校が泊まれるよう手配をして置くつもりでいる。今夜をここで楽しもうと思う所は代表者が人数を含めて申し出てくれ。最後に、わざわざ色んな所に許可を貰って作った機会だ。好き不好きはあると思うが、せっかくなので楽しんで欲しい。以上っ!』
声を聞いた誰もが、無駄話を切り上げて聞き入っていた。
やがて誰からともなく、ステージを去ろうとする得体の知れない男に向けた拍手が鳴り響く。
まひろはぶっつけ本番のアドリブで、完璧なまでにスピーチをやってのけた。
ステージ袖で彼は溜め込んだ息を吐き出して、アンチョビに拡声器を返す。
「後はよろしく」
「ああ、任された!」
既にステージ中央ではスピーカーに繋いだのだろうマイクを持ったケイが、それは軽快なトークを繰り広げている。アンチョビもそれに続くようだ。
まひろは、そんな二人を見ながらトラックの影に埋まる。
我ながら思う。こういう表舞台は得意じゃない、と。……もっとも、苦手でもないのだが。
それなりに器用にやりこなす男は、久ぶりの徒労感に空を仰いだ。
サンダースからチキンを買い、まひろは再び大洗の集まるスペースに足を運んだ。
どうやら用事は済んだようで、そこにはみほと角谷会長の姿もある。
「お疲れ様〜」というセリフを言うより早く、自分の名を呼ぶ秋山と合った。
だがこちらを向く目はそれだけでなく、大洗メンバーのほとんどが詰め寄るように凝視している。
「え、何事?」
「えっと、その……」
説明を求めた先で、みほは気まずそうに目を逸らす。
その理由を追求する必要はなく、先陣を切るようにしてまひろの前に立った軍人服の少女が言い放つ。
「あなたが西住隊長の師か」
「……へ?」
間抜けな反応とは合致せず、大洗メンバーはエルヴィンと呼ばれた少女を皮切りに言いたいことをひたすらに言う。
「あの!西住殿に戦車道を教えたというのは本当なのですか!?」
「西住流の跡取りに勝ったことがあるのは本当かぜよ?」
「バレーは好きですか!?」
「さっきのスピーチ、感動したわ!やはり風紀を守るにはそういう事も大事よね!?」
「戦車の話をしても引きませんか?」
「ゲームはするかにゃー?」
「どうしたら彼氏できますか!?」
「――――?」
「――――!?」
――――。
恐らく聖徳太子の凄さを初めて身にしみて実感した瞬間だろう。
もはや聞き取ることを諦めたまひろは、勢いのままに質問攻めにあう。みほが視線を逸らしたの、多分自分が話題に上げてしまったからとか。
気にすることでもないだろうと思うが、今はそれどころではない。
「――順番に聞くから!まず離れろぉ!」
切実な思いがこだました。
まさか初対面の女子をパシることになるとは思っていなかったが、当の澤 梓が気にしないで欲しいと言ったのでお言葉に甘える。
右手のチキンを食い切り、アメリカンサイズなコーラを半分以上飲み干してから、さて……と。
眼前に構える少女達を見据えて、覚悟を決めた。
「よし、じゃあ質問に答えようか。ある奴手上げろ」
「「「「はい!」」」」
挙手制にしたら高校教師も真っ青なレベルで手が上がった。選り好みを通り越して帰りたい。
そこからはしばらく、一問一答を繰り返す時間となった。
キャラが多くて話が進まない。
もう少し祭りは続きます。
感想、誤字報告ありがたいです。