コロナだのルナだのエクリプスだの忙しい時期が続きました。
ようやく更新できます。
ちなみに作者は口内炎を除けば健康です。
「隊長」
黒森峰の現副隊長、逸見エリカの声が後ろから聞こえた。
まほは足を止めて、昼の廊下を振り返る。
「エリカか。どうした?」
「朝のSHRで、戦車道選択のメンバーにこれが配られたんですけど」
そう言って彼女が差し出したのは、あるミュージアムへの一日フリーパスだった。
ああ、とまほは内心ある人物を思い出しながら応える。
「戦車道とコラボキャンペーン、だったか。今、流行っているんだろう?」
「そうですね。けど、なんで黒森峰に送られて来たんですかね」
「黒森峰だけじゃないらしいぞ。さっき、みほからも連絡が来た」
「え?」
まほは今朝教室で起きた始終を語る。
SHRが終わってすぐ、連絡先を知る数人からチケットに関する連絡が来た。それも全て他校。
どうやらボコ=みほの発想があったらしいのだが、みほ自身に連絡をとっても心当たりがなかったらしくまほへメールが届いたようだった。
「エリカは、ボコを流行る前から知っていたか?」
「え?ええ、まぁ、一応。前に、みほから聞いたことがありました」
「そうか。私は、みほ以外にこれの話をする知り合いは一人しかいない」
「それって……」
ここでようやく、エリカもある男の存在に行き着く。
彼女には何故まほが彼のことを話題に出そうとしているのかは分からない。ただ単純に、まほの前であの男の話はしたくなかった。
だから強引に話題を逸らす。
「そ、れにしても、すごい流行り方をしましたね。いくら戦車道とコラボしたとはいえ」
「そうだな、流石の手腕だと思うよ」
「手腕……?」
「こんなことをしようと思って、そして実行できる。そんなバカげた奴だよ、彼は」
微笑むまほを見ながら、エリカは驚愕する。
決定的なことは何一つ言っていない。説明も解説も不十分。なのに、彼女には分かってしまう。
西住まほは、このボコの大流行に——東条まひろが関わっていると確信している。
なぜそんなことが自分に分かるのかと、エリカは内心困惑する。
あるいは、あの話を聞いてしまっているからだろうか。
西住まほと東条まひろ、二人を特別な関係として考えてしまっているからだろうか。
「……まひろ、さんから連絡があったんですか?」
「いや、むしろ何も連絡してこないくらいだ」
「それなのに、分かるんですか?」
「なんとなく、な」
「どうしてですか?」
「……彼が何も言わないときは、大抵、誰かのために頑張っているときだからな」
その日の夜。
エリカは悶々とした気持ちのままバスルームを出た。
複雑な気持ちだった。
今日、彼のことを語るまほは、いつもより元気に見えた。自分がそう見えただけかもしれないが、それでもそう見えてしまう程度には上機嫌そうだった。
だが同時に、寂しそうでもあった。
これは仮の話だが。
もしも仮に、西住まほが東条まひろに好意を抱いていたとして——。
その気持ちを知る身からすれば、あの男の行動はどうだろうか。
婚約者をほったらかして、誰かのために頑張って、連絡の一つも寄越さない。
そんなの、あんまりではないか。
「けど、本当に隊長とあいつが……」
これは仮の話だ。なんの確信も確証もない。
第一、ここまで節操のない男では西住流の後継者と結婚できるかも怪しくなってくる。
着換えたエリカは、自分のベットの上で携帯を取り出す。
まひろの連絡先は知っている。だが、何を言えばいいのか。
連絡をしろ?そんなことを言って何になる。
本当に婚約者なのか?聞いてどうする。答える保証もない。
いやそもそも、自分は何をすべきなのか。
「……相談、相手が欲しいわね」
そこいらの友達ではだめだ。話が込み入り過ぎている。
では大人か。それもNOだ。西住流の婚約に関する話など公にできるものではない。
西住まほのことを理解していて、東条まひろと面識がある。できれば婚約者かどうかを知っている者が望ましい。
そんな条件が当てはまる相手など——ひとりしかいない。
エリカはすぐにコールした。
「……もし、もし?い、逸見さん……?」
「ごめんなさいね、こんな時間に」
「え、えっと大丈夫だよ?」
「そう」
マイクとスピーカーの先にいる少女、西住みほは緊張しているようだった。
それも仕方ない。最後に話したとき、かなり邪険にしてしまった。電話がかかってくること自体驚きだろう。
「それで、どうしたの……?」
「少し、聞きたことがあってね」
「聞きたいこと……」
「隊長……西住まほと東条まひろが、婚約者だって話」
「な、なんで知ってるの!?」
「…………」
さっきまで受話器に近付けていた耳を抑えるエリカ。いきなり大声を出されたのだから仕方ない。
耳を休ませながら、心の準備も整える。
あの反応では、もう否定はできそうにはないから。
「どうやら、本当みたいね」
「え、もしかして……」
「いいえ、話は聞いてたの。ただ確信が持てなかっただけ」
「そうなんだ……」
暗に誘導尋問ではないと伝える。こう言っておかないと相手に悪い。
さて、これで確定してしまった。
あの二人が婚約していると。
ならば、何をすべきだろうか。
「それで、聞きたいんだけど」
「う、うん。何かな?」
「あなたは、二人をどう思うの?」
「…………」
みほが押し黙ったことで、かなり抽象的な問い方をしてしまったと感じるエリカ。
もっと答えやすい聞き方はないものかと考え、その結論より先にみほが口を開く。
「……お似合い、だと思うよ」
——その声は、震えていた。
「え……?」
「うん、お似合いだと思う」
理由は分からない。彼女がなぜ、こうまでして無理を押し通そうとしているのか。
嘘を言っているわけでないだろう。しかし本心は別にある。
そうでなければ、彼女が泣く必要はない。
「どうしたのよ」
「なんでも、ない、よ……?」
「嘘でしょ。声、震えてるわ」
「……ごめん、なさい」
「別に謝らなくていいから。それで、どうしたの?」
スピーカーの奥からすすり泣く声と押し殺した嗚咽が聞こえる。
何をそんなに、ため込んでいたのか。
「ゆっくりでいいから」
「……うん。あり、がとう……」
「……」
「……私、かなり前から、二人が結婚するって、知ってた……」
「うん」
「それで、私もそれでいいんだって……そう思ってて」
「うん」
「でも……最近、それが嫌だって……そう思っちゃって」
「うん」
「私が、間違ってるんだと思う、けど……嫌なの」
「うん」
「お姉ちゃんに、まひろくんを……取られたくないって……」
「うん」
「ごめん、なさい。私、わたし……」
「大丈夫よ」
きっと、向こうで彼女は大粒の涙を堪えている。
そんな顔が頭に浮かんで、エリカは優しく応える。
「間違ってないわ。あなたは、何も」
「い、つみ……さん……?」
「あなたがそう思うなら、それはそれでいいのよ。だから、自分を責めなくていい」
「逸見、さん……」
今すぐ抱きしめてあげられないことが歯痒かった。
彼女がどれだけ辛い思をして来たのか。どんな思いで彼と会っていたのか。
その気持ちは分かってあげられない。
だからせめて、その気持ちで苦しまないように。
「思いがあるなら、それを伝えなさい。辛くても、難しくても伝えるべきよ」
「でも……」
「それで応えなかったら、私がティーガ―で打ち抜いてやるわ」
「……逸見、さん」
「それで、もし一人じゃ難しいなら、私が手伝うから」
「え……?」
自分は何を言っているのだろうか。
無意識に、そして自然にそんなことを言っていた。
自らの発言に戸惑いならが、エリカは繕う。
「あんたがうじうじしてたら、来年、気持ちよく倒せないでしょ?」
「逸見、さん……。あり、がとう……」
「……エリカでいいわ」
「え?」
「エリカでいいって言ったのよ。私はみほって呼んでるんだし、それに同級生でしょ?」
「……うん。……ありがとう——エリカさん」
「別に、気にしなくていいわよ」
「うん、ありがとう」
何度も礼を言うみほをどうにか宥めて、エリカは通話を終わらせる。
体をベットに預けると、視界は天井で埋められた。
まったく、自分は何がしたいのか。
まほの恋(仮)を手伝うどころかライバルを増やしているではないか。
……いや、自分は悪くない。
悪いのは愛想を振り撒くだけ振り撒いて何もしないあの男だ。
だからこの先、どうなろうと彼の責任だ。
「もう、なるようになりなさいよ」
色々な感情を放り投げて、エリカは目を閉じた。
ご愛読ありがとうございます。
久しぶりの更新でまさかの主人公不在。そして何かしらのフラグが建設。
AIもびっくりな無人建築ですね。
感想を頂きモチベが上がっております。
これからガンガン更新したいと思います。
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