西住まほは俺の嫁……らしい。   作:江波界司

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無理やり戦車道の話を終わらせた理由。
こういう話をメインに据えるためです。


意地の通し方

 大洗廃校事件は戦車道という一スポーツに対し、良くも悪くも大きな話題を呼んだ。

 その台風の原因たる西住流と島田流──戦車道を代表する二大名家は、心ない声に晒されていた。

 否、正しくは島田家のみが風を受けている。

 大学選抜という圧倒的優位の状況で、各校の連合とはいえ高校生に負けたのだ。

 まして、相手の隊長は西住の娘。世間の風当たりは強くなる。

 

「だから、まずそこからだ」

「ごめん、まひろ。全然分からない」

 

 数日前、何かを覚悟したまひろは島田愛里寿に週末の予定を開けておくよう頼んでいた。

 そしてその週の土曜。愛里寿はまひろに呼ばれ、来たことのないビルの前にいる。

 

「安心しろ。島田さんに許可は貰ってる」

「すごい行動力……」

 

 愛里寿の母、現島田流当主に話は付けている。

 何故そこまで用意周到にしたのか。そもそもどうやって交渉したのか。

 謎は深まる一方だが、愛里寿は隣で自分の手を握る男の横顔を見て思う。

 ──大丈夫だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、えっと……」

「ちょっと待っててくれ。最終打ち合わせがある。あ、飲み物そこから取っていいから」

「ちょっとまひろ君〜?それはこっちが言うセリフなんだけど〜?」

 

 ビルの中、待合室のソファに案内された愛里寿は、まひろと対面する大人の男性を見る。知らない人である。

 まひろに対してぼやく男は、仕方ないか〜と諦め交じりに愛里寿にコップを差し出した。

 

「んで、用意はできてんだよな?」

「もち。というかさ〜、本当に大丈夫なんだろね〜?あの島田愛里寿を連れて来て」

「安心しろって。ちゃんと儲ける」

「まひろ君〜、信用するよ?」

「ウチの家訓は契約相手に損はさせない、だ」

「実家嫌いさんがよう言う〜」

 

 ジューサーからオレンジジュースを注いだ愛里寿は、離れた位置で離す二人の会話に耳を傾けていた。

 何をする気なのか分からないが、まひろの言う儲け話には少なからず自分が関わっていることだけは読み取れた。

 

「さてと。んじゃ愛里寿、早速だけど頼む」

「えっと……何を、すればいい?」

「俺の質問に、答えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからさらに少しだけ時が経ち。

 場所は大洗。時は昼休み。

 打ち合わせなくIV号の下に集まったあんこうチームのメンバーは弁当を開く。

 そんな中、秋山がカバンから雑誌を取り出しながら言った。

 

「そう言えば西住殿。これ、知ってますか?」

「戦車道の、特集……?ごめん、知らなかった」

「なら読んでください是非!ここです、ここ」

 

 パラパラと素早くページを送り、秋山が見せたかった記事をみほに示した。

 

「独占インタビュー……島田、愛里寿!?って、もしかして」

「そうです!大学選抜の隊長にして、島田流正統後継者の島田愛里寿さんです!」

 

 秋山の言葉に、みほ以外のメンバーも興味を示して雑誌の見える場所に集まった。

 

『この前の高校生との試合、島田愛里寿さんはどう感じましたか?』

『手強かった。負けてしまったこともそうだが、最後まで諦めない姿勢が、特にすごかった』

『一部では、島田流対西住流の対決は島田流の負けに終わった、とも聞きますが?』

『純粋にそうとは言えない。隊長は西住流だったが、あのチームはそれだけじゃなかった。各々が自分のすべき事を考え、工夫し、実行していた』

『敵は西住流だけではなかった、と?』

『少なくとも試合全体を通してはそうだった』

『では、最後の瞬間はどうですか?』

『虚を突かれた。私の負け。でも、それが島田流の負けではない』

 

 読みながら、皆感嘆の声を漏らす。

 賞賛してくれた相手が、こんな風に評価してくれていたことなど知らなかったのだ。

 思えば、確かにあれは西住流と呼ぶにはあまりにも奇抜な戦いだった。

 そういう意味では、島田流対西住流というジャーナリストの見方は間違っている様に思える。

 

『そうですか。では、相手チームの隊長、西住みほさんについてはどう思いますか?』

『どう、って?』

『一度戦ってみて、感想などあればと』

『えっと、強かった。でも、西住流らしくない戦い方、だと思った』

『西住流らしくない、ですか?』

『上手く表現できないけど、あのティーガーの戦い方の方が、西住流のイメージに近かった』

『近い、ということは少し違ったと?』

『多分』

『そうですか』

 

 会話を無修正で載せたかったのだろうか。やや記事に不要な部分もあるが、それこそリアリティかもしれない。

 

「凄いですね西住殿!あの島田愛里寿に認められてますよ」

「う、うん。なんか、恥ずかしいな……」

「胸を張れよ、隊長」

「そうですよ。立派です、みほさん」

「あ、ありがとう……」

「ねぇねぇ、まだ続きあるよ」

 

 顔を赤くして悶えるみほの変わりに沙織がページをめくる。

 そこには更にラフな会話の文字が並んでいた。

 

『試合の後、西住みほさんに何か渡していましたよね?』

『はい』

『何を渡したんですか?』

『ぬいぐるみ。ボコの、ぬいぐるみを』

『ボコ、というのはあのクマのキャラクターですか?』

『はい』

『好きなんですか?』

『はい、大好き、です』

『魅力はなんでしょうか?』

『ボコは、いつも喧嘩を吹っかけるんです。吹っかけて、負けるんです』

『負けるんですか』

『はい。それで、それでもまた立ち上がって。それでまた、喧嘩を吹っかけて、負けるんです』

『それは、可哀想ですね』

『うん。でも、それがボコだから』

『諦めないボコ、ですか。まるであの時の大洗のようですね』

『そう、ですね。私もあの時思いました』

『もしかしたら、大洗の隊長もボコみたいに諦めない気持ちをもっていたのかもしれませんね』

『だとしたら、また話してみたい。ですね』

 

 まるで戦車道に関係ない話を強引に混ぜたような会話だった。さらに言うと、何やら記者の方がそういう方向に持っていったようにすら見える。

 などと、冷静に読んでいた麻子はまさかと思いながらも考えていた。

 

「西住殿のボコ好き、バレちゃってますね」

「そんなに分かりやすいかな……?」

 

 ボコの話が出て少なからずテンションが上がっていたみほは、秋山の一言でまた赤面することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 ある流行が世間を賑わすことになった。

 空前の『ボコ』ブームである。

 島田愛里寿の独占取材を取り上げた雑誌が売られるより前に、ボコミュージアムの修理作業が進行していた。東条家の運営と新たにスポンサーとなった島田家の援助により、可及的に行われた修理修繕は既に終了。今では客で賑わっている。

 ブームのきっかけは、言うまでもなく島田愛里寿である。

 インタビューの中でボコのことを知った戦車道に精を出す戦乙女たちは、島田流後継者や大洗の西住流が好きなものというだけで食いついた。

 だが、それだけでブームは来ない。

 ここにまひろの経営戦略が投下される。

 ボコの戦車道シミュレーション型ボードゲームの正式販売である。

 彼はコネを最大限に使い、あらゆるメディアを通してボコと戦車道のコラボを売り込んだ。

 戦車道の二大名家と呼ばれる島田流と西住流。その後継者になりうる二人の共通点であるボコというキャラクターが、戦車道を突き進む乙女達の興味を引くのに邪魔するものはなかった。

 

「すご、い……」

 

 ニュース画面を見ながら、愛里寿はただただ驚いていた。

 そう、あの男──東条まひろはやったのだ。

 島田流とボコ、その二つを救い出すという荒業をやってのけた。

 

 あの雑誌のインタビューには、二つの狙いがあった。

 一つは、今起きたブームの引き金となるボコの認知度を上げること。

 そしてもう一つが、島田流に集まった視線をボコに移すことである。

 良くも悪くも注目された戦車道と島田流。これらの注目度を、そのままボコというブランド確立に利用したのだ。

 並のことではない。

 ミュージアムの経営。

 ゲーム会社との契約。

 メディアの利用。

 ボコ利権会社との連携。

 そして、島田家の助力。

 全てを完璧に行わなければできない──いや、仮にできても上手くいくか分からない類の賭けだ。

 

「本当に、すごい行動力……」

 

 思わず笑みが零れる。彼はなんて凄いのかと。全然小さくないではないかと。

 お礼が言いたい。

 愛里寿はそんなことを思い、便箋を取り出す。

 最近、彼は大学に姿を見せなくなっている。きっと忙しいのだろう。

 だから迷惑にならないように、でも伝えたいから。

 

『まひろ、ありがとう』

『今度、一緒にボコミュージアムに行こうね』

 

 短く簡潔に。

 愛里寿はポストに投函した。

 

 

 

 

 




ご愛読ありがとうございます。
愛里寿回でした。
色々伏線回収しながらハッピーエンドを目指します。

感想など頂けると嬉しいです。
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