西住まほは俺の嫁……らしい。   作:江波界司

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待ちに待ったデート回。
ただしお相手は、まほじゃないんです。
というかここ最近まほの出番少な過ぎでは……?


両手の華

 約束の日。時刻は朝9時。

 みほと愛里寿の予定が合う週末、彼は入口にて二人を待っていた。

 今日も今日とてボコミュージアムは異常に人気である。

 背丈や顔付きからして女子高生だろう。戦車道に興味のありそうな少女達は、まひろの隣を通って入館していく。

 三、四人のグループからおひとり様まで様々だった。

 

「まひろ!」

 

 いかにも高級そうな車が入口前に止まると、窓から聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

 時計から少女へ視線を移したまひろは、島田愛里寿へ手を振る。

 

「よう、愛里寿。おはよ」

「うん、おはよう」

 

 ドアから出る愛里寿。

 服装は黒を基調としたワンピースにボコのポーチを下げ、ボーダーのニーソックスの下には履き慣れた靴を見せる。

 今日は一日、心ゆくまで楽しみたいのだと感じられる。

 

「楽しみか?」

「うん。まひろと遊べるのも、みほさんと遊べるのも。……楽しみ」

「そっか」

 

 愛里寿がみほと打ち解けたことをまひろはよく知っている。

 愛里寿は大洗への体験入学後、みほの家であったことを意気揚々とまひろに話した。

 ボコの趣味や、愛里寿が持っていった戦車ボードゲームなど、大いに楽しんだという。

 

「みほさんは?」

「もうそろそろ……おっ!」

 

 辺りを見渡したまひろは、こちらへ走って来る少女を見つける。

 少女は二人の下へ着くと、息を整えながら顔を上げた。

 楽しみと緊張の入り交じった少女、西住みほ。

 白のTシャツにピンクのカーディガンを羽織り、フリル付きの黒いミニスカートには白い脚が映えていた。

 

「おはよ、みほ」

「おはよう、みほさん」

「お、おはよう。ごめんね、遅れちゃって」

「全〜然」

「私も今着いたばかりだから」

 

 いつも以上に気合いの入った、更に言うなら攻めた服装のみほ。

 このコーディネートは、ついさっきまで彼女と一緒にいたあんこうチーム恋愛担当、武部沙織のものである。

 まひろとのデート(?)を知った昨日の今日で、沙織はみほを含むあんこうチームを連れて朝一に出かけ、みほのファンションを整えた。

 

「二人とも、可愛いな」

「えっ!?」

「そう?」

「おう。両手に飾るには勿体ないくらいに綺麗だよ」

「ありがとう、まひろ」

「…………あ、ありがとう」

「……まぁ、いいか。行こうぜ」

 

 僅かに感じた違和感を飲み込んで、まひろは受付を顔パスで通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 館内は大勢の客で賑わっている。ボコミュージアムはリニューアルと共に、近場の遊園地すら霞むほどにアトラクションに富む。

 だが、今日はいつもに増して騒がしい。

 ボコミュージアムの客の大半は、戦車道に携わる少女達である。

 まひろがプロデュースし、愛里寿のインタビュー記事とみほの活躍によってボコは世間に浸透した。

 逆説的に、ボコに興味を持つ少女達にとって愛里寿やみほはとてつもなく大きな存在なのである。

 ──もしもそんな存在がボコミュージアムにいたとすれば。

 ──さらにそれが2人同時だとすれば。

 

「はぁ、はぁ……すごい人、だったね……」

「はぁ……はぁ……疲れた……」

「なんでこんなところで人混みから逃げる羽目になるんだよ……」

 

 みほ、愛里寿、まひろは入館早々大勢に囲まれ話しかけられる事態に遭遇した。

 二人の手を引いて脱出したまひろは、騒ぎのおかげで人気の減ったグッズショップに入り込んだ。

 

「流石にずっとこの状態は勘弁したいな」

「また囲まれるのか……」

「うん……私もちょっと」

「変装しようにも、顔隠すとか嫌だしなぁ」

 

 せっかくの休み、周りを気にしながらボコミュージアムを回るというのも面白くない。

 まひろは店内を見渡し、これはと思うものを見つけて購入する。

 レジから直行で二人の下へ戻ると、まひろはそれぞれの頭にそれ(・・)を乗せた。

 

「ほい、プレゼント」

「「え?」」

 

 まひろがみほと愛里寿に渡したプレゼント。それはボコを象った帽子だった。

 愛里寿にはボコの顔をしたクマ耳着きのハット。

 みほには、同じくボコの顔にクマ耳の着いたキャップ。

 帽子で少しでも顔を隠そうという考えである。

 

「ありがとうまひろ」

「おう」

「まひろくん、これ」

「ん、愛里寿と同じやつの方がよかったか?俺的にはその方が似合うと思ったんだが」

「ううん、違うよ。その、ありがとう」

「おう!」

 

 満面の笑みを見せるみほに、まひろも力強く応えた。

 思わぬ贈り物に喜ぶ二人。みほと愛里寿はどちらともなく互いを見て頷く。

 無言の合図と共に、二人はまひろから少し離れて小声で話し合う。

 

「じゃあ、私達からも贈ろっか」

「うん」

「どんなのがいいかな?」

「やっぱり、帽子、かな」

「そうだね。まひろくん、ちょっと待っててね」

 

 おうという返事の後、二人は先程までまひろがいた商品棚まで移動した。

 あれやこれやと相談する二人の後ろ背中を見ながら、まひろはようやく安堵し胸を撫で下ろす。

 入館前にはみほの様子がおかしく、入ってすぐにトラブルで館内を走り回った。

 率直に言って、楽しんで貰えるか不安だったのだ。

 そんなまひろにとって、みほと愛里寿が楽しげに話す姿はとても喜ばしい光景だった。

 

「まひろ」

「ん」

「頭、下げて」

「お、おう」

「これ、私達から」

 

 そう言って、愛里寿はまひろの頭にボコの被り物を乗せる。

 帽子というよりは着ぐるみの頭に近いもの。ちょうどボコの口の部分だけがない型をしていて、頭に乗せるとボコに噛まれているように見える。

 

「……ぷっ」

「くっ……ふふっ」

「おい」

 

 大学生とはいえ真面目な部類に入るまひろが、頭をボコに噛まれている図。

 堪えきれずに愛里寿とみほは笑う。

 決して嫌な気分はなく、まひろは冗談交じりに言った。

 

「礼を言う前に笑うのはどうなんだよ」

「あ、ごめん」

「いや、大丈夫だよみほ。気にしてない」

「そう?」

「ああ。それとありがとな、二人とも」

「うん」

「どういたしまして」

 

 三人は一通り笑い合った後、ショップを出てアトラクションゾーンを目指す。

 騒ぎ疲れたのか気を遣ったのか、それとも被り物が功を奏したのか。先程のような人集りに囲まれることはなかった。

 午前中、三人は改装工事で増えた遊園地顔負けのアトラクションを乗り回す。

 ジェットコースターや観覧車など、ボコに関係あるのか分からないものでも、みほや愛里寿は気にすることなく楽しんでいた。

 

「そろそろ昼か。飯にしないか?」

「そうだね」

「うん。お腹、空いた」

「そんじゃ、フードコート行くか。先に座っててくれ」

 

 フラッグの立った屋外のテーブル席に、みほと愛里寿はミュージアムの地図を見ながら座った。

 人の多さもあり、午前だけでは全てを回れていない。それに午後のパレードやお土産など、まだまだ見たいものがたくさんある。

 先程までの感想や午後の予定などを二人で話し合う中、みほの携帯が鳴った。

 椅子から離れ、みほはコールに応える。

 

「ちょっとごめんね。……もしもし、エリカさん?どうしたの?」

「どうしたの?じゃないわよ。あんた何してんの」

「何って、これからお昼だからまひろを待っ……」

「そうじゃなくて!今日、あんたは、何しに来たのよ!」

「何って……あっ」

 

 つい昨日、同じように電話の向こうからエリカに言われた話を思い出す。

 今日、伝えるのだと。

 入館してからすぐに人に囲まれ、その後ボコのキャップを貰い、テンションが限界突破して忘れていた。

 

「すっかり、忘れてた」

「……まったく。まぁ、いいわ。とにかく、どうにかしなさいよ」

「う、うん……」

 

 どうにかしろ、というエリカの言葉をみほは昨日も聞いている。

 実際どうにかしなければならない。それは伝える覚悟を決める以前の問題──島田愛里寿の存在だ。

 エリカは当初からみほとまひろのデートを想定していた。

 しかし、蓋を開ければどうか。

 島田愛里寿と西住みほという、戦車道の3大有名人と言って差し支えない内の二人を両手に持った豪華なデート。

 当然話を聞いた時のエリカは荒れていた。

 散々愚痴をみほに零したエリカだが、決まったものは仕方なく解決案を模索する。

 三人で遊ぶとなれば、簡単に二人きりにはなれない。ベタなシュチュエーションである観覧車などは使えないのだ。

 

「一番確実なのは帰り際だけど、門限があるんじゃ迂闊に待てないのよね」

「多分、午後のパレードを見てからだとギリギリになるかも」

「となるとやっぱり館内で、か」

「ところでエリカさん。もしかして、近くにいるの?」

「キョロキョロしないで」

「いるんだ……」

 

 フードコートの端、高い木で日陰になっているテーブル席で、ショートポニーの少女はサングラスのズレを直す。

 一日フリーパスを使って入館したエリカは、念には念を入れて変装している。といっても、髪型を変える程度ではあるがバレてはいないらしい。

 エリカの目的は監視、ではなくサポート。最悪の場合、愛里寿を引き離す為にスタンバっている。

 だが、引き離すための言い訳も口実も用意しきれていない。本当に奥の手である。

 

「とにかく。必ず成し遂げなさい」

「……はい」

 

 でも、と言われるより先にエリカは通話を切る。

 誰とも繋がっていない携帯を仕舞うと、みほは大きなため息をしてからテーブルに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みほが戻った先には、ストローを咥えた愛里寿と昼食を広げているまひろがいた。

 

「よう、みほ。ホットドッグでいいか?」

「あ、う、うん。ありがとう」

「…………おう」

「みほさん、これも」

「うん、ありがとう愛里寿ちゃん」

 

 

 ボコパッケージのドリンクを受け取り、みほは椅子を引いた。

 昼食を済ませながら、三人は午後のパレードまでの予定を話し合う。

 

「愛里寿はどこ見たい?」

「ここ。前のミュージアムには無かった」

「そうだな、そこは俺の意見も少々反映されててな」

「本当に!?」

「ああ。身近にボコ好きがいるから、アドバイザーがずっといたようなもんだ」

「そっか。他にもあるの?」

「ああ、例えばこことか……」

 

 マップに指を指し合う二人を見ながら、みほは氷だけになったドリンクのストローを吸い込む。

 

「みほさんは?」

「へ?」

「みほさんは、どこを見たい?」

「あ、えっと、ここかな」

「…………」

 

 慌てて応えるみほにいつも通りの反応を見せる愛里寿。

 まひろだけが、やけに静かにその様子を見ていた。




後半へ続く。
次回は色々と動き出します。

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