西住まほは俺の嫁……らしい。   作:江波界司

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三か月ぶりの更新で読んでくれる人がいるのでしょうか。
遅れに遅れ、それでも読んでくれる皆さま、本当にありがとうございます。


束の間

「はぁ、はぁ……。悪い、遅れた」

 

 肩で息をしながら、まひろは両膝に手を付きながら謝罪した。ここまで飛ばせるだけ飛ばしてきたのだから無理もない。

 

「気にするな」

「いや、約束は約束だからな。後で何かを埋め合わせするよ。何がいい?」

「気にしなくていいんだが……」

 

 待たされた側であり本来なら怒る立場のまほが、今は逆に困ってしまう。まひろの性格を知っているからこそ、ここは譲らないと分かってしまうのだ。

 

「……分かった。考えておこう」

「そうしてくれ」

 

 そこまで言って、息を整えたまひろは今まさに繰り広げられている戦いへと目を向ける。

 既に試合はひとつの山場を迎え、大洗・知波単連合がフラッグ車である聖グロのチャーチルを追い詰めていた。

 

「みほ、うまくやってるみたいだな」

「ああ。だが、そう簡単には行かないだろう」

 

 古くから知り合いであるまひろから見てもかなりシスコンな気のあるまほだが、戦車道となればそういった贔屓のようなものは無い。今彼女が見ているのは間違いなく、偏見のない分析から来る試合の終着と決着だろう。

 

「へぇ。なんで?」

「少し言い難いことだが……。みほは常識に囚われない変幻自在ともいえる戦法を思いつく。それに対しては、黒森峰は相性が悪い」

 

 西住流を一番大きく影響を受けていると言って過言でない黒森峰。その隊長を務め、自身は西住流そのものと自他共に認める彼女がそう言った。

 

「逆に聖グロ、というよりダージリンは、そういった戦略に対して柔軟に対応することに長けている。あくまでも相性はと言うだけだが、このまま終わるとは思えない」

「なるほど」

 

 前にまひろはみほの強さを対応力と考えたが、正しくは発想の強さというべきらしい。

 本物の対応力とは、例えば――。

 

「形勢を文字通り逆転させる、っていうこの状況か」

「あぁ」

 

 本来であればあと一撃で決まっていた試合は、プラウダ軍の進行によって一変した。これ自体にダージリンの指示があったかは分からないが、少なくとも焦った様子のない動きから彼女の余裕が感じられる。

 

「つか、これは知波単学園の戦略ミスじゃないのか?」

「否定はできない。だがそれも踏まえての戦車道だ」

「まぁ、そうだな。だいぶ厳しい見方だけど」

「厳しい、か。ただ私は、チームメイトのミスは隊長(じぶん)のミスと同義だと考えているだけなんだが」

「自分に厳しいのか」

 

 まほの考え方は、まひろには理解しやすかった。

 何せ西住流とは元来そういうもので、隊長至上主義のような思想だ。隊長の指示に完璧に応えることで力を発揮させる。一糸乱れぬ動きや射撃は正しくそれだろう。

 逆説的に、チームメイトの起こす行動のミスは、それを未然に防げなかった隊長自身のミスと変わらない。チームにも寄るだろうが、少なくとも黒森峰ではそう考えるのはごく自然だ。

 

「まぁでも、信じてやるのも必要だろ」

「信用はしているつもりだ」

「いやいや、信頼だよ」

「信頼……」

 

 今のチーム、黒森峰では難しいのかもしれない。それこそ、隊長があってこそのチームなのだ。隊長無くしてチームは無い。

しかし、チーム無くして隊長は無いのだ。

 

「この先ずっと型通りに行けるとは限らないだろ?みほじゃないけど、相手の裏をかけなきゃ強敵は倒せない、ってな」

「強敵か……。確かに、みほはそうやって勝って来たな」

「ああ。みほはすげぇし、頑張ってる。そんで、仲間を信頼してる。じゃなきゃ、黒森峰の戦車軍の中に一両で陽動なんか出せねぇよな」

「そうだな」

 

 信頼……信じて、頼る。

 今までに、まほがチームメイトを信じなかったことはない。

だがそれは一つの計算にも似たものがあった。黒森峰のメンバーなら、あれだけ共に戦った彼女達ならと。

 そんな打算を切り捨て、無条件で信じること、信じて頼ることは、やはり難しい。それはひどく危うい行動であり、西住流の理念から外れる。つまりは、勝利から遠退く選択肢にすら思えるのだ。

決して信頼したくない訳ではない。むしろそういった、信じられるという事が武器になることを、まほはみほ達を見て理解していた。

 

 

 崩れた戦況は大詰めなり、フラッグ車を狙い合う最終決戦へと突入する。

 次々と戦車が白旗を上げていく中、フラッグ車同士が砲撃を直線上で撃ち合った。

 結果は、ダージリンの対応力が出たのか。プラウダの戦車を丸々盾に使い、大洗の一撃を生き延びた聖グロ・プラウダ連合の勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合観戦という目的が終わり、まひろとまほは一度西住家へと戻る事にした。まひろが着いて行ったのは、埋め合わせの為である。

 今は西住しほは不在らしく、まほの自室まではお手伝いさんも入って来たりはまずしないだろう。

 

 その部屋で、今は二人きりだ。

 カーテンは閉まっていて、室内は少々薄暗い。表情が薄らと分かる程度の明るさである。

 そしてまほは、枕に顔を埋めていた。

 

「――っ、……――」

「…………」

 

 うつ伏せに寝た彼女は、時折吐息にも似た声を漏らす。押し殺した様な声は、普段の彼女からは想像できないようにか細く弱々しい。

 対してまひろは、そんな彼女を見ながらも手を止めない。ゆっくりと、適度な力を込めながら両の手を動かす。

 直接ではなく、服の上から間接的にまほの身体に触れている。

 その手の平から彼の体温が感じられ、伝わる力がまほにほど良い刺激を生む。

 まひろが力を込める度、まほは優しい痛みに体を小さく震わせた。

 

「――あっ……そ、こは……」

「ここ?」

「……まっ、んんっ……」

 

 まほの力ない静止を聞かず、まひろは反応があった場所へと指を移動させる。

 そこは今まで触っていた部分と違い、コリコリという感触がハッキリと分かった。

 まほの反応がなくともいずれはこうなっていたかもしれない。

 まひろは人差し指に適量の力を入れ、重点的に指圧する。

 

「……あ、……んっ――」

 

 今計れば、彼女の体温は平熱より遥かに上がっているだろう。

 まほ自身そう思うが、恥ずかしさと気持ち良さの収まりがつかない。

 枕もあって呼吸が荒い。刺激も相まって声も出せない。それがもどかしく、しかし今はどうしようもなかった。

 

「――んじゃ、そろそろいいか」

「……っ、ここまで、頼んで、ないぞ……」

「サービスだよ」

 

 そしてまひろは――部屋を出た。

 目を閉じていたまほはそれを音だけで理解し、ようやく開放されたことに力を抜く。

 まほは危うく、気持ち良さで過呼吸になりそうだった。それほどまでに、彼は上手すぎたのだ。

 ――マッサージが。

 

 

「はぁ……」

洗面台の前で、まひろは予想以上にかいた汗を拭う。

「心臓に悪いわ~これ」

いくら妹のような存在とはいえ、喘ぎ声にも似た彼女の声を聴いてしまえば、思わぬことも思ってしまう。

 

 

 

まほの待つ部屋に戻ると、彼女が麦茶をいれてくれた。

 

「……自分で頼んでおいてだが、こうも上手いとは思わなかった」

「まぁな。師匠からのお墨付きだし、専門店で働いたこともあるからな」

 

まひろが自分磨きに掛けた期間で、彼はとあるマッサージ店に弟子入りしていた。

店主はエロじじいだったが腕は一級品で、こと仕事に関しては間違いなくプロだった。

マッサージ中にセクハラはせず、一心にコリをほぐす。

 

「俺の師匠の店、戦車道やってる子にも人気みたいでさ。あのじじい、どこが凝りやすいとか効くツボとか全部知ってるらしい」

「まひろも、教えてもらったのか?」

「ちょっとはな。他にもいろいろ聞いてたし。安眠のツボとか」

「それは興味があるな」

 

しばらくツボや戦車道の話で談義していた午後。

まひろの携帯が鳴る。

相手は、角谷杏子。

 

「もしもし、角谷です。お時間よろしいでしょうか?」

「あぁ」

「……実は――」

 

杏子は今置かれている状況の全てを話した。

つまり、大洗が廃校の危機にあると。

まひろは至って冷静に、いや冷静を装って応える。

予想以上に、事態は悪化していた。

 

「それで、そちらの対応は?」

「ひとまずは運営の指示に従います。ですが、必ず話をつけるつもりです」

「そうか。必要なら頼ってくれ。戦車道関係ならそれなりに顔が利く」

「分かりました。どうぞよろしくお願いします」

「あぁ。進展があったら、また連絡してくれ」

「はい。失礼します」

 

通話を切り、断りを入れておいたまほに向かい直す。

 

「何かあったのか?」

「ちょっとな。気にすんな」

「……そうか」

 

許嫁に見送られながら、まひろは西住邸を後にする。

これからが、彼の勝負なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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