西住まほは俺の嫁……らしい。   作:江波界司

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タイトル通りです。


島田の訪問

 ボコブームというある種の天変地異のような現象の裏で、東条まひろは力尽きていた。

 彼はこの騒動のため、持てる全てを利用して根回しを繰り返した。それに伴う会議や契約相手との調整は後を絶たず、ここ一週間ろくに眠れていない。

 そんな多忙がどうにか一段落し、学舎で惰眠を貪ること丸一日。

 彼の下を四人の少女が訪れた。

 

「……お久しぶりです、先輩方」

「ええ、久しぶり」

「顔色悪いけど、大丈夫?」

「随分疲れてるみたいだな」

「まぁ、そうっすね、色々ありまして」

 

 メグミ、アズミ、ルミと順に顔を見た後、まひろは彼女らの前にいる少女に目を向ける。

 

「愛里寿も、久しぶり」

「久しぶり……」

「それで、今日はどんなご予定ですか?普通に平日ですけど」

「隊長からあなたに用があるって」

「愛里寿が?」

「私たちはその案内兼付き添いよ」

「あと見張り。お前が変なことしないように」

「先輩方の中で俺が完全にロリコン認定されてるのおかしくない?」

 

 まひろは純粋に年下に優しいだけである。が、見方によっては否定できない言動もかなりあったことも事実ではあった。

 冤罪で訴えられたくないと、まひろは愛里寿に聞いた。

 

「俺に用って?」

「うん。まひろ——」

 

 恐らく、あのことだろう。

 この前、愛里寿から送られてきた手紙を思い出しながら、まひろは続きを促す。

 

「──大洗に、行こ?」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島田愛里寿は飛び級で大学に通っている。

 その為、高校生活というものを体験したことがない。

 以前の戦いで、高校生というものに興味を持った彼女は、体験入学先として大洗女学院を選ぶ。

 本来は一人で行く予定だったが、彼女なりに思うことがありまひろを巻き込むことにした。

 この話をバミューダ三姉妹にしたところ、「私たちが一緒に!!!」と熱弁。三人には愛里寿不在の間戦車道チームの指揮を任せる、という形で説得した。

 

「まさかこんな形で大洗に、しかも愛里寿と行くことになるとはなぁ」

「……」

「つか、学園艦じゃない船に乗るも久しぶりだわ」

「…………」

「大学は陸だからな。学園艦行くのにこういう移動が必要なんだよな」

「………………」

「ところで愛里寿、なんで俺が同行してるんだ?」

「……………………ううっ……」

「愛里寿?」

「……ごめん、もう……」

「愛里寿っ!?」

 

 テーブルを挟んだ向かいの愛里寿は、一言を残して顔を伏せた。

 なんてことはない。船酔いである。

 成れない船の揺れに気分を悪くした愛里寿。その様子を見かね、まひろは彼女の隣に座り直した。

 

「すまん。さすがに全快にはならないと思うけど、触るぞ」

「……ん」

 

 まひろは愛里寿の手を取り、過去に勉強したツボを押す。

 酔い覚ましに効くらしい手首部分を刺激しながら、大洗の学園艦を彼らは待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかまひろ君までくるとはね~」

「俺もまさかと思ってるよ。そのことも、この状況も」

 

 まひろが大洗生徒会長の角谷杏に応える一方、愛里寿は何故かおでこに干し芋を張り付けていた。

 そして何故かその行為が酔いに効き、ようやく愛里寿が平常運転となる。

 

「一応聞きたいんだけどさ。もしかしてまひろ君も入学するの?」

「しないっての。まぁでも、見学くらいはいいだろ?」

「問題ないよ。連絡は受けてるし、学校側もこっちが許しちゃえば文句もないだろうしね」

「生徒会の力強すぎないか」

 

 本日の主役から一歩引いたところで話す二人。

 身長差を気にすることなく、目線はただ前を向いている。

 

「すまんな。何もできなくて」

「いえ、助けて頂きました。ご支援、ありがとうございます」

「だから敬語はいいって。ん、てかバレてる?」

「あのタイミングであれだけの大金が動いたとなれば、誰かが何かをしたと思うよ普通」

「もしかしてみんな知ってる?みほとかも」

「いや、多分確信を持ってるのはそう多くないよ。みほちゃんがどうか、私にはわからないけど」

「そうか」

 

 彼らの前には、いつか激戦を繰り広げた西住と島田が仲良く歩いている。

 面識や共通の趣味、隊長同士ということで、今回大洗の案内は西住みほに任された。無論、杏も手伝いはするつもりである。

 

 カキュラムの説明もそこそこに、一同はメインともいえる戦車道チームのもとを訪れた。

 待ちわびた島田愛里寿の登場に、大洗生徒はすぐに駆け寄り彼女を連れて行った。

 戦車道チームなのにバレーや歴史や風紀の話題が飛び交っているのはなぜだろう。

 そんな疑問は投げ捨てて、まひろは微笑む。

 

「楽しそうでいいなこれ」

「うん、そうだね」

 

 女子高生のノリを離れて見つめるまひろの隣で、みほは小さく頷く。

 その返事がいつもよりぎこちなく感じたまひろは、深呼吸の後に言った。

 

「ごめんな。何もできなくてさ」

「え?」

 

 視線はまだ、大勢に囲まれた愛里寿に向けられている。

 

「本当は、俺が頑張って大洗を守ろうとか思ってたんだけどさ。無理だった。ごめんな」

「そんなこと……」

「けどみほは、みほ達は自分達の力で守ったもんな。ほんと、すげぇわ」

「そうかな」

「そうだよ、だからさ。胸張れよ。今じゃ、みほも戦車道で指折りの有名人だぜ?」

 

 姉であることもあり、今まではまほの話題ばかりが注目されていた。

 だが、さきの試合や島田愛里寿のインタビュー記事、ボコの戦車道コラボなどでみほの知名度は戦車道に関われば必ず耳にするほどまで高まっている。

 

「ほんと——よく頑張ったな」

「……うん」

 

 そっと妹の頭を撫でるまひろ。

 優しい手に一瞬体を強張らせたみほは、すぐにその手を受け入れた。

 謝って欲しいのではない。みほならそう思うだろうと、彼は言葉なしに心中を察していた。

 無論、自分に何ができるわけでもないと。

 だからせめて、彼女が喜ぶことを。

 

「つーわけで、ご褒美な。ほれ」

「これって……」

 

 まひろが差し出した厚紙のチケット。

 そこには、『ボコミュージアム年間フリーパス』の文字があった。

 

「これ、どうしたの?」

「ん?そりゃ、うちはスポンサーだからな」

「え、そうなの!?」

「ああ。それに個人的に縁もあるからな。そこそこ融通が利くんだよ」

「そうなんだ」

 

 かなり驚かされる内容だったが、贈り物を受け取ったみほの思考は他のことに支配されていた。

 昨日の、エリカとの会話が蘇る。

 ——「思いがあるなら、それを伝えなさい。辛くても、難しくても伝えるべきよ」

 今、伝えるべきだろうか。

 当然心の準備ができていないみほはただただ焦る。

 息が荒くなり、顔は火が出るように熱い。

 相手の顔が直視できなくなり、俯く。

 

「どうした、みほ?」

「え、えっと……」

 

 覗き込もうとするまひろから顔を背け、貰ったチケットを握りしめる。

 正直、頭が回らずどうすればいいか分からない。

 相談しようとあんこうチームのメンバーを横目に見る。

 向こうでは沙織達が中心になって愛里寿と話している。

 邪魔をしたくない感情と恥ずかしさで——。

 

「ごめん!」

 

 みほは逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大洗の戦車用倉庫。

 皆出払っているため誰もいない場所で、携帯のコール音が鳴る。

 

「……もしもし?」

「い……エリカさん」

「あんたね……今何時だと思ってるのよ」

 

 長い呼び出しを経て応えたエリカ。それも仕方なく、今は平日の午前。もれなく授業中である。

 

「ご、ごめんなさい」

「まぁ、少し抜けるくらいはいいでしょうけど。それで、何?」

「うん」

 

 みほは今日の始終を話す。とはいえ焦っているため、エリカに伝わったのは今まひろが大洗にいることと、ついさっき彼からボコミュージアムのチケットを貰ったことくらいである。

 

「そう」

「私、どうすればいいのかな?」

「どうって、誘ったんでしょ?行けばいいじゃない」

「誘ったって……?」

「え、誘ってないの。もしくは誘われたんじゃないの?」

「誘ってないよ。誘われたって感じでもなかったと思うし……」

「はぁ……」

 

 わざわざ会いに来て、男子が相手の好きなもののチケットを女子に渡したのなら、ごく普通に考えれば一緒に行こうという意味で捉えるだろう。

 そう考えないのはまひろがみほを妹として見ているからなのだが、エリカが知り得ることではなかった。

 一方のみほも、テンパり過ぎてチケットをくれた理由を言葉通り受け取っているのだから話は進まない。

 何故こうもスムーズにいかないのか。

 エリカはこめかみを抑えながらため息を吐いた。

 

「なら今すぐ誘いなさいよ。あっちもチケットの一枚や二枚、持ってるんでしょ?」

「多分。で、でも。誘うって、それはつまり……」

「まぁ、いい機会でしょうし、ね」

 

 それはつまり、思いを伝える機会(チャンス)ということである。

 みほはついさっき、考えただけで顔も見れなくなったばかり。

 当然、また顔が茹ダコのように赤くなる。

 

「そ、それはちょっと……」

「ちょっと、って。ならいつ伝える気よ」

「も、もっと準備してから……」

「この上ないくらい絶好の機会でしょ。それに明日明後日の話じゃないし、約束だけでも取り付けなさい」

「うぅ……じゃ、じゃあそのときはエリカさんも一緒に来て?」

「なんでよ。私がいたらむしろ邪魔になるわよ」

「手伝ってくれるって言った」

「こうして相談に乗ってるじゃない」

「うぅ……」

 

 煮え切らない反応に、ため息をまた一つ。

 しかし、気持ちは分からなくもない。

 もしも拒絶されたらと思うと、踏ん切りがつかないのだと。

 エリカは顔を赤くして俯いてるだろうみほを思い、今すべきことを結論付けた。

 

「大丈夫よ、きっと」

「……エリカさん」

「保証はないけど。でも、そいつはあなたの気持ちに応えないような男?」

「ううん。でも……」

「なら攻めなさいよ。西住流じゃなく、あなたのやり方で」

「私の、やり方……?」

「あなたは隊長とは違うでしょ。だからあなたなりの方法で、あなたの気持ちを伝えなさいよ」

「でも私、どうすればいいか分からないよ……」

「それでもいいのよ。ただ、逃げたらダメって話」

「逃げたら……うん、そうだね」

 

 心なし、声に張りが出ていた。

 これだけ背中を押せば大丈夫だろう。エリカは携帯を左手に持ち替える。

 

「じゃ、頑張りなさいよ。そろそろ戻らなきゃ」

「うん。ありがとう、エリカさん」

「ええ。一応、日取りが決まったら連絡ちょうだい」

「うん」

 

 まぁ、念押ししなくてもみほなら伝えてくるだろうと思っていたが。

 エリカは電話を切り、ポケットにしまう。

 その手はこの前から制服に入れっぱなしになっているチケットに触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?あれ、みほちゃんは?」

「さぁ?どっか行った」

「え~何~?なんかしたの」

「いや、特に。お土産渡したくらいだが」

「へぇ、お土産ね~」

「なんだその意味深な反応は」

「さぁね。っと、来たみたいだね」

 

 杏の見る方向から、みほが駆けてくる。

 そのまままひろの目の前まで来ると、みほはゆっくりと赤い顔を上げた。

 

「まひろくん!」

「おう」

「これ、一緒に行こう!」

「おう」

「……あれ?」

 

 想像の十倍は軽い返事に戸惑うみほ。

 対してまひろはもう一人自分を誘ってくれている人物を思い出す。

 

「愛里寿も一緒でいいか?」

「え?えっと、愛里寿ちゃんも?」

「ああ、前から誘われててさ。愛里寿もみほと話したがってるみたいだし、予定合わせてさ」

「あ……う、うん」

「最近は忙しかったけど、俺はもうほとんど暇だからな。あとは二人のスケジュール次第だけど」

 

 倉庫であった会話など知る由もないまひろと、善意100%の提案を断れないみほ。

 

「……こればっかりは、自分でしないとだよねぇ~」

 

 その光景をフェードアウト気味に見ていた杏は、やれやれとため息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

 




一体いつから愛里寿回と錯覚していた?
今回もエリみほしてるんですが、タグに百合を追加しようか悩んでいます。

というわけで次回、鈍感兄貴と不器用妹のデート回(?)です。

誤字報告ありがとうございます。
感想、高評価頂けるとモチベが跳ね上がります。
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