ラブコメがよく分からない駄文作者です。ごめんなさい。
あと話も中々進まないですが、気長に読んで頂ければと思います。
「――だぁ〜、疲れたぁ……」
テーブルセットのイスに腰掛けるまひろ。ようやく大洗の少女達から解放され、いつの間にかコーラは底をついていた。喉を潤すのにどれだけのんだのか。
空になったドリンクを置いて周りを見渡す。この場の誰もが本当に楽しそうに話して、ふざけて、食事に勤しんでいる。
勝った大洗も、負けた黒森峰も同じように。こういう光景を見ると、やはり戦車道はスポーツなのだと理解出来た。
「あら?お疲れみたいね、まひろさん」
「ん?ダージリンか」
後ろか聞こえた声の主はダージリン。いつも通りというか、隣にはオレンジペコの姿もあった。
「ステージでのスピーチ、お疲れ様です」
ペコは言いながら紅茶を目の前のテーブルに置く。恐らくこの前の勝負の景品だろう。
「ありがと、ペコ。わざわざこれの為に来たのか?」
「いいえ。みほさん達におめでとうを言いに来たのがメインよ」
「左様で。みほは……」
「さっきインタビューが終わっていたから、もう来ているんでしょう?」
「ああ。多分大洗のメンバーと話してると思うぞ」
インタビュー。みほと会長がいなかった理由はそれか。
弱小チームを大会優勝に導いた、知将にして西住流の隊長西住みほ。メディアでなくとも興味が湧く。会長は付き添いかな?
まひろはペコのいれた紅茶に口をつける。落ち着いた味で、この賑やかさの中でもリラックス効果がありそうだった。
「じゃあ、みほさんのところへ行くわ」
「おう。ペコ、紅茶美味かったぜ。ありがとう」
「お口に合ったなら良かったです」
「ああ。どっちも美味かったが、好みなら前の方が良かったかな?」
「……そう、ですか」
若干の驚きが表情に見えたが、ペコはまたいつも通りの顔に戻る。彼女はそのまま、進むダージリンの後を追った。
「ペコ?何かあったの?」
「いえ、ただ。この前まひろさんにいれた紅茶と今日のものは、少しだけ味が違ったんですけど……」
「今日の方が少しだけ濃口だったわね」
「はい。それを感じ取っていたので、驚きました」
「……確かに、違いというにはかなり僅かなもの。……何者なのかしら?」
「分かりません」
「アッサムなら知っているかしら。……ところで、アッサムは?」
「さっきサンダースの方へローズヒップさんが走っていましたので、恐らく」
「そう……。アッサムに任せましょう」
「……そうですね」
とうに日は沈み、だが祭りは終わらない。
上がり立ての月が夜空を照らす中、まひろは黒森峰の集団を探す。
当然のことだが、みほは集まってくる相手に追われて忙しい。今もあんこうチームのメンバーにサポートを受けながら、他校の隊長達と話し込んでいる。
慣れないインタビューに、この騒ぎ。さぞお疲れだろう。最悪、自分のターンはなくてもいい。みほに負担はかけたくない。
そんな訳で大洗の集まりから離れたのだが。
決勝で負けたとはいえ、そこは女子高生。黒森峰のメンバーもそれなりに楽しんでいるようだ。
そんな彼女達の中に見知った顔、逸見エリカを見つける。
「おーい、逸見〜」
「まひろ、さん?」
「さん付けはいいって」
「まぁ、一応。それで、どうしたの?」
「あぁ、まほは?」
「まだ来てないみたい。サンダースとアンツィオの隊長達が来た時に、先に行ってろって」
「そっか。……」
少しだけ思い当たる節がある。
西住まほの経歴は凄まじく、だからこそ高校生でありながらも社会的な注目度は高い。
だが、彼女は去年今年と、連続して準優勝に収まっている。その事実は、西住まほの実力ひいては西住流の評価に関わるだろう。
その後始末というか申し開きなど。まほがしなければならないことは少なくない。
まひろは逸見に短く別れを告げると、思うがままに道を探した。
広間から少し離れた高台。元は戦車道の観戦用に用意された区画は、今はモニターを使う為に使用されていない。
申し訳程度の整備で街灯が建てられたロッジに近いスペースで、西住まほは一人、激戦の跡を眺めていた。
「あっちは盛り上がってるぞ〜。みほの所にはいかないのか?」
「…………」
予期せぬ、しかし聞き慣れた声に、まほは振り返りながらも動揺はしなかった。
「パーティーの様なものは、参加することはあっても苦手でな」
「知ってる。てか今更だ」
「……確かに」
まほの隣で、街灯が照らす木製の手すりにまひろは両肘を預ける。
「食う?」とまほに差し出したのは、寄り道で買ったフライドポテト。まほは小さな紙袋から一本をつまみ取る。
「ありがとう」
「あんまり気負うなよ?そりゃ誰だって負けることくらいあるって」
「私はできる最善を尽くした。だから悔いはない」
「それ、答えになってるか?」
「……なっていないか?」
「さぁ?」
今日、まほが試合後に受けたインタビューは簡単なものだった。
しかし西住流である自分が負けたのであれば、圧力を掛けてくるところも少なくない。大洗優勝という大きな話題が過ぎれば、矛先の一旦は間違いなくこちらに向くだろう。
だが、まほは覚悟を決めている。それをまひろも感じ取り、それ以上は続けない。
余計なお世話だったかな、と。
「そいや、よく黒森峰の参加OKしたな。下の祭り」
「あぁ……。安斎とケイから勧誘を受けてな。断ろうかとも考えたが、チームの皆を労うのも大事だろうと思ったんだ」
「それ、アンチョビの受け売り?」
「いや、本心だ。影響を受けたかどうかは分からないが」
いつも冷静で、戦車道になれば厳しい態度のまほ。だが彼女は思い遣りというものを持った一人の人格者だ。
さっき横耳に挟んだ黒森峰の会話には、隊長が意外だ!といった内容が上がっていたが、まひろに言わせれば意外でもなんでもなく、ただの口下手な優しい子。つまり、いつも通りの西住まほだ。
「そういえば、スピーチ。聞こえていたぞ」
「まじ?」
「ああ。私が聞けたのは半分くらいだったが」
「お聞き苦しいものを」
「いや、素晴らしかったと思う。恐らくアドリブなのだろうが、流石だ」
「褒めても何も出ないぞ。ところでポテトいる?」
お言葉に甘えて、また一本受け取る。
高台からは広間の一部も見下ろす事が出来る。
まほが視線を移す先、サンダースが用意した車両や自販機が並ぶ側のテーブルでは、みほが色々な制服の少女達に囲まれていた。
「みほ、大変そうだな」
「助けに行ってやれば?」
「行っても、何もできそうにないな」
「珍しく弱気だな」
「ただの事実だ」
「そっか。あ、そだ。大洗優勝を祝してエキシビションマッチを開こうとか、大洗の会長とかが話してたぜ?」
「エキシビションか……」
「詳しい話はまた今度だろうけど、黒森峰も参加応募したらどうだ?」
「考えておく」
多分確定で手を挙げるだろうなと思いながら、まひろは最後のポテトを飲み込む。
もとよりまほはそこまでお喋りではない。そんな彼女に合わせているのか、まひろもいつもよりは口数が多くない。
「…………」
その事実に今更気付き、まほは広間を見つめる彼の横顔に視線を向けた。
「……まひろ」
「ん?どした?」
「いや……。少し待っていてくれ」
まほはそう言い残し、広間まで繋がる階段へ姿を消した。
彼女の背中が見えなくなってから、まひろは手すりに腰を当てて体重を預ける。そのまま、することもないので携帯を取り出した。
意味もなく登録されたメアドを追う。今日だけで20を超える人数が欄に載った。中は大洗のメンバーだけでなく、ダージリンやケイのような隊長に、オレンジペコみたいな関わりのある他校生の名前もある。
「これだけ見ると、ギャルゲーの主人公だな……」
しかし女子の家に泊まってラッキースケベの一つも起きない自分では攻略とか無理だろうと。ポジティブなネガティブムードの中――。
新着欄にあるメールを開いた。
内容は、実の父から送られた約束の場所と日時。
……。
気が重くなる。
大洗のメンバーにはもちろん言っていない。まだ廃校になるかもしれない可能性など、聞きたくもないだろう。
それに、自分が上手くやれば無くなる話かもしれない。ならば今はまだ――。
「悪い、待たせた」
やって来たまほの声で現実に戻り、まひろは画面から目を外す。
向いた方向には、パックのいちごオレを持ったまほ。彼女はそのまま、右手のパックを差し出した。
「ほら」
「お、サンキュ。どしたの、これ?」
「いつもこれを飲んでいたろ?サンダースが自販機も出していたからな。それで」
「いや売り所じゃなくて」
「……疲れた時には、甘いもの。だろ?」
「――――」
意図を読み兼ねる言葉に、まひろの表情が一瞬凍った。
「どういう……」
「疲れているんだろう?なら無理するな」
「いや、無理はしてねぇよ」
「している。顔を見れば分かる」
「…………」
白状すれば、まひろは疲れていた。
父からの電話で頭を精神を使い、そのままアンツィオとサンダースが開いた祭りの処理。さらに大洗を初めとした女子達も相手にした。
疲労はかなり溜まっている。
だが、すべき事はまだある。だからバレないようにと気を張っていた。
「俺、そんな顔に出易いか?」
「まひろは、良く私の考えを言い立てたりしていたな」
「……まぁ、長い付き合いだからな」
「なら、逆は考えなかったのか?」
疲れた時には、甘いもの。まひろが昔から、そんなことを言ってはまほやみほに差し入れを持って来ていた。
昔から、お互いに知った顔だし、知った相手だ。
だからよく分からないと噂されるまほの事も、まひろはある程度理解できる。
そしてまほも、取り繕った顔くらい見破れる。
「あまり無理はするな」
「してるつもりはないが、そうだな。確かに、ちょっと疲れた」
「なら少し休め」
命令口調だが、まほの声には戦車道で使うような覇気はない。もっと柔らかく、優しい言い方だった。
まほに、別に深い理由はなかった。ただ、少し複雑な気分だったのは否定できない。
彼がそれなりに疲れている事がわかった時、最初に思ったのは心配に近かった。
だが、その後に感じたのは感謝や喜びの様な感情。
彼は無理してまで、わざわざ自分の所まで来て、気負うなと言った。自分の方が余程気負っているだろうに。
その事が嬉しくて、しかし無理はして欲しくなくて、と。
感情の狭間で揺れて出た言葉は、単純に、慈愛の篭った自分の気持ちだった。
――ただそれだけの事。
「ああ、そうする」
「私はそろそろ行く。エリカ達にも顔を出しておいた方がいいだろうからな」
「そうだな。――あっ……」
気を抜いたからなのか、クリアになった思考がある事を思い出させる。
これは、今のうちに言っておくべきだろう。
踵を返そうとするまほを呼び止めて、まひろは気まずそうに口を開いた。
「……婚約の話。式の時期が決まった」
「あぁ、その話か。試合が終わった後、聞かされた」
「……そうか」
まほはそこまで気にしていないようだ。中学に上がる前から聞かされていたのだから、覚悟もできるか。
今思えば、あと時あの場にまほがいなかったのは、しほさんがまほには試合に集中して欲しいと考えてのものかもしれない。
だが、それも西住流としての判断なら、やはりまひろは良しとはできない。未だに、考えは変わらないのだ。
「すまねぇ」
「謝ることではないだろう」
「そう、かもな……」
力ない返しを疲れの所為だと思い、まほはそろそろと声を掛けてからその場を去る。
まひろはいちごオレを飲み干すまで空を眺めながら休んでいたが、生憎と星座が見える程はここも暗くない。
最大の光源である広間はまだ、もう少しだけその賑やかさを仕舞いそうにない。
みほとも話せていないし、と。まひろは確かな足取りで階段を降りて行った。
時は僅かに遡る。
「――隊長?」
広場で西住まほの姿を見つけたエリカは、離れた姿を追った。
尾行する気はなかったが、高台まで来た段階で出ていくタイミングを見失い、そのまま灯の範囲外に体を隠す。
まほが話す相手は、予想はしていたが、やはりまひろだった。
全て聞き取れたわけではない。だが会話の中で自分の名前が呼ばれ、警戒の意も含めて耳と澄ました。
故に――。
「……婚、約――?……隊長が?」
どうにか無声音に留めた呟きに、自分自身が混乱させられる。
当然、気になる。
しかし今まで明かされていないことだし、そこまで踏み込んでいいのかという思いがエリカを硬直させる。
「…………」
結局、広間に降りた後も、まほには聞けなかった。
――まひろにも、聞こうとは思えなかった。
感想、誤字報告頂けるとありがたいです。